9、後夜祭
文化祭が終わり、一般客は帰って行く。
この後は後夜祭だけだ。
片付けは明日なのだが、香緒里は八代や柚希、七恵と共にゴミだけはまとめておいた。
他のクラスメイトは既に後夜祭が行われる校庭へ行っている。
秀人たちからも校庭にいるとの連絡が来ている。
「今年は後夜祭しっかり楽しめそうだわー。」
と言いながら、校庭に出た後柚希は女テニの友人たちを見つけてそちらの方へと行った。
香緒里は秀人の迎え待ちである。
八代もそれに付き添うつもりのようなので、七恵は念の為一緒にいることにし、一輝にこっちに来るように連絡を入れた。
「無事に終わって良かったねー。」
「ほんとね。香緒里も今年はちゃんと楽しめたんじゃない?」
「そうだね、クラスの方にも部活の方にも行けたし、休憩時間もあったし。」
「去年がハード過ぎでしょ……。一輝も似たようなこと言ってたけど……。」
去年は一輝と共に文化祭の巡回や運営を行っていたため、休憩時間という概念はなかった。
「八代くんもありがとねー。」
「……俺?なんかしたっけ?」
「去年までは町田くんと学級委員してて、色々助けてもらってたから、今年は新しいクラスだから大丈夫かなって、心配してたの。」
去年とはまるで勝手が違った。
クラスメイトはあまり関わったことがない人たちばかりで、仲のいい人たちも少なかった。
「でも、八代くんがいてくれたからなんとかなった……というか成功出来たなって。相方が八代くんでよかったなぁって、思ったの。」
香緒里の直球の褒め言葉に八代は固まる。
クリーンヒットしてるな……と七恵は苦笑いをした。
香緒里は反応のない八代を見て、小首を傾げる。
「……あのさ、吉崎さん……。俺が吉崎さんのこと好きなの、わかってそれ言ってる?」
「え…………?……好きなの!?」
暗に「まだ私のこと好きだったの!?」という言い方をする香緒里に、八代はダメージを受ける。
やっぱりわかっていなかったのか…………。
「さすがに、ちょっと同情するわ……。」
急に後ろから声がして、振り向くと秀人がいた。
町田も一緒にいる。
「お前に同情されたくはねーんだわ。同情するくらいなら、ちょっと吉崎さんと二人きりにしてくれない?」
「それは絶対に断る。……二人きりになる必要ないだろ。」
秀人に対して苦虫を噛み潰したような顔をする八代。
それに対して秀人は淡々と返しつつ、目を細める。
「あー、吉崎。八代のことはそんなに気にしないでいいと思うぞ……?」
まさかまだ好意を持たれてるとは思いもよらなかった香緒里は、どうしたらいいのかと難しい顔をしていた。
それに気付いた町田は苦笑いをしながらそう声を掛けた。
「そう……??」
「あいつが勝手に好きなだけだから、そのままいつも通りでいいだろ。」
「うん、私もそう思う。一喜一憂するのも八代の自由だし。」
町田と、それに続けて七恵は言う。
それでいいのだろうか……?と香緒里は思ったが、他に特に何か出来ることを思いつくことも出来なかったので、二人の言うことを信じてみることにした。
「ところで、町田くんも一緒に来たんだね。」
「八代探しててな。多分吉崎と一緒にいるんじゃないかと思って、秀人についてきたんだよ。」
八代なら香緒里を一人置いて行きはしないだろうという秀人の予測だが。
不本意ながらそういう信頼はあるらしい。
「なな、ここにいたのか。」
「あ、一輝!ごめんねーこっちまで来てもらっちゃって。」
「どうせ迎えに行くつもりだったし、いいよ。」
やって来た一輝は秀人と八代の方を見る。
「んで、これどういう状況?」
「あー、んとねー……」
七恵は一輝に先程の話をする。
聞いた一輝は呆れたように香緒里を見る。
「相変わらずだな、吉崎……。」
「そう言われましても……。」
その様子を見ていた八代は溜息をつく。
「あそこまで気が付かないの、ある意味才能だろ……。」
「自分がそう見られるって感覚がないからな、香緒里には。」
「……お前は例外だと?」
「当たり前だろ。」
積み上げてきた時間が違うのだから当然、とばかりの反応を秀人はする。
腹立つやつ、と八代は心の中で呟く。
その時、秀人のスマホが鳴る。
沙世からだ。
「もしもし?」
『香緒里見つかったー?』
「あぁ、合流出来たとこ。」
『去年と同じ場所にいるからさーなんかついでにご飯買ってきてー。』
「はいはい。何でもいいか?」
『チョイスは任せる!』
「了解。」
電話を切り、七恵たちと話す香緒里を見る。
「香緒里、沙世がなんか食べ物買ってきてから来てくれってさ。」
「わかった。じゃあそろそろ行こっか。」
秀人は香緒里の手を取り、香緒里は七恵たちに「また明日ねー。」と手を振り二人は屋台の並ぶ方に歩いて行った。
「俺たちも行くか。何か食いたいものある?」
「んーどうしよっかなー。」
一輝と七恵も手を繋ぎ、歩いて行く。
残された町田は八代を見る。
「いい加減、諦めねーの?」
「……そう簡単に諦められたら苦労しねーよ。しかも、あそこまで信頼してもらえて。」
無理なのはわかっている、それでも中々気持ちというのは整理がつけられないものである。
「むしろ、あれだけしっかり信頼関係を構築してんのによく諦められたよな、町田。」
香緒里が2年間町田と学級委員をして、その上で町田に信頼を寄せているであろうことは見て取れる。
いい友人としてしっかり見られている。
「んーーなんだろうな。秀人がいたから、変な希望持たなかった、てのはあるかもな。憧れ、とかに近い感じ?」
そこが八代との違いなのだろうと町田は思う。
複雑な表情をしつつ、香緒里たちの後ろ姿を見る八代の背中を町田は叩く。
「とにかく、俺たちも行くぞ。陸部のやつらで集まってる。」
「ん。わかった。」
二人も、人混みの中へと入って行った。
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「あ、来たきた!おつかれーありがとう〜!」
両手にたくさん袋を下げ、こちらに向かって来た香緒里と秀人を見て沙世は手を振る。
「どんくらい買えばいいのかわかんなかったから、とりあえず適当に腹に溜まりそうなもの買ってきたぞ。」
「たこ焼きとか焼きそばとかポテトとか。あとは甘いものもちょこちょこ買ってきたよ〜。」
「やったー!」
香緒里がラインナップを告げると直樹は両手を上げる。
雪音たちもそばにやってくる。
「美愛、食わねーの?」
「あー今行くー。」
由美と圭と手持ち花火をしていた美愛は悠の呼び掛けにそう返す。
美愛以外の全員は一瞬、固まった。
今………名前で呼んでなかった???
香緒里も思わず二人を見てしまった。
隣にいた秀人も少し驚いたようにそちらを少し見つつ、会話を続ける。
付き合って一年以上経つが、悠の美愛への呼び方は変わらなかった。
そもそも悠自身が奈津以外の女子を名前で呼ぶところを見た事がなかったのでもはやそういうものかと思っていたが。
他の皆も気付いてはいるものの、突っ込めずにいる。
沙世は手で口を抑えてニマニマしていたが。
その中で、
「ユウ、ミメイのこと名前で呼び出したのー?」
直樹が突っ込んだ。
直樹の性格と二人との関係性を考えると、突っ込めるとしたら彼だけではあるのだが。
「まぁ、そうだな。」
「急に?」
更に追求する直樹を見た後、美愛の方も見、視線を逸らす。
「別に……呼びたかったから、呼んだだけ。」
照れているのか少しぶっきらぼうに悠はそう言い、美愛はそれを聞いてちょっと嬉しそうに顔を緩ませた。
沙世はテンションが上がったのか隣の真のことをバシバシ叩き出した。
真は苦笑いをしながらそんな沙世を見ている。
あの後。何かあったんだろうなということは戻って来た美愛と悠の様子を見て由美も圭も察していた。
美愛もモヤモヤもすっかり晴れたように、すっきりした顔していたので。
楽しそうに話す二人を見て、由美と圭は顔を見合せてホッとしたように笑った。
『さー次は3年生のミス緑高ミスター緑高の発表でーす!』
今年もステージには時行が立っている。
文化祭実行委員になったのなら、当然ここに立つつもりだったのだろう。
アシスタントとして2年生の文化祭実行委員もいるが、実質時行一人でMCをしており、多少サポートするのみとなっている。
『まぁね、皆さん予想はつくと思いますよ、特に3年生の皆さん。何せ二連覇してますからね??と、いうわけで今年もミス緑高は3年D組の安西さん、ミスター緑高は3年A組の新谷くん!!はーいそんな面倒くさそうな顔をしないでステージに来てくださーい!』
二人とも不動の人気である。
今年も、仕方ないという顔をしながらステージへと向かう。
『お二人が移動してる間に。もうね、変わり映えがなさ過ぎてつまらないので、3年生は今年は2位と3位も出しちゃおうかなと思いました。あ、ステージには来なくてもいいですよ??』
時行の言葉にステージを見ている観客たちはざわつく。
『では、女子からいきますねー。第2位は3年C組の吉崎さん!去年も2位だったねーかおりん聞いてるー?』
ステージから少し離れた位置にいた香緒里は時行の言葉に顔を上げる。
「え、また???なんで?」
『ファンクラブもあるくらいですからねー当然っちゃあ当然。おめでとー!では第3位は3年D組の山瀬さん!こちらは男子人気が高かったぽいですねー。』
沙世は若干納得のいかない顔をしながら美愛の方を見る。
「美愛の方が美人じゃない???」
「いやまぁ別に何位でもええけど。」
『では男子〜第2位は3年E組の鮎川圭くん!実は彼、3年連続2位でした!!』
香緒里たちは圭を見る。
見られた圭は苦笑いをする。
「いや、もう今更別に悔しがったりしないよ……。秀人が人気なのは事実だし。万年2位ってのは確かに微妙な心地だけどさ。」
「1年の時はあんなに悔しがってたのに。」
「俺も大人になったの!」
沙世に言われた圭はそう言った。
モテることに執着しなくなったのは、由美のせいなのかな……?と香緒里は圭を見て思う。
美愛のことを好きな頃はそうでもなかったのだが。
まぁあれは悠もいたからな……状況が違うのかもしれない。
『で、第3位。去年までは圏外だったんですけどねー今年急上昇しました!3年A組鮎川悠くん!身長めちゃくちゃ伸びましたからねー噂によると入学してから24cmも伸びたとか。俺にももう少し身長分けて!』
「え……なんで?」
悠は香緒里同様きょとんとした顔をしている。
なんか最近よく声を掛けられるな、くらいの認識でしかなかった。
告白をされてるわけでもない。
なので、本人にはあまり実感が無い様子だった。
「ほんと、モテるようになったなぁ。まぁめっちゃかっこよくなったから当然かもしれへんけど。」
隣にいた美愛がちょっと笑いながら言う。
その言葉に悠は耳を赤くし、目を逸らす。
「………そういうこと普通に言うなよ。」
「それ、あんたが言うん?人の事言えへんやろ。」
何か二人の間にあって、美愛のモヤモヤは晴れたんだなと香緒里もそのやり取りを見て思う。
派手に変わったわけではない。
けれど確かに二人の雰囲気は違っていた。
ステージ上では時行が秀人に絡んで軽くあしらわれている。
今年も文化祭終わっちゃうなぁ、と香緒里は少し寂しさを覚えつつも、楽しかった2日間を噛み締めた。




