2、恋愛模様
新入生歓迎会の翌日には、部活動オリエンテーションが行われ、そのまた翌日から仮入部期間が始まった。
緑ヶ丘高校は部活動には全員加入しなければならないので、あちこち回って吟味する新入生も多い。
空手部にも入れ替わり立ち替わり見学者がやってきていた。
仮入部が始まって数日後。
いつもより早めに部活が終わった翔太は、珍しく体育館側に来て雪音と秀人と合流した。
普段は翔太が所属するサッカー部の活動場所である校庭と体育館は少し離れているため、別々に寮に戻るのだが、今日はバスケ部の練習終わり時間より前に終わったので来たのだ。
「香緒里は?」
「もうすぐ来るんじゃない?」
バスケ部が活動する第一体育館と、空手部の道場がある第二体育館は隣り合わせなので、大体香緒里、秀人、雪音の3人か、もしくは亮や奈津も一緒に帰る。
「あ、来た。」
第2体育館を出てきた香緒里は、秀人達を見つけるとパッと笑顔になって小走りにこちらに向かってきた。
「なぁ、翔太、雪音。」
「何??」
「最近の香緒里……かわいすぎないか……??いつもめっちゃ笑顔で寄ってきてくれるんだけど……。」
真剣な顔で秀人はそう言った。
確かに以前はこちらを見つけても特段表情は変わらず、手を振るくらいではあった。
いや、今も雪音や翔太に対してはそのくらいだ。
多分、秀人限定。
本人は恐らく無意識。
「あー……確かにかわいいわねぇ。」
たまたま居合わせた新入生やバスケ部バレー部の部員が振り替えるくらいにはかわいい。
「ごめんねーお待たせ。ちょっと遅くなっちゃった。あれ?今日は翔太も一緒なのね。」
「うん、たまたま早く終わったからこっち来たんだ。」
そう言いながら来た香緒里は、秀人のそばに来ると顔を見上げて何を言うわけでもなく、微笑んだ。
あ、これやばいんじゃないか?
と隣にいた翔太は思う。
うわーかわいい。
とそのまた隣にいた雪音は思う。
目撃した人も多分同様の気持ちだろう。
一瞬フリーズした秀人は香緒里の手を取り、引き寄せつつ、歩き出す。
「帰るぞ。」
香緒里に向ける視線は優しい。
が、一瞬周囲に向けた視線は冷えていた。
「牽制、したねぇ……。」
「今後大丈夫か、俺は若干心配になってきた。」
そんな会話をしながら雪音と翔太は2人を追った。
「ところで、女バスは新入生結構来てる?」
歩きながら翔太は雪音に話を振る。
「まぁ、ぼちぼち……?10人くらいは入るかなー。サッカー部は?」
「うちもそんなもんかなー。」
「空手部は5人くらい確定、って感じかな。私の代が4人しかいないから、もう少し欲しいところではあるけど……。男バスは?」
「うちも10人前後ってとこだな。後はマネージャー希望が2人。」
「マネ希望……また秀人目当てか?」
翔太が言うと、いや……と秀人は続けた。
「それはわからねーしどうでもいいけど……とりあえず、1人は悠目当てだな。」
「悠?」
「あぁ、視線が分かりやす過ぎた。」
「まぁ、悠は最近身長伸びてきたしねーバスケはそもそも上手いし、基本的には優しいし。後輩女子的にはかっこいいと思っても仕方ないのかもね。」
雪音の言葉に確かに、と香緒里達も頷く。
1年前に比べると悠は5cmくらい伸びており、ついでに言うと亮もそのくらい伸びた。
兄弟の圭や父の陸の身長が高いのだから伸びるのは当然といえばそうなのだが。
「吉崎せんぱーい!」
「お疲れ様でーす!!」
話していると、通り掛かった新入生の女の子達が香緒里に声を掛け手を振ってきた。
「……?お疲れ様ー?」
「きゃーーー!!」
わけも分からず手を振り返すと黄色い悲鳴が上がった。
そしてその子たちは秀人にも声を掛けた後、「話し掛けちゃったー!」とかきゃいきゃい盛り上がりながら小走りに去って行った。
「珍しいね、秀人じゃなくて香緒里に声を掛ける女の子。」
「それはねー私が説明しましょう!」
雪音がそう言うと、突然背後からにょきっと沙世が顔を出した。
「沙世!いつの間に……」
「まずねー、秀人を歓迎会とかで見て、『かっこいい!』てなるでしょ?んで『え?新谷先輩彼女いるの!?どんな人!?』となり、空手部を見学。」
「なるほど、そこで空手をやっている香緒里を見て、『かっこいい!』ってなったわけね。」
「そーいうこと。空手してる時の香緒里、超イケメンだからね!!」
沙世は思い出してキラキラした顔でそう言う。
空手で黒帯、しかも実力は県内トップクラス、元々整った顔立ちで去年の文化祭で男装が似合うのも実証済み、物腰柔らかな対応。
確かに女子に人気が出そうなステータスではある。
「また圭が、ライバルが増えた、とか言って嘆きそうだな。」
「まぁ香緒里より、向こうの方がすごいけどね。」
秀人の言葉に沙世は後ろを見た。
女テニの王子様、と言われる根室璃子が後輩女子たちに囲まれていた。
既に根室璃子ファンクラブに入会している子もいるとの噂だ。
「相変わらずすごいねー璃子ちゃん。」
「私の予想ではねー、多分香緒里と秀人は推すに値するカプになると思うんだよねー推しカプ。」
「推しカプ……??」
沙世がそう説明するが香緒里にはよく分からずに首を傾げた。
「推せるカップル、ってことよ。まぁねー、完璧天才の秀人にクールで清楚系の香緒里、見映え的にもいいものね。」
「そうそう。」
雪音と沙世が盛り上がっているがいまいちよく分かっていない香緒里は「ふーん?」と聞いていた。
秀人と翔太は既に前で別の話をしている。
何にしろ、今年の新入生は賑やかである。
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その翌週、部活を終えた香緒里は第一体育館を覗いた。
丁度、男子バスケ部も女子バスケ部も片付けをしている最中だった。
「あれ?吉崎さんじゃん。秀人待ち?」
入口から顔を出していた香緒里に気付き、男子バスケ部の原田が声を掛けてきた。
「うん、そう。もうすぐ終わるかな?」
「終わる終わるー。ただ、秀人は今日は部室の鍵当番だから若干遅くなるかも。」
「そっか、了解。ありがとう。」
ふと体育館の中を見ると、悠が1人の女子と話しているのが見えた。
「ねぇ原田くん、あれってもしかして……。」
「あぁ、後藤な。もしかして秀人から話聞いた?」
「うん、悠の事が……っていうのは。」
「悠にもモテ期到来か〜いいなー俺もモテてー。」
じゃあ秀人に吉崎来たこと伝えとくわーと言いながら原田は片付けに戻って行く。
入れ替わりに、悠がやって来た。
その後ろには例のマネージャーもいる。
「吉崎おつかれー秀人か?今日鍵当番だから多分遅いぞ。」
「みたいだね、さっき原田くんが教えてくれた。」
「なんだ、そうなのか。」
悠の後ろから、遠慮がちにマネージャーが顔を覗かせる。
柔らかい髪質のセミロングに、大きい目、穏やかそうな表情のかわいい子だ。
「あの、もしかして……新谷先輩の彼女さんですか??」
「うん、そうだけど……」
香緒里が肯定すると、やっぱり!と笑顔になった。
「噂通り、素敵な方ですね〜!」
「う、噂……?」
「はい!美人で、清楚で、知的で、それでいてクールで凛々しい!素敵です!!」
ベタ褒めをされて、どう反応していいか分からず悠を見る。
「あー、こういうやつなんだよ、素直っていうかなんというか。」
「あ、申し遅れました。私、後藤咲乃って言います。」
よろしくお願いします、と頭を下げられたので、香緒里もお辞儀を返した。
小柄で、かわいくて、女の子らしい………悠の理想のタイプだ。
悠自身はなんとも思っていないのか、普通に話しているが。
「鮎川悠!あんた、さっきゴールリング上げるのやる言うてたのにさっぱりやってないやろ!!」
女子バスケ部の方から美愛の怒った声が聞こえる。
やべ、と言って悠は駆け出した。
その後何やら二人で言い合ってるのが遠目にもわかる。
距離が近くなったようで、変わらないような気もするが、どうなんだろう。
二人を見た後、咲乃を見る。
「後藤さんは……悠のこと、好きなの?」
「はい、好きですよ。」
問い掛けると真っ直ぐした答えが返ってきた。
「入学式の時、持っていたハンカチが風で飛んで木に引っかかってしまったんです。それを悠先輩が取ってくれて……どんな方なんだろうって、バスケ部を見に行ったら、予想通りかっこいい方で。好きになっちゃいました。」
「それは……確かに好きになっちゃうか……。」
悠は元々優しい。
そして後輩の面倒見もいいだろう、ということは満との関係性を見るとよく分かる。
でもなぁ……と未だに何かやり合ってる悠と美愛を見る。
「渡辺先輩……ですか??」
香緒里の視線に気が付いた咲乃が言う。
「悠先輩と、仲良いですよね。でも、まだ付き合ってはないみたいなので、私頑張ります。」
キュッと拳を小さく握りしめてそう言った。
いい子……なんだよねぇ、この子。
美愛のことがなければ、それこそ応援してあげたくなるくらい、いい子で健気なタイプだ。
美愛と歩の関係も未だに分からない。
混雑していく恋愛模様に、香緒里は一抹の不安を覚えた。




