エピローグ
「直樹、重い!!」
帰りのマイクロバスの一番後ろの、ど真ん中に座る直樹は寝ていた。
隣に座る美愛に寄りかかりながら。
美愛はその頭をグイッと直樹を挟んで隣の悠の方に押し付けた。
「なんでこっちにやるんだよ!」
「うちも眠たいのに直樹がこっちに来ると寝られへんわ!」
「よし、圭代われ。」
「やだよ、窓側は譲らないよ。ねぇ由美ちゃん。」
「由美を巻き込んといて!」
賑やかな後ろと対照的に、それより前の席は穏やかである。
左側の座席で沙世と真はイヤホンを分け合って、二人でスマホで何か映画を見ている。
右側の座席では、奈津が亮の肩に頭を預け寝ている。
亮はそのまま膝の上にパソコンを乗せ何やら仕事をしているが、いつもより表情が柔らかく見える。
その前の座席に座る秀人の肩にも寝ている香緒里がもたれかかっている。
バスがガタンと揺れたため、香緒里は薄ら目を開けた。
「ん……着いた……?」
「いや、まだ。寝てて平気だぞ。」
「そっかぁ…………」
寝惚けているのだろう、いつもよりふにゃふにゃした声を出した香緒里は再び目を閉じ、秀人の肩に擦り寄って、その腕に自分の腕を絡めた。
当然、秀人には大ダメージ。
空いた手で頭を抑えてなんとか耐える。
「大親友の雪音さん、あれ……どう思います??」
通路を挟んで秀人の隣の席にいた翔太は反対隣にいる雪音に小声で聞いた。
後ろの喧騒のお陰で恐らく秀人には聞こえていないだろう。
「昨日から距離近いよね?」
「そうねぇ。しかも香緒里側から珍しく詰めてるもんね。意識的な部分もあるけど、今みたいな無意識がほとんどよね。」
ふむ、と雪音は香緒里の方を見て考える。
「あの時……直樹事件があった後、何があったのかは詳しくはわからないけど…………あれで香緒里の中のラインが変わったのかも。秀人なら近付いても大丈夫、安心、みたいな感覚が無意識に生まれたのかなぁ。」
ようやく衝撃に耐え抜くことが出来た秀人は時折香緒里の様子を見ながら、片耳にイヤホンをつけスマホをいじっている。
「秀人も秀人で、だいぶ今は香緒里に甘いよな。反動、だとは思うけど。」
「幸せそうで何よりではあるけどねぇ。後ろのカップルもそうだけど。」
チラリと後ろを振り返ると、沙世と真も疲れからかちょっと眠そうに船を漕ぎ出している。
雪音も小さく欠伸をした。
「私も、みんなを見てたら眠くなってきちゃった。」
「今日も朝から滑ってたからねぇ。寝る?」
「寝ようかなぁ……。」
「そしたら、おいで?」
翔太にそう言われた雪音は微笑んでその肩に頭を預け、目を閉じた。
この平和がしばらく続くといいんだけどな、と雪音の寝顔を見ながら、翔太は自身も眠い頭でそう思った。




