1、伸び代
文化祭も終わり、10月に入った。
1週間後には中間テストがある。
最近はテストがなくても受験勉強を集まってしているので、放課後も土日も吉崎香緒里たちはほぼほぼ談話室にいる。
平日である今日も、授業が終わって夕飯の時間になるまで勉強をしていた。
大体の3年生は自室か図書館棟の勉強スペース、もしくは平日なのでそのまま教室で勉強する。
なので談話室は実質貸切状態ではある。
「そういえば、今日模試返ってきたんだけどさ、成績ちょっと上がってたんだよね。夏休みに香緒里に教えてもらいながら頑張ったおかげかなぁ?」
谷中沙世がふと思い出したように、顔を上げて言う。
文化祭の数日後に受けたマーク模試の結果が今日返却された。
「ほんと?それなら良かった。」
「まぁ、とはいえまだギリC判定に届かないくらいではあるから頑張らないとだけど……。」
「うちもそんなもんやなぁ。悠、どうやった?」
沙世と同じレベル帯の大学を志望している渡辺美愛はそう言う。
二人とも地道に伸びている。
美愛は隣に座る鮎川悠に話を振る。
「それがさ、なんかすごい上がったんだよな。一学期はE判定だったけど、今回はC。」
悠はそう言って模試の結果の紙を出す。
美愛はそれを覗き込む。
「ほんまや。これ、第一志望なんやろ?」
「そう。最低でもここ受けろって言われてる。」
鮎川グループのトップ……つまり悠たちの父の陸は、基本的に勉強に関しては口出ししないが、大学受験を受けるに当たって、悠に、「グループのメンツもある、最低限このレベル帯のところには入ってくれ……」と頼まれたらしい。
「そのまま成績を落とさず順調に伸ばしていけよ。」
「わーってるよ。」
3つ子の兄である鮎川亮に言われた悠は雑に返事をする。
亮は留学予定なので、もう少ししたら出願が始まるらしい。
アメリカでも有数の大学を受けるとのこと。
「翔太はどうだったの……?」
「順調に上がっては来てるかな。ただ、そもそもの目標値が高いからそこに届くかどうか……。」
安西雪音が聞くと、石川翔太は苦笑しながらそう答えた。
翔太の志望は獣医学部、難易度は高い。
成績も元々平均レベルくらいで取り立てていいわけではなかったので尚更大幅に上げる必要がある。
「まだ受験範囲を全部勉強しきってない。だからまだ伸びると思うぞ。」
新谷秀人はそう翔太に声を掛けた。
秀人は翔太や悠、真の受験勉強に付き合ってそれぞれサポートをしている。
「秀人がそう言うなら、まだまだ頑張るしかないな。」
翔太はそう言ってちょっと笑う。
本当に手厚いサポートだ。
「真はどうだった?」
「実はさ、結構上がったんだよな。」
そう言って真は秀人に結果の紙を渡す。
第一志望の判定はB判定。
その他もBやA判定。
「想定より上がったな。」
「秀人的にも想定外なんだ?」
「あぁ、悠より上がり幅はあるだろうとは思ってたけどここまでとは。」
香緒里が聞くと秀人は頷いた。
「カオリと姉弟なら頭良くなってもおかしくないんじゃない?」
「悠くんの伸び代があるのと同じ理由だね?」
渡辺直樹と須賀由美がそう話す。
確かに香緒里と真は異母姉弟で、実父は頭が良かったという話である。
「香緒里は昔からコツコツ頑張るタイプだったものねぇ。」
「俺はあんまり勉強して来なかったからな……。」
「私にもその伸び代分けて……!」
小学校からの同級生である雪音はそう言う。
真の隣に座って勉強をしていた沙世は切実そうな顔をしていたが、沙世も伸びていることは伸びているのだ。
今まで最低限しか勉強して来なかったので。
「今の時点でこの成績なら、もう1つ上のレベル帯の大学も射程圏内だと思うぞ。」
「マジ?志望校見直すか……。」
秀人に言われた真は後でまた調べてみようと思う。
再び悠や翔太に聞かれていたところを解説しだす秀人を見て、上原奈津は疑問に思う。
「新谷って、いつ自分の受験勉強してるの……?」
「あーまぁたまに?志望校の赤本はたまにやってるし、一応今も見てるけど。」
秀人の志望大学は日本トップの大学である。
確かに今も左手に赤本は持っている。
右手にペンを持ち、悠の分からなかった数学の問題を解いているが。
「それで大丈夫なの?」
「現時点で赤本やって8割以上点数取れてるし、まぁなんとかなるだろ。」
「なんとかなっちゃうのが秀人なんだよなぁ……。」
鮎川圭はそう言って乾いた笑いをする。
多分今受けても受かるレベルではあるのだろう。
だからこそ、サポートに回っているのだが。
「相変わらず恐ろしいほどの頭の良さだよな……いやそのおかげで助かってるんだけど。」
「うちはあんたらのその成績の伸び具合にもビビっとるけど???」
「わかる〜。」
話しつつも数式をスラスラ書いていた秀人の手元を見ながら言った悠に、美愛が突っ込み、沙世はそれに同意する。
二人的には、同レベル帯だと思っていたのにまさかここまで離されるとは、という気持ちである。
秀人のおかげもあるだろうが、多分元々素養はあったのだろう。
「由美はもう受験終わりだもんねーいいなぁ、あと卒業まで好きなこと出来るねぇ。」
「その卒業が出来るようにテスト勉強はしなきゃなんだけどね……。」
沙世にそう言われた由美はちょっと苦笑いをして言う。
由美は先月、製菓の専門学校の入試を受け、無事に合格した。
なので一足先に受験が終了したのだ。
「由美なら問題ないとは思うけどね。」
「私も服飾とか美容の専門学校にしとけばよかったかな……。」
「専門かー……。」
由美の成績は平均くらいではあるので、今まで通り勉強していれば、卒業出来ないなんて自体にはならないだろうと香緒里は思う。
沙世と悠は遠い目をしている。
「やめとけ。沙世たちが専門を志望して万一受かったら、油断して遊びまくって成績下がって卒業が危うくなる。」
「だろうな。須賀だから問題ないだけだ。」
「うぅんその通りすぎる……。」
「ぐうの音も出ねぇ。」
秀人と亮にスパンと切られた二人は肩を落とした。
「私たちも中間テストしっかり受けないと卒業出来ないものね、頑張らないと。」
「テスト勉強も受験勉強のうちと思ってやるしかないね。」
雪音と翔太は揃って少し伸びをした後、勉強に戻る。
他の皆もそれぞれペンを持ったり単語帳を開いたりと取り掛かる。
中間テスト終わったら、何をしたらいいんだろうな……と由美はふと思う。
いや、でも今はテスト勉強に集中しなきゃかな。
少し複雑な気持ちを抱きそうになるが、それを振り払って、教科書を開いた。




