妹は策士の性(3)
それから少しの間、結城は取りあえず朝と夕方の一日二回は必ずるみに挨拶をするように心掛けた生活を送る事となった。
結城が女子との恋愛なんかで思い描いていた「落とす」などと呼ばれるナンパ的な行為は一切行われることなく、ただただ日常的な部分に小さくても確実な会話という物を取り入れる結華のやり方は結城の性格といい感じに当てはまっており着実な生活の一部となり始めていた。
そして挨拶を取りあえず確実にやり始めてからの最初の一週間が終了となる金曜日の朝、通学路を一人歩いていると妹が話しかけてくる。
『さて、そろそろかな』
――今度は何をするんだよ?
その言い方から次の何かを言い出すのか結城は結構興味を持って待機していた、正直この辺りから結城は少しだけうまくいきそうな気分が湧き始めていたのだ。
『そろそろ雑談でもしてみたら?』
妹が発したその言葉を聞いた結城はいつものように真っ向から否定、はせずに自然にその言葉を受け入れて考え始める。
――雑談ねぇ……
人と話すのが苦手なぼっちにとって苦行とも言える行為、雑談。
なんでもいいから話せと言う答えのない無限回廊にして終わりの見えない迷宮、そんな解読不能の行為を結城は当然出来る気はしなかった。
だがそこは結城の事をよく理解している妹であり良い助言を授けてくれる。
『別に無理する必要はないの、自然に話せばそれでいいの』
――自然なんて言われても良く分からないぞ。
そもそも人と積極的に話す時点で結城的には不自然なのだ。
そんな事を思っていると結城にとって非常に分かりやすい言葉を掛けられた。
『私と話している感じでいいんだよ』
――お前とね……。
俺は話すという行為自体は俺は心の中ならかなり饒舌に喋れる人間であり言葉を考えるのは得意な方だ。
話すということ自体が嫌いという人間もいるが結城はそれとはまた違う人間である。
全くの他人と話すのが苦手なだけで別に喋ること自体は嫌いではない。
結城の場合は無意識に拒否反応を起こしてしまうために話せないだけであり、妹と話す時には饒舌になることが出来るのも無意識での拒否という物がないためである。
そんな会話をしながら教室へと行くといつもの様にるみから挨拶された。
「おはよ、結城君」
「おはよう」
三日、四日もすれば挨拶をする程度にはるみに対しては他人という無意識の拒否は起こさなくなりつつあった。
割と自然な感じで挨拶を終えた結城は席に座ると手元のスマホへと視線を移そうとした。
すると妹の予想通りの展開が始まる事となる。
「結城君って家では何やってるの?」
「(マジかよ)」
その予知能力めいた妹の予想に驚きながら結城は返事をしていく。
「そうだね……まぁ基本的には……」
そんな感じで結城はるみと話す、るみは結城の思った通り他人の話を聞くことにも長けている人間であった。
結城が読書をすると答えるとるみはどんな本なのかを聞いてきて、タイトルを答えるとどんな内容なのか聞かれる。
それら一つ一つに心からの笑顔とも言えるような表情で答えてくれる。
「(この感じ……)」
結城が話をしてそれを真剣に聞いてくれる様子を見て結城は妹との時間を思い出す。
結華は割とストレートな物言いをしてるみはふわふわとした返答を返すなど性格は逆と言った感じではあったがそれでも結城は妹と話すときと同じような気分となりつつあった。
そして。
『ね? 意外と出来るでしょ?』
――確かに……。
るみと朝のホームルームまでの間、十分ほど雑談した結城は自分でも驚くほどに結城はるみとの会話をうまくこなせるようになっていた自分自身に驚きつつある。
『お兄ちゃんって多分、あれだよね楽しくなさそうに見えて実は楽しい系の人』
――どういう事だよ。
『なんていうか……誰かが下らない事言ってクラスの中が沸いてる中笑わないで小声でツッコミとか入れてそうな人』
――俺じゃねえか。
『あとは真面目なせいで皆勤賞とか取って表彰されて無駄に目立ったりとか』
――やめろ、それ完全に俺だから。
中学の時、結城はいじめを受けていたのに一度も学校を休むことなく通い回帰印象を得たという過去がある、誰にも言わなかったがその精神力は是非とも褒めて頂きたいと結城は今でも思っている。
『別に否定しなくてもいいじゃん、私はそういう人凄いと思うよ?』
――それはいい意味なのか?
『当り前じゃん、私からしたらよく分からないけど……自分の楽しさを持ってる人っていいと思う』
――そ、そうか。
結華にそんな事を言われた結城は微妙に嬉しくなる。
自分の事を認めてくれるような事を言われたことなど全くない結城にはそんな事を直球で言われたらそれだけでもかなりの事なのだった。




