1、嵐の新入生
4月。
吉崎香緒里は高校2年生になり、新入生も入ってきた。
初々しい1年生を見ながら、1年前の自分たちもこんな感じに見られていたんだろうかと思う。
今日は新入生歓迎会。
昨年と同じように、体育館の中に立食パーティーの会場が設けられ、たくさんの料理が並べられていた。
「懐かしいねーもう一年前なんだね。」
多種多様の料理が盛られた皿を持つ沙世がそう言って体育館内にいる1年生を眺める。
「まぁ1年間、なんだかんだ濃かったもんね。」
「色々あったからねぇ。」
石川翔太の言葉に安西雪音も同意する。
「今年はクラスも変わらないし、生活的にはそんなに変わらないだろうな。」
「クラス替えは来年だっけか。」
「あぁ、理系と文系に分かれるらしいぞ。」
新谷秀人がそう言い、沢田真がそれに対して尋ねる。
理系文系のコース選択は3年生になってからなので、今年はクラス替えはない、と入学時に聞いた覚えが香緒里にもあった。
「受験か……一年以上先とはいえ、考えたくもない……。」
「また一緒に勉強しようね。」
「その時はよろしくお願いします香緒里様……」
勉強が苦手の沙世は来年のことを思い、げんなりした。
去年があっという間なら、きっと今年もあっという間に終わってしまうだろう。
「それにしても、秀人と雪音は早速新入生から注目浴びてるねぇ。」
気を取り直した沙世は改めて周りを見回す。
たしかに新入生の視線はチラチラと秀人や雪音に注がれている気がするし、「あの人超かっこいい!」や「めっちゃ美人がいる……!」など聞こえてくる。
もちろん、真や香緒里に向けられる視線もあるが。
「あ、いたいたー!」
背後から声がし、振り向くと上原奈津がいた。
その横には鮎川亮、後ろには亮の弟の悠と圭がいた。
「人たくさんいると、合流も大変だよねぇ。」
「美愛たちは?」
「美愛は女バスの子達といたよ。由美ちゃんと直樹は料理部で大忙し。」
香緒里がこの場にいない、渡辺美愛と直樹、須賀由美のことを聞くと、圭が答えてくれた。
普段の食事は学校所属の調理師の方々が行っているが、歓迎会やクリスマスパーティーの時など忙しい時は料理部の部員も一緒にやるという。
なかなかハードらしい。
「なおちゃん、大丈夫かしらねぇ。」
「あー体力ないもんな。」
「ムリだよ〜って言って嘆いてそう。」
「谷中、めっちゃ似てるなその真似。」
沙世が直樹の声色を真似ると、悠はそれを聞いて笑う。
確かにちょっと似ている。
取ってきた料理を食べながらしばらく談笑していると、突然奈津を呼ぶ声が聞こえた。
「なっちゃーーーーーん!!!」
「わぁっ」
その声と共に、何かが奈津の腰あたりに突撃してきた。
思わず奈津が落としそうになった皿を亮がサッと奈津の手ごと支えた。
「きょうちゃん!?なんでここに!?」
自分に引っ付いたその女子生徒の顔を見て、奈津は驚いて声を上げた。
どことなく奈津に似たその子はポニーテールを揺らしてにっこり笑った。
「今日入学したからだよ〜。」
「聞いてないんだけど!?」
珍しく奈津が動揺している。
亮も見覚えのない子のようで、怪訝な顔をしている。
「奈津、その子は……?」
「あ、私の従姉妹の---」
「大久保杏子です!」
香緒里が聞くと、奈津の言葉を引き継ぎ、その子は名乗った。
顔は奈津に似てるが、雰囲気がどことなく覚えがある気がした。
「杏子ちゃんね、俺は奈津の幼馴染みの鮎川圭。奈津の従姉妹なだけあって、かわいいね。」
「は?キモ。チャラ。」
いつもの調子で杏子に話し掛けた圭は一刀両断され、膝から崩れ落ちた。
「女の子にそんなこと言われたことない……。」
「顔はいいですけど、チャラいのがアウトです。私はもっとクールでストイックな感じの人がいい。」
にべも無く言われ、更にショックを受けている。
俺チャラい……??と言う圭に、満場一致で「チャラいね」と言われ、いじけ始めた。
「……ん?てか鮎川って言った!?なっちゃんの婚約者ってもしかしてこの人だったりした!?」
「圭は違うよ〜ただの幼馴染み。」
「よかった……。」
安心したように言った杏子は、圭の横にいた亮と悠を見た。
「顔、似てるけど、もしかしてあなた方も鮎川……??」
「そうだけど。」
ちょうど唐揚げを食べていた悠が返事をする。
「きょうちゃん、私の婚約者はこっち。鮎川亮。」
亮の腕を取り、紹介すると杏子は微妙な顔をした。
「えぇー……ストイックそうではあるけどクール超えて愛想がない!!なっちゃんやめとこうよ〜」
「やめとこうと言われましても……」
「こっちの先輩方のがよくない!?イケメン!クール!身長もある!」
ズビシッと秀人と真を杏子は指差した。
2人とも興味がないようで、取ってきた料理を食べ進めている。
沙世は安定の鉄壁ガードで真にくっついているが。
「私の彼氏ですが?」という顔をしている。
杏子にも、周りの女子にも多分アピールしている。
「いやいや、2人とも彼女いるし。そもそも私は亮が好きだし。」
振り回されているなっちゃんを見るのは珍しいなぁとその様子を見ながら雪音と翔太は思う。
亮は奈津にべったりくっつく杏子を見て、大変不機嫌そうである。
「いた!杏子!やっと見つけた!」
今度はそう言いながら、奈津の弟の満がやってきた。
「あれ、ミツくん。入学おめでとう。」
「おめでと〜」
「ありがとう、ってそんなことより、奈津姉!杏子がなんか失礼なことしなかった……って、ちょっと遅かった……??」
慌てた様子の満は、奈津や亮、圭の様子を見て察したようで肩を落とした。
「失礼なことって何よ〜」
「杏子、亮兄のこと敵対視してたから心配してたんだよ!」
従兄弟で同い年の杏子に対しては遠慮がない満は溜息をついた。
「騒がしかったよね、ごめんね……向こう連れてくから……」
「えーやだよ、もうちょっとなっちゃんといたいんだけど!」
「いいから行くの!向こうでクラスで集まってるんだから。」
「も〜。鮎川亮!私あんたのこと認めてないからねーー!!」
腕を引っ張られながら杏子は連れていかれた。
「ミツくん、ちょっとキャラ違ったね……?」
「あーうん、きょうちゃんに対しては昔からあんな感じ。兄と妹みたいな。」
嵐が去ったかのように静かになった。
気を取り直したのか、いつの間にか圭はどこかにフラフラ行ってしまっている。
「すっごい従姉妹だったねぇ。」
「亮、これから大丈夫か……???」
沙世と真は満と杏子が去った方向を見ながら話す。
同じ学校内、必ずどこかでは会うだろうから、今後の亮の心労……もとい嫉妬は計り知れない、かもしれない。
「香緒里??」
ちょっとぼんやりした様子の香緒里に雪音は声を掛けた。
「どうしたの?」
「うーん、なんだろう……ちょっと、モヤモヤする……?」
そう言って、視線を秀人の方へ向ける。
秀人はというと、悠と話しながら食べ進めている。
その秀人から数メートル離れたところには、秀人に話し掛けたそうな新入生がキャーキャー言っているのが見えた。
「モヤモヤ?」
「うん…………よく見る光景、なんだけど……。なんでだろう……?」
へぇ、と雪音は心の中で呟いた。
これは……多分ヤキモチ、かな??
以前は「気にならないことはないけど、まぁ仕方ないかな〜」というスタンスだった香緒里が、モヤついている。
ヤキモチに対しても自覚が薄いのが香緒里らしいと言えば香緒里らしい。
指摘すべきか、と悩んでいると秀人が香緒里の視線に気が付いて、呼んだ。
「香緒里、デザート取りに行くか?」
「あ、うん、行く!雪音はどうする??」
「いいよ、2人で行っておいで〜。」
距離が近くなった故の、ヤキモチなのかなぁなんて思いながら、雪音は2人を見送った。




