7、非日常な
文化祭2日目。
由美は調理部の仕事を早朝から行い、昼過ぎから今度はクラスの仕事をしていた。
イベント事の調理部は毎度忙しい。
3年目とはいえ、やはり疲れはする。
「あれ……??」
ゲームを終えた人たちに渡す景品のお菓子の在庫がもうあまりなかった。
どこかに予備のものがあるはずだが見当たらない。
近くにいたクラスメイトに聞くも皆分からないとのこと。
「学級委員なら知ってるんじゃない?」
と言われたものの、現在学級委員は二人ともシフトではないのでこの場にいない。
連絡先……は交換していない。
もしかしたら圭くんなら知ってるかな……?
と思い、圭の方を見るが現在ルーレットでお客様対応中。
どうしようか………なくなる前に見つけないといけない。
圭はその視線に気が付くと、一緒に対応していたクラスメイトに「ちょっと抜けるね。」と言って由美の方へ行く。
「由美ちゃん、何かあった?」
圭が来ると、由美は少しホッとしたような表情を浮かべた。
「あ、えと……景品がもうすぐなくなりそうなんだけど、予備がどこにあるか分からなくて……。」
「あぁ、なるほど。それ、スペースないから空き教室に置かせてもらってるんだ」
「そうだったんだ。じゃあ取ってくる。」
「意外と重たいし、俺取ってくるよ。」
教室を出ようとする由美を制し、圭はそう言う。
「いいの?ありがとう。」
由美にお礼を言われた圭はちょっと表情を和らげ微笑んだ後、荷物を取りに行くため教室を出た。
「なぁ奈津。あれで特別扱いしてないつもりなんやろか?」
「そのつもりらしいよ?残念なことに。」
「由美もされてる意識はさっぱりなさそうやしなぁ。」
二人のやり取りを受付から見て、美愛と奈津は話す。
「特別扱いねぇ………。」
「美愛ちゃんも特別扱いされたい?」
「いや、そういうわけやないけど……。」
暗に『悠に』という意味で言うと美愛は少し言葉を濁した。
まぁ今でもだいぶ悠の中では特別扱いしてるだろうけど。
美愛はあんまり気が付いていないようだが。
元が優しいタイプだと分かりづらいのかな??
いやでも雪ちゃんはしっかりその辺わかってるだろうしな……。
特別扱いする側もそうだけど、もしかしたら受け取り手側にも問題があるのかな?と奈津は考える。
美愛ちゃんもそのうち気付くのいいんだけどねぇ。
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「はいじゃあ次の方ー何名様ですかー?」
町田は今日も受付担当のクラスメイトたちと共にお客さんの誘導をしていた。
昨日も今日も特に大きなトラブルなく運営出来ている。
あと数時間で終わるし、もうひと踏ん張りかな、と思っていると、待機列の方がザワザワと騒がしくなった。
なんだろうとそちらを見ると3人組が階段を上がってきた。
オーラがすごい。
恐らく保護者であろう、どことなく見た事のあるような整った顔の男性と、ものすごい美女、そして中学生くらいのイケメン……こっちはもっとなんか見た事ある。
顔面偏差値高い3人組を待機列にいたお客さんたちはチラチラと見ている。
「あれ?美鈴さんたち。」
ちょうどお客さんを出口まで誘導し終えた悠が出てきて、その3人組に気付いた。
「あら、悠くん。秀人、いるかしら?」
美女が悠に向かってそう聞いた。
秀人を呼ぶってことは………
「え、秀人のご両親!?」
「ん?あぁそうだぞ。俺秀人呼んでくるわ~。」
悠はそう言って入口から中に入って行ってしまう。
なるほど、確かに言われてみると父親らしき男性はどことなく秀人に似ているし、弟らしき中学生くらいの男子は秀人っぽくはある。
で、この人が噂のアパレル会社社長の母か…………。
ここまでの美女、日常で見た事がない。
近しいのは去年の女装した秀人くらいか。
「なんで父さんと秋人まで来てるんだよ……。」
秀人と翔太が入口から出て来る。
「美鈴さんに忍さん、お久しぶりです。」
「翔太くん久しぶり。いや、ちょうど非番になってな。」
「俺も今日は塾、夜からだからさ。」
忍と秋人はそう説明する。
秀人はちょっと溜息をついた。
「家族総出で文化祭来るなんてそうないぞ?」
「だって、今年の夏休みは香緒里ちゃんうちに来なかったでしょ?だから会いたかったのよ。ねぇ?」
「そうそう。」
「しかも俺じゃなくて香緒里目当てかよ。」
ちょっと文句は言っているものの、嫌がってはないんだよな、と翔太はそれを見て思う。
「町田、俺と秀人上がっても平気?」
「あぁいいぞ。どっちにしろそろそろ交代の時間だしな。」
どうせ香緒里のクラス行くんだろ?と秀人が言うと、3人は「もちろん」と答えていた。
まだ香緒里のシフト時間よりは早い。
秀人もようやく香緒里のウェイトレス姿が見れることだろう、家族付きだが。
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秀かおファンクラブ会長の中村彩葉はクラスの仕事を終え、部活の仕事に向かうために階段を降りていた。
すると、目には見えないはずのオーラが下から上がって来るような気がした。
なんだろう……?と思っていると、ものすごい美女とダンディな男性とイケメン中学生と共に、秀人と翔太がいた。
「しししし新谷先輩!!?」
「あぁ、中村か。」
彩葉に気付いた秀人が視線を向ける。
「男バスの方に行くのか?」
「そうです……けど、そちらの方々は……?」
「うちの両親と弟。」
ご両親に弟さん……!!!!どうりで美しいわけだ………
ビジュ強ファミリー過ぎる……そりゃこれだけのイケメンが生まれるわけですね……と彩葉は納得した。
圧倒的美に彩葉があわあわしている間に、
「シフトは終わったけど、また後で顔出すから誰かに伝えておいてくれ。」
と言って秀人は両親たちを連れて階段を上って行った。
まぁそうなるよね、みたいな顔を翔太はして彩葉を見ていた。
その集団の中に普通に混じって会話している石川先輩も相当ですよ??と言いたいが、心の中で留めておいた。
とりあえず、スマホを取りだしメッセージアプリを開き、総勢100名近くいる秀かおファンクラブのグループメッセージに、
『メーデーメーデー。新谷先輩のご家族が揃って来場。見学する際はご迷惑が掛からないように。』
と送った。
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シフトが終わった沙世は今日も真と回ることになっている。
真がトイレに行くと言うので、近くで文化祭のパンフレットを読みつつ、今日は何を食べようか考えていた。
昨日は模擬店中心だったからなー今日は1、2年生の方に行こうかな。
なんて思いながら頭の中で食べたいものをリストアップしていると、声を掛けられた。
「ねぇねぇ、今ちょっといいー?」
「え、何?」
顔を上げると、緑高とは違う制服を着た男子生徒二人組が前に立っていた。
「一人?それとも友達待ってる?」
「もし良かったら案内してくれない??」
これは……ナンパだな??
と沙世は思った。
ナンパされた経験などないが、多分そうだろう。
彼氏待ってるから、と言おうとしたところで腕を引かれた。
「沙世、知り合い?」
自身の胸元にすっぽり沙世を収めた真は沙世を見下ろして聞く。
「ううん、知らない人。」
「そっか。……俺の彼女なんだけど、なんか用?」
チラリと二人を見ると、ちょっと顔を強張らせて、「何でもないです……」と言って引き下がって行った。
別に睨んだわけじゃねーんだけどな…………とビビられてしまったことについて真は思う。
目付きがちょっと良くないのは元からなんだけどな……とも。
沙世を再び見るとニマニマしていた。
「沙世?」
「ナンパされたの始めてだけど、助けてくれたの嬉しい。」
「そっか。」
満足そうにしてるのを見て、真はちょっと笑う。
「ナンパ、私でもされるんだねー文化祭のノリなのかなー?」
「前から言ってるだろ?かわいいんだから気を付けろって。」
「かっ……!だから真!そういうこと急に言わないでってば……!!」
かわいいと言われた沙世は動揺して顔を赤くする。
たまに突然そういうことを言うので心臓に悪い。
真はさり気なく言ったことをよくわかっていない様子で首を捻っている。
こういうところ、ほんと香緒里に似てるんだから……と沙世は思っていると、また声を掛けられる。
「あ、沙世ちゃん、真くん!」
「え、美鈴さん!!?」
秀人共にやって来た美鈴たちだった。
「忍さんたちも来たんです?」
「うん、香緒里ちゃんに会いたくてね。」
「なるほど。」
また遊びに来てねーと言って美鈴たちはC組の方へ向かって行った。
「あ、雪音教室にいる?」
「うん、着替えて待ってるよー。」
翔太だけ、そう沙世に確認するとD組の方へ向かった。
「しかし秀人、せっかく香緒里のウェイトレス姿見れるのに、イチャイチャ出来なくて残念だねぇ。」
「いやさすがにそもそもクラスじゃやらないんじゃないか……?」
それぞれを見送る沙世と真はそう言う。
そう言ってる2人の距離が一番近いことに、沙世も真も気が付いていない。
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C組のカフェは今日も好評で、それなりに人が入っており、皆それぞれバタバタしていた。
香緒里はオーダーを取り、作ってもらったドリンクやフードを運ぶ、という作業をサクサクとこなし、ホールを回していた。
「相変わらず仕事の出来る人だな……。」
「まぁ、香緒里だからねぇ。」
無駄なく動く香緒里を見て、八代と柚希はそう話す。
生徒会でも仕事が早かった。
一輝と組むと爆速で仕事が終わっていった。
もう少ししたら休憩という時間になった頃、入口の方が騒がしくなった。
もしかして……と思うと予想通り秀人がいた。
香緒里がそちらへ寄って行くと、美鈴も顔を覗かした。
「あ、美鈴さんと一緒に来たんだ。」
「あー……うん、というか、父さんと秋人もいる。」
「え!?」
「ごめんね、一緒に来ちゃった。」
突然の新谷家勢揃いに教室内がザワつく。
特に緑高生は入口をガン見している。
とりあえず、香緒里は4人を席に案内した。
「やっぱりその服にして正解だったわねー香緒里ちゃん、とっても似合うわ。」
「ありがとうございます。この服……女子のも男子のも、クラスのみんなやお客さんに好評なんです。」
柚希と七恵は少し離れた位置から5人を見る。
「新谷家……やばいね。」
「全員ビジュ強すぎるよね。弟くんもかなりイケメンでは??あれで中学生でしょ?」
その3人と違和感なく親しげに話す香緒里を見て、これまでの仲の良さが感じられて八代は複雑な気持ちになる。
中学からの同級生であることは知っていたが、家族とまで仲が良いとは予想外……いや、吉崎さんなら有り得るか……。
「香緒里、もうすぐ休憩?」
「うん、もう時間になるかな……?」
秀人に聞かれた香緒里は教室の時計を見て言い、それを聞いた秀人は美鈴たちを見た。
「で、母さんたちはこの後どうするんだよ?」
「そうねーとりあえずあちこち見て回ろうと思うけど……あ、やだ、さすがに二人の邪魔はしないわよ?しっかり文化祭デート楽しんでちょうだい?」
「……そうかよ、ならいいけど。」
コーヒーを飲み終えた忍は香緒里の方を見る。
「冬休みはさすがに忙しいだろうけど、春休みあたりにまた遊びにおいで。」
「はい、ぜひ。」
「俺もその頃には受験終わってるだろうしね。また一緒に遊ぼ。」
「そしたら私もお休み取らなきゃかしら。香緒里ちゃん、また一緒に買い物行かない?」
「あのさぁ、俺の彼女なんだけど……?」
「いいじゃない、普段独り占めしてるんだから。」
よくはねーよ、と秀人はため息をつきつつ言った。
そのやり取りを香緒里はちょっと笑って見守る。
「なんか、ご両親といるとちゃんと新谷くんも子供なんだなってのがわかるね。」
「いつも大人っぽいもんねー。」
「で、八代大丈夫?」
「……まぁ、とりあえず。」
時間になったので交代の準備をしつつ柚希と七恵、八代は話しながら香緒里たちの様子を観察する。
周囲のお客さんたちもチラチラとそちらを見ているが、秀人含め見られることは慣れっこなのか特に気にした様子はない。
文化祭という非日常な空間の中でも、そこだけ更に非日常の空間であるように見えた。
分かっちゃいたけど、やっぱり俺の入る隙間はないんだろうな。
そう、八代は心の中で呟いた。




