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一期一会  作者: 雪奈
第18章 秋色に染まる文化祭
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5、気になる距離


クラスの仕事が一段落した香緒里は昨日同様、雪音と美愛と第二体育館へ向かった。

秀人たちはまだ仕事をしているらしく、メッセージを入れても返信がしばらくない。

なら、迎えに行った方が早いのではないかという話になったのだ。


「美愛のクラスは結構人入ってる?」

「んーまぁぼちぼちやなぁ。圭目当てっぽい客は割りとおったから、シフト終わったらちょい減るんやない?」

「あー、そっかディーラーっぽいことしてるんだっけ。それは似合うね。」


香緒里が聞くと美愛はそう話した。

ルーレットのディーラーをする、という話は事前に圭から聞いていた。

女の子と遊んだりはしなくなったものの、依然圭はモテる。

校内の女子生徒はもちろん、外部からの女性客も呼べるだろう。

当の本人は最近はそれどころではなさそうだけど、と香緒里は思う。


「沙世と真は二人で回ってるの?」

「うん、あちこち食べに行った後、ステージの方見に行くって言ってたよ。」


奈津たちもB組の方に向かったらしい。

どの道最終的にはステージ近くで会えるだろう。


第二体育館に着くと2階へ上がる階段の方まで列が続いていた。

大盛況らしい。

並ぶ人の脇を抜けて階段を上り、香緒里たちは2階へ行く。


階段を上がったところにある受付のあたりは少し明るい。

だが昨日とは違い、体育館へ入る入口は閉まっており、入場する時にだけ開く。

その中は真っ暗で、何があるかは見えない。

時折悲鳴が中から聞こえてくる。


コンセプトは定番らしく学校の七不思議。

中を巡り、その七不思議について調べるという流れらしい。


受付付近にいた町田がこちらに気付いて手を上げ、来てくれる。


「お疲れ様。秀人たちか?」

「町田くんもお疲れ様。うん、そうなんだけど……まだ上がれないかな?」

「いや……交代のやつらも戻ってきてるから行けるはず。ちょっと待ってな。」


町田はスマホを取り出して電話を掛けだす。


「あー秀人?吉崎たち来たぞ。あぁうん、休憩入っていいよ。翔太と悠は?あーそっか、OK、じゃあ中に一応声掛ければ来てくれるだろ。」


少し話した後、電話を切った。


「多分3人ともすぐ来るよ。」

「ありがとう。秀人、トラブル対応係って聞いてるけど……どこの辺にいるの?」


町田が受付や入口近辺で列管理や案内をし、秀人が中でトラブルがあった際に対応をする、と昨日秀人たちから聞いてはいたが、実際中がどのようになっているのかは知らない。

去年の反省を活かし、秀人は客前に出ないことになっている。


「体育館の中に俺ら用の待機ブース作ってあんだ。そこにいる。タブレットで中の様子を監視する感じだな。翔太は中で案内係。悠は迷子になった人やビビって動けなくなった人たちを出口まで誘導する係。」

「悠、中入って大丈夫なん?」

「本人曰く、脅かされないからマシらしいぞ。渡辺も後で入ってみるか?」

「入らへんわ!」


美愛はもう雰囲気でちょっと怖気付いている。

中から聞こえてくる悲鳴が恐怖心を煽るのだ。


「まぁ、私もお化け屋敷は苦手だからなー町田くんは平気なの?」

「俺は全然。むしろホラーは好きな方。」

「羨ましい……。」


香緒里も出来たらお化け屋敷は入りたくない。

驚かされるのが苦手である。

ホラー映画等も好きな訳ではないが。

雪音も似たようなものだ。


そうこうしていると、秀人と翔太が入口から出てきた。

秀人を見た一般客がざわついている。

元々雪音をチラチラ見ていた男性客も多かったため、二人がこちらに来ると合わせて注目を浴びることとなった。


どこにいても目立つなぁ、と香緒里は思う。

自分が目立つ要因の一つでもあるということには、例によって気が付いていない。


「ごめん、こっちまで来てもらっちゃって。」

「ううん。お化け屋敷、すごい人気だねぇ。」


翔太に声を掛けられた雪音はそう返す。


「髪、かわいいね。浴衣用?」

「そうなの、沙世にまたやってもらって。」

「夏祭りの時のも良かったけど、三つ編みもかわいい。」

「ふふふ、ありがとう。」


髪に触れながら言う翔太に、雪音は微笑んだ。

その様子に周りの男性客は、なんだ彼氏持ちか……と落胆する。


「ナチュラルにイチャつくなこいつら。」

「雪音と翔太はこれが通常運転だからね。」


町田は二人を生温かく見る。

牽制の意味ももしかしたらあるのかもしれないが、基本的に二人はいつもこのような距離感ではある。

その町田に香緒里はそう言った後、隣に来てその手を取っていた秀人を見る。


「そういえば、悠は?」

「まだ中におるん?」

「今誘導中だったから、もう出てくると思うぞ。」


話していると丁度悠が出てきた。

恐らく中学生であろう女子2人組と一緒に。

片方の女の子がもう片方の女の子にしがみついており、しがみつかれてる子は、悠の腕を掴んでいる。


「……誘導係ってあんなもんなん?」

「まぁ、あんな感じではあるかな。基本男子が対応してるよ。」

「ふーん………。」


美愛が翔太に聞くとそう返って来る。

暗がりで足元も悪い中なら仕方がない距離、ではあるのかもしれない。

それでも、少しだけ心の中がザワついた。


悠と女子2人組を少し複雑そうな表情で見つめる美愛の横顔を香緒里は見る。

仕方ないだろうとはいえ、気にはなる距離であるよなぁ。

私だったら嫌だもんな、と隣の秀人を見上げる。

香緒里の視線に気が付いた秀人は目が合うと、


「俺はやらないぞ。」


と言った。

誘導係を、とも取れるし、例えやったとしても……とも取れるが、多分後者だろう。

秀人は特に知らない女子に対しては塩対応である。


悠は基本的に誰にでもフラットに優しいからなぁ。



「あの、ありがとうございました…!!」


明るいところに出て、目が慣れてきた女子中学生は悠の腕から手を離して、悠を見上げる。

そして悠の顔をみて、頬を赤らめる。


「もう大丈夫か?」

「はい、とりあえず。怖かったですけど……。ね?」

「結構怖かったねぇ……。」


そう言いつつ、悠の方をチラチラ見ている。

まさか案内してくれたのがこんな高身長のイケメンだとは暗がりの中では気が付かなかった。

かっこよくない??と二人でこそこそと話した後、悠の方を再度見る。


「あの、彼女とかいますか……?」

「彼女?うん、いるけど……。」

「そうですよねぇ……。」


ストレートに聞いてきた女子中学生に対して、悠は普通に答える。

だよねーと二人は肩を落とした。


最近モテてんなぁ悠。

と、受付の方に戻り、出口近くにいた町田はそれを見て思う。

愛想も良くノリもいいし優しいし、元々顔は整っている。

何せ鮎川圭の兄だ。

モテてないのは身長のせいだろうなと常々思ってはいた。

当人はモテている自覚はなさそうではあるが。


「悠〜。」


美愛がそう呼ぶと悠はそちらを見て、表情を少し緩ませる。


「ごめん、呼ばれてるから。文化祭楽しんでね。」


そう、女子中学生に声を掛けて美愛たちの方に向かう。

その表情を見て二人は、もしかしてあの人が彼女……?と思った。

ついでに、秀人たちを見て「何あそこの顔面偏差値高い集団……。」と呟いた。


「悪い、遅くなった。」

「……中で迷ってんのかと思たわ。」

「さすがに自分のとこでは迷わねーよ。渡辺、後で入るか?」

「町田にもさっき言われたわ、絶対入らへん。」


悠が来ると美愛は何事もなかったかのように、会話をする。

けれど、悠が来たことで少しだけ固かった表情が柔らかくなったことに香緒里たちは気が付いていた。


いつも通りに美愛は振舞っているため、悠はまだ気付いていない。


昨日あたりから少しずつ少しずつ、モヤモヤしているように見える。

大丈夫だろうか??と香緒里と雪音は無言で顔を見合わせる。


いつもより互いの距離が近くなりやすくなる文化祭。

それはカップルに限ったことだけではない。


まだ、文化祭は始まったばかりだ。


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