妹は策士の性(1)
それから少しして、結城の日常は少しだけ充実しものとなり始めていた。
結城もそんな学校生活が楽しいと思えるようになり始めた頃、結華は兄の人生の充実のために次なる一手を打ち出すことを宣言するのであった。
『お兄ちゃん! 次は恋に行ってみよう!』
――うるせ。
そんな結華の宣言を結城は一蹴する。
ちなみに今は昼休みで結城はいつものベランダで食後の時間を過ごしている所である。
先日まではソシャゲのイベントクエストの期間であったため四人で協力して昼休みの間プレイしていたが昨日でイベントは終了してしまったので今は特にやることもなく以前のようなのんびりとした時間を過ごしている。
三人組も常に三人で喋っているわけではなく全員で楽む趣味と自分だけが楽しめる趣味という部分は分けているようであり隣にいる三人はそれぞれが一人でスマホをいじって何かをしている。
その点は結城としてもありがたかった。
常に誰かと一緒じゃないといけないなんてことはあり得ない、一緒にいたとしても時には自分一人で何かしたいときだってある。
そんな考えが共有できているこの空間は結城が所属するにはまさにベストな環境であるという事に今更ながら気が付くのであった。
『ね、結構楽しいでしょ?』
――なんで分かるんだよ……。
今考えていたことは結華に対して話すと言う意思を持っていないので届いていないはずなのだが今回に限らず何故か結華は全てお見通しとでも言わんばかりに結城の心を読んでくる。
『喋って見れば意外と大丈夫でしょ?』
――まぁそうかもな。
結華の言葉によって少しだけだが結城の長年の経験によって固められた考えも少しずつではあるが改善され始めてきている。
『と言うわけで次はあの、るみって子と……』
――それは断る。
だが結華のその提案に対しては未だに速攻で否定する結城であった。
結城の考えが内側に向きすぎているという事に気づかせてくれたという事は結城も分かっているが流石にそこにまで従うわけにはいかないと考えている。
結城がそこにまで駆け上がるには幾何かの猶予がまだ必要であった。
『お兄ちゃん、るみって子のこと好きなんでしょ』
――…………。
話題を進めたくない結城は黙って手元で三人組と協力していた物とは別のパズル系ソシャゲを進めていく、ちょうどボスに到達した辺りだ失敗は許されない。
『ねえ好きなんでしょ、ラブなんでしょ? 手つなぎたいんでしょ、ちゅーしたいんでしょ? おっぱい触りたいんでしょ』
だが脳内で自分の好きな女子に対しての思あらゆる感情を余すことなくを完全に吐露された結城の手元は狂う、その結果画面には暗転と共にゲームオーバーの文字が現れる。
『目線動きまくりだったし、別に嘘じゃないんだから認めればいいじゃん』
――分かったっつの、そうです好きですよ~。
画面から目を離しながら結城は素直にその言葉を結華に告げた、それだけなのに妙に緊張というかドキドキが出始めてくる。
『分かってても言葉にすると違うもんでしょ?』
結華の指摘はまさにドンピシャであった、はっきりと意思を持って言葉にするのと何となく頭の中で思っているだけでは感じ方が全く違ってくる。
しかもそれによって自分で認めるような形になればそれが事実として深く心に残るのは当然だ、結華はそのことが分かった上で言っているのだ。
――一応言っておくが最後の奴だけは否定させろ。
だが結城としても言っておきたい事ぐらいは存在する。
『最後って?』
――俺は女子のおっぱいに何ぞに興味はない。
『男子ってみんなおっぱい大きい子が好きなんじゃないの?』
んな訳あるか、結華の疑問を含んだ声に結城は反論する。
少なくとも結城がるみを好きなのは胸が大きいからなどという低俗な理由ではない。
結城はるみの外見ももちろんそうだが重大なのはその内面的な部分である。
結城はるみの内面的な部分が好きであると思っている、その辺りについての説明も結華に行うと思った時。
『それもそうだね、お兄ちゃん鎖骨フェチだし』
結華がなんの前兆もなくその事実を口にした。
――っておい! なんでわかった!?
妹の突然口にしたその言葉に結城は驚愕する、結城は今までそのような事を結華に話したことはなかった、それなのにまたしても結華はまるで最初から知っているかのように口にした。
結城の驚きもそこそこに結華は淡々と説明していく。
『いやー、お兄ちゃんと視界を共有してすぐに気づいたよ、胸じゃなくてもうちょっと上の鎖骨を見てたんだね』
目は口ほどに物を言うとはよく言った物だが視界を共有している妹には結城がどこを見ているかなど丸わかりである。
結城自身すら気が付いていない無意識に目線がその一点を追ってしまっているという事すらも結華には筒抜けだったのだ
改めてその事の重要性を結城は認識せざるを得ない。
――それは百歩譲って認めてもいい、だが俺はもっともう内面的な部分が……
そのうえで結城は持論を再び展開しようとするが妹には勝てるわけがない。
『ろくに話したこともないのに?』
――ぐっ……。
どうにか取り出した安っぽい言い訳は即座に弱点を付かれて消し飛びすぐに手も足も出ない状態にまで追いつめられる。
だがその場合はこの手が使える、そう思った結城はそれを妹に伝える。
――だから、話さないんだよ。
結城の持論、叶わなければ諦めるという選択。
ろくに喋った事もないような男子にいきなり親し気にされたところで向こうだって変に思うのは想像できる、仮に話せたところで結城のような人間を好きになる女子がいる訳がない。
そう言って完全に論破しようと思った結城だが妹はすかさず次の一手を繰り出してくる。
『じゃあ直せばいいのに、前言ったけどお兄ちゃんはかっこいいよ?』
んな訳あるか、と否定したい結城であったが先日なまじ妹の話を真面目に聞くと言ってしまった手前頭ごなしに再び全否定するのも躊躇われた。
――どうしろってんだよ。
そのため結城は一応意見だけ聞いておく、という事にしておいた。
やる気になったわけじゃないでも一応やり方だけは聞いておくそう言う意味を含めた上での選択である。
そしてその返答を聞いて妹が言う方法というのは――。
『とにかく挨拶を返して』
それだけであった。
――そんだけ?
結城はてっきりこの間の様にるみに話しかけろ、などと言われると思っていた。
そしてそう言われたら無理に決まっている、と反論でもしようかと思っていたのだが別にそんな事もなく結城は拍子抜けする。
『この間も挨拶された時は返したでしょ、へたくそだったけど』
――うるさい、あれで精いっぱいだ。
『じゃあそれでいいよ、とにかく挨拶されたら返すようにして』
――こっちから話しかけなくてもいいのか?
『出来んの?』
――出来ないけど……。
『ほんとはお兄ちゃんから話しかけた方が良いけど、席が隣なら少しは向こうから話しかけてくれるでしょ』
――まぁ、な
るみと結城は別に暇さえあれば雑談をするような仲ではないが挨拶はまぁそれなりにすると言える。
『だったらそのチャンスを最大限生かしなよ、もったいないなあ……』
――でもそれって社交辞令みたいなもんじゃないのか?
仲が良い悪い関係なく挨拶はするもんじゃないのか、普段からそうと思っている結城はそう答える。
『じゃあ普段挨拶しない女子が急に挨拶してきたらどう思う?』
――そりゃあ……少しは……。
最後まで言い切るよりも前に結華は話を進めていく。
『そう言う事、お兄ちゃんは基本話さないんだから話すだけでそれは強みに出来るの』
――はぁ……。
『という訳で『必ず返す』って事は忘れないでね、はい終わり!』
そこで結華との脳内講座は終了した。
「(『返すだけ』ね……)」
そしてその日の放課後より結華発案の結城とるみの関係進行計画が開始されるのであった。




