2、表情を見て
中間テストも終わり、一段落したので夏に行けなかったオープンキャンパスに行こうという話が仲間内やクラスなどで持ち上がっていた。
勉強ばかりでは煮詰まるので気分転換にもなる。
「美愛オーキャン一緒に行かない?」
「ええよ?志望大被ってるもんな。」
沙世は夕食後、談話室に向かう道すがら美愛にそう声を掛けた。
二人の志望大学は割りと被っている。
学力的にも似通っているため有り得なくはない話ではある。
「奈津と雪音も行くの?」
「行くよー私はお母さんが仕事の都合つけてくれたから来てくれるって。」
「私は女バスの子と行くよー。」
香緒里が聞くと二人はそう答えた。
二人とも女子大志望なので、家族か女友達と行くほかない。
「香緒里はどうするの?」
「同じ大学志望の友達いないんだよねぇ。」
「だから俺が一緒に行こうかと思ったんだけど、ちょうどその日法事があるんだよな……。」
道中のことも考えて、秀人的にはついて行きたかったのだが、家の用事を行かないわけにはいかない。
「一人で行くしかないかな。お父さんも相変わらず忙しいみたいだし。」
「そしたら俺が一緒に行こうか?香緒里ちゃんの第一志望、俺も受ける予定ではあるし。」
「え、いいの?」
圭がそう言って香緒里の事を見たあと、秀人を見る。
秀人が良ければ、だ。
視線を向けられた秀人は少し考える。
まぁ、圭なら……逆に適任ではあるか。
「……頼んだ。」
「ん、頼まれました。」
「じゃあ、お願いします……?」
その後ろの方で直樹は悩んでいた。
「うぅーん、どうしよう。」
「オーキャンか?」
「そう〜。遠いんだよねー行っておきたいは行っておきたいんだけど。」
唸る直樹に悠が聞く。
「直樹はどこ受けるんだっけ?」
「K大だよー。」
「え、K大志望!?」
「英語と数学は問題ないだろうけど、国語大丈夫なのか……?」
直樹の志望大学は関東ではトップクラスの私立大学。
いくら英数が得意であろうと、理系であろうと、基本的に国語は間逃れないんじゃないかと翔太と真は思う。
「それがねー帰国子女枠があるんだよね〜。国語もあんま使わないし、英語と面接がメインなんだって〜。学部もITとかプログラム系だしピッタリかなぁって。」
「へぇ、そんなとこあるんだ。」
「ただ神奈川で遠いんだよ……迷いそう。同じ大学志望の人、いないみたいでさー。」
「そりゃそうだろうよ。」
緑ヶ丘は少し特殊な高校なので学力にはかなり幅がある。
が、秀人や直樹の目指すような大学を目指すレベルの生徒はほとんどいない。
高くて香緒里や圭の目指すランクの大学くらいだ。
「とはいえ、俺らが行っても仕方ねーしなぁ。」
「俺もその日は自分のオーキャンあるからなぁ。」
悠と翔太はそう言う。
確かに迷子スキルが高い直樹を一人で行かせるのは不安がある。
真も含め、何か解決策はないかと少し考えていると、直樹は亮の元へ行った。
「ねぇリョウ〜オレのオーキャン行くの、付き合ってくれない?」
言われた亮はスマホを取り出し、スケジュールを確認する。
そして少し考えた後、口を開く。
「仕方ないな……いいぞ。仕事も調整出来そうだし。」
「やった!ありがとう!!」
了承した亮を、周りにいた香緒里たちは思わず見る。
てっきり断ると思っていた。
「マジか………あの亮が奈津以外のために時間を割くとか……。」
「大丈夫??雪降る???」
「意外……。」
兄弟である悠と圭も驚いた顔をしている。
ただ一人、奈津だけはニコニコして亮を見ていたが。
「亮はねーなおちゃんのこと第三の弟くらいに思ってるからねー。」
「一人で行って迷われても困るだけだ。」
表情を崩していないが、照れ隠しにそう言っていることも、奈津には分かっている。
変わったなぁ、と思って嬉しくなるのだ。
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週末、香緒里は圭と電車に乗り、オープンキャンパスのために大学へ向かった。
圭と二人で出掛けることはもちろん、二人きりでいる事もなかなかないので、少し新鮮だった。
「圭は経済学部受けるんだっけ?」
「そうだよ。家でも少し経営のことは学んだんだけどね。経済学部受けて欲しいって言われてね。」
「やっぱりそういうのあるんだね。」
「一応ね。大学自体に関しては自分で決めていいんだけど。」
電車に乗りながらそんな話をする。
昔からの名家というわけではないが、現在日本でも有数の企業である鮎川グループの子息となると色々考えることはあるのだろう。
最寄り駅に着き、栄えている駅前からしばらく歩いたところに大学はあった。
全体の説明会が終わった後に、学部ごとに詳しい説明がされる。
なので、途中から二人は別行動となる。
「じゃあまた後でね。」
「終わったら連絡する。けど、何か困ったことあったらすぐ連絡してねー。」
「うん、ありがとう。」
手を振って圭と分かれる。
香緒里は心理系の学部を志望していた。
自身の体験を省みたいというのと、将来そういう仕事をしてみたいという気持ちがここ数年で芽生えてきたからだ。
実際に学んでみないことにはまだ何とも言えないだろうが。
学部で学べることや授業形態の話、入試の流れなど一通り映像を交えて説明され、その後に体験授業が行われ、終了となった。
「どうだった?」
「体験授業、面白かったよ〜。圭のところも授業少しやったんでしょ?」
「まぁね。でも触りの部分だったから知ってることの方が多かったかな………。」
再び合流した後二人はそう話す。
ちょうどお昼過ぎだったので、そのまま駅近くのファミレスに入り、昼食をとることにした。
注文をし、料理が来るのを待っている間にグループメッセージを開くと、何件か通知が溜まっていた。
「沙世と美愛、楽しんでるねぇ。」
「今日は遊ぶんだって言ってたもんね。」
二人もオープンキャンパスが終わった後、ランチをしてその後スイーツを食べているようで、その写真が送られてきていた。
「あ、この後ちょっとデパ地下寄ってもいい?」
「いいけど、何か買うの?」
「奈津に、そこまで行ったんなら買ってきて!って欲しいお菓子を頼まれてね、今……。」
どうやらつい今さっき、奈津からそうメッセージが来たらしい。
沙世も割りと秀人に頼み事をするが、奈津は圭に頼み事をしがちである。
その秀人から、『無事に終わった?』とメッセージが来ていたので、『終わってこれからご飯食べるところだよ。』と返信した。
その後に再び圭の方に目を向け、スマホを見て恐らく何かメッセージを送っているその表情に、もしかしたら……と思う。
「もしかして、由美ちゃんから?」
「…え?」
「あれ?違った?」
ちょうど、デパ地下でやってる洋菓子のイベントで由美が気になっていると言っていたお店が出店しているのがわかったので、『よかったら買って帰ろうか?』と送っているところだった。
ちなみに由美は今日は実家に帰っている。
お店の手伝いをするそうだ。
「………なんでわかったの?」
「んー……表情かな?」
「そっか……。」
香緒里は自分に向けられる好意にはさっぱり気付かないのに、こういうことには鋭い。
「由美ちゃんのこと、好きなんだよね……?」
「やっぱり香緒里ちゃんにはバレるかー……。うん、そう、好きだよ。いつから気付いてたの?」
「体育祭の頃くらいから、もしかしたらそうなのかなーって思ってた。」
俺が自覚するより早くない………?
頑張って隠してきたのも意味無いくらいじゃん………。
と圭は思い、肩を落とす。
「香緒里ちゃんが気付いてるってことは、秀人も気付いてるよね?」
「うん、そうだね。私と同じくらいに気付いてたかなぁ。沙世たちはまだ気付いてないと思うよ。雪音と翔太は分からないけど。」
カップル揃って鋭いんだよなぁ……。
額を押さえる圭に、香緒里は重ねて聞く。
「美愛の時とまたちょっと違う感じだよね。」
「うん、まぁそうだねぇ……。美愛の時はまだ客観的に見れてたかな。今はちょっとあんま余裕ない、かも。」
好きであることは由美には全然気付かれてはいないと思っているし、周りにも悟られないように努力はしているつもりである。
ただ、正直いっぱいいっぱいなことも多い。
「元々仲良いなぁとは思ってたんだけどねぇ。」
「そう、だねぇ………。男子の中だと、直樹と並んで仲は良いとは思ってるよ、正直。でもそこ止まりかな。」
圭はそう言って苦笑する。
そこに、由美から返信が返ってくる。
『いいの……?ありがとう、嬉しい!』
という素直な反応に、ちょっと表情が緩む。
「でも、しょうがないよね、好きになっちゃったものは。」
「私は圭が新しい恋に進めて良かったな、と思ってるよ?何かきっかけがあったの?」
香緒里はそんな圭を見つつ、訊ねてみる。
圭は少し黙って悩んだ後、香緒里の方を見た。
「…まぁ、香緒里ちゃんならいいかな……。くるみ、って覚えてる?」
「元カノだよね?ボーリングの帰りにも会った……。」
「うん、その人。香緒里ちゃんなら気付いてたかもしれないけど、情けないことにその後だいぶメンタルやられてね。そんな時に、由美ちゃんが話を聞いてくれたんだ。」
多分あの日かな、と香緒里はその数日後に二人が揃ってしばらく勉強会の席を外していたことがあったのを思い出す。
「くるみと別れて、傷付きたくなくて女の子と遊んでた俺のことをさ、逃げてたんじゃなくて傷付けたくなかったんじゃない?それは弱さじゃなくて優しさじゃない?って、言ってくれた。そんな事思ったこともなかったから、びっくりしたんだよね。」
女の子と遊んでた時期……一年生の頃に、元カノとの話を香緒里は聞いた。
その時は、今は楽しんでるよ、と言っていたが心の底では、圭本人も意識してなかった奥底では、ずっと不安だったのかもしれない。
そこを、由美は話を聞いて気が付いたのだろう。
「俺は俺のままでいいのかなって、スペック以外にもいいところあるのかな、って思えてさ、ちょっと気持ちが楽になったんだよね。そう思えたのは由美ちゃんのおかげで…………多分、その頃からかな、好きなの。
俺が本当に感謝してること、多分しっかり伝わってはないんだろうけどね。」
「由美は、あったかいよねぇ。隣にいるとそう思う。気が楽になるというか。」
「うん……そうだね。」
なんでも受け止めてくれるような、そんな温かさがある。
一般的な言葉で言うならば、癒し系なのだろう。
本人は気付いていないだろうが。
思い出して優しく笑う圭のことを香緒里はじっと見つめる。
「まだ片思いなんだろうけど……でも、今の圭は幸せそうだよ。」
「そう……?」
「うん、一年生の時から見てるけど、今が一番楽しそうだし。」
迷っていた想いや不安な気持ちがある程度すっきりしたからなのかもしれない。
確かに、香緒里の言う通り、生きやすくはなっている。
「まぁ、脈なしなんだけどね。………受験期だし、高校のうちは攻めるつもりは全然ないけど。」
すぐにガンガンいかないのは圭らしいと圭らしい。
由美は押しすぎると引きそうではある。
とはいえ、由美も由美で圭のことは何かしら思ってそうではあるなと香緒里的には思う。
何かあると圭に頼っているようなところはある。
それが友達としての信頼なのか、それとも無意識に特別に思っているかは判断がつかない。
圭には伝えないが。
「香緒里ちゃんは、秀人のどこが好きなの?」
「ええぇ!?いきなりどうしたの……?」
突然投げ掛けられた質問に香緒里は動揺する。
その少し前に届いたオムライスを食べるために手に取っていたスプーンを思わず落としそうになった。
「秀人のスペック見て好きになったわけじゃないだろうな、とは思ってたんだけど、じゃあどこが好きになったポイントなのかな、と。参考までに。」
秀人は圭よりスペックが高い。
そして香緒里は由美同様、秀人のことをスペックで見ていない。
なので、疑問に思った。
聞かれた香緒里は、圭の話も聞かせてもらっちゃったし、答えないと不公平かな…と思い、話し出す。
「うーん、そもそも付き合い始めた頃、秀人のことを友達として好きなのか恋として好きなのかよくわかってなかったんだよね。」
「え、そうなの?」
「うん。何かあった時に一番に頼りたくなるのが秀人ではあったんだけどね。好きなんだな、って自覚したのは付き合ってしばらくしてからかな。」
思えば当時と現在では秀人に対する思いの質はかなり変わったな、と自身でも思う。
もちろん、根底にある信頼は変わらないが。
「イケメンだなとは思ってたけど、今私が圭を見てそう思うのと変わらない感じだったし。……もちろん今は違うけど。
そうだなぁ……どこが好きか……好きなところはたくさんあるけど、やっぱり秀人が秀人だから、かなぁ。」
そう言った後、香緒里は少し赤くなる。
自分で言っておいて、恥ずかしくなってきた。
「とりあえず、今のセリフ、秀人に伝えとくね?」
「それは恥ずかしいからやめて……!!」
香緒里ですら、そう気持ちが変わったのだから、由美が今圭のことを信頼出来る友人だと思っていたとしても、変わる可能性だって十分ある、と思うのだ。
そう、伝えたかったのだがちょっと上手くまとまらなかった。
「まぁ、俺も気長に頑張ってみるよ。」
伝わったのか伝わってないのか分からないが、圭はそう言って笑った。
とりあえず、いつも人のことばかり優先しがちな圭が、今度こそ幸せになれたらいいなと香緒里は思う。




