7、罪の意識
小学生の頃、自慢やないけど、うちめちゃくちゃかわいくてな。
結構男子からモテてたんや。
まぁそのせいでトラブルもあって。
事の始まりもそこ。
クラスの中心グループの女子……さっきの、弥生と唯の好きな男子がうちのこと好きになって、告白してきた。
興味なかったからもちろん断ったんやけどな。
でも、そこも含めて反感を買った。
コソコソ悪口を言われたり、持ち物隠されたり、「美愛菌」とか言ってうちが触ったものを避けたり、所謂いじめやな。
毎日そんな感じ。
まぁうちは気にせーへんかったんやけど。
別にうちに非があっていじめられてたわけではないし。
とはいえ毎日毎日鬱陶しかったから、ある日ブチ切れてもうてな。
『毎日毎日めんどくさいな!!言いたいことあんねやったら直接言うてこい!』
ってな。
そしたらスーーっといじめは収まった。
その代わり、うちに擦り寄ってくるやつらもいてな。
そいつらが今度は弥生と唯をいじめだした。
『体操着隠してこようと思うんだけどどう思う?』
『今日は無視しちゃう?』
とかいちいちうちに確認取ってきてな。
めんどいから「あーええんちゃう?」って答えてた。
いじめられて腹立ったけど別に恨んでたわけやない。
でも止めてまた逆転するのも嫌でな。
適当に許可出しとった。
それがいけなかった。
半年、くらい続いたかな。
そしたら、卒業式の数日前に、唯が自殺未遂をした。
マンションから飛び降りたんや。
幸いそんなに高くない位置で、落ちたのが植え込みだったから一命は取り止めたんやけど。
もちろん、学校では大事件。
いじめについても調べられた。
そしたら、クラスのみんなは口を揃えて「美愛がやった。」「美愛に指示された。」って。
止めなかったうちも悪いと思ったから、何も言われへんかった。
そうしたら、全部うちのせいってことになって。
まぁ、それは……ええねん。
実際うちのせいやし。
ただ、そこまで追い詰めてしまった罪悪感だけは離れなくて。
そのまま、中学に進んだ。
でも、別の小学校から来た人達からも、『いじめで犯罪未遂まで起こしたやつ』っちゅうレッテルを貼られて、誰も味方がいなくて、辛くなって、うちは大阪から逃げて、こっちに来た。
新しい中学では、上手くいってた。
でも、どこにでもいじめってあるんやな。
クラスでもいじめが始まった。
その標的が、由美やった。
見て見ぬ振りも出来た。
けど、もうしたくなかった。
いじめをしているやつらが、昔のうちを見ているみたいで、しんどかった。
だから、止めたんや。
幸い、その後新しくいじめが始まることはなかった。
由美とも、仲良うなった。
由美は、優しくて暖かくて、その隣は居心地が良くてな。
だからこそ、辛かった。
こんなにいい子を、うちの罪悪感の穴埋めに使ってしまったことが。
いじめを止めれば、あの頃のことも少しは許して貰えるかもしれない、なんて。
向こうはもううちのこと忘れたいだろうし、見たくも知りたくもないやろうけど。
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「歩に出会ったのはその頃。自己嫌悪で落ち込んで、一番しんどかった時。」
一度話を区切って、深呼吸した後に美愛は続けて話した。
「歩に話を聞いてもらって、『やってしまったことは仕方ない、後悔して反省して、その後に前向いた方が美愛は絶対いい 』って言われてな。
ちょっとずつ、前向けてきた、と思ってたんやけどなぁ………」
そう呟いた美愛の表情には影が落ちていた。
黙って聞いていた悠の方を見る。
「正直、引いたやろ??……こんなところで会うなんて……神様に忘れんなって言われてるのかもしれへんなぁ。」
その瞳は揺れ、潤んでいた。
表に出していないだけで、ずっとずっと罪の意識を持ち続けて来たのだろう。
歩以外には誰にも話せず。
歩と離れてからは、誰にも話せず、ずっと自分の中に閉じ込めていた。
悠は、香緒里や秀人、圭のように上手く言葉を伝えることは出来ない。
歩のように上手く励ませるかもわからない。
けれど、伝えることを諦めたくはない。
「俺は、渡辺側の事情しか知らねぇから、お前贔屓にはなる。けど、どうしても納得できねぇのが、なんでお前だけのせいになってるのかってことだ。」
「そりゃ………うちが中心になってたからで……」
予想外の方向から話を打ち込まれて、少し戸惑ったように美愛は言う。
「でも、やったのは他の奴らだろ?なんでそいつらがなかったことのようにしてるんだよ、さっき会ったらやつらも、渡辺自身も。」
それはそうだけれど、という美愛の顔を見て悠は続ける。
「それに、いじめる前はいじめられてたわけだろ???その時は助けてもらえなかったのに、おかしいじゃん。」
「それは、気にしてへんし……」
「あのなぁ、気にしてない、は嘘だろ?いじめられて嬉しいやつなんていねぇよ。気にしてなかったように、思い込んでるだけだろ。いじめられて、毎日学校に楽しく通えるかよ。」
そこで、美愛に思い出されたのは、いじめらていた時の記憶。
めんどくさい、と思っていた。
でも同時に、昨日まで友達だった子達が急に態度を変えたことが悲しかった。
こんなに簡単に裏切るのかと。
そして、いじめが告発された時も、そう。
誰も助けてくれなかった。
もちろん、自分が悪いのはわかっている。
自分だけが悪いんじゃないのに、とも言えなくて。
誰のことも、美愛は責めることが出来なくて、自分を責めるしかなかった。
気が付くと、涙が溢れていた。
被害者ぶりたいわけじゃない。
それでも、それでも………
「大変、だったよな。一人で頑張ったな。」
悠はきっとわかっている。
どれだけ美愛が反省して、後悔して、悩んだのか、思い詰めたのか。
それでも何も気持ちは変えられなくて、苦しかったことも。
忘れた日なんて一度もなかっただろうということも、きっと。
「渡辺はさ、優しすぎなんじゃねぇの?もっと他の奴らを責めたってよかったのに。全部自分で背負い込んでさ。それじゃあ、お前の心が壊れちまうぞ??」
いつも話すトーンより少し優しい声色で悠はゆっくり話す。
止めたいのに止まらない涙を流しながら、美愛はまたポツリと呟く。
「うち………由美にも、酷いことした。自分の罪悪感の穴埋めのために、利用した。」
「………須賀が知ったら、嫌われると思ってんのか?」
悠がそう聞くと、頷いた。
「うーん。そりゃ、事実を知ったら多少ショックは受けるかもしれないけどさ。でも須賀は多分、渡辺がいじめから助けてくれたってだけで一緒にいるわけじゃないと思うぞ?」
「そう、かなぁ……許して……もらえるやろか。」
「許してくれるだろ。そこで怒ったり、許さないようなやつじゃない。」
悠は立ち上がり、ベッドに座る美愛の前に行って腰を下ろし、俯き涙を零す美愛を下から見る。
「まだ、なんか溜めてることあるだろ。」
「なん……で、わかるん……?」
「なんとなく。」
こんなに泣くつもり、なかったんやけどな……と鼻を啜りながら、手の甲で涙を拭う。
「また、傷付けてしまうのも、怖い。裏切られるんじゃないかって、疑うのも、しんどい……もちろん、由美や香緒里たちはそんなことせぇへんのは、わかってる……けど、もし……って気持ちは消えへんくて……」
一度誰かに裏切られた経験があると、次に誰かを信じるのは怖くなる。
悠にはまだその経験は無いが、怖いだろうということくらいはわかる。
人を疑いながら生きるのはしんどいはずだ。
遠慮がちに、美愛の手の上に自分の手を重ねる。
少し驚いたように向けられた視線を正面から受け止める。
「あいつらは裏切らねぇよ。そういうやつらじゃない。俺が保証する。んで、俺も絶対お前を裏切ったりしない。嫌だって言われようが、どこも行かねぇ。」
『どこも行かない』
その言葉を悠がどれくらいの意味で言ったのかは美愛にはわからない。
けれど、その言葉が多分嘘でもその場しのぎの励ましでもないことは分かった。
「あんたって……ほんま、なんちゅーか、バカ正直やなぁ……。」
いつの間にか涙は止まっていた。
「それ、あんま褒めてなくねーか?」
不満そうに口ではそう言うものの、幾分表情が和らいだ美愛をみて、少しホッとする。
本当は、しんどい時は頼って欲しい、と言いたい。
けれど今はまだその位置にいれていないことはわかる。
だから、泣いてる時くらいは近くにいられたらと思うのだ。




