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一期一会  作者: 雪奈
第19章 秋と冬の狭間で
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209/211

5、違和感


11月も半ばを過ぎた。

来年の入試に向けて今月は模試が何度かある。

先週末は校内で模試、今週末は外部で模試。


「2週連続模試しんどい……。」

「模試が終わって答え合わせをして復習したらすぐに模試がやってくる……。」

「休みの日やのに全然休めてへん……いやどっちにしろ勉強はするんやけど……。」


模試を日曜日に控えた金曜日の夜。

談話室で沙世、悠、美愛は項垂れていた。


「まぁ前回は記述模試だったしねーちょっと重たかったよね。」

「記述だと時間足りなかったりするもんねぇ。」


翔太と雪音はそう言いながら項垂れる3人を眺める。

模試前といえどいつものように受験勉強をすることには変わりない。


「3人の試験問題は基本的にマークだから明日の結果の方が重要……だが、まぁ基本的に記述よりマークの方が成績出るから、先週の結果見る限りは油断しなければそれなりの点数出ると思うぞ。」


秀人は淡々と3人に向かって言う。

第一志望がマーク試験か記述試験かにより、だいぶ対策は変わる。


「そろそろ志望校確定させなきゃだもんなー……。」

「真、迷ってるんだっけ?」

「志望校のランクを上げようとは思ってる…んだけどな。」


呟いた真に香緒里は聞く。

文化祭後に受けた模試で好成績だったので、志望校を変えようとしているが、先週の模試では変えずにそのまま記入したらしい。


「沙世には話したんだけど、第一志望、母さんたちが通ってた大学にしようかな、と思ってる。ちょうどレベル的にはジャストくらいだし。」

「っていうと……S大学?」

「うん、そこ。」


真の母と養父、そして真と香緒里の実父が通っていたと聞いている大学である。

受験勉強を始めるまではまさかそこの大学に届くかもしれないくらい成績が伸びるとは思っていなかった。

母たちとは違って自分は勉強が出来ないものだと思っていたからだ。


「秀人のおかげで成績伸びたからな。」

「真自身が頑張ったからだろ。それに、本番はこれからだ。」


あと本番まで2ヶ月くらい。

それまでに基礎固めをしっかりしなければならない者、応用もしっかりやらなければならない者、小論文の練習も合わせてしなければならない者、とそれぞれやることは色々とある。


「あの、ごめんね、明日朝早いから私もう寝るね。」


時刻は21時頃。

由美はそう言って席を立った。


「明日もお店の手伝いだっけ?」

「うん。開店準備や仕込みから手伝おうと思ってるから、朝早く出発しなきゃで。」


香緒里が聞くと由美は頷く。

最近の土日は実家のケーキ屋の手伝いに帰っている。


「そっかー大変だねぇ。」

「あ、お菓子ご馳走様!今日のも美味しかったよ〜。」

「また、作って来るね。」


由美は部活がある日はOGとして手伝いに行き、そうでない日の放課後は寮のキッチンを使ってお菓子作りの練習をし、試作品を香緒里たちに差し入れする、というのが日課になっていた。


おやすみーと皆に声を掛けられ、由美は談話室を出ていく。


笑顔で手を振って出て行った。

でもその笑顔がどこか無理をしているように、圭には見えてしまった。

何か悩んでいるのだろうか……。



-----------------


「いらっしゃいませー。」


店先から母の接客する声が聞こえる。

由美は父と共に厨房に入り、ケーキ屋焼き菓子作りのサポートをしている。

その場にいるだけでも学ぶことは多い。


学んで、作って、としている時間は作業だけに集中出来て余計な考え事をしなくて済むから気が楽だ。


「由美、そろそろ休憩していいぞ。昼ご飯食べないと。」

「いいの?」

「お父さんとお母さんも交代で入る。由美のお陰でいつもより作業が早く進んでるからな。先に入ってなさい。」

「わかった。」


父に言われ、厨房を出たところにある休憩スペースへと行く。

母が用意しておいてくれた昼食を食べつつ、スマホを開くもメッセージの通知はない。


みんなは模試を受けているのだから、当然だ。

一人だけ、別のところにいる違和感。

気分的にはずっとそんな感じではあるのだが。


やっぱり何かやってないとダメだな、余計なことを考えてしまう。

震えないスマホを見て、由美は一人で溜息をついた。



------------


香緒里たち文系組が夕食を食べに食堂に辿り着いた頃、理系組が帰宅してきた。


「疲れた………拘束時間長すぎ……。」

「さすがに1日は疲れるよなー……。」

「空き時間はあるとはいえ体力ないオレにはしんどい〜……。」


悠、翔太、直樹はそれぞれぼやきながら席に着く。

文系組に比べて理系組は受ける科目が多い。

国立受験である秀人に至っては休憩時間もなくずっと試験をしている。

あまり疲れてはなさそうだが。


「亮、夕食後に答え擦り合わせやるぞ。」

「了解。」

「直樹も英語と数学は手伝え。」

「はーーい、ご飯食べて元気出す〜。」


大体模試の後はこの3人で解答を見せ合い、答えを確定していく。

そうすると高い確率でほぼ解答が網羅されるのだ。

そもそも秀人だけでも90点以上は確実なのだが。

そして他のメンバーはそれを元に答え合わせをする。




「毎度毎度ありがたいわ〜最早解答速報。」


夕食後談話室で問題用紙を広げて答えの擦り合わせをしてもらった後、みんなで答え合わせをする。

沙世は間違えたところをチェックしながらそう言った。


「ここ③だと思ったんだけど違うのか。」

「あぁそこな。引っ掛けではある。」


「うわー私完全に覚え間違えしてたかも。」

「明日その辺復習しよっか?」

「はーい、お願いしまーす。」


「やっぱり記述より成績良くなるな………。」

「翔太、記述がメインなんだっけ?」

「そう、なんだよなー……。もうちょい記述強くならなきゃなんだけど……。」


各々、話したり質問したりしながら、答え合わせをする。

最近の模試の後の恒例の光景となっている。


「俺にも解答速報ちょうだい〜!」


賑やかな声と共に時行と原田が襲来する。

二人とも手に問題用紙を持っている。


「お前らも来たのか…。」

「いやーやっぱり調べてやるよりここ来た方が早いじゃん??」

「ついでに質問出来るし。」


呆れた顔をする亮に時行と原田はちゃっかりそう言う。

いつもふざけてばかりいるが、真面目は真面目なのだ。

少なくとも当日に答え合わせをしようとするくらいには。


更に賑やかさが増した中、本を開きつつもそちらには目を落とさずぼんやりしている由美を圭は見る。

やっぱり、少し元気がないように見える。


そう思ったのは圭だけではなく、香緒里は由美のそばに近寄り、顔を少し覗き込んで見た。


「由美?」

「……え、香緒里ちゃん?」


香緒里に話し掛けられた由美は一拍置いてから香緒里の方を見た。


「大丈夫?疲れてる……?」

「あ……えと、そうかも?今日忙しかったから……。」


瞳を揺らす由美に香緒里は優しく、「そっか、無理しないでね。」と言う。


「今日はもう、ゆっくり休んでおこうかな……。明日学校だし。」

「最近寒くなってきたし、風邪ひかないようにね。」

「うん、ありがとう。」


由美はちょっとだけ笑って立ち上がった。

わいわいしている周りは気付かない。

おやすみ、と香緒里にだけ声を掛けて由美は読んでいた本を持って談話室を出た。


圭はどうにもその様子が気に掛かったので静かに立ち上がってその後を追う。

今、追い掛けないといけない気がして。


それに気付いたのは由美の後ろ姿を目で追っていた香緒里だけだった。



-------------


寮に向かうため、多目的棟の階段を由美は降りていた。


どうしても、同じ空間にいるのに別の空間にいるような息苦しさを感じてしまう。

無視されているわけではない。

話を振ってくれることも多い。

ただ、由美の心情の問題なだけなのだ。

受験という括りの中から外れてしまったというその気持ちの問題。


「由美ちゃん!」


1階に降りたところで後ろから呼び止められる。

振り向くと圭がいた。


「圭くん、どうしたの?」

「えーと……ちょっと、外歩かない?疲れてたら、無理しなくていいんだけど……。」


遠慮がちに言う圭を見て、バレてるのかな……と由美は思った。

断ればそれ以上踏み込んでは来ないと思う。

でも………。


「大丈夫、いいよ。」


圭の提案に由美は頷いた。

多目的棟の外に出るとひんやりした空気が身体を包んだ。

そのまま二人はゆっくり歩いて多目的棟や寮のあるエリアから少しずつ離れる。


「誘っておいてなんだけど、やっぱりちょっと冷えるね。」

「そうだね……。でも、少し気持ちいいかも。」


由美はそう言って上を見て、少し息を吸った。


「家の手伝いは、大変?」

「……うーん、そうだね。大変は大変、だけど、勉強にはなるよ。」

「そっか。」


何が、と言われると難しいのだがやっぱり少し由美に違和感がある。

口調も声のトーンも変わらない。

だけど例えば会話の間とか、視線や表情。

そういったものに少しずつ違和感を覚えるのだ。


「……もし、話したくなかったら全然無理しなくていいんだけど……。由美ちゃん、最近何か悩んでない?」


前置きをした後、圭は聞く。

由美は足を止めた。

釣られて圭も立ち止まる。


「ごめんね、余計な心配掛けて……。」

「……謝らないで。俺が勝手に気になってるだけだから。」


視線を下に向ける由美のことを圭は見つめる。


やっぱり、気付かれていた。

上手く隠したかったのに、という気持ちと。

誰かに打ち明けたら少し楽になるだろうかという気持ちがせめぎ合う。


圭くんなら、聞いてくれるだろうか……?

そんな気持ちがふと生まれる。

自分の気持ちを話すのは、怖い。

話して嫌われたり幻滅されたりしまうのではないかと思ってしまうから。


迷うように、胸の前で握った手が少し震えているのを見て、圭は少しだけそれに手を触れる。


「……ごめんね。いいよ、無理に話さなくて。」


温かい手が触れて、由美の手の震えは少し治まる。

圭の言葉に由美は首を振った。


「あの………私の話、聞いてくれる……?」


窺うように見上げてそう言うと、圭は黙って頷いた。


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