7、バレンタインデー
2月14日。
前日に雪が降り、地面は薄ら白くなっており、今日も粉雪が舞っている。
ホワイトバレンタインデーとなった今年も、緑ヶ丘高校は浮き足立っていた。
寮に併設されている、生徒が使えるキッチンはバレンタイン前は大変混雑するため、時間予約制となっている。
手作りチョコをあげたい人は、友チョコだったり本命チョコだったりをここで作る。
香緒里は部活が終わると第2体育館を出て、隣の第1体育館に向かった。
入口を覗くと、丁度秀人も着替えて出てきた所のようで、鉢合わせた。
両手には例年通り、紙袋を下げており、その中にはラッピングされたプレゼントがたくさん入っている。
「相変わらずすごい量ねぇ。」
「断らないで、って言ったの香緒里だろ??」
「まぁそうなんだけど……。」
秀人にバレンタインデーを渡す半数は実は秀人のファンのような人達。
秀人を所謂芸能人のような『推し』としていて『推し活』の一貫として渡したいらしかった。
その秀人のファンの一人から香緒里は声を掛けられ、直接『新谷くんにチョコを渡してもいいですか?』と確認を取られた。
去年までも秀人がチョコを貰うことを止めていなかったため、ダメとも言えず、『いいですよ。』と言ったため、『公式(彼女)からお許しが出た……!!!』とファンの間で広まり、今年は例年より多く貰っているらしい。
「推し活?っていうのは私もよく分かってないけど、ファンだって言う子たちの想いを無碍にするわけにはいかなきでしょ?」
「俺にとってはどれも変わらないんだが……。」
二人で寮まで歩きながら言った香緒里の言葉に秀人はボヤく。
もちろん、山瀬のように本気で秀人のことが好きでアタックしてる人もいる。
つまり、バレンタインデーに告白してチョコを渡している人もいるわけである。
「今年も何人かから告白されたの?」
「まぁな……。バレンタインデーの日はゆっくり昼ご飯も食べられねぇよ……。」
本人的にはとても面倒くさそうではある。
告白はもちろんお断り。
『彼女以外興味無い、好きにはならない』と一刀両断。
それでも告白する人の数は減らないからすごいよね、と前に沙世が言っていた。
「チョコ、どうする?今渡さない方がいい……?」
「これはとりあえず部屋に置きに行くから、後での方がいいな。香緒里からのを最初に食べたいし。」
と、サラッと秀人が言うと、「そっかぁ」と香緒里はちょっと嬉しそうに笑った。
こういうところがずるいというかかわいいんだよな、と秀人はそれを見て思う。
今回は平静を頑張って保ってはいたが。
「ねぇ、秀人………あれって………」
「亮、と確かE組の女子、だな。」
寮に行く道から少し外れたところに、二人の人影が見えた。
香緒里と秀人は顔を見合わせ、足早にその場を去ることにした。
「あれって、多分告白だよね。」
「だろうな。あの亮に告白するってのは、相当本気だろ。」
「奈津にベタ惚れだもんねぇ。断るし受け取らなさそう。」
香緒里がそう言うと、若干不満そうな顔を秀人はする。
「俺も本来は断るからな?」
「うん、わかってる。秀人に大事にされてるのは……ちゃんと伝わってるよ?」
「だから、香緒里さんそれはずるいって……」
両手が塞がってる秀人は代わりに頭を香緒里の肩に乗せた。
時折投げられる香緒里からの爆弾処理はまだまだ慣れない。
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夕食後、いつものように談話室に香緒里達が行くと、既に奈津と亮、悠がいた。
悠は市販のチョコ、チ○ルチョコやキットカ○ト等が入った袋を抱え、食べていた。
「悠、それどうしたの?」
「ん?これ?女バスの先輩たちに貰った。バレンタインデーの義理チョコだって。」
「そういえば貰ってたな。」
「悠くんにあげるんだ〜って言ってたわね。」
秀人と雪音は部活終わりを思い返して言う。
「あー悠ってこう、年上に可愛がられそうなタイプだよねー。」
「弟感強いもんね。」
沙世が納得し、香緒里も同意する。
明るく無邪気で人懐っこい悠は普段もよく女子バスケ部のお姉様方に構われている。
そこに恋愛感情は一切ないので完全に義理チョコだが。
秀人は女バスからは、推し活チョコと本命チョコをそれぞれ何人か貰っていた。
「ほい、じゃあ私達からも〜」
沙世はそう言って持っていたトートバッグの中からラッピングされたクッキーを悠に渡す。
香緒里と雪音も同様に差し出す。
「まじか!やったー!ありがとー!」
「奈津と亮もどうぞ。」
続いて二人にも渡す。
奈津も、わーい、と言って受け取ったが、亮はどうしようかと少々迷っている様子を見せた。
「なっちゃんからは許可貰ってるから大丈夫よ。」
「友達からのチョコくらい貰ってあげて?」
雪音と奈津から言われると、亮は受け取ってくれた。
ボソッと「サンキュー」と言いながら。
上原は知ってるのだろうか、と秀人は先程の亮と女子生徒のやり取りを思い出した。
香緒里達からのも迷うくらいだ、当然断ってるだろうが。
「今年はねー由美に教わりながら作ったから去年よりきっと美味しいよ〜!」
「そっか、須賀の家、ケーキ屋だもんな。」
「そういうこと、プロのレシピです。」
沙世はそう言いながら真に渡す。
雪音も翔太に、香緒里も秀人に手渡した。
その後、それぞれの彼氏以外にも渡す。
「秀人にはドリップコーヒーね。」
「私のは紅茶ね。」
秀人には、カフェで購入できるコーヒーと紅茶が渡される。
秀人は毎年食べきれないくらいのお菓子を貰うため、雪音と沙世は敢えてお菓子でないものをあげている。
香緒里もそうしようかと去年は思ったが、秀人から「香緒里からは手作りが欲しい。」との注文があったため、今年は少し苦めのガトーショコラにした。
彼氏組はソファに腰掛けるとそれぞれ、彼女から貰ったものを食べ始める。
香緒里たちも、友チョコ交換をし、同様に食後のデザートとしてお菓子パーティーを始めようとしたところ、圭と美愛と由美と直樹がやって来た。
直樹も悠同様、先輩女子たちから貰ったようでお菓子を抱えている。
「秀人……いくつもらった?」
「はぁ?」
秀人の前まで来た圭は、開口一番そう言った。
対して秀人は訝しげな反応をする。
「今日バレンタインデーだろ!」
「いやまぁそうだけど………数えてねぇよ。」
「数えて!ちなみに俺は30個!」
えー………と言いつつ秀人は貰った相手も思い返し、指を折っていく。
その間に、圭は「相変わらず残念なイケメンだねぇ」「張り合わなくたっていいのに」等々言われながら、香緒里達からチョコを渡される。
計33個となった。
「55個。」
「負けた………!!!」
「いや、33個も相当だぞ???」
数え終えた秀人から告げられた数字に崩れ落ちる圭を見て、翔太が声を掛ける。
「学校で一番モテたい………」
「お前のその欲は一体何なんだよ……」
残念な弟を見て、呆れたように亮が言う。
「そーいや秀人、この間の練習試合で他校の女子からも貰ってなかったか??」
「あー………そういえば、貰ったな。それこそ誰だか知らねぇし、まだ食ってないけど。」
思い出したように悠に言われ、秀人は考えるように少し宙を見た。
「他校からも人気あるとかほんとやばいな秀人人気。」
「香緒里はその辺、気にならへんの?渡してOKみたいな風潮あるて聞いとるけど。」
「うーん……気にならないって言うと嘘になるけど………でも、私のを一番最初に食べてくれるっていうから、それでいいかなぁ、なんて………」
「「「ヒューー!」」」
照れたように言う香緒里の言葉に女子組は囃し立てた。
「なぁ翔太、今日すごい供給過多なんだけど。バレンタインフィーバーか………???」
「それはわからんけど、とりあえず俺に引っ付くのやめてくんない???」
ところで、と圭は今度は真に話を振る。
「真は?貰ってないの?」
「俺か??今年はかなり少ないぞ?」
去年までは秀人程の個数ではないものの、そこそこの数を真は貰っていた。
高校でもそれなりに注目は浴びているし、真の事が好きだという噂の女子も聞いたことはある、
それでも少ないということは……
「私がここ数日は真の傍になるべくいるようにしてるからね。それでもそれを掻い潜ってくるやつはいるけど……!!」
沙世がバリアしているという証拠である。
ちょっと悔しげに沙世はそう言い、それに対して真はちょっと乾いた笑いをしていた。
秀人と違って、真に渡してくるタイプの女子はファンではなく本命チョコの子ばかりなので、警戒している、と先日沙世が言っていたのを香緒里は思い出した。
真自身も告白されるのは面倒なのだろう。
「そーいえば、リョウはー?もらったのー?」
直樹がチョコを食べながら亮の方を見て言う。
亮は直樹の方をチラリ見た後、奈津を見た。
「チョコ渡されて、告白された。でも断った。」
淡々と奈津にそう伝える。
奈津も、「そっかぁ」と普通に受け流している。
「えっ、軽っ!」
と思わず沙世が突っ込むくらいにはナチュラルな対応だった。
「そう来るのか………。」
一連の流れを知っている秀人は呟く。
香緒里も同じ思いである。
「報連相は大事だろ。」
「時折、こういうことあるんだよねぇ。」
「いやそういうことちゃうやろ。」
至って冷静な二人に美愛が突っ込む。
心配する必要は微塵もなかったのかもしれない。
「まぁええわ、とりあえずうちからも友チョコ渡しとくわ。」
そう言って美愛は鞄からチョコを取り出し、香緒里達に渡していき、香緒里達はお返しを渡していく。
由美も同様。
そしてその後、美愛は直樹と悠と圭にも渡す。
「お返しは3倍返しな。」
「いやなんでだよ!」
「わーいチョコだ〜」
直樹は素直に喜び、悠は渡された言葉に突っ込む。
圭は「リクエスト教えて?」と慣れた様子で答えていたが。
「彼女持ちにはやらんからな。ほな、うち行くところあるからまた明日ー。」
そう、サッパリした様子で美愛はその場を去った。
その向かった先には、真壁歩がいた。
「ねぇ、あれって………どういうことだと思う………?」
「まだなんとも言えないわね……」
沙世は隣にいる雪音に小声で尋ねるも、雪音も首を傾げる。
香緒里は複雑な表情をしている悠と圭に目を向けた。
美愛の気持ちはさっぱりわからない。
三角関係どころか四角関係になりそうな恋模様に、見守るだけで本当にいいのだろうか、と不安になってきた。




