6、将来
花火大会は土手で行われるが、その近くの大通りではそれに合わせて夏祭りが行われ、多数の屋台が並んでいた。
「うわー何から食べよう、迷う。チョコバナナ……かき氷……いや、まずはたこ焼きとかしょっぱいものを攻めるか……。」
「じゃがバター、お好み焼き……りんご飴もいいねぇ。」
沙世と直樹は悩ましげに屋台を見る。
夏祭りの屋台は誘惑が多い。
「さすがにこの人数でずっと移動するのは難しそうだね。」
「花火まで別行動にする?」
翔太が人混みを見て言うと、奈津はそう提案した。
「確かにその方がいいかも。二手に分かれる?」
「カップルで見て回ってていいよ?」
「あぁそうだね、とりあえずそれがいいかも。俺たちは4人で周るし。」
圭はそう言って奈津、由美、直樹を見る。
3人も異論はないようで頷く。
「いいの?」
「こっちは気にしないで。」
「花火始まる頃に土手集合で。場所もなんとなく確保しておくよ。」
奈津も圭もそう言うので、お言葉に甘えさせてもらうことにする。
亮がいないため、圭も奈津の傍を離れられないだろうからその方が安心なのだろう。
「よーし、決めた!真、最初はたこ焼き食べたい!」
「はいはい。」
決まるとすぐに沙世は真の腕を取り、たこ焼き目掛けて動き出した。
「浴衣だし、食べ過ぎるとお腹苦しくなるから気を付けろよ。」
「はーい。真も食べるでしょ?」
「そりゃな。とりあえず沙世の好きな物でいいよ。」
真はそう言って笑う。
沙世が楽しそうなのを見るのが好きなのだ。
「あっちに焼きそばもあるぞ。」
「たこ焼きの後食べる!」
「渡辺、何食いたい?」
「……お好み焼き。」
悠と二人で歩き出した美愛はちょっと間を置いてからそう答えた。
「拗ねてる?」
「そう……いうわけやないけど……。」
翻弄されてちょっぴり悔しいだけなのである。
そうとは言えずモゴモゴしていると察した悠は美愛の手を取って繋ぐ。
「俺は渡辺が好きなだけなんだけどなー。」
「またそういうこと……!ほんっま調子狂うわ……。」
なんてことないように悠は言い、前からの人を避けるように美愛の手を引く。
やっぱり悔しいので、その腕に抱きついてみる。
そして見上げて言う。
「うちかて、悠のこと好きやし。」
「……!おまっ、ちょ、近い!外!」
分かりやすく悠は動揺し、赤くなる。
浴衣、いつもと違う髪型、距離感。
先程の二人きりの状況でかつ自分から攻め込む分にはよかった。
外でこれはよくない。
「仲良いねぇ。」
「そうだねぇ。」
その二人を雪音と翔太は少し後ろからこっそり見ていた。
つけていたわけではない、たまたまである。
「お互い自分がグイグイ行くのは問題ないのに、来られると戸惑うの、かわいいよねぇ。」
「元の関係が元の関係だからね。」
そんなことを話しながら人混みの中を進んで行く。
道行く男性たちがチラチラ雪音に視線を向けているのを見て、翔太は、
「雪音、もうちょいこっち寄れる?」
と言った。
雪音は手を繋いでいる右手はそのままに、少しだけ翔太に近づいて左手をその腕に添える。
「ん、OK。人多いから気を付けてね。」
「うん、ありがとう。」
近くなった距離に少しだけ顔を赤くしながら雪音は微笑む。
翔太もそれを見て優しく笑いながら頭を寄せた。
奈津、圭、由美、直樹はある程度屋台でお腹を満たした後、花火大会の場所取りをするために土手に向かった。
19時半からの打ち上げだが、2時間前の現在でももうレジャーシートを等を敷いている人たちがいた。
「やっぱり早めに来てよかったね。」
「あと2時間かーお腹また空きそう……。」
「直樹くん、まだ入るの……??」
直樹はたこ焼き、焼きそば、かき氷等メイン所は大体食べていた。
夏祭りは今回初めて来たらしいので、楽しいのだろう。
「直樹、まだ屋台の方行きたいか?」
「うんーもうちょい見たいなー。でもケイはナツといなきゃでしょ?」
「まぁ、そうなんだけど……。」
直樹一人では若干不安ではある。
誰かはここに残らないといけないことはいけない。
女子二人で残すのも心配ではある。
となると……
「由美ちゃん、まだ足平気?疲れてない?」
「うん、今日はサンダルにしたからまだ全然大丈夫だよ。」
「そしたら、直樹と一緒に行ってもらってもいい?」
「それは全然いいけど……。」
自分たちだけで行ってもいいのだろうか、という顔を由美はしている。
「私たちのことは気にしないでいいよー、のんびり他のみんな待つし。あ、飲み物だけ買ってきてくれると嬉しいかも。」
「わかった、そしたらお茶か何か買ってくるね。」
「何か困ったことあったら連絡して。」
「ありがとう。」
「じゃーユミ、行こ〜。」
直樹と由美は連れ立って屋台のある方へと向かって行った。
圭と奈津は持ってきていたレジャーシートを敷き、そこに座る。
「よかったの?由美ちゃんとなおちゃん行かせて。」
「まぁ、仕方ないよ。奈津といなきゃだし。」
正直、出来るなら由美の傍にいたいという気持ちはある。
人も多くトラブルがないとは限らない。
し、直樹との距離の近さも心配ではある。
「圭、自分の恋愛疎かにするのはダメだからね?」
「わかってる。……でも、奈津も、意味は違えど、俺にとっては大事な女の子だからさ。それに、こんな人が多い中奈津を一人にさせた、なんてのが亮にバレたら何を言われるか……。」
ありがとう、と奈津は言う。
圭にとっても悠にとっても、奈津は妹のような姉のような家族の存在で、好きな子とはまた別の形で大事にしたい相手であるのだ。
ましてや最近の奈津を見ると、離れるのは少し不安がある。
亮は仕事が忙しくてろくろく奈津に会えていないのと、奈津が亮の前ではいつも通り振舞ってはいるのでまだ気付いていないが、不安定そうなのは圭にも悠にもわかった。
由美も奈津も心配、というのは欲張りなのだろうか。
香緒里と秀人は屋台を巡りつつ、食べたり遊んだりをして楽しんでいた。
端から端まで1周回ったところで、秀人は香緒里の顔を見る。
「大丈夫か?」
「うーん……ちょっと人酔いしたかも。」
三半規管の弱さと関係があるのかはわからないが、人混みはあまり得意ではなく、時折酔う。
「ごめん。」
「全然。どっか座れるところ行くか。確かここから少し歩いたところに公園がある。」
「よく知ってるね……?」
「この辺の地図は大体頭に入ってる。」
「さすが。」
行くぞ、と言って秀人は香緒里の手を引いて歩き出した。
屋台が並んでいるエリアから外れ、住宅街の方に歩いて行くと小さな公園があった。
ベンチがいくつかと、滑り台と砂場がある程度だ。
人は大体土手の方に流れて行くため、誰もいなく、静かだった。
香緒里をベンチに座らせると秀人もその隣に座る。
「気分、どうだ?」
「人混みから外れたから、少しいいかな。」
「なら良かった。」
花火が上がるまであと1時間程。
辺りは少しずつ暗くなってきた。
「お祭り、久しぶりだったねー。デート自体も久しぶりだけど……。」
「まぁ、寮にいるとなかなかな。一緒にいられる時間自体は長いけど。」
普通の高校生なら放課後の帰り道にデートをしたりするのだろう。
だが、全寮制のため授業や部活が終わるとそのまま寮に帰宅することになる。
「大学生になったら、もう少しデート出来るかな?」
「あー、まぁそうだろうな。」
「でも、なかなか一緒にはいられないんだろうなぁ。どっちもどっち………うーん、それなら今の方がいいのかなぁ。」
寂しいな、と呟く香緒里の腰に手を回し、少し引き寄せた。
「二人きりの時間は増えると思うぞ?」
「まぁ、確かに……。」
近寄った秀人のことを香緒里は見る。
「うん、やっぱり浴衣似合う。かわいい。」
降ってきた視線と声は少し甘い。
距離の近さで顔が少し赤くなるのを感じた。
「散々見てたのに……なんで今更……?」
「そんなかわいい顔、他のやつに見せたくないからに決まってるだろ?」
少し低い声で、頬に触れながら言う秀人に、香緒里は更に赤くなりながら、「最近の秀人、ずるい……」と漏らす。
この人は自分の顔の良さをどれだけ自覚しているのだろうか……。
「それ、香緒里が言うか?」
苦笑して秀人は香緒里の髪に触れ、額にキスをする。
そんな顔をされると困るんだよな、と真っ赤になりつつこちらを見上げる香緒里を見て思う。
「かわいい。」
耳元でそっと囁くと香緒里は固まる。
キュッと秀人の浴衣を掴むその手に触れながら、抱き寄せてそのままキスをする。
夕暮れの公園にいる二人を見る者は誰もいなかった。
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花火が上がる30分前くらいには全員、土手に集まっていた。
それぞれが屋台で買ってきたものも並ぶ。
「流石に私もう入らないけど……。」
「え?そうなの?時間経ったらお腹空かない?」
雪音が並んでいる物を見て言うと沙世は驚く。
それなりの量はある。
「まぁまだ俺ら食えるからなんとかなるだろ。」
「オレはお腹いっぱい〜。」
「直樹くんは食べ歩きしすぎ。」
悠はそう言いながらたこ焼きを手に取り食べだす。
お腹いっぱい、と言いつつチョコバナナを食べている直樹に由美は突っ込んだ。
「亮は?」
「もう少しで着く、ってさっき連絡あったよ。」
翔太が聞くと奈津はそう答える。
ギリギリ間に合いそうだ。
既に多くの人が土手に来ており、混雑している。
食べたり話したりしつつ、花火の開始を待っていると、亮がやって来た。
「お疲れー、間に合ってよかったねぇ。」
「そのまま来たのか?」
「あぁ、車で着替えだけしてな。さすがにこの会場にスーツは浮く。」
秀人と香緒里がそう声を掛ける。
亮はいつものように奈津の隣に座った。
「お腹空いてる?ご飯食べる?」
「空いてはいる。……食べながら見るか。」
「じゃあ、はい。」
奈津は焼きそばを渡す。
夫婦……と沙世が見てまた呟いてる。
少しすると花火が上がり始める。
色とりどり、多種多様な花火が夜空に咲く。
そのまま見る者、写真を撮る者見方は様々だが皆一様に空を見上げている。
「なんか、大人になってもみんなでこうやって集まりたいなー。」
花火を見ながら沙世は言う。
「え、集まんねーの?」
「いや集まるつもりではいるけど!」
「情緒ないなぁ。」
きょとんとする悠に沙世と美愛が突っ込む。
そういうことではないのだ。
花火を見ながら、前はこうやって亮と悠と圭と見たなぁと奈津は思い出す。
中学までは毎年4人でこの花火大会に行っていた。
今年はかなり賑やかになった。
3年間で随分友達が増えた。
終わりが見えてくると急に寂しくなる。
亮が留学に行くまであと8ヶ月もない。
それまでにやらなくてはいけない、引き継いでおかなければならないことがたくさんあるらしく、夏期講習のないこの期間にはほとんど家にいなかった。
今日のこの花火大会に参加するために、随分予定も調整しているはずである。
何だかんだこの関係を大事にしているのが半分、奈津のためが半分であろうことはわかる。
忙しいのは仕方ないことではあるし、それはもちろん奈津も分かっている。
けれど、なかなか会えない期間はやっぱり寂しい。
これからはもっと会えない。
そう考えると、気分が落ちてくる。
花火大会なのに、ダメだなぁ。
隣に亮がいることで気が緩み、一番張らなきゃいけないはずのタイミングで、涙が込み上げて来そうになる。
「奈津?」
亮に顔を覗き込まれて、思わず顔を逸らす。
まずい、バレたら。
「ごめん、ちょっと向こう行く。」
「え?おい、奈津!?」
サンダルを急いで履き、奈津は走って人混みの中に入って行く。
「え、奈津どうしたの?」
「俺一人で行くからいい、お前らは見てろ。」
亮はそう言って立ち上がる。
その腕を圭が掴む。
「待てよ、俺らも行く。」
「奈津になんかあったなら、花火どころじゃねーだろ。」
圭に続いて悠も言う。
香緒里たちも同じ気持ちである。
「……好きにしろ。」
一言だけそう言って亮は探しに行く。
荷物をまとめ、香緒里たちも周囲を探すことにする。
土手の周りや屋台のエリアなど周辺を手分けして探すものの見当たらない。
「この人混みの中一人で行くとか………大丈夫かな……。」
「ある程度は上原も自力でなんとかはするだろうが……。」
秀人はこの辺の地理を把握はしている。
でも奈津がどこに行くかまではさすがに分からない。
圭は立ち止まって少し考える。
「多分……家だな。」
「あーそうだな、俺もそう思う。」
圭と悠がそう言うならそうなのだろう。
香緒里たちは急いで鮎川家へと向かい出した。
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圭と悠が奈津の行き先を読んだその少し前、亮も同じ考えに至り、家に向かって走っていた。
自宅近くに着くと、ちょうど門を開けて中に入ろうとする奈津がいた。
「奈津!」
呼び掛けるも、そのまま奈津は敷地内に入ってしまい、門はすぐに閉じられる。
亮も門の脇にある操作盤をタッチし、門を開ける。
上原家の方へ走る奈津を追い掛け、腕を掴んで捕まえた。
少し振り返った奈津の顔は、涙で濡れていた。
「ごめん……泣くつもり、なかったのに……。」
亮はそのまま奈津を引き寄せ、抱き締める。
いつの間にか広がっていた身長差で、すっぽりその胸の中に奈津は収まった。
「忙しいからって、気に掛けてやれなくてごめん。」
「ううん、仕方ないよ………。」
圭と悠を先頭に、他のメンバーも敷地内に入ってくる。
だが、抱き合う二人を見て、少し離れたところで立ち止まった。
「いいよ、思ってること全部言って。」
「でも………。」
「いいから。迷惑だなんて絶対思わないから。」
奈津の胸の内を見透かしたかのように、亮は言う。
だから、バレたくなかったんだけどな………。
「ほんとはね、亮がアメリカ行っちゃうの、すごい寂しい。仕方ないことだって、わかってる。わかってるんだけどね………。」
「うん。」
「生まれた頃から一緒にいるから、亮がいない生活なんて、考えられないの。怖いの。でも、決まったことだし、行かなきゃいけないから、そんなこと言ったら困らせちゃうって、思って………。」
泣きながらそう話す奈津の背を亮は優しく撫でながら話を聞く。
「4年間だけだから、って自分に言い聞かせて、頑張ろうと思ったんだけど………ごめんなさい。向こうに行く亮の方が、忙しいし、寂しいのに……。」
「……我慢させて、ごめん。」
亮のその言葉に、奈津は顔を上げて首を振る。
「もう少しフォローしてあげれば良かったのに。」
「隠してたのは、私だから………。」
「……奈津。」
しっかり、亮は奈津に視線を合わせた。
「向こうに行ったら、毎日必ず電話をする。メッセージも送る。長期休暇になったら必ず帰って来る。だから……」
亮はそこで一呼吸を置いた。
抱き締めていた腕を解き、今度は奈津の両手を取る。
「留学から戻ってきたら、結婚して欲しい。」
奈津は驚いて涙が止まった。
婚約者ではあったし、恋人同士でもあった。
でも具体的に結婚をいつにするとか、そういうことは話したことがなかった。
だから、亮の口からその言葉が出て、驚きもしたし、嬉しくもあった。
「うん、わかった。」
ようやく笑顔になった奈津を亮はもう一度抱き締めた。
「奈津、愛してる。」
「私も亮のこと、愛してるよ。」
突然目の前で繰り広げられたプロポーズに沙世は悶え、香緒里と雪音は抱き合って喜んでいる。
「これ、俺らいてよかったのかな??」
翔太はそう呟く。
亮も奈津も気付いてはいるが、気にしてはいない様子である。
「気にしなくていいと思うよ……。」
兄のプロポーズを見るというよく分からない状況の中、圭はそう言う。
二人は結婚するものと思っていたし、幸せになってくれるのは嬉しい。
だがある程度慣れているとはいえ、目の前でいちゃつかれると若干反応に困る。
悠も同様である。
しばらくして亮と奈津は離れた。
「足、大丈夫か?」
「あー……めっちゃ靴擦れしてる……。走ってて気が付かなかった。結構痛いかも。」
「だろうな。」
必死で走っていたため、痛みは感じていなかった。
「手当て、しに行くぞ。」
そう言って亮は奈津をひょいと抱き上げる。
所謂、お姫様抱っこだ。
「歩くくらい出来るよ?」
「いいから。」
そう言った後、亮が奈津に何かを耳打ちすると、奈津は少し赤くなった。
それを見て、少し微笑んだ。
「悪い、心配掛けたな。」
一言、香緒里たちに向かって亮は言い、その後に悠と圭を見る。
「奈津を部屋に連れて行く。後は頼んだ。」
「あー、はいはい。」
奈津を抱えたまま上原家の建物に向かって行く亮に、圭はやや投げやりに返事をする。
「どうするん?とりあえず中入って待ってればええ?」
美愛に聞かれた悠は微妙な顔をした。
「あー……あいつら待ってなくて、いいんじゃねぇかな……。」
「どういうこと?」
香緒里が首を傾げると、悠と同じような表情をした圭が答える。
「多分、しばらく戻って来ないよ、あれ。」
「下手したら明日の朝まで戻って来ねーよ……。」
二人の言葉に、香緒里たちは察した。
「仲がいいのはいい事だからね……。」
「奈津の不安がなくなったら、まぁいいのかな……。」
とりあえず、着替えてお風呂に入ることにした。




