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第22話 「お休み・・・あったんだ」


「・・・ふ・・・ふふ・・・」


その日、私こと田中撫子は朝から上機嫌だった。


それもそのはず、今日は王立学園がお休みの日・・・この世界に来て最初の休日なのだ。

『学校がお休み』という事実だけでも身体と心が癒されるんだけど、もちろんそれだけじゃない。

だって今日は・・・


「ん・・・んん・・・」


視界の隅で同室のローゼリア様が目を覚ました。

その細い手足を優雅に伸ばして・・・寝起き姿も相変わらずお美しい。


「おはようナデシコ、今日は早いのね」

「え・・・えへへ・・・」


ローゼリア様の言葉に、私は曖昧な笑いで誤魔化した。

早いも何も、昨夜から一睡もしていないのだ。

本当に今日が楽しみで・・・こんな気持ちになるのは小学校の遠足以来だよ。


「で、出掛ける・・・準備、万端です」

「ふふっ・・・ナデシコったら、気が早いわ」


そう言いながらも、ローゼリア様はいつもよりも急ぎ気味で身支度を始めた。

あ、これは・・・急かしてしまったかも知れない。

いつも巻いてる髪を今日は巻かず、手早くアップにして仕上げたようで・・・これはこれでよく似合ってる。


「まずは朝食にしましょう」

「は、はい・・・」


寮の食堂に向かうと・・・休日の朝とあってまだ人が少ない。

そんな食堂の中で見知った客が二人いた・・・アクアちゃんとフィーラだ。

私達は迷わずその席へ合流する・・・ふふふ・・・今日はこの4人で街にお出掛けする事になっているんだ。






「ナデシコ、明日なんだけど・・・何か予定はあるかしら?」

「へ?・・・明・・・日?」


それは昨日のお昼休みの時間。


たまたま4人座れる丸テーブルが空いていたので、ローゼリア様、アクアちゃん、フィーラという豪華メンバー・・・プラス私の4人で同席する事になった。

それでたしか・・・間近で見るアクアちゃんの食事量に私が圧倒されていた時だ、向かいの席にいたローゼリア様が話を切り出したのだ。


「そう、明日・・・学園がお休みでしょう?」

「あ・・・お休み・・・あったんだ」


ろくに学園の資料を読んでいなかった私は、王立学園にお休みが存在していた事をそこで初めて知ったのだ。

もうこっちに来てから10日も経っていて・・・毎日授業があったから、てっきりそういう学校なのかなって・・・

この学園では、10日通うと1日お休みというスタイル・・・加えて夏と冬に長期休暇があるようだ。


「それで、良かったら一緒に街へ出掛けない? ナデシコはこっちに来たばかりだから、私が案内するわ」


なんと、王女様自ら・・・私なんかが・・・い、良いのかな・・・

でもわざわざ誘ってくれてるんだし・・・断るのも失礼だよ・・・ね?

ここは有難くローゼリア様の申し出を受けよう・・・と、そこで・・・私は『着ていく服』という問題に思い当たった。


「あ・・・ああ・・・その・・・ローゼリア様」

「?? ナデシコ・・・どうかしたの?」

「ええとですね・・・私、その・・・」


着ていく服なんて気にする事でもないのかも知れないけど・・・

ローゼリア様と一緒に、ってあたりでちょっと意識してしまう。

田舎の量販店の服装で、ローゼリア様の隣を歩くとか・・・ちょっとした罰ゲームに思えた。

いったいどう説明すべきか・・・私が迷っていると、別の方向から声があがった。


「あの・・・私も人間の街には慣れてないと言うか・・・何年もあそこに居たので・・・一緒に案内してもらえると」


さすがにフィーラも王女様相手には気を遣うらしく、控えめな主張だ。

たしかに、彼女も私と似たような状態・・・一緒に案内してもらえるなら都合が良いのだろう。

そしてフィーラとは反対方向からも・・・


「・・・私も、王都は初めてなんだけど・・・ご一緒しても良いかしら?」


さっきまで食べていたすごい量の料理をすっかり平らげたアクアちゃんが話に加わってきた。

こころなしか、ちょっと威圧感を覚えるような・・・いや気のせいかな。

対してローゼリア様は、少しだけ残念そうな表情を浮かべたものの・・・


「そうね・・・この皆で一緒に行きましょうか・・・ナデシコもそれを気にしてたのね」

「え・・・あ・・・その・・・通りでございます」

「ふふっ、ナデシコは友達思いなのね」

「あ・・・あはは・・・」


ど、どうしよう・・・今更着ていく服がないとか言い出せないよ。

こ、困った・・・一応、日本から着てきた服を取り出してみたけれど・・・本当にこれで行くの?

とそこへ・・・


コンコン…


とノックの音。


「撫子ちゃんいる? 今ちょっと良いかな?」


聞こえてきた声は・・・事務員として寮にいる外務省の長久保さんだった。

そういえば、困ったら相談するように言われてたけど・・・さすがに今回のは相談しても無理そうな・・・

そんな事を思いながら、私は部屋のドアを開けた・・・何の用だろう?


「は・・・はい?」

「ああ、よかった・・・はいこれ」

「?」


皮の袋?

長久保さんから手渡されたそれは、ずっしりとした重さがあって・・・中からジャリジャリと金属っぽい音がした。


「これはこっちのお金、お小遣いってやつだね・・・明日はお休みだし、友達と遊んだりしたいでしょ?」

「あ・・・そっか」


お金の事ぜんぜん考えてなかった。

袋の口を開けてみると・・・中には銀色の貨幣・・・銀貨?がびっしりと詰め込まれていた。

見た感じ10枚や20枚じゃきかない量だけど・・・


「え・・・なんか、たくさん・・・良いんですか?」

「大丈夫、これも必要経費ってやつさ・・・気にせず使って・・・でも無駄遣いはダメだよ?」

「は、はい・・・」


けど、いったいどれくらいの金額なんだろう?

服とか買えたり・・・するのかな。

長久保さんはこの世界の滞在も長いみたいだし・・・色々と詳しいかも知れない。


「あ、あの・・・実は・・・」

「?」


せっかくなので、私は思い切って相談してみる事にした。

このお金で服が買えるなら買ってもいいし・・・さすがに無理かなぁ。

たどたどしくなりながらも、長久保さんに事情を説明すると・・・


「うーん・・・服って言っても色々あるからなぁ・・・王女様に合わせるレベルとなると、ぜんぜん足りないだろうね」

「そ、そうです・・・よね」


銀貨の方は日本円換算で20万円くらいの額で、私の予想よりもだいぶ多かった。

けど、この金額から察するに『お小遣い』はこれっきりだろう、大事に使わないといけない。

服の問題の方は・・・ちょっと難しそうだけど・・・


「だけど、制服を着て街を歩く分には問題ないよ・・・日本でも普通にいるだろう? こっちでも似たようなものさ」

「・・・そうなんだ」

「それに王女様だってそんな目立つ格好はしないさ・・・って言うか、そんな時は撫子ちゃんが止めて欲しい」

「あ・・・たしかに」


一国の王女様だもんね・・・やっぱりお忍びっぽい格好になるのかな。

根本的にはともかく、ある意味で問題は解決したかも知れない・・・相談してよかった。


「あ、ありが・・・とう・・・」

「いや、こっちも相談してくれて助かったよ・・・あ、仕事があるから俺はこの辺で失礼するよ」


助かった? まぁいっか。

こうして私は安心して制服で出掛ける事を決めて・・・今に至る。


ちなみにローゼリア様はもちろん、アクアちゃんとフィーラも制服姿だった。


「おはよう・・・2人とも、制服なんだ・・・」

「当然よ、エルフ族の服は目立ち過ぎるもの」

「そ、そう・・・かな・・・」


むしろ制服より地味な気がするんだけど・・・エルフ族の感性だと派手に感じるのだろうか。

アクアちゃんが制服なのも意外だった、何を着ても似合いそうな子なのに。


「・・・何よ悪い?」

「ううん・・・みんな制服で、安心した」


早い時間だからか、朝食のパンは焼きたてアツアツで、いつもより美味しく感じられた。

やっぱりこっちの世界の食文化は西洋っぽさを感じる・・・今の所はまだ気にならないけれど、私もそのうち日本食が恋しくなる日が来るんだろうか。


私達4人は早めの朝食を済ませると、学生寮を後にした。



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