真実は兄妹の仲(3)
「……えっ」
沈黙を保ち続けていた妹から突如として発せられた声、それを聞いた結城は思わずそう聞き返した。
結城が聞き返した理由はその内容もさることながら聞こえ方にもあった。
「……今の何……誰……?」
結城がその声を耳にした瞬間、その手を取っていたるみまでもがまるで聞こえているかのように体をびくっとさせ、それから恐る恐る周囲を見回し始めている。
その光景と結城の「耳に」聞こえてきた妹の声、それらから示される事実は一つ。
結華の声が周囲にも聞こえている。
今まで結華はどれほど大声で喋ろうと怒鳴ろうと、それらは全て結城の中までしか届かないものであった。
それなのに今はその声が結城の外側にも伝わる様になっている。
混乱の最中結城はとにかく結華が何かしらの反応を見せた、という事だけを受け止めて結華に心中で呼びかける。
――結華っ!
いつもにように結華に話しかけるという意思を込めて結城は心中でいつも以上に強く念じた。
すると。
『……やっぱり無理』
結華はそうとだけ言った、結城の声が聞こえているのか否かそこからは判断できない。
――結……。
何が起きているのか尋ねるべく結城は再び呼びかけようとしたその瞬間、結城の体に再びあの感覚が湧き上がった。
「うっ、ぐ……」
ベッドで仰向けになっていた結城であったが胸のあたりから生まれる強烈な不快感によってうめき声のようなものを出し始める。
「ゆ、結城君! どうしたの!?」
辺りを見回していたるみも結城のその状態に気が付き再び右手を強く握って結城の身を案じ始める。
だが不快感は増すばかりであり、むしろその強さは先ほどの交通事故を目撃した時など日にならないほどであった。
「ぐっ……! あ、ぅぐあああっ!」
始めは仰向けで胸を押さえるような体勢であった結城だが次第にその体勢でいる事すらできなくなり上半身を起こし自分の胸を包み込むような体勢で呻き始める。
胸中で増し続ける不快感、これは一体どこまで増殖し続けるのか、結城がそう思った時である。
今度は不快感とは別の感覚が結城の体に起きることとなる。
「(あ、熱い……?)」
感じたのは熱。
だがそれは火傷をするような熱さではなかった、何と表現するべきなのか結城には見当もつかないがその熱はまるで体のそこから燃え上がってくるとでも言うような熱であった。
「あ、熱い……!」
たまらず結城は近くでおろおろとしていたるみにそう告げた。
「ど、どうしたの!?」
自分の体を抱きしめるかのような体勢で呻いていた結城に混乱しかけてはいたものの結城が言ったその言葉をるみは確かに答える。
「熱いんだ……燃える……熱い……」
そう言いながら結城は助けを求めるかのようにるみの方へと右手を伸ばす。
「し、しっかりして……!」
結城が伸ばした右手をるみは両手で包み込むようにして受け止めた。
「私はここにいるから……!」
るみが受け止めた右手を両手で強く握り締めながらそう言った時。
『――触るなッ!』
再び結華の声が鳴り響く、それは聞いた人間ならが誰もが体を強張らせてしまうような声質であった。
苦しみの中で結城はとても結華の声の様には思えないその声に困惑し、るみは虚空から聞こえて来る怒声に戸惑う。
「がっ! ぅがぁっ……!」
その響きが亡くなると同時に結城の体に最大の苦痛が湧き上がった。
「うがああああああああっ!!!!」
内側から燃え盛るように湧き上がる熱とまるで体が引き裂かれているかのような得も言われぬ苦痛が結城の体を駆け巡り、結城はただただ声を上げる事しか出来ない。
「結城君っ! 結城君っ!」
それでも耳元で微かに聞こえて来るるみの声は確かに結城の心に強い存在としてその形を残していた。
「(なんでもいい……耐えろっ……俺……)」
だがその苦痛は突如として終焉を迎える。
「あ……れ……?」
数秒前の苦痛が嘘の様に結城の体から苦痛も熱も消え去っていた。
「な、何だ……?」
改めて自分の手などを動かす結城だが先ほどの地獄のような苦痛はどこにもなく、更には目覚めた時の体の重さまでもが嘘のように消え去っていた。
「は、はは……な、なんだったんだろうね……」
結城はそう言いながら隣で声を掛けてくれたるみの方を向いた。
「……っ」
そこにあったるみの顔は結城が見たことがないほどに引きつっており、驚愕そのものを現したかのような表情をしていた。
「……ど、どうした……の?」
結城がるみに向かって尋ねる、するとその答えなのかあるいは自然と零れた独り言なのかるみの口から言葉が漏れる。
「な、なに……これ……」
そう言ったるみの視線は結城、ではなく結城の背後を見ているように思える。
一体何が、そう思いながら結城は上半身を回して背後を見た。
「っ……」
そこには結華がいた、結華の姿がそこにはあった。
結城がその姿を目にしたのは妹が交通事故に遭ってこの世を去る日の前日の夜、それから約三か月ぶりに結城は結華の姿をその目で見た。




