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一期一会  作者: 雪奈
第18章 秋色に染まる文化祭
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閑話 君を想って


町田辰哉が初めて吉崎香緒里と話したのは、一年生の時、学級委員に就任にした後のことだった。


担任の柏木から業務内容を聞き、やる事の多さにやりたがる人はなかなかいなくて。

仕方なく自分が引き受けることにした町田と、同じ理由で手を上げた香緒里。


「1年間頑張ろうね、よろしく。」


そう言って笑った顔を今でも覚えている。




かわいいなとは当初から思ってはいた。

けれど、入学してからすぐに話題に上がっていた新谷秀人の彼女であるとわかったので、恋愛対象には入っていなかった。

入学式で新入生代表を務められるレベルの頭脳、体力テストでも軒並みハイスコア、そして芸能人ばりのルックス。

どう考えても、足が速いだけで、容姿も成績も平均の自分が敵うはずないなと思っていた。




そんな風に思っていたのだが。


一年生の文化祭準備中。

逃げる悠をみんなで捕らえてメイド服の試着をさせた後、男子全員それぞれメイド服を着ることになった。

女子は執事服を試着している。


「町田くん、男子のみんなのサイズどう?」


香緒里は谷中沙世と一緒に町田のそばに来た。


「……ふふっやっぱり男子のメイド姿、面白い……っ!ダメだ、ツボってきた……!」


沙世は町田のメイド姿を見て吹き出し笑い出す。


「悠とか直樹じゃなけりゃこんなもんだろ?んで、本番はメイクするんだろ?」

「する、するけど、多分私メイクしながら笑っちゃうかもしれない……!」


そんなに面白いのだろうか、いや、まぁ普通に考えたら面白いか。

香緒里の方を見ると、笑いを堪えているように、手で口を抑えている。


「吉崎………笑うんなら思いっきり笑ってくれた方が楽なんだけど?」

「ご、ごめんっ……!ふふふっ、ダメ、やっぱり無理、あはははっ」


町田がそう言うと、香緒里は我慢を止め、珍しく爆笑しだした。

それを見て、キュンとしてしまった。

かなり想定外である。


自分の女装を見て爆笑する姿を見て好きになるとは思わなかった。

線引きをして、好きにならないように心掛けていたのに、そこでコロッと惚れてしまった。



かと言って、その後「付き合いたい」という思いが強くなったりはしなかった。

もちろん、好きは好きだ。

だけどだからどうこうしたいというのはなかった。


しかも、文化祭の後くらいから、時折秀人がC組に顔を出すようになった。

香緒里は気が付いていないが、多分牽制のためなのだとは思う。

C組に香緒里に薄ら好意を持っていた男子は当時は多かった。

が、仲良さそうに話す2人を見て大体は諦めていったように見えた。


町田の気持ちは、恐らく秀人に気が付かれていたと思う。

過度に香緒里に近付くことはしなかったが、学級委員という立場上、悠や直樹の次くらいにはC組男子の中では香緒里と親しかった。


現在はもちろん、当時も香緒里と秀人の間に入ろうとは思わなかった。

なぜか、と言われると明確には説明出来ないが、好意と同時に憧れや尊敬もあったのだろうか、と今は思う。


だからこそ、しっかり諦めた後。

2年生の文化祭でも力になろうと頑張れたのだと思う。


その頃には以前と比べて明らかに香緒里と秀人の雰囲気がしっかり恋人同士の物に変わっていたので、諦めもつき、いい友人として付き合っていた。


香緒里は国体に備えて空手の練習をし、生徒会の仕事をしつつもクラスの劇の脚本を書くというハードワークをした結果、倒れてしまった。

幸い数日で回復したものの、その知らせを聞いた町田は酷く後悔をした。


無理するタイプなのはわかっていたはずなのに任せてしまったことを。

なので、その後は香緒里に頼り切りにならず、町田が中心になり、クラスの皆と共に劇を作り上げた。

大変ではあったが、なるべく香緒里が生徒会の方に尽力出来るようにしたかった。


そのような経緯もあって、信頼してもらっているのだとは思う。



八代が香緒里に興味を持ち出したのは、若干町田のせいもある。

町田が香緒里に好意を寄せていたことを知っていた八代は、その頃から徐々に香緒里に注目していったのだと思っている。


怪しいな、と思ったのは2年生の終わり頃、入学試験の手伝いをすることになった時。

生徒会の他に、各部から2年生を2人ずつ応援を出さないと

いけないことになり、町田と共に八代が立候補をしたのだ。

2年時学級委員をしていたが、それも推薦をされたので仕方なく、というレベルで、積極的に学校の手伝いをするタイプではなかった。

だから、珍しい、と思ったのだ。


「お前がやりたがるなんて珍しいな。」

「まぁ、たまにはね。」


突っ込むと、そう、肩を竦めて返ってきた。


その入学試験の手伝いの際に、幾度となく香緒里に視線を向けていた。

単なる興味かと思っていたが、それが興味だけでないことが分かったのは3年生になってからだ。


香緒里と同じクラスになった八代は、あれだけもうやりたくないと言っていた学級委員を自らやり出したのだ。

怪しいにも程がある。


問い詰めるとあっさり、


「もちろん、好きだよ。」


と認めた。


八代的には入り込める余地があると思ったらしい。

だが、2年間香緒里を見てきて、秀人ともそれなりに関わってきた町田からすると、それはないと思った。


一見、秀人の独占欲が強いように見えるが、香緒里も相当秀人のことが好きであろう事が端々から見えるのだ。

最初からそうだったわけでない。

この2年間で徐々にそれが強まってきている。

秀人はただのハイスペ男なだけじゃない。

普通にいいやつだ。

だからこそ、町田は踏み込めなかった。


二人なら拗れるようなことはないとは思っていたが、八代の強かさを知っている身としては少し不安に思ったので、秀人に忠告はしておいた。



しばらくして、八代は振られた。

数日は落ち込んでいるように見えたが、その後はいつもと変わらなかった。

だが、簡単には諦められないようで、まだ引きずっている。


「あれだけしっかり信頼関係を構築してんのによく諦められたよな、町田。」


と八代に言われた。

諦められたからこそ、信頼関係が出来たのだと町田は思っている。

そもそも、香緒里は町田からの思いには一切気が付いていない。

何もないと思われてるからこそ、この人は大丈夫だと思われてるからこそ、信頼された。


八代が信頼されたのも多分そういうことなのだ。

好意を寄せられ告白もされた。

でも断った。

だからもう何もないだろう、と香緒里的には思ったのかもしれない。

八代は本来出来るやつで、距離も上手くとれるタイプだから。


実際は、諦められていなかったのだが、そこも香緒里は気が付かない。



後夜祭で、香緒里たちと分かれた後に隣を歩く八代を見る。


「不憫なやつだな。」

「なんだよ急に。」

「いや?何となく。」

「………お前みたいに諦められるんならすっぱり諦めてーよ。」


八代はそう言って溜息をつく。

多分こいつは卒業式まで引き摺るんだろうなぁ、とその顔を見て思う。

二人の仲の良さを目の当たりにして、ちょっと傷付きながら。


ほんと、難儀なやつだ。

まぁそれでも好きになってしまったのだから仕方ないのかもしれない。


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