第20話 「チョコミント味」
「わかったわ・・・森を焼き払いましょう! 王国の全軍を集めて」
「ちょ・・・ローゼリア様?!」
・・・フィーラの件をローゼリア様に話した結果、あやうく彼女が暴君と化す所だった。
さすがに戦争は良くないよ・・・気持ちは、すごくわかるけど。
「だって・・・許せないわ、エルフ達がそんな事をしていたなんて」
「それは、そう・・・です、けど・・・お、抑えて・・・ください」
なんとかローゼリア様をなだめて暴走を止める。
私がローゼリア様の力を借りたいのは、そういう方向じゃないんだ。
「い、今はフィーラの・・・本人の方を、助けてあげたいんです」
「・・・そんな事が・・・出来るの?」
「うぅ・・・じ、自信は・・・ない、ですけど・・・お願いします」
私の目的の為には、ローゼリア様の協力は必要不可欠だ。
それに・・・もう一人・・・
「あ、アクアちゃん・・・お、お願いが・・・」
「何よ急に・・・」
アクアちゃんとはそこまで仲良くないから、断られてしまうかも知れないけど・・・他に頼れる人はいない。
私は藁にも縋る思いで、誠心誠意頭を下げてお願いした。
「ふふっ・・・わかった、わかったから、その動き、やめて・・・」
「えっ・・・」
なぜかはわからないけど、アクアちゃんは笑顔で快諾してくれた。
「あ、ありがとう・・・すごく、心強い」
「はぁ・・・はぁ・・・おなかいたい」
アクアちゃん、お腹の調子悪いのか・・・そんな時に頼ってしまってすごく申し訳ない。
でもアクアちゃんがいてくれるのは本当に心強い。
事情を説明すると、アクアちゃんにも思う所があったらしく、不機嫌そうな表情を浮かべた。
「・・・エルフ族なんて言っても、人間とそう変わらないのね」
「ろ、ローゼリア様は・・・森を、焼き払おうって・・・止めるのが大変で・・・」
「良いじゃない、やっちゃえばいいのに」
「あ、アクアちゃんまで・・・そんな・・・」
気持ちは、わかるんだけどね・・・憎しみの連鎖は誰も幸せにはしない・・・と、思うよ。
___そして放課後。
私達・・・私とローゼリア様、アクアちゃん、タチアナ先生・・・は中庭に集まった。
私はキノコを満載した鞄を持って・・・アクアちゃんには必要そうな道具をいくつか持たせてある。
作戦はこうだ。
まずは例の滑り台を使って木の中に潜入。
手持ちの『キノコの山』を惜しまず使って、フィーラの説得を試みる。
上手く行ったら外に連れ出して、みんなで仲良くお茶会だ。
「な、名付けて・・・放課後ティーパーティ作戦」
ど、どやぁ・・・昨晩から考えてナデシコノートに書き綴った中から厳選した、渾身の作戦名だよ。
・・・・・・・・・
何の反応も得られなかった。
くっ・・・やっぱり放課後キノコタイムの方が良かったかも知れない。
気を取り直して、私は中庭の大樹の右側へ回り込む・・・あった。
大樹の根元にぽっかりと空いた・・・中で滑り台になっている例の穴だ・・・すぐ傍には、私が足を滑らせた痕も残っている。
私の予想だけど、この穴は中の空間に空気を送るための物なんじゃないかな・・・それで今も塞がれてないんだと思う。
「こ、ここから・・・中に、入れる」
「こんな穴があったなんて・・・前に探した時は気付かなかったわ」
フィーラは上手く隠してたつもりなんだろうけど、一度見つけた場所だからね。
ここにあるとわかっていれば、見つけるのはそんなに難しくなかった。
問題は穴の大きさで・・・大人の先生はもちろん、ローゼリア様でも難しい・・・私とアクアちゃんしか通れないと思う。
まずアクアちゃんに脱出用にロープを持ってもらって、先に行ってもらう。
私と違って運動神経が良いからね・・・安心して任せられるよ。
先生とローゼリア様はロープの端を持ってこっちで待機、いざという時は合図でロープを引っ張ってもらう事になった。
「・・・本当に大丈夫なんでしょうね」
「うん・・・お、お願い」
「もう、しょうがないわね・・・無事についたら1回ロープを引いて合図するわ」
そう言って、アクアちゃんは穴の中へ滑り落ちていった・・・待つ事しばし。
クイッ…
合図が来た、私も続いて穴の中に・・・ロープがあるので今回は怖くない。
加速し過ぎないようにロープにつかまって、ゆっくり降りていく・・・下の方に行くにつれて明るくなってきた。
「よっ・・・ととと・・・」
バランスを崩しそうになりながらも無事に着地。
すぐ傍にアクアちゃんの姿も確認して、一息ついた。
木の中は相変わらず薄暗い空間になっていて、所々申し訳程度に照明の魔法で照らされている。
「・・・こんな所にエルフが住んでるのね」
「こ、こっち・・・ついてきて」
物珍しそうに周囲を見回すアクアちゃんを先導して、私は薄暗い通路の奥を目指した。
ここに来るのは2回目だからか、この前と違って全然怖くない。
こうして見ると、この薄暗い空間も程よい暗さと言うか・・・何か居心地の良さのようなものを感じられる。
しばらく通路を歩くと、やはり前回と同じ場所にフィーラの部屋があって、通路に明かりが漏れて来ていた。
この先にフィーラがいる・・・私は迷うことなく足を踏み入れた。
「やっぱり来たのねナデシコ・・・と他の人間?!」
「だ、大丈夫!・・・この子は、アクアちゃん・・・私の、友達・・・だよ、ね?」
「・・・なんでそんなこと聞くのよ」
「いや・・・ももし、違ったら・・・申し訳ないな、って・・・」
「別に・・・違わないけど」
あ、よかった・・・アクアちゃんも友達だって認めてくれた。
その事に安心したのもつかの間・・・フィーラはまだこちらを警戒してるみたいだ。
「そんな知らない人間を連れてくるなんて・・・私をどうするつもり?」
「ど、どうもしない・・・よ?」
慌てて鞄に手を伸ばして・・・キノコを取り出して見せると、フィーラの視線が動くのを感じた。
やっぱりキノコが気になるらしい。
「ほ、ほら・・・約束・・・一緒に食べよう?」
「・・・そっちの人間も?」
キノコに興味深々な様子のフィーラだけど、アクアちゃんの存在も気になるらしい。
もうその理由はわかってる・・・人間が怖いんだよね・・・大丈夫、こわくないよ。
「ダメ・・・かな?」
「・・・いいけど、気は許さないわよ」
キノコの誘惑が勝ったのか・・・私の気持ちが通じたのか。
フィーラはアクアちゃんの同席に応じてくれた。
「あ、なにこれ美味しい」
そういえばアクアちゃんはキノコ初体験だった。
やっぱりノーマルの『キノコの山』は安心安定、初心者にうってつけだ。
「・・・キノコは入っていないみたいだけど、これはこれで・・・悪くないわ」
フィーラもノーマルキノコを気に入ってくれたみたいだ。
口の中で程よくとろけるミルクチョコレートの優しさ・・・良いよね。
3人で食べると消費も早い、あっという間になくなってしまう。
「・・・あっ」
「・・・最後のひとつ」
アクアちゃんとフィーラの同時に伸ばした手が、最後のひとつのキノコの前でぶつかった。
「・・・」
「・・・」
あっ・・・これは良くない予感。
キノコはまだあるよ・・・私は慌てて次の箱を取り出そうと・・・
「・・・どうぞ」
「・・・いや、ここは私が譲るべきだわ」
ゆ、譲り合ってる?!
なんて優しい世界だろう・・・まさかこんな光景に出会えるなんて・・・ちょっと感動してしまった。
二人とも、自慢の友達だよ・・・そんな二人には、とっておきを出しちゃおうかな。
「これ、見て・・・チョコミント味」
「「??」」
取り出したのは鮮やかな緑色が映える、期間限定チョコミント味だ。
この味は数が出回ってなくてね・・・地元で手に入れるのには苦労したよ。
さぁ、仲良くこれを食べよ・・・う・・・?
「なにこれ・・・食べ物の色してない」
「・・・すごい匂いがするけど・・・大丈夫なの?」
えっ・・・チョコミント・・・だよ?
爽やかな香りの・・・ねぇ・・・食べよう?
「ナデシコ、さすがにそれは・・・遠慮していい?」
「・・・気が合うわね、人間」
「そ・・・そんな・・・」
意外な所で意気投合する二人を前に、私はショックに打ちひしがれていた。
チョコミント・・・美味しいのに。




