兄は変貌の途中(2)
そして、電車に乗って隣の繁華街の方に出てきた結城であったが。
――おい、ほんとにここ行くのか?
『そうだよ』
結城は如何にも路地裏とでもいった所の前で立ち往生をしていた。
電車の中で結城がどこに行くのかを聞くといつも結華が行っていた美容院とやらがあるらしくそこへと案内するから言うとおりに歩いて、とのことであった。
美容院のあてなど全くない結城はそれに疑問を持つ事もなく自然な流れで了承して結華の声に従って歩き始めた。
だが結華は駅から出るなりいきなり大通りからそれた脇道への道に入る様に言い出し始めた、大通りは休日と言う事もあって人に溢れかえっているものの一歩脇道に逸れれば途端に人数は少なくなっているのは明らかであった。
『大丈夫だって、私が良く行ってる所だから』
――ほんとだろうな……
『ほら、早く行った行った』
結城は微妙に心配になりながらも結華の言葉に従って歩き始める、だが脇道に入ってからも右に行け左に行けと行った脇道以下の小路をひたすら歩かされていく。
一体どこまで行くんだと結城が思い始めた時。
『はい、到着』
――これ……?
結華にそう言われた結城は立ち止まり左手にある小ビルを見上げた。
そこにあるのは如何にもけばけばしい装飾の施された建物、窓ガラスがステンドグラスみたいにカラフルになっており路地裏の暗さも相まって原色を含んだ小ビルは周囲からかなり浮いている。
ここが妹が言う美容院らしい、が正直信じられないというのが当然であった。
――こんなところに人くんのか……?
『ほとんど来ないよ、知ってる人も少ないみたいだし』
――いや……それ大丈夫なのかよ。
路地裏に入る辺りから増し始めていた不安感はだんだんと不信感に変わり、結城の胸中でその大きさをいまだに増している。
『ほら、さっさと行く』
そんな心理状態の中、信二は小ビルの階段を登っていく
階段横の看板を見ると確かに
【3F 美容院 Curoe】
とは書かれていたので美容院であることは間違いないらしい。
――ここだよな?
『そうそう』
人一人分の狭い階段を登り三階に上がった結城はそこにあった扉を開いて中に入る。
扉を開くと客人が入って来たことを店内に知らせるベルの音が鳴り響いた。
やはり客が少ないからなのか店内には誰もいなかった、がそれ以上に結城には店内の雰囲気の方が目に焼き付いた。
「なんだこりゃ……」
店内を見た結城は思わずそう声を漏らす。
前に結城がネットやテレビなどで見た美容院は綺麗と言うか白や茶色を基調とした感じのイメージがあったのだがそこにあったのはまるで逆。
ピンクや赤などの原色そのままの部分があるかと思えば所々には黒も混ざっているような形容しがたい色彩の暴力。
見ているだけで目がチカチカしてきそうなほどの光景が結城の視界全体に広がっていた。
「はぁーい」
そんな異次元空間を前にして立ち尽くしていた結城の耳に聞きなれない声が響く。
その声と同時に店の奥の方からパタパタと人が歩いてくるような音が聞こえ始め、すぐに店員と思わしき人物が現れる。
その人物は背が高くて如何にもイケメンとでも言った感じの男性だった――が。
「あら~? 見ない顔ね~……誰かのご紹介かしら?」
「失礼しました~」
顔を合わせてから数秒で結城は店の敷地内に一歩踏み出した状態で止めていた足を即座に引っ込めてUターンを試みる。
「まって~」
「うおっ!?」
すると何故か先ほどまで店の奥にいた男性が瞬時に結城の袖を掴んだ。
瞬歩めいた速度で行われたその距離の詰め方は明らかに常人離れしている。
「大丈夫よ~怖くないから~」
いや普通に怖いし、結城はそう思いながらもその引っ張りに負けて店の中へと引き戻されていく。
「まぁまぁ、まずはどうぞ座って?」
「…………」
とは言っても肩を押されて座らされるような形になった結城は拒否することも出来ずに無言のまま入り口近くのソファーに腰かける。
「改めていらっしゃいませ、私は店長のユージで~す」
結城の向かい側に腰かけた男性は後ろにはぁと、とか付けてそうな感じでそう言った。
――おい、この人大丈夫か?
疑念全開の結城は脳内で妹にそう尋ねる。
『大丈夫だよ、ユージさんはとってもいい人だから』
結城の疑念を他所に結華は特にいつもと変わらない雰囲気でそう言った。
疑念が取り去られたわけではないがそんな妹の様子を見て結城は取りあえずは初見の時の逃走を考えるような思考を拭い去る。
そして自己紹介を終えたユージさんは結城に質問をし始めた。
「誰かからのご紹介かしら? ここに偶然来るような人は今までいなかったものね……あ、もちろん紹介がないとダメみたいなことはないから安心してね?」
「あ~えっと……妹から……です」
――お前からって事でいいんだよな?
『そうだね』
少々手間取るような言い方をしつつ、結城は脳内で妹に確認を取る。
「あらあら、妹さんから? 兄妹で中がいいのね~きゃっ」
「あはは……」
結城にはいまいち同調出来ないような不思議なテンションを持つユージさんの様子を見た結城は軽く苦笑いする事しか出来ない。
「ちなみに妹さんのお名前は?」
「あ、結華って言うんですけど……」
「まぁ、ユカちゃん! ってことは貴方がお兄さん!」
そう言うとユージさんは結城の全身をじっくりと見始めた、まさに嘗め回すようなその視線に結城は微妙な気分になる。
「ふんふん、なるほどね」
一頻り見た後、ユージさんはそう言いながら考え込み始める。
腕を組んで顎に手を当てて思考するユージさんの姿は顔も体つきも男らしい雰囲気を持っている所も相まってかっこいいと十分に言えるようなものであった。
口調も性格は少しアレであるが。




