7、見守る想い
文化祭1日目が終わった夜、ベッドに入った後、ずっと美愛と悠、それに圭のことを香緒里は考えてしまった。
考えてもどうしようもないしどうにも出来ないことはわかっているのに、どうしても気になってしまって仕方なかった。
その悶々としていた気持ちが漏れ出ていたのだろう。
文化祭2日目の午前中、空手部の模擬店、わたあめ屋の当番をしている時に、奈津に「ずっと難しい顔してるけどどうしたの?」と聞かれた。
話してもいいべきなのか、いやでも奈津なら幼馴染だし気付いている可能性もある。
と、香緒里は店のテントの中で、奈津と共に出来上がったわたあめを袋に詰めながら少し考え、口を開いた。
「うーん……ええと、その、奈津は、圭って好きな子いると思う……??」
「圭???そうねー、圭は美愛ちゃんのことが好きなんじゃないかなぁって、私は思ってるよ。本人に直接聞いたわけじゃないけど。」
「そっ……か……」
「圭から何か聞いたの?」
何かあります、と顔に書いてありそうな香緒里を見て、奈津は突っ込んで聞く。
気付いている奈津にならいいのかな……?と迷いながらも、昨日の話を伝える。
「なるほどねぇ。由美ちゃんが気付いたか。」
「私は言われるまで全然気が付かなかったけど………」
「まぁ、圭は隠すの上手いからね。」
「奈津にやっぱりわかる?」
「そりゃあ生まれた頃から一緒にいるからね。亮も気付いてると思うよ、言わないだけで。悠は残念ながらさっぱり気付いてないだろうけど……」
自分の気持ちに気付いただけでも偉いと思うよ、あの子は……とやや生あたたかい目をした後、「ところで」と続ける。
「圭の中学の話、聞いたんでしょ?」
「うん、夏休みにたまたま会った時に。」
「香緒里に話したんだ、って圭から聞いた時はちょっとびっくりしちゃった。くるみちゃんとの話、あの時から全然誰にも話してなかったみたいだから。私たちにも多くは語らなかったしね。」
「私が秀人と上手くいってなかった時だから、多分励ますために、自分の話をしてくれたんだと思う。」
「香緒里が話しやすかったってのもあると思うよ?」
「どうかなぁ……?」
奈津は当時を思い出すように、少し遠くの方を見た。
「圭の中で、上手く整理が出来てきてるのかもしれないなぁ。新しい恋が始まったからか。」
「あの……くるみちゃんって、やっぱり美愛に似てるの?」
「うーん、そうだなぁ……性格はもちろん全然違うよ??ただ声とか、ちょっとした時の表情が似てるかな。」
最初は似てるから気になった、と言っていた。
引き摺っている証拠であるとも言えるが、逆にそれによって、似てるけど全然違う人を好きになって、吹っ切れたところもあるのかもしれない。
「とりあえず、香緒里が悩んでいることは、圭の過去を考えると応援したいけど、でも悠も美愛ちゃんのこと好きだから、どうしたらいいんだろう、ですね??」
「…………大正解です。」
ピタリと奈津に言い当てられ、香緒里は苦笑いをする。
「いや、どうしようも出来ないし、私かどうこうする問題ではないのはわかってるんだけどね。どうしてもモヤモヤしてしまって。」
「見守るしかないからねぇ。それに、選ぶのは美愛ちゃんだしね。悠なのか、圭なのか、それとも2人とも選ばないのか。」
美愛の気持ちはまだ何もわからない。
悠とはやり合ってばかりのように見えて、意外と気にしているところもあるし、圭とは普通に仲がいいようにも見える。
どんな人がタイプなのか、そういう話もそういえばしたことなかったなぁと香緒里は考えながら、奈津の話に耳を傾ける。
「圭はね、色々あったから次の恋は上手くいってほしい気持ちはある。でも、美愛ちゃんが悠を選んだっていいの。最終的に圭が幸せになってくれればそれでいい。もちろん、悠に対しても同じ思い。」
奈津はそこで優しい表情になり、続ける。
「私にとって、二人は幼馴染で家族のような存在だから。笑っていてくれさえすればいいの。困ってどうしようもない時は手を差し伸べるけど、あとは後ろから見守っていればいいかな、って思ってる。」
そっか、と香緒里は気が付く。
家族って、本来は帰る場所で、心の拠り所なんだ。
香緒里にとって、今まで家族というのは安心出来るところではなく、父とも以前よりは歩み寄って関係は改善されたし、愛されているのもわかる。
それでも「いざとなったら何でも相談できる存在」かと聞かれたら違う気がする。
でも、一般的にはそうなんだろう。
香緒里にとって、そういう存在は……
「友達でも、同じなのかなぁ。」
「同じじゃないかな。家族以外にも身内っていう言葉を使うくらいだし、大事な友達は家族と同じくらい大切な存在だと思うよ?」
「そうだよねぇ。」
『血の繋がりだけが全てじゃない』
香緒里の脳内に、中学時代の秀人の言葉が蘇る。
どこまでの意図があって言ったのかはわからない。
でも、つまりこういうことだったのかもしれないな、と香緒里は思った。
奈津は「ちょっと語っちゃったけど、」と手をパンっと1つ叩いた。
「とりあえず、今の私たちに出来ることは3人を見守ることだけ!何かあったらサポートしよ?」
「うん、そうだね。ありがとう奈津、ちょっとすっきりした。」
「それなら良かった。」
にっこり奈津は笑う。
後ろから、「二人ともー、包んだ綿あめちょうだーい!」と先輩から声がかかり、二人は声を揃えて返事をした。
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昼頃、香緒里がクラスで昨日と同じように執事に扮して接客している時に、秀人と真が来店した。
「今クラスの担当時間じゃなかった?」
「あーいいのいいの、俺ら宣伝係だから看板持って好きに動いていいんだってさ。」
「そんなわけで、逆に暇してるんだよな。」
席に案内しつつ香緒里が聞くと、二人はそう答えた。
真が来たのを見て、ホールで接客をしていた沙世も注文した飲み物を片手に寄ってきた。
「いいなー遊びながらの宣伝〜ってあれ?秀人、メガネだ。」
沙世は席に着いた秀人の顔を見て言う。
目が悪くてコンタクトをしているのは知っていたが、いつも寝る直前に取っているらしく、香緒里も秀人の眼鏡姿は実はほとんど見たことがない。
「あー、なんかコンタクトの調子悪くてな。部屋に取りに戻る時間もないからとりあえず眼鏡にした。」
「ほーなんか新鮮だねぇ。」
「俺は寮で同じ部屋だから特に違和感なかったけど、そういえば学校とか談話室じゃ掛けてないもんな。」
珍しい眼鏡姿に、周りの女子生徒やC組の女子たちもきゃあきゃあ言っているのが聞こえる。
友代もチャンス!とばかりにカメラのシャッターをきりまくっている。
「確かに学校じゃ眼鏡かけたことなかったかもな。どう?香緒里、似合う?」
キリッとキメ顔をした秀人を香緒里はジーッと見た後、ちょっと微笑んで、
「うん、似合う。かっこいい。」
と言った。
照れもせずに素直に言った香緒里を見て、沙世は「珍し」と呟いた。
何の意識もせず……恐らく無自覚に言った感想なんだろう。
数多の女子からかっこいいと言われ続けた秀人だったが、実は香緒里から言ってもらったことはほとんどなく、流されることが多かった。
今回も「似合う似合う」と流されるか、かっこいいと言われたとしても照れながらだと思っていたので、意表を突かれた。
頬をだんだん赤く染めていき、口元に手を当て顔を背ける。
耳まで赤い。
ガチ照れである。
その秀人を見て、自分が無自覚に言った言葉に気付き、今度は香緒里も顔を真っ赤にした。
「なんとも……」
「珍しい……」
沙世と真はそんな珍しい様子の二人を眺めてニマニマしている。
なんなら証拠を抑えてやろうとスマホをこっそり構えて写真を撮った。
もちろん少し離れたところから友代もカメラを構えている。
少しすると秀人の方が先に冷静さを取り戻した。
が、なんだか騒がしい教室の入り口を見て、今度は目を丸くした。
「母さん!?なんでここに!?」
「あら、秀人。あなたもここにいたの?」
教室の入り口に立っていたのは秀人の母、美鈴。
その後ろには弟の秋人もいる。
秀人の家族が来たとわかり、教室内は色めき立った。
「え、新谷のお母さん!!??爆美女すぎねぇ??」
「弟くんもめっちゃかっこいい!!」
秀人も秋人もどちらかと言えば父の忍に似ているが、美鈴もかなりの美女で、とても二人の子供がいるとは思えないくらいではあるし、何よりアパレル会社の社長兼ファッションデザイナーなので自分に一番似合う服が何かをよくわかっている。
「美鈴さん、いらしてくださってありがとうございます。」
秀人と真の隣のテーブルに案内された美鈴に香緒里は声を掛ける。
「いいのよーどんな感じになったのかも気になってたし。」
「おい。ちょっと待て。もしかして、ここのメイド服や執事服を揃えたのって……」
「もしかしなくても、私よ?香緒里ちゃんに相談されたからね。息子のかわいい彼女に相談されたら張り切っちゃうでしょう?」
喫茶をやると決まった時点で、香緒里はダメ元で美鈴に連絡を取り、相談したのだ。
そうしたら、メイド喫茶や執事喫茶用に仕立てた服の予備があるので貸し出してくれると二つ返事で答えてくれたのだった。
そう、香緒里から説明されると、「そうかよ……」と秀人は額を押さえた。
「なんで俺には何も伝えられてないんだよ……そもそも文化祭来るって話も聞いてねぇぞ。」
「だって内緒にした方が面白いし、当日サプライズで来た方がびっくりしてもらえるじゃない、ねぇ香緒里ちゃん。」
「そうですよねぇ。」
「それで、ついでに俺も遊びに来たってわけ。」
秋人もその話は知っていたらしい。
「彼女が自分の家族と仲良すぎるのも、いいんだか悪いんだかだな…………」
ものの数分で情緒が乱れまくっている。
秀人にしては珍しく、大きな溜息をついた。
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緑高祭の閉幕式と共に開催される最後のイベントは昨日のスタンプラリーの結果発表と同じ、校庭のステージで行われる。
全校生徒が校庭に集まり、ステージの前で待ち構えたり、生徒会から配布された手持ち花火で遊んだり、校庭に設置された、卒業生や地域の方々が出してくれているキッチンカーで買ったご飯を食べたりなど、各々思い思いに過ごしていた。
『おーまたせしましたー!!!文化祭実行委員会主催!ミス緑高!ミスター緑高!の結果発表でーす!』
ステージに立つ文化祭実行委員のアナウンスに、
いぇぇぇい!!とそこかしこから歓声が上がる。
『今一度説明しますと、事前に全校生徒にかわいい美しいと思う女子、イケメンだと思う男子をそれぞれ2名記入してもらったアンケートを元に今回は集計して、学年ごとに発表することとなっております!』
『つまり、1年生が3年生に入れてもいいし、2年生が1年生に入れたっていいというわけです。』
『さて、それではまず1年生部門の発表です!!』
ドラムロールが鳴り始める。
『1年生のミス緑高は〜〜』
『特に1年男子から多くの票を集めた、1年D組!!安西雪音さーーん!』
『そしてぇ〜ミスター緑高は〜〜』
『男女問わず、どの学年からも圧倒的な指示を得ました!1年A組!!新谷秀人くん!!!!』
『お二人ともステージに来てくださーい』
香緒里たちはステージから少し離れた位置で手持ち花火をしながら見ていた。
「呼ばれちゃったねぇ。」
「呼ばれたな……仕方ない、行くか。」
雪音と秀人は持っていた花火をバケツに入れるとステージに向かった。
二人ともそんなに気が乗らない様子。
雪音は特に、目立つのがあまり好きではないから尚更だろう。
「くっ……秀人に負けた……!!!」
「いやそりゃそうやろ。」
項垂れる圭に容赦なく美愛が突っ込む。
「俺も秀人に入れたもんなーあと真。」
「悠の裏切り者……!!!」
「いや兄弟なのにお前の名前書くとか恥ずかしいわ!」
「それはそうだな。」
「亮まで!」
鮎川三兄弟がわちゃわちゃ騒いでいる。
他のメンバーに香緒里が聞くと、とりあえず秀人は確定で、あとは真を入れるか圭を入れるかで悩んだらしい。
「私はもちろん真に入れたけどね!というかまず最初に真の名前を書いた!」
キリッとしたいい顔で沙世が言う。
真はそれを見て若干苦笑いをしている。
「まぁ票数的に言えば、1年生だと圭が2位だったんじゃない???」
「1位が良かったんだ……」
奈津にそう言われるも、未だに悔しそうだ。
美愛と圭の事で悩んでいたのが少し後悔したくなるような残念ぶりである。
ステージに秀人と雪音が上がると、大歓声が起きる。
主に女子から。
ちなみに昼間同様、眼鏡はかけたまま。
アイドルさながらの歓声ぶりにも秀人は気に止めていない様子で一瞥したのみだが。
「安西さんかわいいー!!!!」
「天使!!!」
と言った男子からの声も聞こえる。
「翔太的にはあれはいいの??」
ステージを見守る翔太に、沙世が聞いた。
「まぁ雪音が人気あるのは付き合う前からだしね…………とはいえ、変なやつが寄って来ないかは心配ではある。
から、D組にいる間は圭に頼んで見張っててもらってる。」
「抜かりないわね……」
「俺は秀人たちみたいにイケメンじゃないからさ、俺が彼氏ならワンチャンあるんじゃないかと思われてるんだろうね。……まぁ、誰が来ても渡す気はないけど。」
穏やかな表情の奥に冷ややかで黒いものを感じ、沙世とその隣の真は少し身震いした。
実はキレたら一番怖いのは翔太なのかもしれない。
夏に翔太に怒られたことを真は思い出し、そういえばあれもなかなか迫力あったな……と思い返す。
一方、気を取り直した圭は悠たちと共に再び花火で遊んでいた。
「なんかみんなで花火っていいねー由美ちゃん。」
「そうだねぇ。小学生の頃とかは花火やったりしたけど、最近は全然やってなかったから、久しぶりかも。」
奈津と由美、それに亮がしゃがんで花火をしているのに対し、悠圭美愛は動き回っていた。
「よっしゃー!ねずみ花火発見!!」
「こっちに投げるんやない!!」
「おっわ、めっちゃ来る!!」
悠がねずみ花火を投げ、美愛と圭は逃げ回っていた。
その飛び火は沙世たちの方にまで行っていた。
「ちょっと悠!?こっちにまで飛ばさないでよーーー!!!!」




