妹は兄の中(5)
教室の席に着いてからはいつもの様にスマホでも眺めようかと思った結城だったがスマホの中身を妹に見られるという事に微妙に抵抗が出てきてしまう。
共有しているのは右目だけなので右目に眼帯をしておけば妹には見られずに済むが教室でそんなことは出来ないし、そもそも眼帯など持っていない。
仕方なく暇つぶしとして窓の外を眺めるという無為な時間を過ごしていた結城であったがそのぼんやりとした思考は突如として加速する。
「何か見えるの?」
「え?」
聞こえた声の方へ反射的に顔を向けると一人の女子生徒の姿が目に映った。
ふんわりとした髪型に女性的な体つきからは全てを包み込むとような包容力を存分に醸し出している、結城にそんな印象を感じさせる女子がそこにいた。
二階堂るみ(にかいどうるみ)、結城と同じクラスに所属している女子であり隣の席に座っている女子、毎朝挨拶はしてくるがそれ以上の交流は特にない。
「おはよ、結城くん」
笑みを浮かべながらるみは結城にそう言った。
「お、おはよう、に、二階堂さん……」
取り合えず返事をしようとしたがテンパった結城は噛んでしまう。
そんな結城の動揺した様子を見て微笑を浮かべながらるみは続ける。
「結城くんずっと外見てたからどうしたのかな~って思っちゃって」
「そ、そうだねうん、そうだね」
その見た目通りのふわふわとした癒されるような声を掛けられた結城はその空気に充てられていつも以上におかしな返答をしてしまう。
「なんかいつもと違うね?」
「そ、そうかな?」
「今日は挨拶も返してくれたし、なんだか嬉しいな」
「たまたまだよ、たまたま」
そう言いながら結城ははあははと適当な間を取りつつ、席を立って教室を後にした。
といってもすでに時刻はホームルーム十分前ぐらいでありすでに生徒は大部分が登校し終わっている時間帯である。
思わず席を立ってしまったが時間を潰すほど時間はない、あそこまでテンパってしまったのは結城がるみと挨拶以上の話をしたのが初めての経験であったから。
すぐに戻るのも気が引けるので結城は廊下のひんやりとした空気に晒されながら五分ぐらい落ち着いてから戻ることにした。
微妙に高鳴っている心臓の音を感じながら廊下をぶらぶらとし始めた時である。
『いや~あんなお兄ちゃんの声初めて聴いたよ』
結華が出てきた、ずっと大人しくしていたのでうっかりその存在を忘れそうになっていたが先ほどの会話も含めて全て聞かれてしまっている。
――結華、出て来るなってさっき……。
大人しくしていろと言おうと思った時、またしてもなんの捻りもなくド直球な事を結華は言った。
『お兄ちゃんあの人の事好きでしょ?』
――…………。
『無言だから少なくとも否定はしてないと、ふーん』
成瀬結城は二階堂るみに対して気になるという感情を持っている。
だが結城はこの気持ちが本当に好きと呼べるものなのかよくわかっていない。
るみのふわふわとした雰囲気を同じ空間で感じると癒されるし、結城が下手くそな話し方をしても真面目に聞いてくれるし顔も俺好みの綺麗じゃなくて可愛い寄りの顔をしている。
異性として好きになる要素は十分に兼ね備えているといえるだろう。
だがどこが好きかと言われれば間違いなく「話しかけてくれたから」以外には考えられなかった。
そんな理由で「好き」になっていい物なのだろうか。
恋愛経験ゼロの結城からすればまずその辺りからよくわかっておらず、無駄に純愛ぶっている中学生みたいな事を考える始末となっている。
『で、どこが好きなの?』
結華の尋問が開始されるが結城は一切の無視を決め込んだ。
『ふーん……お兄ちゃんが好きそうなのってああいうタイプなんだ……』
――悪いかよ。
『別に』
そこで結城廊下の時計を見る、対して時間は経っていないが元々ホームルーまでそれほど時間があったわけでもない、頭も冷やすことが出来たと思い教室へと戻る事にする。
――授業中は黙ってろよ?
『はーい』
途中で結華にそう釘を刺しつつ結城は席へとついた、その時ちらっと右隣に座っているるみの方を見ると目が合いニコッと笑った。
その笑顔を見た結城も顔が自然と笑顔となってしまう。
『嬉しい?』
――黙ってろっつっただろ!
別に馬鹿にされてはいないのだが結華はその時の結城の気持ちをそっくりそのままリピートするので結城としてはたまったものではない。
頭の中で思うのと他人に言われるのでは恥ずかしさが大違いだ。
『はいはい、黙ってますよ~』
結城の言葉を聞いて結華は如何にも分かっていなさそうな口調で黙り始める、おそらくまた何かあったら口を開くに違いない。
「お前ら~席に着け~」
とそこで担任の教師がそう言いながら教室に入ってきた固まっておしゃべりをしていたクラスメイトも
そそくさと自分の席へと戻り始めていく。
結城が妹と共に過ごす学校生活がいよいよ開始される。




