妹は兄の中(4)
『まぁあれでしょ、この世に未練でもあったんじゃない?』
――未練って……
朝食終了後、特に予定もない結城は部屋へと戻り結華と会話を行っていた。
今はなぜこの感覚を共有しているという状態になっているのかという話をしていたのだが結華の返答はそんな曖昧な物であった。
そんなもんあるのか、と言いかけた結城であったが再びそれを結華に伝える事を止める。
冷静に考えれば、いや冷静に考えなくても妹は交通事故に遭って死んでしまった、未練などいくらでもあるに違いない。
結華は十五歳である、まだまだ未来はあったしやりたいことだってたくさんあったに違いない。
そう判断した結城は言う。
「……なんかやりたいことでもあんのか?」
『そうだね……ケーキ食べたい!』
神妙な面持ちで言った結城だったがそれに対する結華の返答は心底軽い。
「了解、んじゃ買いに行くか」
そう言って結城は出かける準備を始める。
こうして結城は妹の願いを出来るだけ叶えてやれるように生活することを決心した。
別に結城は実の妹の事が好きとかそういう人間じゃない。
それでも妹の事はそこら辺の一般人なんかと比べたら好きなのは間違いない。
結城は妹と共に生きていく覚悟を持った。
そして妹と一緒に過ごす土日は瞬く間に終了して日付は月曜日となった。
高校生である雪は当然ながら様に高校へと行かなければならない。
「(学校にまで結華が来るのはなんかなぁ……)」
「はぁ……」
『何ため息なんかしちゃってるのさ』
――うるせぇ黙ってろ。
この土日で色々と試した結果、念じると言っても結華に対して話しかけるという意識をしっかりと持ったうえで念じる事で初めてコミュニケーションが可能となっていることに気が付いた。
取りあえず頭の中で考えていることが全てそのまま通じてしまう、という事にはならないという事が判明し結城は安堵する。
いくらなんでも頭の中で考えていることが全て妹にダイレクトで伝わるのは思春期男子としては色々とマズイ。
結城の通う学校は家から歩いて十分ほどの場所にある県立高校であり、学力もそれなりで知名度もそれなりと言う至って普通の学校である。
『ここの制服あんまり可愛くないんだよね』
『あの子、髪型もうちょっと直せばいい感じになりそうなのに……』
通学の途中で結華は周りから見えない事を言い事に結城の脳内で好き勝手に色々と喋っていた。
万年一人での登下校が当然の結城からしてみれは隣で誰かがしゃべりまくっていると言う状態には予想以上に辟易していた。
「おっす! 結城!」
とそこへ後ろから突然肩を叩かれた、結城が振り向くとそこにいたのは同じクラスの男子である新島雄二だった。
「お、おう」
「なんだよ~しょぼくれた顔してるな~」
「いや、別に……」
「そうか~? んじゃな~」
テンションの高いクラスメイトは二言、三言結城と声を交わすとすぐに別のクラスメイトの方へと向かって行った、見ているとそのクラスメイトにも結城と同じような事を言っているのが見えた。
新島雄二はいわゆるクラスカーストの上位に属している人間であり男女関係なく気さくに接するタイプの人間である、その気さくさは結城のようなとっつきにくい人間までも含まれており特に用がない時にも今の様に良く話しかけてくる。
すると脳内で妹が言った。
『お兄ちゃん、そんなんで良く友達やっていけるね……』
どうやら結華は新島が結城の友達であると思っているようである、なので結城はそれを否定する。
――何言ってんだ俺と新島は別に友達じゃないぞ
新島は誰にでも気さくに接してくれる人間で仲間外れや孤立している程度は全く奇異返さずに話す人間というだけである、結城から話しかけたことなどは一度もない。
結城の中ではそれは友達とは言えない。
すると次に結華はこう言った。
『……せっかく話しかけてくれてるのに』
――…………。
耳が痛くなるような事を結華はあっさりと口にした。
きっと結華にしてみればそう言う事自体が不思議でならないのだろう。
だが結城は過去の経験、中学時代にいじめにあった結城は基本的に人の考えの裏には何かがあるんじゃないかと無意識に考えてしまう部分がある。
結城の中では人と接することによるメリットよりもデメリットの方が多いと考えている、よってデメリットを防ぐために近づかないようにするのは当然である。
その結果としては話しかけたところでろくに返事も何もしないような人間が生まれる事となり友達が出来るようなわけもない淡々とした日々を送ることとなってはいるが。
だが結城はそんな自分自身に誇りを持っている、それを否定することは自己否定に等しい。
――お前には関係ないだろ。
純粋に気遣ってくれたであろうその言葉を結城は跳ねのける。
『お兄ちゃん……』
――黙ってろ。
結城はさらに強い言葉を発した、すると結華はそれ以降言葉を発しなくなった。
なまじ頭の中にいるせいで顔を合わせたりはしない物の常時そこにいるという事になる、黙っていて貰わないと悪態しか出てきそうにない。
そこから学校へと入り、教室に着くまでの間結城は一切結華には話しかけることはなかった。
結華もそこにはいるのだろうが声を上げることはなくそのまま教室へと無言で歩いて行った。




