5、初詣で
年末、香緒里は新谷家にお邪魔していた。
事の発端は、クリスマスパーティーの時である。
「年末年始、父さんは31日まで仕事で、仕事初めも今年は3日からなんだが……どうする??ちょっとプロジェクトが立て込んでいて本当に休みになるかも怪しい…………」
部長職は思ったより忙しいらしい。
真面目なため、頑張ってしまうところはあるのかもしれないが。
「年末年始は寮も閉まって入れないからなぁ…………大丈夫、家で過ごすよ。」
「申し訳ない…………」
そのやり取りを聞いていた秀人は徐にスマホをいじり出す。
しばらくして、香緒里を見た。
「もし、よかったら……うち来るか??」
「え、秀人の家??」
「秀人くんち!?ご迷惑じゃないかい???」
「母に今確認したところ、大歓迎だと。父も弟も喜ぶと思います。」
「そうか…………いやでも年頃の娘を彼氏の家に泊まらせるのは……でも秀人くんだしな…………。……うーん…………高校生らしい付き合い方をしてくれるのなら、いいよ。」
「そこはもちろん、お約束します。」
一頻り悩んだ義之の言葉に、秀人は真面目な顔をして頷いた。
とはいえ、くっついたりキスしたりはするんだろうな……と翔太は秀人を見て思ったのだった。
そんな経緯があり、香緒里はクリスマス後から新谷家に滞在している。
日中、忍も美鈴もいないが、秀人と秋人がいるため2人と遊んだり出掛けたり、雪音達とも会ったりしているため、家で一人で過ごすよりずっと楽しかった。
そして30日、今日は大掃除をしていた。
「え、香緒里も手伝ってくれるのか?」
「そりゃあ、居候させてもらってる身だし。秋くんはともかく秀人じゃ不安だし。」
「めちゃくちゃ助かる、兄貴は掃除はまだ出来ても片付け出来ないからさ……とりあえず兄貴は部屋片付けたら……?まぁすぐ似たような状況になるだろうけど……」
「ほっとけ。とりあえず庭側の窓拭いてくるわ。」
そう言って、秀人はリビングを出て行った。
まったく兄貴は、と秋人はボヤきながらリビングの床を掃除していく。
「やっぱり、秀人の部屋ってすごいの…??真も、秀人はやばい、って言ってたけど。」
「ゴミ屋敷、みたいな感じとはちょっと違うんだけど……なんだろ、出したものを仕舞えない??」
「なるほど……鞄の中とかは別に平気なんだけどねぇ。」
「兄貴と一緒の部屋で過ごせてる真くんはすごいよ、俺には無理。」
見てみる?と言われ、2階の秀人の部屋に案内される。
勝手に見て大丈夫なのか聞くと、いいよ兄貴だし、と返される。
意外と兄への扱いが雑である。
「秋くんの部屋は大丈夫なの?」
「俺?んーー綺麗とは言えないけど、兄貴の部屋よりは全然マシだよ。」
そう言って、秀人の隣の部屋のドアを開けてくれる。
中を除くと、物はしっかり棚や机の中に仕舞われており、散らかっていない。
全然マシ、というより中学生男子の部屋にしてはかなり綺麗な部類に見える。
その後に秀人の部屋を見ると……
「どうしてこうなるんだろうねぇ………」
ゴミは落ちてない。
のだが、本は床に積まれ、服はハンガーにかかってるものの、タンスには仕舞われずカーテンレールにかかっており、その他の物も床や机の上に出しっぱなし。
足の踏み場がない。
ベッドの上だけは布団以外何も載っていないが。
美術と共に秀人の数少ない欠点である。
その欠点への振り幅が大きすぎるが。
「私、ここ片付けようかな……秀人じゃいつまで経っても片付かないだろうし。」
「あーその方がいいかも。香緒里ちゃんに見られちゃ困るようなものはないだろうし。」
秋人にそう言われたので、遠慮なく秀人の部屋を片付けていく。
秀人とは逆に香緒里は割りと几帳面な方なので、テキパキと物を仕舞い、かつ出し入れし易い形に変えていく。
そのうちに秋人に連れられて秀人もやってきて、二人で片付けた。
「こまめに片付ければいいのに。」
「後で使うと思うとなーあんま気にならない。」
香緒里の呟きに秀人はそう答える。
片付けない弊害がそんなに感じられないらしい。
天才の考えることは時々をわからない。
いや、同室の真には弊害あるでしょ。と香緒里は突っ込んでおいたが。
-------------
「へー、そんなに汚かったんだ〜男子寮は入れないからなぁ。」
振袖に袖を通しながら雪音は言う。
年明け、おせち料理等を秀人、忍、美鈴、秋人と食べた後、初詣に行くためにやってきた雪音と奈津と共に振袖に着替えていた。
着付けは三が日はお休みの美鈴が行ってくれてる。
忍は朝食後、仕事に向かっていった。
警察官はお正月でも仕事らしい。
「あの子はね〜昔から片付けだけは苦手なのよね。私も片付けはあまり得意ではないから人のことはそんなに言えないんだけど。」
どれがいいー?と帯をいくつか並べながら美鈴は言う。
美鈴と反対に、忍は結構綺麗好きらしい。
秋人は忍に似たのだろう。
「香緒里ちゃんも、あの子と結婚したら大変よ〜?」
「けっ…!!」
美鈴に言われて香緒里は顔を赤くする。
それを見て、美鈴はちょっと楽しそうにする。
「でも香緒里ちゃんが本当にうちにお嫁に来てくれたら嬉しいんだけどねぇ。我が家は男ばっかりだもの。年末年始は華やかで良かったわ〜」
かわいらしく頬に手を当て首を傾ける。
40代には見えないかわいさ美人さだな、と雪音はそれを見て思う。
「ところで香緒里。秀人の部屋にはエロ本あった?」
「ななななかったわよ!!!」
突然沙世にそう聞かれ、香緒里は動揺する。
「ねぇよそんなもん!!」
リビングの方から秀人の否定の声も聞こえてくる。
ちなみに着付けはリビングの隣の部屋で行っていて、リビングには秀人の他に真と翔太、秋人もいる。
「えー、男子高校生ならみんな持ってるもんじゃないの?そういうのは家じゃなくて寮に置くのかな?ねぇ真?」
「俺に振るな!俺もねぇよ!!」
「えーそうなの?」
「……翔太は?」
「俺も持ってないからな雪音!!!」
必死になって焦って否定しているのがちょっと面白くて、香緒里たちは顔を見合わせて笑う。
対照的に、男子組は頭を抱えていたが。
それからしばらくして、香緒里たちの着付けとヘアセットが終わり、リビングと着付けしていた部屋を隔てていたスライドドアが開く。
「やっっぱり女の子の着せ替え、楽しいわ〜バッチリよ!」
と、美鈴の言葉通り、3人は似合っていた。
香緒里は淡いクリーム色と薄桃色の生地に桜や梅などが小さく散りばめられた振袖に深緑の帯を締め、そして低めにシニヨンをしている。
雪音は白と紺の生地に雪輪の模様の振袖に濃紺の帯をしめ、髪を後ろで綺麗にまとめている。
沙世は濃いピンクの生地に牡丹や鞠の模様の振袖にクリーム色の帯をしめ、髪を高めにアップにしている。
三者三様のスタイルに、秀人たちは固まった。
「なぁ、翔太、真。」
「わかってる、これはちょっと女子だけにしたらやばい。」
「絶対迷子にさせるな。」
きゃあきゃあお互いの写真を撮ってい香緒里たちを見て、秀人たちはある意味冷静にそう話した。
クリスマスの時もやばいなと思ったが、今回は更にやばい。
加えて正月の神社の人混みだ。
より気をつけなければならない、と気を引き締めた。
----------------
元旦ということもあり、毎年初詣に行っている神社は混みあっていた。
屋台も出ているのでそれも混雑の要因ではあるのだろう。
長い列を作っている参拝客の最後尾に並ぶ。
「香緒里は嫁姑問題なさそうだよねー既に美鈴さんと仲良いもんね。」
「嫁姑って………ちょっと気が早くない?」
沙世に言われ、香緒里は苦笑する。
「え、だって結婚するでしょ??」
「それこそ気が早いだろ。そりゃもちろん、するつもりではいるけど。」
「!!!!」
さり気なく爆弾発言をする秀人に香緒里は顔を赤くして固まった。
「あー固まっちゃったよ?脳内処理が追いつかなくなってるね。」
「だ、だって……まだ高校生だし、秀人も美鈴さんも気が早すぎる………!!」
雪音につつかれて少し動き出した香緒里はアワアワしながら言う。
沙世はニマーッと楽しそうに笑いながら、
「え?じゃあ秀人とは結婚したくないと?」
「そんな事は、言ってない………ずっと一緒にいたいよ……?」
「香緒里……それは、ずるい。」
頬を両手で押さえて、更に赤くなりながら香緒里が言うと、耳を赤くした秀人は前に並ぶ真の肩に頭を突撃させる。
「ちなみに私はしっかり責任取って真と結婚して幸せにします。」
「ぶっ…!」
キリッといい顔をして言った沙世の言葉に、ペットボトルのお茶を口にしようとしていた真は噴き出しそうになる。
「おま…っ…沙世さん!?」
「え?ダメだった?」
「そうは全然言ってないけど………」
「じゃあいいじゃん。」
あのなぁ……と言いつつ、真は照れながらもちょっと嬉しそうである。
目の前で繰り広げられるやや渋滞しているやり取りを、雪音と翔太は「新年早々から平和だねぇ」と生暖かい目で見守っていた。
参拝を済ませた後、香緒里達は例年通り屋台で昼食を買うために参道を逆戻りする。
「何がいいかなーやっぱりたこ焼きは外せないよねー串焼きも美味しいしー。」
「沙世、落ち着け。とりあえず一通り見てから考えるぞ。」
「相変わらずだねぇ。」
ウキウキしてどこかに行きそうな沙世を真が止める。
朝おせちとかたくさん食べてたんだけどな……と真は捕まえながらボヤく。
「香緒里の今年のお願いは?」
「私??うーん、お願いというか、半分目標なんだけど、インターハイ出場かなぁ。去年惜しかったから、今年こそは行きたいんだ。」
雪音に聞かれた香緒里はそう答えた。
去年のインターハイ予選は準決勝で優勝候補の3年生と当たり、負けてしまった。
あれから練習も重ね、秋大会では実は優勝もしている。
今年はインターハイまで行きたいところではある。
「そういう意味だと俺も目指せインターハイ、って言いたいけど、そもそも去年は挑めなかったからな……」
「あーそうだったね、男バスはな………」
「冬の大会も予選止まりだったから、まだまだ頑張らねぇとだけど。」
他愛ない話をしながら屋台を巡っていると、真が立ち止まって、一点を見つめた。
沙世もその視線を辿り、顔を強ばらせた。
真は複雑な感情の籠った声で、呟く。
「親父……。」




