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一期一会  作者: 雪奈
第7章 冬霧に揺れる
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6、いつの日か


真の言葉に香緒里たちもそちらに視線を向ける。

背が高く、少し茶色っぽい髪に切れ長の目。

恵に見せてもらった写真より少し歳を重ねた、スラリとした男性がいた。

その隣には恐らく義母であろう、30代前後の派手な見た目の女性がいて、幼稚園児くらいの子供を二人連れていた。


向こうもこちらに気が付き、義母の方が近付いてきた。

後ろから義父と子供たちも付いてくる。


「あら、真くんいつの間に帰って来てたのぉ?」


真は義母の顔をみて、舌打ちをする。

向ける視線はかなり冷ややかだ。

沙世は真の前に立ち、義母との壁になろうとする。


「気付かなかったわ〜また沙世ちゃんちにご厄介になってるわけ?」

「厄介だなんて……私も私の家族もそんなこと思ってません。」


煽るような言い方に、沙世は睨んで言う。

それに怯むことなく、義母は続ける。


「血の繋がりのない子を預かるって結構大変なのよ〜?ちゃんと沙世ちゃんのご両親に感謝しないとね??」


その言葉に香緒里の身体も強張る。

まるでそれは養母の言葉のようで、せっかく収まった心の中がまた波立ちそうになる。

そんな香緒里を察し、秀人は静かにその腰を抱き、真の義母を冷たく見つめた。


真は義母に向かって怒鳴り散らしたくなる思いを、深呼吸してようやく落ち着かせる。


「おい、ちょっと話があるんだけど。」

「『おい』じゃ、誰だか分からないだろう。」


抑揚のない口調で義父は言う。

その目は苛立ちも冷たさも、何もない、無感情のように香緒里には見えた。

真は義父の言葉に舌打ちをし、顔を顰めた。


「親父、話がある。ちょっとこっちに来てくれないか。」


そう言ってその場を離れ歩いていくと、義父も黙って着いていく。

香緒里達もその後を追う。

義母は面倒くさそうな顔をしており、子供たちと屋台の方に向かって行った。


人のあまりいない木の下まで行くと、真は立ち止まり、義父と向かい合う。

まるで、中学生の時…荒れていた時のようにその表情が、雰囲気がトゲトゲしい。

クリスマスのあの日から、ずっとモヤモヤしているのが取れなかったのだろう。

必死で隠していたけれど、それが張本人を前にして溢れてしまった。


「質問が、ある。」

「なんだ。」

「今井恵……という女性を知っているか。」


香緒里は驚いて真を見た。

義父は少し眉を上げたくらいで、特段その質問に対して動揺した様子はない。


「あぁ、知っている。過去に少し付き合っていた女性だ。その人がどうした。」

「その人と、お前との間に子供が出来たことは?」

「それは知らない。初めて聞いた。」

「気にならないか?俺がなんで知っているのか、とか。」

「別に。過去のことだ。今その人がどうしていようが、俺には関係のないことだ。」

「勝手に捨てたくせに……!」


あくまで態度を変えず、真の言葉に淡々と返していく。

苛立ちを募らせる真に対して向ける目線も変わらない。


「私が………その子供だとしても、ですか?」


香緒里が漏らしたその言葉に、ようやく少し驚いた様子を見せ、香緒里の方を見た。

この人が自分に似ているか、と言われたらあまり似ていないと思う。

実母以上に、自分の親だという実感は湧かない。

そして、何も感じなかった。


「………なるほど。確かに彼女によく似ている。」


恵を思い出したのだろう、香緒里を見つめてそう言った。


「君にも、君の母にも、迷惑を掛けたな。すまなかった。」


そう、口では言うもののやはり感情が籠っているようには見えなかった。

形式的な言葉に聞こえる。


「もういいか?」


その言葉に、真は答えない。

代わりに憎々しげに睨みつける。

義父は気に止めていない様子で背を向け歩き出し、人混みの中に消えていった。


実父に会ったらなんて感じるんだろう、どんな思いになるのだろう、と思っていたが。

思った以上に何も感じなかった。

なぜだろう。恵に会った時はあんなに心が揺れたのに。

向こうが何の感情も示さなかったのも、もしかしたらあるのかもしれないが。


俯く香緒里と、遠くを睨む真。

二人を交互に見た後、秀人は息をつく。

そしてパンッと1つ手を打った。


「とりあえず、昼飯買って帰るぞ。」

「そーだね、お腹空いた!」


沙世はこの雰囲気を紛らわすように、笑顔でそう言った。

それを見て、真は少し表情を緩めてその手を取る。

ゆっくり歩き出した背中を見て、雪音と翔太も少しホッとしたようにその後ろに続く。

秀人は香緒里の頭をポンポンと優しく撫でた後、真と同様手を取り、4人を追った。



--------------


屋台で食べ物を買い、再び秀人の家に戻って、美鈴が注文しておいてくれた宅配寿司と共に昼食を摂る。

その後は、秋人も含めて人生ゲームをしたり、某鉄道のすごろくゲームをしたりして和やかに過ごした。


「ちょっと!!秀人なんで私に貧乏神付けるわけ!?」

「俺の行く道にいる沙世が悪い。」

「絶対後で擦り付け返してやる……!!!」

「あーあ、沙世の借金がまた増えるね………」

「そういう香緒里も結構ギリギリじゃない???」

「意外と翔太くんがいい調子だよね。」


ワイワイとして、なるべく気を紛らわす様に。

そうしてはしゃぎまくった結果、前日の大晦日に夜更かしをしていたのも相まって、夕方頃にはみんなコタツに入って眠ってしまった。


一人眠れずに起きていた真は静かに庭へと出る。

17時も過ぎるともう空は暗くなり始めている。

日中晴れていたとはいえ、この時間は冷え込んできている。

息を吐くと白い。

庭にあったベンチ座り、ぼんやりと寒空を見上げていると、足音がした。


「秀人か……寝てたんじゃないのか?」

「いや?起きてたよ。」


秀人はそう言って、真の隣に腰掛けた。


「…大丈夫か?」

「大丈夫か大丈夫じゃないか、と言えば……大丈夫ではねぇなぁ………」


秀人の問い掛けに真は乾いた笑いをする。


「そりゃそうだよな。」

「今回の帰省では特に会いたくはなかったから、家にも足踏み入れてなかったんだけどな……」

「あそこで会うとは思わねぇよ。」


だよな、と真は呟き、また空を見上げる。


「どうも、あいつに会うと感情のコントロールが効かなくなる。色々思い出して、イライラしちまう。」


その目は未だに怒りが残っている。


「俺の母親のことも、香緒里の母親のことも、まるで何も感じていないように見えるあの態度。俺の言葉も何も響いちゃいねぇ。」


溜息をつき、自嘲したように笑う。


「どうしたらいいんだろうな。」

「………どうにも、今は出来ないんじゃねぇか?」


ずっと黙って真の言葉に耳を傾けていた秀人は口を開く。


「冷たいように聞こえるかもしれねーけどさ、今、真が何かを悩んで考えても、どうしようもないんじゃないか、と俺は思う。」

「それは、まぁ…そうだろうけど………。」

「お前の親父はさっきも言ってたけど、何を言っても響かないわけだからさ、要は後は真の気持ちの問題だろ?

それなら、今は無理に考えなくてもいいんじゃねぇかな。」


考えるように黙る真に、秀人は更に続ける。


「香緒里はさ、向き合う時だっただけ。実の母親が誰なのか分かって、会って話すしかなかった。そう決めたのは香緒里自身だけど、遅かれ早かれそうするべきだった、というだけ。でも、真は違う。多分、今じゃない。」

「今じゃない………」

「そのうち向き合わなきゃいけない時は来るよ、きっと。俺の勘だけどな。」

「……秀人の勘は、結構当たるからなぁ。」


そう言って真は苦笑いをした。

そこで秀人は真の顔を見る。


「香緒里のことも、心配してるだろ?」

「そりゃ、まぁ……。」

「香緒里は、思っているより大丈夫だよ。そんなにダメージは受けてない。まぁ多分、現実感がないっていうのもあるだろうけど。

それに、実の母親に会って、結構心の整理がついてきたんだと思う。」


確かに今日も戸惑ってはいるように見えた。

けれど、先程みんなで遊んでいた時も、無理しているようには見えなかった。

無理してるのはよっぽど自分の方だ。


「沙世、随分心配してるぞ。」

「………分かってる。」

「今はまだ何も出来なくても、何かあったら頼れよ。沙世だけじゃなくて、俺らもいるんだからさ。」

「あぁ、分かってる。」


ありがとな、と短く、けれど柔らかく真は言った。

少し落ち着いた様子になった真を見て、秀人は内心ホッとする。

解決するのは難しいかもしれない。

けれどいつか、真の心がもっと軽くなる日がくればいい。

そう静かに願った。


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