6、家族のような
香緒里と秀人がお化け屋敷迷路を無事に抜けると、先程受付があった場所で既に奈津と悠が待っていた。
「お疲れー。」
「奈津達早かったね。」
「亮が迷うことなくずんずん進んだからねー。」
「体育館のサイズと迷路のおおよその道筋が分かれば何となく予測がつく。」
当然、とばかりにいつもの様に抑揚なく淡々と亮は答える。
きっと最短ルートで進んだのだろう。
「新谷も頭いいし、そういうの得意そうだけどねー。」
「あー、確かに迷わねぇなぁ。まぁ今回はあちこち寄り道したから時間かかったけどな。」
「寄り道?」
「なんでよ、私は一刻も早く出たかったんだけど!?」
「怖がる香緒里がかわいくて、敢えて最短で行かなかった。」
いい笑顔でそう言い切る秀人に香緒里は「もう!」と怒りその肩を何度か叩く。
人前でイチャイチャするのが苦手と香緒里は言うけれど、傍から見るとこれも恐らくイチャつきになるだろうが、本人は気付いていない。
ちなみに一発強めのパンチが入り、さすがの秀人も痛そうな顔をしていた。
奈津がそんな二人の様子をニマニマ眺めていると、いやに疲れた様子の悠と美愛がお化け屋敷から出てきた。
「おかえりー」
「あんたが自信満々にこっちや言うから行ったのに結局間違ってたやんけ!」
「んだよお前あん時何も言ってなかったじぇねーか!今更それ言うか!?大体お前がビビってなかなか進まねぇから!」
「はー!?あんたもビビって固まっとったやろ!?人のこと言われへんやろ!」
入る前の震えっぷりは何処へやら。
中でもきっとずっと喧嘩してたのだろう、怖がりながらも。
キャンキャン言い合いながらも未だ繋がれている二人の手をじっと3人で(亮は興味無さそうにスマホをいじっている。)見つめていると、その視線に気付いた悠はサッと手を離した。
その顔は赤い。
対して美愛の表情は変わりなく、未だブツブツ文句を言っていた。
余程お化け屋敷が嫌だった様子。
「悠の方には吊り橋効果バッチリだったみたいだけど、渡辺の方は何ともだなぁ。」
2人に聞こえないくらいのボリュームで、秀人は呟く。
先程の圭の話を思い出しながら、香緒里はこの微妙な三角関係について頭を悩ませる。
香緒里が悩んだところで致し方ないのは分かっているけれど、どうしても気になってしまうのだ。
それを振り払うように、次行こっか、と喧嘩をする二人にも声を掛け、移動をすることにした。
その後もスタンプ台を巡りつつ、アトラクションの一種である2年生のボードゲームカフェに行きUNOやオセロをしたり、雪音達のクラスの射的をしたりした。
あと30分で店番交代の時間、という頃にはスタンプラリーのカードは全部埋まり、あとは生徒会に提出するだけとなった。
「あ、ごめん、出しに行く前にトイレ行ってきてもいい?」
「いいよーじゃあここで待ってるね。」
奈津はわかった、早く戻るねーと言い、トイレの方向に小走りに向かった。
ここは1階の南棟で生徒会室はその逆方向の北棟の3階なので、香緒里達はそのまま雑談をしながら待つことにした。
「クラスの方はどうだろね??混んでるかな?」
「あーどうやろなぁ。人気株の香緒里や直樹が抜けたからなぁ。」
「でもほら、皐月ちゃんもかっこよかったから大丈夫じゃない??」
「まぁそか、人気になりそうなメンバーは散らしたもんな。」
「悠の女装もなかなか良かったけど。」
「うるせぇ!それは忘れろよ秀人!!!!」
クラスの様子の話をしながらしばらく待つも、奈津はなかなか戻って来なかった。
お腹が痛くなったりしたんじゃないだろうか、と心配になった香緒里は「ちょっと様子見てくるね。」と言ってトイレの方に向かった。
待っていたところから二つ教室分歩いたところにある女子トイレの中を覗くも誰もおらず、首を傾げながら出ると、トイレより更に奥の階段の方から話し声が聞こえてきた。
この奥にも教室はいくつかあるが、特別教室等で文化祭では使われていないため、人は来ないはず。
不思議に思い、そちらに行くと階段の丁度陰になる場所に奈津はいた。
見た事のない他校の制服を着た男子生徒二人も一緒にいる。
「いいじゃん、ちょっとだけ案内してよ。」
「いや……でも、人を待たせていまして……」
「じゃあ、L〇NEだけ!ID教えてくれるだけでいいからさ!」
これは………いわゆるナンパでは?
と、香緒里は死角になる壁側に隠れてその様子を見る。
香緒里自身が今割って入ってもいいのだが、逆効果になる可能性もある。
もちろん、何かあっても力では負けるつもりはない。
だが、先程のお化け屋敷での出来事と秀人の言葉を思い出し、迷う。
驚いたあの時と比べれば加減は出来る。
でも校内で揉め事を起こすのは気が引ける。
うーん………と香緒里が目の前の光景を見ながら逡巡していると、その横をスっと人が通り過ぎた。
「奈津。」
短く呼び掛けたその声に、戸惑った顔をしていた奈津の顔がパッと明るくなる。
「亮!!」
「なんだ?お前。邪魔すんなよ。」
「もしかしてこの子彼氏??いや、そんなわけないか、こんなお子ちゃま。」
奈津との間に入った亮を、男子生徒二人はヘラヘラしながら上から下まで眺め、嘲笑する。
「そうよ、私の彼氏よ!」
「……マジ???こんな小学生みたいな身長の男でいいわけ?君くらいかわいい子が?」
「もったいねーの。俺らに乗り換えちゃってもよくね??」
身長はともかく、顔だけで言うなら亮の方が整ってると思うが…………と、見比べて香緒里は思う。
不細工なわけでは全然ないが、いかんせんチャラい。服装も髪型も。
スペックだけ取っても亮の方が上なんだけどねぇ………。
「………所島高校2年3組、向山建二と笠井浩人。」
「は?……え?なんで俺らの名前知ってんの……?」
「向山建二、10月22日生まれ、狭野第二中学出身、現在サッカー部所属。笠井浩人、4月16日生まれ、狭野第一中学出身、同じく現在サッカー部所属、主将。」
「なんで、そこまで………」
目を合わせず、スマホをスクロールしながら読み上げていく亮。
次第に二人の顔が引き攣っていく。
「相変わらずエゴサ力やべーなー亮は。こえーこえー。」
いつの間にか、後ろに悠がいた。
大丈夫大丈夫、と香緒里の肩を叩きながら続ける。
「奈津が絡まれるのはよくあることだからな。」
「まぁ、かわいいもんね………。じゃなくて、亮のあれはどういうことなの??」
「俺もよくわかんねーけど、奈津があまりにもよく他校の生徒にナンパされるから亮が作ったエゴサアプリがあって、近隣の高校の男子生徒の一覧が載ってるらしい。」
「それは………違法なのでは………」
「バレなきゃ大丈夫じゃね??あとは悪用しなきゃ。」
今まさに悪用しているような気がするのだが………。
尚も個人情報をつらつらと読み上げる亮。
どんどん青ざめていく二人をながめていた悠はそろそろかなー、と呟くと、声を張り上げる。
「せんせーーー!!!なんかこっちでうちの生徒にちょっかいかけてる男子高校生がいるんですけどーー!!!」
もちろん先生なんて呼んでない、ハッタリである。
けれど、そうとは知らない男子生徒二人は顔を見合わせ、やばいと思ったのか、慌てて側の階段を駆け上がって行った。
完全に見えなくなったのを見て、悠と香緒里も奈津の方へ近付いた。
「亮も悠もありがとね〜。香緒里、心配して来てくれたんだよね、ありがとう。」
「ううん、私は全然何もしてないし……
ところで、よくこういうことあるの……??」
香緒里は顔の前で手を振った後にそう聞く。
「まぁ、そうだねぇ……最近は学校から出ることそんなにないから減ったけど。」
絡みやすい顔なのかなぁ、と苦笑いをしながら奈津はそう答えた。
「街に出て、俺らから離れるとすぐ奈津に近付く男が湧いてくる。」
「そーそー、だから大体亮か圭が間に入って、俺が先生やお巡りさんをハッタリで呼ぶってのがお決まりのパターンだな。」
「ほんと、毎回ご迷惑おかけします………」
「奈津は俺の姉ちゃんみたいなもんだからな、気にするなよ。」
しょんぼりする奈津に、ニッカリ笑って悠は言う。
「ありがとう」と言って釣られて笑みを浮かべながら、奈津はその頭を撫でる。
一瞬それを見て、ヤキモチを妬いたのかムッとした顔をした亮だが、すぐに表情を緩めた。
『仕方ないか』と思っているのかもしれない。
香緒里はそんな3人を見て、本当の姉弟のようだなと思った。
奈津と血の繋がりはないけれど、長い時間一緒に過ごした事による、まるで家族のような空気感。
和やかなその雰囲気に、香緒里の頬も少し緩まった。
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その後、待っていた秀人と美愛と合流して、スタンプラリーのカードを生徒会室に提出した後、部活の方の模擬店などで仕事をする。
取り立てて大きな出来事もなく1日目最後のイベントである、スタンプラリーの結果発表を迎えた。
『さぁお待たせしました!!!1日目のサプライズイベントのスタンプラリー、結果発表の時間です!』
校庭に設置されたステージの上で、副会長の一ノ瀬がマイク片手に話す。
いぇぇぇい!と生徒やスタンプラリーに参加した来校者の人々がそれに乗って叫ぶ。
香緒里はいつものメンバーと一緒にそれを眺めていた。
「いいな〜私も真と参加すればよかったなぁ」
「タイミングがちょっと合わなかったからな。すげぇ面白そうではあったけど。」
参加出来なかった沙世達は残念そうにしている。
サプライズだから仕方がないと言えばそうなのだが。
「お化け屋敷、なかなかクオリティ高かったぞ。」
「げ、お化け屋敷あったの?私はちょっといいかなぁ…」
「そいや沙世もホラー系ダメだったけか。香緒里も面白かったけど、沙世もお化け屋敷入ると面白そうだな。」
「面白くないわよ!!」
昼間の出来事を思い出し、香緒里はぷりぷり怒るが、それを見て秀人は逆に楽しそうに笑った。
「ところで、どのペアが一番成績が良さそうなの?」
「私と秀人のところは私が球技が苦手だから足引っ張ってたし、ボードゲームの種目がUNOだったから秀人が……」
「あれはびっくりしたねぇ、まさか新谷に苦手なことがあるとは。私と亮のところは二人よりは上だけど、てところかなぁ。私も球技はそんなに。」
なぜか引き運が悪く、毎度いい手札が来ず、みんなから総攻撃されるという秀人のUNO。
あんなに頭がいいのに、謎である。
「悠と渡辺のペアが俺らの中だと一番なんじゃないか??まぁあとは、ランダム性のある校内にあるスタンプ台とお化け屋敷がどう上振れするか、ってとこだな。」
スタンプ台でどの程度差が出てくるのかはまだ不透明ではある。
例え他のアトラクションでMAXに近い得点を取っても、それによって覆されてしまう可能性もある。
などと話していると、遂に優勝の発表となった。
『優勝は!1年C組の、鮎川悠&渡辺美愛ペアです!!!!!』
「「よっしゃー!!!学食無料券ゲットーー!!!」」
名前を呼ばれた二人はガッツポーズとハイタッチをし、そのままステージまで走る。
『鮎川渡辺ペア、アトラクションでの成績もかなりよかったのですが、何よりスタンプ台での得点がどれも高かったです!特にお化け屋敷ではかなり見つけづらいところにある最高得点のスタンプを押していました!』
MCの一ノ瀬が解説をした後、インタビューアーである小田は二人にマイクを向けた。
「さて、運のとても良いお二人ですが、お付き合いはいつからで???」
「「付き合ってない/へんわ!!!」」
「こんなに息が合うのに??」
いつものようにハモる二人に、小田は珍しくきょとんとした顔をする。
クラスメイトやバスケ部からは「ひゅーーー!!
」と声が飛ぶが、それにも二人は「「うるさい!!」」と噛み付いていた。
「絶対緑高の名物カップルになれるぞ?」
「「ならんわ!!」」
じゃあなぜこのスタンプラリーに参加したのかと聞かれた二人は「学食無料券のために手を組んだだけ」と答えて、笑いを起こしていた。
いつも通りと言えばいつも通りの二人を見ながら、同じく香緒里たちも笑っていた。
「悠は素直じゃないよなぁ」
「んねー、美愛はともかく、悠が美愛を好きなのは丸わかりなのにねぇ」
いつものメンバーも、二人の恋の行く末をちょっと楽しんでいる節がある。
そんな中、香緒里は少し離れたところに他の女の子たちと一緒にいる圭を見つけた。
なんとも言えない表情をしながらステージ上の二人を見つめる圭。
それを見て、香緒里は昼間の話を思い出し、また複雑な気分になった。




