3、自信
夕方。
実家のケーキ屋での手伝いを終え、寮に帰るために電車を乗り継ぎ、最寄り駅まで帰ってきた。
電車を降り、バス停へ向かっていると緑ヶ丘の生徒らしき男子高生女子高生も同じように歩いていた。
中には同学年で見たことのある子もいる。
3年生はオープンキャンパス帰りだろうか?
「あれ?須賀?」
聞き覚えのある声に振り向くと、秀人がいた。
「新谷くん、今帰り?」
「そう。実家寄ってたら遅くなった。」
確か法事に行くと話していたはずだ。
そのため香緒里は今日、圭とオープンキャンパスに行った。
「須賀は店の手伝いだっけ?」
「うん。今取り立ててやらなきゃいけないこともないし、勉強にもなるかな、って……。」
秀人と1体1で話すことは殆どないため少し緊張する。
そして並んでいると周囲からの視線を受けるのでそれもそれでちょっと気になる。
秀人の方はいつも通りの様子である。
見掛けたらちゃんと話し掛けてくれるんだな、と少し驚きもした。
そのまま並んで歩きながらバス停まで行くと、バス停には今度は亮と直樹がいた。
「あれー?ユミとシュウトだ!やっほー。」
由美と秀人を見つけた直樹は手を振る。
「二人も今帰りなのか?もうとっくに戻ってると思ってた。」
「リョウが今日は完全オフになったって言うから、パソコンの周辺機器買うのに付き合ってもらってたんだー。」
そう言う直樹の手にはいくつか袋が下がっている。
「たまたま時間が空いたからな。」
「空けた、の間違いではなく?」
「………さぁな。」
突っ込んだ秀人の言葉を亮は軽く流した。
きっと直樹のオープンキャンパスに行くのとついでに予定を開けておいたのだろう。
なんだかんだ仲が良い。
バスが来たため、4人で乗り込む。
「ユミは仕事?どうだったー?」
「楽しかったよ。ちょっと作らせてもらったりもして。」
「お土産あるー?」
「私が作ったのでよければ……。」
「食べるー!」
じゃあ帰ったらね、と由美は少し笑う。
相変わらずよく食べる。
「直樹くんは……オープンキャンパス、どうだったの?」
「面白かったよーただやっぱり遠いねー。」
由美が聞くと直樹は眉を八の字にした。
神奈川の方のキャンパスになるので確かに遠いは遠い。
「そもそも高校卒業後はどうするの?一人暮らし?それともおばあちゃんち…??美愛ちゃんも悩んでたけど……。」
「うーん、まだわかんない。どうしよーかなーって。おばあちゃんたちも歳だからねーあんまり迷惑掛けられないしー。一人暮らしかな……。」
「直樹くん、一人暮らし出来るの……??」
とても生活能力があるようには見えない。
とはいえ、志望大学に受かった場合、一人暮らしをせざるを得ないのかもしれないが。
遠いので。
「あとはミメイとルームシェアかなぁ。」
「それは悠くんの許可もいるんじゃない??」
直樹と由美が話す様子を亮はチラリと見た後、何か考えるように視線を下に向けていた。
秀人は香緒里にアプリでメッセージを送りつつ、その亮を横目で見た。
そしてなんとなく、考えていることを察したのだった。
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寮に戻り、由美たちはそのまま談話室へと行く。
香緒里たちはいつもの所にいた。
勉強をしている者と、今日貰った大学のパンフレットを眺める者と分かれてはいたが。
「おかえりー珍しい組み合わせだね?」
沙世はやってきた4人を見て言う。
「ほんまやな。直樹と亮は一緒にオーキャン行ってたけど、由美と新谷も一緒なんやな。」
「駅でたまたま会って………。」
「まぁ帰るところは同じだしな。」
そう言いつつ、秀人は空いていた香緒里の横に座る。
そしてどうだった?とオープンキャンパスの話をし始める。
由美は美愛の隣に座り、話し掛ける。
「美愛ちゃん、オーキャンどうだった?」
「おもろかったでー。学校もきれいやったし。」
「学校近くに美味しそうなお店もたくさんあったしね〜。学食も美味しそうだったなー。」
「沙世は食べ物ばっかやな。まぁ学食は確かにおもろそうやけど。」
相変わらずの沙世に由美はちょっと笑う。
「そういえば翔太はどうだった?」
「んー良かった、けど距離がねー……受かって入学するなら一人暮らしは必須かも。」
秀人が翔太に聞くとそう返ってくる。
翔太の第一志望大学は神奈川県の相模原の方にある。
実家から通うのは確かに現実的ではない。
奈津や雪音、真、悠もそれぞれ感触は良かったらしい。
みんななんだか楽しそうだなぁ、と由美は話しているのを見て思う。
夏に由美も学校見学に行った。
その時も今の香緒里たちのように来年通うかもしれないことを思い、ワクワクした。
今はもうそこに通うことが確定しているが。
「由美ちゃん。」
圭から声が掛かりそちらを見ると紙袋を持っていた。
「これ、メッセで言ってたお店のお菓子。物、合ってるかな?」
「ほんとに買ってきてくれたの?ありがとう……!!」
中身を見ると、確かに由美が食べてみたいと言ってたスイーツだった。
「うん、これで合ってる。地方のお店でこっちでは基本的に買えないんだよね〜まさかイベントで来てるとは思わなかったなぁ。」
「お土産として、あげるよ。」
「え!?いやいいよ、お金払う。」
「んーーじゃあその代わりまた今度何か作ってくれる?」
「それでいいの……?」
遠慮がちに言う由美に、圭は笑う。
「奈津に頼まれた物買うついでだったし、いいよ。由美ちゃんの作るお菓子好きだし。」
「じゃあ……とりあえず、今日作ったやついる?」
由美はそう言って、脇に置いておいたバッグから包みを出した。
「あ!!!ユミ!帰ったらお菓子くれるって言ってたよね!?」
「え!由美のお菓子あるの!?食べる!」
直樹がすっ飛んで来て、その後に気付いた沙世もやってくる。
「沙世、夕飯前だけど大丈夫なのか?」
「直樹もやで。」
「保護者か。」
真と美愛が、由美からお菓子を受け取り食べだす二人を見て言う。
それに対して悠が突っ込んだ。
「だって美味しいんだもん〜ほら、真も食べて食べて。」
由美の持って帰ってきたものはフロランタン。
沙世はそれを真の口の前に差し出し、真はそのまま食べる。
ナチュラルにイチャイチャするよなこいつら……と圭はそれを見て思う。
亮と奈津の距離感も割りと近めだが人前では一定の距離がある。
それに対して同じ幼馴染みである真と沙世の距離感はかなり近い。
「ん、美味しい。」
「ほんと?良かった。」
圭も由美から貰い、食べる。
素直な感想が漏れると由美は笑顔になった。
「ねぇ亮?」
「ん?」
圭や由美から少し離れた位置にいる奈津が隣に座る亮に話し掛けると、亮はノートパソコンのキーボードを叩きつつ返事をする。
「圭のあれ、特別扱いだと思うの私だけ?」
「……相手の欲しい物を覚えていて、それを買ってくる。特別扱い以外にないんじゃないか?少なくとも俺は奈津以外にしないぞ。」
「だよね〜。あれで自覚ないんだもんなぁ。恋愛上手いんだか下手なんだか。」
「いや……あれは下手だろ。」
亮はバッサリとそう言う。
他の女子たちとの距離のとり方は上手いくせに、本命になるとぎこちない。
まだしばらくかかるだろう、と亮は思っている。
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週末、香緒里たちは談話室で勉強していた。
質問タイムも一段落し、今は各自問題を解いているので静かである。
香緒里は漢文の問題集の丸つけをした後、間違えたところの解決を読む。
が、解説がかなり省略されているタイプの問題集のため、いまいち納得のいかないところがある。
「秀人、聞いてもいい……?」
「ん、どこ?」
隣に座る秀人に聞くと読んでいた問題集から顔を上げ、香緒里の方に視線を向ける。
ちなみに、今は悠の志望大学の過去問を見て、傾向と対策をしているらしい。
「ここなんだけど……。」
「この選択肢になる理由?」
「うん、そう。」
丁寧に解説をしてくれる。
そこらの問題集より断然わかりやすい。
受験勉強をしていると改めて思う、とんでもない頭脳の持ち主だなと。
「なるほど。ありがとう、納得出来た。」
「それなら良かった。」
再び問題集に視線を落とす秀人の横顔をこっそり見つめる。
今日は目の調子がちょっと悪いとの事で、珍しく眼鏡を掛けている。
いつもかっこいいと思っているけれど、香緒里的には眼鏡を掛けているのがかなりツボである。
少し伸びてきた前髪が眼鏡の縁にかかる。
「あのー……香緒里さん?そんなに見つめられると集中出来ないんですけど?」
「うぇっ……!ご、ごめん、かっこよくてつい………」
視線に気付いた秀人にそう言われ、香緒里は顔を赤くする。
秀人は返ってきた言葉に少しだけ固まった後、ポンと頭を撫でる。
その光景に周りはもう突っ込むことはしない。
沙世だけはニマニマしていたが。
相変わらずだなこの二人も……。
と圭は内心苦笑いしつつ、二人を見る。
先日香緒里は圭のことを幸せそう、と言っていたが、圭に言わせれば香緒里の方も幸せそうである。
一年生の頃はもう少し不安定そうで、秀人との関係も今とは少し違った。
先日の会話を思い出した流れで由美のことを考える。
最近、週末になると由美は実家に帰り、ケーキ屋の手伝いをしている。
今日もだ。
皆は「偉いねぇ。」と言っているが、圭は出発する時の少し寂しげな表情が気になっていた。
今、何してるんだろうな……。
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電車を乗り継ぎ、由美は地元に帰ってきた。
地元に帰ると、実は少し緊張する。
美愛と過ごした楽しかった記憶ももちろんあるが、それ以前の記憶がフラッシュバックすることがあるからだ。
いい加減、もう少し前に進めたらいいんだけど……と思っていると、視界に少し見覚えのある女子高生の姿が入る。
『あんたってほんと面白くないやつだよね』
『地味でブスで面白くもないってなんも価値ねーよなぁ。』
嫌な言葉が、こちらを馬鹿にしたような、下に見るような表情が、頭の中に蘇り、手を握り締める。
よく見るとその女子高生は全然知らない人で。
少し息を吐く。
何もしないで、目的もない自分があの場に居ることが気まずくて、気を遣わせてしまうのも申し訳なくて、逃げてこちらに来たのに結局モヤモヤしてしまっている。
私は本当にあそこにいて、いいのだろうか……?
居場所だと思っていいのだろうか?
何度も頭の中で問い続けた言葉。
自信が欲しい。
自分を少しでも肯定出来るための、自信が。




