真実は兄妹の仲(4)
そこにいる結華は明らかに常軌を逸していた。
全体的な姿そのものは生前の結華と変わらない、結城よりも小さな体もさっぱりと切られた短髪も結城の知る通りの姿をしており結城の記憶にある結華の姿そのままであった。
だが、そこからはとても生気らしきものは感じられない。
結華の肌は不気味なに白くじっと見つめているとまるで透けてくるような錯覚に陥りそうになり、黒かった短髪は暗い緑色のような色彩へと変わり肌の白さとは対照的に濁り切ったかのような不気味な印象を放っている。
その体に纏っているのは非常に薄い白の服、それはもはや服を着ているのかどうか分からなくなりそうなほどであり目を凝らさなくてもその下が見えてしまう、その上その色が余りにも肌と同じなため体と服の境界がどこにあるのかさえも分からなくなりそうなほど。
「…………」
そんな妹の姿を見るという事は必然的に妹の全裸を見ることになってしまっている結城なのだが目を背けることが出来なかった。
透ける服の下にある普段ならば見えないはずの肌が透けて見え、その異質さが露わになる。
結華の体のほとんどは人のものではない真っ白な物体で覆われていた。
その白い物体が結華ではない何か別の物である、そしてその結果結華の体として残っている部分はほんの一部しかないことも結城には何故かわかってしまった。
「結、華……?」
結城は背後を振り向いた体勢のまま背後にいる結華に声を掛ける、その声には妹を心配するのではなく目の前にある物に対する恐れが含まれているようであった。
「お兄ちゃん!」
そんな中、結城に声を掛けられた結華は嬉しそうに結城に抱き着いた。
「……!」
その体はまるで明確な実体を持つかの様に柔らかな感触を持っていた、だが温かさや吐息などは一切感じず「それ」が生き物ではないという事はすぐに分かった。
「結華……お前は一体……」
結城は一瞬硬直しかけたものの抱き着く結華の体を軽く撫でながらそう尋ねた。
すると。
「こんにちは、るみさん」
結城の問いには答えることなく結華はそう言いながら結城の体をすり抜け、宙に浮いたままベッドの近くで茫然としていたるみの方へと向かい始めた。
「ゆ、結華っ!」
自分の体を妹が通り抜けたという事実に驚く暇もなく結城は再び正面を向いてるみの方を向き直した。
「な、何これ……」
るみは驚いたまま完全に固まっているあまりの混乱によって何も出来なくなってしまっているのだろうか。
そしてるみが落ち着く暇もなく結華は言う。
「わたし、結華、お兄ちゃんの妹だよ」
そして結華はるみの近くへと一気に接近した。
「きゃあ!」
突然近くにやって来た結華に驚いたるみは悲鳴を上げて後ずさろうとする、だがそれよりも結華の到達の方が早かった。
「怖くないよ」
るみが片足を一歩下げるのとほぼ同時に結華は怯えるるみの両頬に手を当てた。
「ぁ……」
するとるみは体の力が抜けたかのようにふらふらとし始める。
「お、おい!」
それを見た結城が驚いたのは言うまでもない、すでに元通りとなっていた体をベッドから跳ね起こしるみの近くへと向かい、今にも倒れそうなるみの体を支えた。
「あれ、思ったより弱い……」
結城がるみの体を支える中、結華はそんな事を言いながら淡々と見ているだけであった。
「お前、一体何を……」
結城はそこにいる結華に対して問う、そこには多少なりとも怒りが含まれているようであった。
そんな結城の問いに対して結華はこう答えた。
「私、お兄ちゃんの事が好き」
「へ?」
緊迫した空気が流れているにも関わらず結城はそんな素っ頓狂な返事をしてしまう。
「すきって、いや……お前、何言って……」
「男の人として、異性として好き」
結城の疑問を半ば無視するかのようにそう言うと結華は結城のすぐそばまで近づいてくる、それこそ鼻同士がくっつきそうなほど近くまで。
「……っ」
結城は反射的に顔を背けて距離を取ろうとした、すると結華が両手で結城の顔をがしっと掴み距離を離させない、まるで逃がさないと言わんばかりに。
「おにーちゃん」
結城の目の前には結華の顔がある、だが結華としての顔を残しているのは右半分だけであり残りの部分は人ではない白い物体だけののっぺらぼうのような状態であった。
「私はその気持ちに気づいてからずっと隠すことに決めてた、実のお兄ちゃんを好きになるなんておかしいって思ってたもん」
結華は結華としての右側の顔で懐かしむような表情をしながら語り始める。
「でもね押さえつけようとすればするほど気持ちは大きくなっていったの、それでこれ以上大きくなったらどうしようって本当に悩み始めた、そしたらね死んじゃった」
妹はぽつりと言った。
「でもね、神様は私に贈り物をしてくれた、それが今の私」
強すぎる思いを持った人間は死後、地縛霊としてその死んだ場所に残り続けるという。
結華は兄を思うその強い思いによって思いの矛先である結城の体に残り続けていたのだ。
「すっごく楽しいよ、だって好きな人と一つに慣れるんだもん」
「ゆ、結華……」
結城は楽し気に語る結華の言葉に何とか割り込もうとするその語りは留まることを知らない。
「ご飯の時はお兄ちゃんが噛んでくれた物を食べさせてくれてはすっごくおいしかったよ? お兄ちゃんのが噛んでくれたものを食べられて嬉しかったなぁ……」
結華の常軌を逸した語り口は続く。
「でもね、今の私じゃお兄ちゃんを全身で味わえない……それは残念だなぁ……」
恍惚とした表情で語っていた結華であったがその感情が急に暗くなり始める。
「お兄ちゃん、私がどういう風に死んだか分かる?」
突然投げかけられた言葉、口調は穏やかであるにも関わらず返答によっては殺されてしまう、そんな光景が結城の脳裏に流れ結城は怯えつつもそれに答えていく。
「お前は……交通事故で……トラックにはねられて……」
結城は自分が知っている部分、妹が死んだと母親に聞かされた時の言葉を思い出し妹に告げた。
「不正解……いや、おまけで半分正解かな?」
結城の答えを聞いた結華は笑顔でそう言った。
結城は事故現場がどのような状態なのかは母親を通して聞いただけであり、本当の意味で妹がどうなったのかは知らない。
ただ一つ言える事としては葬儀の時の結華は既に火葬が済んでいたという事、その時少しの違和感を感じた物の結城は何も言わなかった。
そして結華は結城が知らされていなかった真の自分の死について語り始める。




