第21話 「キノコ、あげないんだから!」
『チョコミントの悲劇』は私の心に少なからぬダメージを残したものの。
キノコパーティは和やかに進み、フィーラとアクアちゃんも、キノコのチョコとクラッカーのように打ち解けていった。
そろそろ・・・本題を切り出す頃合いじゃないかな。
でも、やっぱり緊張するなぁ・・・うまく話を切り出すタイミングを探るべく、私はフィーラの様子を・・・
「・・・ナデシコ?さっきからどうしたの?」
「え・・・い、いや・・・そ、その・・・」
なかなか話を切り出せずにフィーラをチラチラ見てたせいで、向こうから私に声を掛けてきた。
ど、どうしよう・・・ここで話を切り出すべき・・・かな・・・
助けを求めるようにアクアちゃんの方を見ると・・・
「ん・・・美味しい・・・」
パクパクとキノコを食べていた・・・すっかり夢中のご様子。
・・・残念ながら、助けは期待出来そうにない。
「ふぃ・・・フィーラ・・・あの、ね」
やっぱり、ここで行くしかない。
私は意を決して、話を切り出すことにした。
「タチアナ、先生に・・・話を聞いたんだ・・・フィーラの事」
「・・・!」
さっきまで和やかだったフィーラの表情が固まった・・・緊張が走るのを感じる。
気持ちが理解出来るだけに、言葉を続けるのが躊躇われる・・・けど・・・けど。
「フィーラ・・・一緒に、先生の授業・・・受けよう?」
「・・・」
言っちゃった。
フィーラは・・・完全に無表情だ、何を考えているか読めない。
でも・・・それでも私は・・・続けるしかない。
「もう、誰も・・・酷い事、しない・・・フィーラを、傷つけたりしない・・・先生だって」
「・・・信用しろというの?・・・あんな人間達を」
「そう、だよね・・・信じ、られない・・・よね・・・」
「貴女達は信じてもいい・・・他の人間とは違うって思った・・・けど、それで他の人間達まで信じる事は・・・出来ないわ」
それはそうだ、フィーラの受けた仕打ちを思えば、簡単に信用出来ないのも仕方ない。
でも、このまま放ってはおけないよ・・・せっかくフィーラと友達になれたんだもの。
フィーラだって本当は気になっているはず・・・だから時折中庭に出てきて、遠くから学園の生徒達を見てたんでしょう?
「もし、また・・・フィーラに何かあった時は・・・わた、私が・・・」
「ナデシコ、もういいわ・・・こんなの放っておいて帰りましょう」
「え・・・アクア・・・ちゃん?」
なんとかフィーラを説得しようと食い下がる私の言葉を、アクアちゃんが遮った。
・・・どうして、そんな事を・・・さっきまであんなに楽しそうにしてたのに。
「フン・・・ここまで根性なしだと救いようがないわ」
「アクアちゃん・・・ひどい・・・どうして」
「ナデシコは甘いのよ! このキノコより甘いわ!・・・甘ったるくて吐き気が出ちゃう」
アクアちゃん・・・?
いつも辛辣なアクアちゃんではあるけど、さすがにこれは・・・
「他の人間達が信じられない?! 私だって信じられないわよ! どいつもこいつも自堕落で関わる価値なんてちっとも感じないもの!」
「・・・!」
・・・それは、アクアちゃんの偽らざる気持ちだった。
日頃から誰にも近寄ろうとせず、私にも当たりが強かったアクアちゃんの本心。
「でもね、私はそんな事で逃げたりしない! 掴みたいものがあるもの・・・それと比べればあんな連中、塵みたいなものよ」
「ち、ちり・・・」
塵か・・・私もそう思われてたんだろうな・・・さすがに今は違う、と思いたい。
ち、違うよね? ちょっと不安になってきた。
「フィーラ・・・アンタがエルフだろうが何だろうが、あんな連中に怯えてるようじゃ、それ以下よ・・・私が関わる程の価値はないわね」
さすがにここまで来ると、私もアクアちゃんの意図に気が付いた。
わざと憎まれ口を言って・・・フィーラを焚きつけようとしてるんだ。
なら、ここは私もアクアちゃんに倣って・・・こう・・・バシッと言わないと。
「そ、そうだよ・・・私も、もう・・・フィーラにキノコ、あげないんだから!」
「・・・」
「・・・ぷっ」
最初に吹き出したのはフィーラか、アクアちゃんか・・・どちらとも言えない勢いで、二人が笑い出した。
「ふふっ・・・なにそれ・・・」
「ナデシコ・・・私を・・・笑い死にさせるつもりなの・・・く・・・むり」
「え・・・え・・・ちょっと・・・な、なんで?!」
何が何だかわからずにいる私を置いて、2人はひとしきり笑い合った。
そして・・・ようやくその笑いが収まった時。
「まったく、私とした事が・・・ずいぶん小さい事を気にしてたみたい・・・」
フィーラがそう言ったのと同時に・・・部屋の向こうに外へと繋がる出入り口が開いた。
大きく開いた裂け目の向こうに中庭と、そこで待つローゼリア様とタチアナ先生の姿が見える。
「ありがとうナデシコ・・・それにアクア・・・」
「・・・べ、別に私はアンタなんか・・・」
「あ、アクアちゃん・・・もう、それは続けなくても・・・」
・・・こうしてフィーラは数年ぶりに、中庭の外に足を踏み出した。
心なしか、その足は震えて・・・けど、そんな彼女を支えるようにして先生が付き添って・・・
そんな彼女の後姿を、私達はただ見送ったのだった。
「・・・皆さんに新しいお友達を紹介します」
私が再びフィーラの姿を目にしたのは・・・その翌日の事だった。
タチアナ先生に連れられて、真新しい今の制服にその身を包み・・・
「アンサルド大森林から来た、エルフ族のフィーラさんです」
「「エルフ族?!」」
クラスから驚きの声が上がる中・・・フィーラはゆっくりとこちらの方に歩いてきて・・・
「ナデシコ・・・今日からよろしく」
「は、はい・・・よろしく・・・お願いします」
まるで、私にだけ挨拶するようなその姿。
「エルフ族が・・・真っ先に挨拶しに行った?!」
「ローゼリア様よりも先に?!」
「さすがニホン国の大和撫子・・・エルフ族にも威光が届いているのか」
「え・・・ちょ・・・みんな?!」
またクラスが変な盛り上がりを・・・視線が、視線がつらい。
「皆さん、落ち着いて・・・静かに!静かにしてください!」
先生が声を上げるも、クラスの盛り上がりはなかなか収まらい。
そんな喧騒の最中・・・
「その・・・アクアも・・・よろしく」
隣の席のアクアちゃんにも、フィーラが挨拶していった事に気付いたのは・・・
「ふん・・・良い顔、出来るじゃない」
・・・アクアちゃん本人と、私だけに違いない。




