妹は策士の性(2)
帰りのホームルームでの教師の会話を軽く聞き流しつつ結城は机の下でスマホをいじっていた。
「(ああ、くそっ……)」
教師の声をバックに画面には再びゲームオーバー文字が表示される。
「(難しすぎ……無課金者にクリアさせる気ないだろ……)」
基本無料ソシャゲに対して内心で悪態を付いている結城であったが突如として現実に戻される事となる。
「じゃあね、結城くん」
るみが声を掛けてきたのだ。
「え? あ……」
だがホームルームが終わっていた事にも気が付いていなかった結城は不意を付かれたような状態となり、その結果さっそく返事を返すことが出来ずに微妙な反応をしただけで終わってしまう。
『何やってんの!』
その瞬間、予見していたかのように結華の怒声が脳内に飛ぶ。
――いや……だって……
『だってじゃな~い! 自分から逃がしてどうすんの!』
――す、すまん……
今回ばかりは反論も出来ず結城は縮こまるしかない。
『ほら、早く!』
だが縮こまっている結城を他所に結華は焦る様にそう言いだす。
――早くって……
『早く返事しないと! このままだとその印象ずっと引きずられるよ?』
――あ、明日になったら忘れてる、な~んてのは……。
『そんな訳ないでしょ! じゃあねって言った相手が小声で『ぇぁ……』なんて返して来たらそっちの記憶に残るに決まってるって!』
そう言われた結城もそれには同意せざるを得ない。
結城自身の過去の学校生活の記憶ももことごとく失敗したことによるつらい記憶ばかりが脳裏に浮かんでくるのと同じである、悪い部分ばかりが記憶として残りやすい。
妹の指摘を結城の身を持って体験したところで次なる方法が繰り出される。
『ほら早く!』
――りょ、了解。
帰りのホームルームの終了からまだ一分も経っていない、放課後には各々の場所へと移動し始めていくクラスメイトもまだ教室内には沢山残っている状態となっている。
『お兄ちゃん! 早く!』
――も、もうやるのか?
ホームルームは終了したばかりでありまだまだクラス内は雑多な声とその声を生み出すに相応しいほどの数のクラスメイトがいる、こんな中で女子に「じゃあな」とか言ったりしたら確実に目立つに決まってる。
――なぁまだいいんじゃ……。
そこまで一瞬で考えた結城はそう妹に告げるが結華もまた予想していたのか次の質問を繰り出していく。
『るみさんって部活とかは?』
――たしかどっかのマネージャー……。
『じゃあなおさら急いで!』
なんだってんだ、結城はそう思いながらも脳裏でぎゃーぎゃー騒ぎまくる妹の声を止めるためにもさっさと実行することにする。
『さっきのフォローとしてこっちから話しかけるんだよ? 会釈から開始じゃダメだからね?』
『バイバイとかしなくて良いからね? いきなりそんなことしてもキモイ印象が残るから』
『あくまでもお兄ちゃんらしさ、でね?』
脳裏から受ける言葉を聞きつつ結城はかばんを持って立ち上がる。
そして歩きながらまだ隣の席に座ってかばんに教科書類を入れている最中のるみに向かって口を開く。
「二階堂さん」
「うん?」
「じゃあね」
「あ、うんじゃあね結城君、また明日」
放課後の教室の雑踏の中で放たれた結城の小さなたった一言の言葉にも関わらず、るみはしっかりと結城の方を見てそう返してくれた。
そして先ほど妹に「余計なことはしないでそのまま」と言われた事を思い出し、そのまま教室を出た。
『ま、いいんじゃない?』
教室を出て行き、廊下を歩いていると結城の脳内で妹がそう言う。
ホームルームが終わった直後で教室のざわめきはピークに達しており、そのせいもあって結城の声は隣にいるるみにしか聞こえていなかったようであった。
おかげでほとんどしゃべらないキャラとして名が通っている結城が自分から話しても特に注目を浴びるような事もなくうまく済んでくれた。
――そう言えば……
昇降口へと向かう途中、結城は何となく疑問に思っていた事を結華に尋ねる。
――なんですぐに話さないとダメだったんだ?
教室のざわめきによって結城の声がるみにしか届かずに済んだ、というのもあるのかもしれないがそれにしては結華が余りにもあせっていたように結城には思えた。
すると結華はごく当たり前の様に答える。
『だってあの人どう見ても周囲の空気と同調してる系の人でしょ、そんなの授業が終わったら速攻で輪の中に入るに決まってるじゃん』
――すまん、分かる様に言ってくれ。
妹が解説するがさっぱり意味が分からない。
『だから、ああいうタイプの女子は常にグループを作ってるって事、お兄ちゃんが女子の集団に話しかけるなんて無理でしょ? だったら群れる前に済ませておけってこと』
流石にそこまで丁重に説明されれば流石の結城でも十分に理解できた。
そして説明を聞いた結城の足はいつの間にか歩みを止めていた、再び結華の思考に驚かされたからである。
「(すげぇなこいつ)」
結華は文武両道の完璧超人として生活していただけあってその辺りの行動規則については完全に読み切るだけの目と思考を兼ね備えていた。
「(リア充ってのはここまで人間の行動を読むことが出来る種族だったのか……?)」
ウェーイなどと言った事しか言わない種族だと勝手に見下していた連中すらもこの能力を持っているとするならば、結城にとってどれほどのショックとなるのか言うまでもない。
結城は今まで気配を消すや違和感のない寝たふりぐらい程度しか集団の中で生き抜く方法を取得していない。
そんな非リア充の付け焼刃のスキルなんぞリア充の前では恐らく防御力無視で突破される。
そのトップにいたであろう妹の思考力を示された結城は驚くを通り越してあっけにとられる事しか出来なかった。




