3、ヤキモチ
「悠と後藤?んー…まぁ、仲が良いと言えばいいな。」
夕食時、香緒里は秀人に悠と咲乃のことを聞くと、そう返ってきた。
秀人は夕食の魚を箸で切り分けながら続ける。
「まぁ、うちの部員は基本的にマネと仲良いとは思うけど。悠は後藤と一番話すな。」
「そっか……。」
「そういえばもう一人のマネは結局そのまま入ったの?」
「入った。マネが3人いるかと言われると、いらねぇと思うんだけどな……そんなに大所帯の部の訳じゃないし。」
沙世が聞くと、秀人は少し嘆息してそう言った。
去年香緒里や秀人とゴタゴタあった山瀬は結局そのままバスケ部でマネージャーを続けている。
さすがに気まずいのか、秀人とそんなに関わっている様子はない、と以前雪音から香緒里は聞いた。
「悠たちも気になるけど、目下やばいのはこっちじゃないか?」
そう言って真は隣のテーブルを見る。
奈津を挟んで亮と杏子が座っている。
向かいには圭、由美、直樹。
美愛と悠は今日は部活仲間と一緒だ。
杏子は奈津にベッタリでしきりに話し掛けている。
奈津も奈津で一応かわいい従姉妹ではあるようで、邪険にはせず、普通に会話している。
そしてその横の亮の眉間の皺はいつもより深い。
けれど特に怒るわけでもなく、黙々と夕食を食べ進めていた。
圭はめげずに杏子に話し掛けている。
多分空気緩和…のためだろうと香緒里は思った。
「1週間くらい、大体あぁだもんな……」
「亮の胃が心配だよな。」
翔太と秀人はそう言って亮と奈津を見比べる。
「杏子ちゃん、クラスに友達いるのか心配になるくらい奈津の方にやってきてるもんね。」
「さすがにそこは大丈夫だと思うけど……。いい子なんだけどねぇ。」
沙世と雪音は言う。
亮に敵対心を燃やしていることと、奈津ラブなことを除けば、香緒里たちに対しては礼儀正しいし、感じが悪い態度も取らない。
圭はちょっと雑に扱われているが。
「新谷せんぱぁい!」
そこへちょっとギャルっぽい女子がこちらへ近付いてきた。
「中村か。何か用か?」
親しげに秀人に話し掛けてきたその女子を特に無視しなかったところを見るに、顔見知りらしい。
「部長が新谷先輩と悠先輩のこと探してきてくれって言うので〜。」
どうやら、男子バスケ部のもう一人の新人マネージャーらしい。
ニコニコと愛想良く、なんなら語尾にハートが付いていそうなその女子を見て、やっぱり秀人目当てか…と沙世は心の中で呟いた。
「小倉先輩が?どこにいるか分かるか?」
「向こうにいますよ、行きましょ?」
丁度食事を終えたところだった秀人は、悪いちょっと行ってくる、と立ち上がった。
その秀人の服の裾を、香緒里は咄嗟に掴んでしまった。
「香緒里…?」
「え……?あ、ごめん…なんでもない!」
どうも無意識だったらしく、顔をちょっと赤くして慌てて手を離した。
秀人も予想外だったようで、一瞬固まったが表情を少し柔らかくし、香緒里の頭を撫でる。
そして、少し声も和らげ、いつもより低めの声で優しく、
「大丈夫、後でな。」
と言って、お盆を持って中村の後について行った。
沙世はそれを見てテンションが上がったようで隣に座る真の肩をバシバシ叩き、「沙世落ち着け?」と窘められている。
雪音と翔太が顔を見合せていると、まだ少し顔の赤い香緒里が口を開く。
「なんか……最近変なんだよねぇ…。雪音たちじゃない女子と秀人が話してたり、周りの子達が秀人について話してるのを聞くと、モヤモヤするというか…。
ヤキモチなのかな?とも思ったんだけど、前はそこまで思わなかったから。…変、かな?」
香緒里が遂にヤキモチを…!!!と沙世の上がりそうなテンションを真は必死に抑えている。
「変じゃないよ、大丈夫、大体みんなそうだもの。」
雪音はそう、優しく香緒里に言った。
「沙世なんていい例よ?」
「なんかそこで例に出されるのは癪なんだけど……。でもそうだね、普通に私はヤキモチ妬くよ。特に真を狙ってくる女子は根絶やしにしたいくらい。」
「頼むから法は犯さないでくれよ……?」
「大丈夫、合法的に行く!」
「そういう問題ではなくない…??」
漫才のようなやり取りをする沙世と真に対し、翔太は突っ込む。
ちょっと納得した様な、でもまだ若干自分の変化についていけない香緒里が考え込んでいると、空手部の篠原がやってきた。
「あ、いたいた。亮、上原さん、吉崎さん。」
「篠原くん、どしたの?」
杏子と話していた奈津が篠原を見る。
「部長から招集かかったから、呼びに来た。」
「え、なんだろ。」
「時期的に生徒会選挙のことだろ。」
「そっか、もうそんな時期だっけ。」
緑ヶ丘高校の生徒会選挙は他の学校より早く、5月末頃に行われる。
なので、大体GW前のこの時期くらいから準備が徐々に始まる。
香緒里達も立ち上がり、また後でねーと行って食堂を出ていった。
奈津がいなくなり、食事も終えたため、杏子も雪音達に挨拶した後、去っていった。
「私たちはお風呂でも行こっか。」
「そうだね。」
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「おかえりー。」
空手部の会議に出たあと、奈津とお風呂へ行き、その後に談話室に行った。
既に雪音達はいつもの場所で寛いでいた。
「結局、選挙のことだったの?」
「うん、そう。今年は誰が出るかっていう話。」
ここの生徒会選挙は全国でも珍しく、クラスごとではなく部活ごとに1人、立候補を立てる。
部活に全員加入制で、部活単位で動くことも実は多いためである。
空手部では前年度に元部長の小田が生徒会副会長、今年度は副部長の一ノ瀬が副会長を務めている。
「決まった?」
「多分…私が出ることになるかなぁ。」
沙世に聞かれた香緒里はそう答えた。
「うちの部は例年2年生が立候補するんだけど、2年生は4人しかいなくって。篠原くんは部長候補だし、亮は忙しいでしょ??奈津も向いてない、って言うから……私も自信はないけど。」
「そう?向いてるとは思うけど。中学の時にも生徒会してたし、学級委員もよくやるし。」
翔太にそう言われる。
「そういえば、亮も生徒会長してたよな、中学の時。」
「あぁ、やったな。」
圭に言われて奈津の隣にいた亮は頷く。
「え!そうなの!?」
「人をまとめる経験になると思ってな。」
似合う〜と沙世は言う。
バリバリ働いてそうなイメージはある。
「圭〜昨日の続きやろうぜー。」
談話室に入り、こちらに近付きながら悠が圭に声を掛ける。
そのまま二人で並んでスマホを構える。
仲が良い。
悠と共に来た秀人は香緒里の隣に腰を掛けた。
若干いつもより距離が近い。
ちょっと安心したような顔をする香緒里を見て小さく笑った。
「新谷、バスケ部はなんだったの??」
「来月の生徒会選挙の話。そろそろあるだろうなとは思ってたんだけどな。」
奈津に問われて秀人は答える。
「男バスは誰が候補予定なの?秀人?」
「俺はやらない。高校はバスケに専念したいし。てことで、E組の小野がやる予定。」
「あー小野か。向いてそうではあるな。」
同じE組の翔太が納得したように頷く。
香緒里も何度か顔を合わせたことがある。
「何だかんだしてるうちに、多分あっという間に選挙になりそう……。」
「気付けばもう来週末からゴールデンウィークだもんねー。」
「そういえば美愛と由美と直樹は?」
「由美と直樹は料理部の用事だって。美愛は見てないなぁ。」
香緒里が誰彼ともなく聞くと、沙世が答えた。
最近、あまりクラス以外で美愛を見掛けない。
真壁歩のところに行っているのだろうか。
悠と圭の方を見ると、ゲームに夢中で声が届いていないように見える。
あっちもこっちも不確定要素が多く、どうなるかがさっぱり検討がつかないな、と香緒里は2人とそして奈津と亮を見て思った。




