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第19話 「お友達・・・だから」


私の肩越しに、なんだか因縁がありげな二人の視線が絡み合って・・・わ、私はいったいどうしたら。

・・・とりあえず、邪魔にならないようにそっと横にずれておく。


「・・・私がわかるのね、フィーラさん、もう何年になるかしら」

「人間の暦なんて私には関係ないわ・・・今更何しに来たのよ」

「そ・・・それは・・・」


まるで一切の感情が籠っていないかのようなフィーラの返答に、タチアナ・・・先生がたじろいだ。

それでいてフィーラの言葉からは、はっきりと拒絶の意思を感じられる。

過去にこの二人の間で何があったというのか・・・やがて先生は、意を決したように一歩踏み出して・・・


「・・・フィーラさん、私は貴女に謝らないといけないわ」

「そうね、地に伏せて謝ると良いわ・・・もっとも、それで許す程私は甘くないけど」


地に伏せて・・・まさか日本の文化として有名な土下座が異世界にも?!

しかも先生はフィーラに言われるまま・・・本当に地面に伏せて・・・あ、土下座じゃない。

土下座の状態から身体を伸ばして・・・うつ伏せに寝そべるような姿勢になった・・・後で知ったのだけど、五体投地というやつらしい。


「全ては私の責任・・・貴女は許してくれなくてもいいわ・・・この通りよ、ごめんなさい」

「・・・っ!」


本当にここまでされるとはフィーラも思っていなかったのか、内心の動揺が表情に出ていた。

目の前の光景を直視出来ないのか、視線を泳がせながら、一歩、二歩と後ずさって・・・


「ゆ、許さないって言ったのに・・・どうして・・・」

「・・・フィーラさん、貴女も、このままで良いとは思っていないのでしょう?」

「・・・くっ」


先生はまだ地に付したまま・・・顔も上げていない。

それなのにフィーラの方は、私にもわかる程に動揺していて・・・なんだかすごく・・・辛そうに見えた。


「タチアナが何と言おうと私は絶対に帰らない・・・貴女の教室にも、森にもよ!」


絞り出すように声を張り上げながら、フィーラは木の中へ逃げていく。

目の前で閉じていく木の裂け目は・・・彼女の閉ざされた心のようだった。



「せ、先生・・・?」


フィーラが逃げていった後、先生はゆっくりと体を起こした。

こちらも表情は重く・・・フィーラと同じくらいに辛そうな顔をしていた。


けれど完全に蚊帳の外だった私には、もう何がなんだかさっぱりだ。

出来れば・・・本人から説明してもらえると助かるんだけど・・・


「ナデシコさん・・・聞きたい事はわかるわ、場所を変えましょう」

「あ・・・はい」


お城のような外観をしているこの学園には、塔が何本かあるんだけど。

先生に案内されたのは、その内の一本・・・螺旋階段を上っていくと、上の方に部屋があった。


「少し汚いかも知れないけど・・・」


そう言いながら部屋に通されると、中は落ち着いた雰囲気の家具が置かれた・・・先生の居室だった。

なんでも住み込みの教員用に与えられる部屋がいくつかあって、ここはその一つらしい。

高い所にあるので、窓からの見晴らしがすごい・・・けど、私は高い所が得意じゃないので・・・怖いかも。


「お茶でも入れるから、適当な場所に座っていて」

「あ、はい・・・おじゃまします」


適当な場所・・・一人暮らしの部屋らしく、椅子は1つだけで・・・あとはベッドか。

こういう時、椅子とベッド・・・どちらに座れば良いのか・・・経験がない私には難問だ。

椅子の方が座りやすいけど、そういうのは部屋の主に譲るべきで・・・でもベッドは寝る所だから汚されたくないと思うし・・・

などと迷っている間に、お茶の用意を終えた先生が戻ってきた。


「別に遠慮しなくても良いのに・・・いえ、貴女は奥ゆかしい大和撫子だったわね」

「い、いや・・・そんな・・・」


そういうのは全然関係ないんだけれど・・・また妙な気を遣わせてしまった。

ともあれ、先生がベッドに腰を下ろしたのを見て、私は椅子に座る・・・こっちが正解なのか、覚えておこう。

お出しされたお茶を頂いて一息ついたタイミングで、タチアナ先生は語り始めた。


「さて、ナデシコさんが知りたいのは、あの子がいったい何者か・・・そして過去に何があったか・・・の二つだと思うけれど」


学園の中庭の木の中・・・謎の空間に住んでいるエルフで『キノコの山』の美味しさを理解してくれる貴重な存在。

・・・フィーラについて私が知っているのはそれくらいだ。

あの様子だと、先生は多くの事を知ってそうな感じがする・・・なぜフィーラはあんな所に、隠れるようにして住んでいるのか・・・


「まずはあの子・・・フィーラさんが何者かについて話すわね・・・彼女は貴女と同じ留学生なの」

「?!」


そして私は知ることになった。

アンサルド大森林・・・大いなる自然の中で生まれ育ったハイエルフの物語を。



___アンサルド大森林は、一言で言うと大きな森である。


文字通りにひたすら広く・・・その総面積はフレスルージュ王国の国土とほぼ変わらない。

その広い森のあちこちに集落を作って住んでいるのがエルフ族なわけだけど・・・フィーラはただのエルフでもなかった。


ハイエルフ・・・それはエルフの中から極稀に生まれる上位種とされる。

両親は普通のエルフで、ハイエルフは本人だけ・・・特別な才能を持った変異種みたいなものかも知れない。

その最大の特徴は、植物と心を通わせる能力・・・普通のエルフにも若干備わっているらしいけれど、ハイエルフは桁違いなのだとか。

それは時に植物の成長をコントロールしたり、形状を変化させたり・・・あの木の中の空間での出来事もハイエルフとしての彼女の力によるものなんだろう。


そんな特異な力を持つハイエルフに生まれてしまったのが、フィーラの不幸の始まりだった。


折しもエルフ族の間では大きな転換期を迎えていて・・・授業でも出てきたエルフの文明化だ。

森の調査をしていた日本人との接触・・・そこからの日本文化の流入によってエルフ族の生活は様変わりしていった。


便利で娯楽のある生活・・・多くのエルフ達がその変化を好意的に受け入れる中で・・・ハイエルフの彼女だけは、それを受け入れることが出来ずにいた。

自然との親和性の高い彼女の能力は、古くから続いてきた自然との共生の中でこそ生かされる・・・変化を受け入れられないのも無理もない話だ。


加えて残念な事に、ハイエルフだからと言って彼女がエルフ族の中で特別な権力を持っているわけでもなかった。

むしろ自然の象徴とも言える彼女の存在は、多くのエルフ達にとって邪魔者でしかなく・・・いつしか村八分の扱いを受けるようになっていた。


更に運が悪い事に、そこへ持ち込まれたのが、王立学園への留学制度だった。

フレスルージュ王国としては、交流が増えてきたエルフ族との友好を深めようと持ちかけた話だったんだけど・・・

エルフ族は、これ幸いにと邪魔者のフィーラを厄介払い・・・単身で送り出したのだ。


あくまでも表向きは、エルフ族の中でも優れた才能を持つ存在、将来有望な生徒として・・・

そんな事情を知らないままフィーラを受け持つ事になったのが、当時新人教師だったタチアナ先生で・・・


「家柄や才能を鼻にかけた態度の悪い生徒、というのはそれ程珍しくはありません・・・私がフィーラさんに抱いた印象もそういった『よくいる問題児』に過ぎませんでした・・・あの頃の私は何も知らずに・・・」


先生の声が震えるのは悲しみか後悔か・・・

この時点でもう既に充分ひどい話なんだけど、それだけで終わらないだろう事は私でも簡単に想像がついた。

いや、私だからかも知れない・・・周囲に受け入れて貰えなかった子が、知らない環境に放り込まれて・・・お腹がちくちくと痛む。


エルフ達によって無理矢理、留学させられて学園にやって来たフィーラ。

見知らぬ人間達に囲まれた生活に馴染めるわけもなく・・・まして見た目からして周囲から浮いた存在のエルフだ。

そんな生徒が学校の中でどうなるかなんて、それは火を見るよりも明らかで・・・


「私だけは彼女を信じてあげないといけなかった・・・けれど私は、他の生徒達の言い分を信じて・・・」


人間の生徒を見下して高圧的に振舞うエルフ・・・それは他の生徒達がグルになって作り上げたフィーラ象だ。

フィーラが行く先々で生徒達は彼女を悪者に仕立て上げ・・・あろう事かタチアナ先生もそれを信じてしまったのだ。


孤立無援となったフィーラはついに授業にも出なくなり・・・その行方をくらませてしまう。

きっと森に逃げ帰ったのだと、当時の生徒達は噂した。

けれど・・・フィーラは学園に残っていた、中庭の木の中に自分だけの空間を作って。


「行方が気になって大森林のエルフ達を訪ねた時、私はようやく理解したわ・・・あの子が故郷でどんな扱いを受けていたのかを」


フィーラは森に戻ってきていないと言うエルフ達。

その誰一人として、行方の知れない彼女の事を心配する者はいなかった・・・


そして、いつしか中庭でフィーラの姿が目撃されるようになった。

しかしその頃には彼女を知る生徒は卒業していて・・・その美しい顔立ちと消失トリックによって妖精と呼ばれるに至る。

それが中庭の噂話の真相だ。


「・・・ナデシコさん、どうか彼女の事は他言無用で・・・今はそっとしておいてあげたいの」


これ以上フィーラを傷付けたくない、先生のその気持ちはよくわかる。

けど・・・それじゃダメだ、すごく良くない、ぜんぜん良くないよ!


私はフィーラの姿を思い出した。

初めて出会ったあの時・・・人間の私を見てフィーラは何を思ったのか。

人間にいじめられた記憶が甦って怖かった? それもある、絶対ある・・・私だったら即逃げ出す所だ。


けれどフィーラは・・・私の事を・・・


「・・・エルフは・・・ともだち・・・嘘、つかない」

「ナデシコさん?」

「せ、先生・・・お願いが・・・あります」


もう一度・・・私はフィーラに会わないとといけない。

私はまだ約束を果たしていないもの・・・フィーラに会って、一緒にキノコを食べるんだ。

だって、私達は・・・


「お友達・・・だから」


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