3、揺れる?
香緒里たちが届いた衣装に着替えている頃。
A組がいる第二体育館ではお化け屋敷迷路の準備が進められていた。
第二体育館は教室約3個分の広さがあるので迷路を作るのにも少々大掛かりである。
お化け屋敷の構想や迷路の順路等は秀人が考えた。
「ダンボール、あれで足りるか?」
「いや、多分足りねーだろうなと思ったから、今追加で取りに行ってもらってる。必要になりそうなものは準備してあるし。」
秀人が積まれたダンボールを見て聞くと、町田はそう答えた。
「さすが、手慣れてるな。」
「まぁ学級委員も3年目だからなー……。」
「始めは、『去年までは吉崎がいたから楽だったのに』とか言ってたのになー。」
悠は企画当初の町田を思い出して笑う。
第二体育館を使うという他のクラスより大規模な企画、しかも学級委員の相方は今年始めて学級委員をするという女子。
俺やっていけるのか………と当初町田は嘆いていた。
「香緒里は、『町田くんなら大丈夫でしょ、去年は大体任せちゃってたし』って言ってたけどな。」
「いやまぁ去年はな……でも結局みんなにあれこれ助けてもらいながらだし、今年も秀人がいなかったらどうなる事だったか……。」
翔太に言われた町田はそう言って秀人を見た。
大丈夫だろうと思われるのは嬉しいが、C組だったからというのが大きいとは町田は思う。
クラス1年目と2年目では結束力が違う。
「俺は企画しただけだ。」
スケジュール等は町田が決めてクラスに指示しているし、道具の手配や生徒会とのやり取りももちろん町田が行っている。
その辺りの段取りは慣れたものである。
「んで、とりあえず内装なんだけど。前に言ってた通り、イメージはこんな感じな。クラスのグループメッセージにもまとめておく。これを元に作ればいいだろ。」
秀人はスマホを差し出してそう話す。
お化け屋敷のコンセプトは夜の学校だ。
洋風にするか和風にするかでクラスで悩んだが、身近な学校が舞台の方が学生相手にはリアリティがあり、かつ準備としても学校の物を使えば楽だろう、ということになったのだ。
もちろん、提案したのは秀人だ。
ちなみに秀人は一切絵が描けないので、設計図は図と文字のみ、あとは画像で指示をしている。
「机は今運び込んでもらってるし………とりあえず先にルートだけ作っとくか?」
「ガムテで床にルート書いておくと多分楽だな。」
等スマホを見つつ話していると、ピコンっと秀人のスマホに通知が来る。
「沙世?」
「あぁ、みたいだな。画像送ってきたっぽいけど、なんだ?」
秀人のスマホの画面を一緒に見ていた翔太が通知を見て言う。
メッセージアプリを開くと、『かわいかったよ♡♡』というメッセージと共に、ウェイトレス姿の香緒里の写真が何枚か送られてきていた。
もちろん、秀人は固まる。
その秀人を翔太と悠は苦笑いをしながら見る。
「これ……当日大丈夫か?」
町田は、写真を見てかわいいと思ったが秀人の前なので口には出さず、代わりにそう言った。
「……大丈夫ではないだろうな。河村に声を掛けておくべきか……。なんで今年に限って遠いんだよ……。」
同じ階ならともかく、今年は本館と第二体育館と物理的に距離もある。
秀人は溜息をついた。
とりあえず、めちゃくちゃかわいい。
直接見れないのが惜しまれるくらいに。
「不本意かもしれねーけど、八代も壁くらいにはなってくれると思うぞ?」
「まぁ、そうだろうな……。」
町田の言葉に秀人は同意する。
まだ香緒里に未練があるのは見て取れる。
ので、香緒里が客に絡まれたら間に入ってくれるだろうということは予想がつく。
そういう意味合いでは、ある意味信頼はある、不本意だが。
そんなことを話していると、今度は時行からメッセージが届く。
『お裾分けー!』というメッセージと共に、香緒里、柚希、時行のスリーショットが送られて来る。
それを見た秀人の目が細まる。
『寄り道してないで早く戻って来い、今すぐ。』
無言でメッセージをそう送った秀人はスマホをズボンのポケットに入れる。
「町田、あいつが戻って来たら容赦なく仕事を振れ。」
「……了解。」
淡々とそう言って、秀人は自分の仕事であるシフト作りを始める。
「あれ、怒ってんの?」
「怒ってるというかなんというか………トッキーに悪気も下心も一切ないのはもちろんわかってるだろうし信頼もしてるけど、それとこれとは話が別だろ?ってことじゃないか?」
こそこそと悠は翔太に聞き、翔太は無言になった秀人の思考を察する。
しばらく時行への当たりは強くなりそうである。
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E組はカジノ風のゲームコーナーをする予定である。
ルーレットやカードゲームを行う。
皆が内装作り等をしている中、圭は任されたシフト作りをしていた。
のだが、
「圭ールーレットの番号ってどうしたらいいん??」
「……ネットで参考画像見たら?」
「ねぇ圭、こっちとこっちどっちがいいと思う?」
「……どっちでも合うと思うけど。っていうか、なんでもかんでも俺に聞かないでくれる!?」
美愛と奈津以外にも、さっきからあれやこれやと聞かれる。
肝心の学級委員の二人は買い物に出ていていないため、なぜか皆圭に質問してくる。
企画の提案者でもあるし、圭に聞けば大体なんとかなると思われているからなのだが。
頼られるのはいいが、先程から作業がさっぱり進まない。
溜息をついていると、また新たに声を掛けられる。
「あの、圭くん。忙しいのにごめんね……?ちょっと聞いてもいい……??」
「……いいよ。どうしたの?」
由美だった。
ほんの一瞬停止した後、手元を止めて由美の方を見る。
「ここのルール説明なんだけど、こんな感じで大丈夫かな……?」
由美は掲示されるカードゲームのルール説明のポスターを任されていた。
手渡された紙に目を通した圭は頷く。
「うん、いいと思うよ。他のゲームの方は大丈夫?」
「多分、大丈夫……だと思う。」
「そっか、なんかあったら言ってね。」
「ありがとう、圭くん。助かる。」
お礼を言って微笑んだ後、由美は自分の席へと戻って行った。
圭のすぐそばで作業をしていた美愛と奈津はジーッと圭を見る。
「なんか、うちのこと好きだった頃とちょっと態度違うやーん?」
「ほら、あの時は悠もいたからちょっと一歩引いてたんでしょ。」
「なるほどなぁ。」
最近、美愛にも圭が由美を好きなことがバレた。
同じクラスで過ごす時間も多いので当然と言えば当然だが。
「別に……普通じゃない?」
「普通なぁ……?」
少しからかうような目線をこちらに向かって送ってくる美愛に、圭は視線を逸らす。
特別扱いをしているつもりは圭本人にはない。
意識しないようにしてることが既に意識してるんだよねぇ、と奈津は再び作業に戻った圭を見て、思う。
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文化祭前日。
この日は一日文化祭準備となる。
部活の方の最終準備を午前中にし、あとはクラスの準備に当てることが殆どだ。
ステージ発表があるような部活は少し変則的になるが、基本的にクラスの企画の方が比重が大きい。
一番大掛かりな企画であるA組は他のクラスが概ね準備を終えた中でもまだ作業を続けていた。
「照明OK、んじゃー各ブースで後で出来てないところあるか?」
「Aルートの2ブロックがまだもうちょい。」
町田の問いに悠がそう答える。
「人手足りてるか?」
「大丈夫足りてるっぽい。時間までには終わるはず。」
「OK、トッキー看板はつけられたかー?」
「問題なしーー!」
町田が各所を確認している横で秀人はタブレットを操作し、体育館内に設置している監視カメラ代わりの他のタブレットとの接続を確認している。
そこに、香緒里と雪音、美愛が第二体育館へやって来る。
「お疲れ様。終わりそう?」
「おーかおりんたちおつおつー。んー、多分大丈夫、だと思うよ。」
1階から階段を上がった付近、つまり入口にいた時行に声を掛けるとそう返ってくる。
「何か手伝おうか?」
「いやーさすがに他のクラスの人に迷惑かけるわけにはいかないよー気持ちだけ貰っとくわ。ここで待ってる?」
「邪魔じゃない?もしあれなら1階で待ってるけど。」
「平気平気。1階だとエアコンスイッチ入ってないから暑いだろうし、この辺いていいよー。3人が来てること、秀人たちに伝えとくねー。」
そう言ってもらえたので、待つことにする。
入口から体育館の中が少し見える。
電気がついていて室内が明るいので何となく全体が見通せるが、これが暗くなると周りは見えづらいだろう。
さすがに中にいる秀人たちの様子までは見えない。
「なんか、4月の時も思たけど、やっぱりクラス違うのって変な感じやなぁ。」
出入りするA組の人たちを見て美愛が呟く。
「うちが知らん人たちと話してるの、不思議な感じ。」
「あーそっか、2年間クラスも一緒だったし、部活も同じバスケ部だもんね。」
美愛と悠は、今までは関わる人たちはほぼ共通だった。
それが今年に入り、クラスが替わり、交友関係にも変化が出た。
知らない顔が出てきて、少し不安なのだろうかと中を見つめる美愛を見て香緒里は思う。
気持ちは分からないでもないが……
「まぁ、他の子と関わったところで、悠は美愛しか見てないけどねぇ。」
「だよねぇ。」
雪音はそう言い、香緒里も同調した。
そんな話をしていると、作業を終えたのか秀人と翔太が中から出てきた。
「待たせてごめん。」
「全然いいよ、無事に完成?」
「なんとかな。後は明日の朝最終チェックするくらいだな。」
「結構本格的だもんねー。」
二人はまとめて置いてあった鞄の山から自分たちのものを取り、香緒里たちの元へ来る。
遅れて悠が町田や他のクラスメイトたちと共に話しながら出てくる。
「悠、明日朝一でお試しで入ってみるか?」
「ぜっってーやだ。ルートも何が来るかもわかってるけど客としてはやだ。」
「悠くんそんなに苦手なの?」
「明日のヘルプ役大丈夫なのー?」
「それは……まぁ、驚かされないから多分平気。」
話していた悠は美愛たちを見るとすぐに鞄を取り、町田たちに「んじゃ、おつかれー。」と言って、こちらにやって来た。
「もうええの?」
「準備は終わったしな。腹も減ったし、さっさと行こうぜ。」
秀人と翔太もクラスメイトたちに声を掛け、階段を降り出す。
香緒里も町田と時行に手を振ると、雪音と共にその後に続いた。
「美愛、ちょっとモヤモヤ期かな?」
小声で雪音に言うと、雪音も「そうかも。」と言った。
「悠、最近結構モテ始めてるしねぇ。」
「文化祭、大丈夫かなぁ。」
「どうだろうねぇ。でもまぁ、悠なら上手くフォローするんじゃない?」
確かにそうかもしれない、と香緒里は思う。
悠は何だかんだ立ち回りが上手い。
体育館の外に出ると、秀人と翔太は手を差し出す。
香緒里と雪音はその手を取って、寮までゆっくり帰った。
明日から、いよいよ文化祭だ。




