4、緑高祭1日目
文化祭1日目。
朝、D組で沙世は手先が器用な他のクラスメイトの女子たちと3人でクラスの女子全員分のヘアセットをしていた。
髪さえセットしてしまえば、あとは当番の時に浴衣を着るだけとなる。
「わ、やっぱり沙世上手!」
「夏祭りの時はアップにしたから、今回はゆるい編み込みのダウンスタイルにしてみたよー雪音はなんでも似合ってやりがいあるわー。」
「ふふふ、ありがとう。」
「浴衣着たら写真撮らせてねー翔太に送ってって言われてるから。」
「はーい。」
かわいすぎてこれは気を付けないと絶対男性客に絡まれるな、と沙世は思う。
真にも気を付けてもらおう。
いや、真自身も危ないけど。
「谷中さんにも特技あったのねー。」
一足先に沙世にヘアアレンジをしてもらった山瀬が手鏡でメイクや髪を確認しながら言う。
綺麗に髪をアップし、いつもより数段大人っぽく見える。
雪音とはまた違ったかわいさではある。
「何?褒めてんの?バカにしてんの?」
「一応、褒めてはいるわよ?一応ね。取り立てて何もない人だと思ってたから。」
「ほんっと失礼なやつ。かわいくしてあげたんだからもうちょい感謝してくれてもいいんじゃない?」
「あら。かわいいとは思ってくれてるのね?」
「雪音や香緒里の次の次の次くらいにはね。」
「沙世………。」
顔を合わすと口でやり合う二人に雪音はちょっと呆れた顔をする。
雪音自身も山瀬は好きではないが、敢えてぶつかりに行こうとは思えない。
「安西さんはまぁともかく、吉崎さんよりは私可愛いと思ってるけど……まぁいいわ。とりあえず部活の当番の方に行くから。」
「はいはい勝手にどうぞ。」
沙世は手鏡を出し、自分の髪をまとめながら投げやりに山瀬に言う。
出ていった山瀬を目で追っていた雪音は次に沙世を見る。
「二人とも相変わらずね……。」
「どうもイライラしちゃうんだよねぇ……。」
「まぁ山瀬さんも煽ってるところはあるけど……。」
山瀬があぁいう態度を取るのはクラスの中でも限られている。
基本的には外面が良く猫を被っている。
先程の会話も周りに雪音や沙世しかおらず、周りがザワついていて聞こえないのを狙って、言っていた。
「とりあえず、まぁいいや。文化祭楽しまなくちゃ。浴衣着替えに行こー。」
「そうね。」
二人は教室の後ろに設置されたパーテーションで区切られた着替えスペースへと移動した。
------------
文化祭がスタートし、C組のカフェはそれなりに人がはいっていた。
一昨年に、常に満席で待機列が出来ていた男装女装喫茶をやっていた時よりは余裕があった。
余裕があるが故に、お客さんから話し掛けられることも多いが。
緑高生の秀かおファンクラブ会員及び香緒里のファンの女の子たちはもちろん、外部の男子高校生や男子大学生らしき人たちからも香緒里は声を掛けられる。
「吉崎先輩、めっちゃかわいいです!!写真一緒に撮っていただいてもいいですか……??」
「え?写真……?いいけど……。」
「ありがとうございます!!家宝にします!」
「そんなに!?」
女の子たちはまだ全然いい。
あと大抵の男性客も適当に流してはいる。
だが、たまにしつこいタイプの人もいる。
「お姉さんめっちゃかわいいねー。」
「はぁ、どうも……あの、ご注文は?」
「んーじゃあコーヒーで。」
「俺もコーヒーで。ねー写真一緒に撮らない?」
「すみません、他校の方とはお断りしているので……。」
外部の知人や緑高生以外とは撮らないようにしよう、と香緒里は思っていた。
緑高生ならば全員顔と名前は分かるので、誰と撮ったかを覚えておけばいいからだ。
一応それくらいの危機管理は持っている。
絡んできた男子高校生2人組はそれでも諦めなかった。
「えーじゃあ連絡先教えてよー。」
「それもちょっと……」
「イン〇タとかのSNSでもいいよ?」
少し離れた位置で見守っていた八代は、流石にしつこ過ぎるだろと思い、近付いて、香緒里の腕を軽く引いて少し下がらせる。
「すみません、仕事中なのでその辺にしていただけますか。」
「えーじゃあお姉さんの休憩いつ?仕事終わったら一緒に回ってくれない?」
まだ諦めないのかよ……八代は心の中で舌打ちをする。
とりあえず裏方の方へ今は行ってもらうか?
でもこのしつこさならまたやって来る可能性もなくはない。
「ごめんなさい、休憩時間は約束があるので。」
「そうなの?もしかして彼氏とか??」
「えー彼氏いるの?」
「いますよ、この子に彼氏。」
今度は柚希が割って入る。
「しかも、うちの学校のミスターコンで2連覇中のめちゃくちゃイケメンな彼氏が。」
「……待って、もしかしてその彼氏さん元バスケ部の部長だったりする?」
「そうですが?」
「マジかよ、あの人かー……」
「何お前知ってるの?」
「俺バスケ部じゃん?緑高の3年の元バスケ部に引くほどイケメンがいんだよ、うちの学校の女子にも人気な。」
柚希が二人の相手をしている間に、八代は香緒里を少し離れたところへ誘導した。
「ありがとう、助かった。」
「全然いいよ。……にしても、しつこかったな今の。」
「ほんとねー……暇なのかな……。」
そういうことではないだろうとは思ったが、言ったところで恐らく通じない、というかこの人は自分のかわいさの自覚が足りなさすぎるため、わからないだろうなと八代は思う。
「とにかく、困ったら俺でも誰でもいいから呼んでね。対応変わったりとか出来るから。」
「うん、わかった。ありがとう。」
少しだけ表情を緩めた香緒里の顔をチラリと見る。
とにかく、この格好がいつものかわいさに数段拍車を掛けているからいけないんだよな……。
----------------
B組の展示は時間を追うごとに賑わってきていた。
概ね、亮の予想通りの展開である。
特に緑高生の間でクチコミで広がって人が集まって来るだろうと思っていた。
室内を暗くし、プロジェクターを何台かとライトを使い、教室内を水中に見立てて光や透明なフィルム等で魚や海藻など海の物を作った。
所謂映えスポット、というやつだ。
一輝が校内のプロジェクターの数や文化祭での使用予測などを調べてくれたため、実現が出来た。
元生徒会副会長は伊達ではない。
「亮〜。」
パソコンでプロジェクターの操作をしていた亮は、そろそろ休憩時間か、と時計を見ていると教室の入口の方から声を掛けられる。
「奈津。もう休憩か?」
「うん、人の波が落ち着いてきたし、抜けてきちゃった。圭と由美ちゃんも一緒だよ。」
奈津はそう言いながら教室内に入って来る。
後ろには確かに圭と由美がいる。
「なおちゃんは?」
「あっちで絡まれてる。」
亮が視線を向けた先には、他校の女子生徒にどのようにこの展示を作ったのか聞かれ、答えている直樹がいた。
女子生徒たちは展示と直樹、両方に興味があるのだろうが。
「亮、休憩行くか?」
奈津たちに気が付いた一輝が声を掛けてくる。
「行っても平気か?」
「交代のやつらがちょろちょろ戻って来てるから大丈夫だろ。俺ももう少ししたら休憩行くし。」
「あぁ、生徒会企画のイベントに出るって言っていたな。」
「不本意だけどな。生徒会の後輩たちの頼みだから仕方ねーよ。」
お言葉に甘えて、休憩に行くことにする。
休憩が終わったら、空手部の方にも行かなければならないが、あちらは人手がたくさん必要なわけでない。
状況によってはこちらに戻って来ることも出来るだろう。
「直樹、休憩行くぞ。」
未だ話していた直樹に声を掛けると「はーい」と返事をして、話を適当に切り上げて亮の方へとやって来る。
「とりあえずお腹空いたなぁ。」
「直樹くんはしょっちゅうお腹空いてるよね。」
「だって今日朝早起きして、調理部の仕事してたし〜既に体力あんまないんだよ〜。」
「それは由美ちゃんも同じだろ?」
「オレはユミより体力ない!」
「威張って言うことかよ……。」
先を歩く圭、由美、直樹を見ながら亮と奈津もその後を追う。
「模擬店の方に行く?」
「それがいいだろうな。直樹もあぁ言ってるし。その後ステージ企画見に行く、が無難だな。」
昼過ぎから校庭に設置されたステージで催し物をやる。
亮や奈津は出ないものの、他の何人かの友人たちは出る予定である。
「チュロス食べたーい!」
直樹の元気な声が上がる。
身長が伸びて少し大人っぽくなったが中身はそう急には変わらないな、と奈津はそれを見て思った。




