5、夏の夜に
お盆が始まった。
秀人や雪音たちは昨日自宅へ先に帰った。
香緒里は横浜の自宅へ帰るのだが、義之のお盆休みが明日からなので、今日出発する予定だ。
美愛は直樹と大阪へ、由美も自宅へと帰って行った。
いつものメンバーで現在寮に残ってるのは香緒里と鮎川三兄弟と奈津だけである。
なので、朝食も5人だけといつもより少ない。
亮は早々に食べ終えて仕事へ行ってしまったが。
「3人も今日帰るんだっけ?」
「うん。まぁどうせ帰っても父さんたち忙しくてほとんど会えないだろうけどね。」
香緒里が聞くと圭はそう答えた。
どちらの両親も多忙なので仕方ないと言えば仕方ない。
「花火大会行くのめっちゃ久しぶりじゃね?」
「確かに、寮に入ってからは行けてなかったからねー部活もあったし。」
悠と奈津はそう話す。
お盆明けの土曜日に鮎川家の近くで行われる花火大会に香緒里たちも一緒に行くことになった。
その日は鮎川家に宿泊予定である。
食事を終え、荷物を取りに行くためそれぞれ食堂から寮へ向かう。
「奈津、大丈夫?」
奈津と2人になったタイミングで、香緒里は聞く。
「最近元気ない気がして。特に、亮がいない時。」
奈津は一瞬固まった後、苦笑いをした。
「香緒里は鋭いなー……。」
「悠と圭を除けば、3年間で私が一番二人と一緒にいただろうからねぇ、何となく雰囲気とかそういうのはわかるよ。」
伊達に一緒に部活をしてきていない。
亮の前ではいつも通りに振舞っていることも、いない時にちょっと寂しそうにしていることも、何となくわかるのだ。
香緒里に分かるということは、悠と圭も気付いているだろうが。
「……やっぱりね、小さい頃からずっと一緒にいたから寂しいんだ。でも、それを伝えちゃうと困らせちゃう。仕方ないことだからね。」
奈津はそう漏らした。
寂しそうな、困ったような、そんな顔をしている。
「たった……4年だから。家を継ぐために必要なことだから、私も私で頑張って勉強しなきゃ。」
香緒里には鮎川家上原家のことは詳しくは分からない。
4人が抱えているプレッシャーも。
両親は厳しいわけではない。
けれどそれでも会社を継ぐ、ということが大変なことなのだろうということは何となくわかる。
「…………寂しかったら、いつでも呼んでね。」
「うん、ありがとう。心配掛けてごめんね。」
『寂しいって直接伝えたら?』なんてことは香緒里には言えない。
二人のことだから口を出すべきでは本来はないのだろう。
香緒里に出来ることは寂しさの穴埋めを少しだけするくらいだ。
「悠にも圭にも、なかなか言えなくてさー。正直、持て余してたんだ。聞いてくれてありがとう。でも、大丈夫。頑張る。」
にっこり、いつものように奈津は明るく笑う。
無理はしているのだろう。
それでも強くあろうとしているその気持ちがすごいなと素直に思った。
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お盆が終わった次の週末。
香緒里たちは鮎川家に集まっていた。
到着した後、まずはそれぞれ浴衣に着替えるために男女それぞれに分かれた。
「浴衣とか久しぶりだなー。中三の夏祭り以来?」
「あー行ったねぇ、懐かしい。」
沙世の話に香緒里はその頃を思い出す。
あの時は6人で地元の夏祭りに行った。
浴衣もそうだが、夏祭り自体久しぶりである。
浴衣は奈津がどこからか用意してくれ、着付けはいつの間にか秀人の母・美鈴に習っていたという沙世の指導の元、自分たちでしている。
「あーやっぱり美愛ちゃん黒似合うわ、かっこいい。そして美人。」
「そ?黒は初めて着たなぁ。」
黒の浴衣を羽織る美愛を見て奈津は満足そうに言う。
高めの身長と綺麗めな顔立ちと相まって、かわいいはもちろん美しい。
「ヘアアレンジもばっちりだし、後は浴衣着たら出発出来るね〜!」
「相変わらず沙世は上手いよねぇ。」
ヘアアレンジは全て沙世が行った。
しかも手早く。
奈津はショートなのでサイドを編み込み、他は皆編み込みのアップ、しかもそれぞれちょっとずつ違う。
「あんまり髪型変えないから、ちょっと落ち着かないなぁ……。」
由美は浴衣を見下ろし、そして髪を触りつつそう言う。
「大丈夫大丈夫、めっちゃかわいいから!」
「由美、浴衣似合うよねぇ。なんというか、お淑やか?」
淡いピンクの浴衣に、いつもと違い髪を低めにアップにしている。
これ、圭は見て大丈夫なのだろうかと他人事ながら香緒里はちょっと心配になる。
着付けも終わり、準備は完了したので男子たちが待つリビングへと向かう。
あちらもあちらで浴衣に着替えているはずである。
圭が着方を知っているらしい。
リビングに入ると既に着替えを済ませた男子たちが談笑していた。
「ビジュえっぐいな…………イケメンの暴力……。」
その光景を見て沙世は呟く。
写真撮っとこ、とスマホのカメラを向ける。
多種多様なイケメンが揃っている。
これはまたお祭りで目立つな…………と沙世は思う。
ちなみに亮は仕事でいない。
花火までには頑張って戻るらしい。
リビングに入って来た香緒里たちに気付いて皆立ち上がる。
「おーみんな浴衣似合うね。」
「かわいいねー。」
翔太と直樹はそう言う。
「でしょー???今回は奈津が浴衣チョイス、私がヘアアレンジしました!」
「相変わらずすごいな沙世は。」
「女の子かわいくするの楽しい!」
「楽しそうで何より。」
「どう?かわいい??」
沙世に近付かれ下から覗き込まれて真は少し視線を逸らしながら、
「…かわいいよ、似合う。」
と言った。
沙世は覚えた、攻められる前に攻め込めばいいのだと。
自発的にもらうかわいいももちろん嬉しいけど、照れてる真を見るのもちょっと好きなのだ。
「真は相変わらずかっこいいね!」
「……そっか。」
にこにこする沙世に真はちょっと表情を崩した。
「雪音、前はピンクだったけど、今回は水色の浴衣なんだね。かわいい。……ちょっと心配だけど。」
「翔太がいるから大丈夫でしょ?」
「まぁねぇ。」
あ、髪飾りもかわいい、と翔太は触れる。
相変わらずナチュラルにいちゃいちゃしだすなぁ、と香緒里が二人を見ていると秀人が隣にやってきた。
…………浴衣、かっこよすぎでは……??なんでこの人こんなに何でも似合うの……?と秀人をまじまじと眺めて思う。
「……どうした?」
「え、いや、その……かっこいいなぁ、って……。」
注視されていた秀人は首を傾げた後、少し屈んで香緒里に目線を合わせる。
香緒里は顔を赤くして視線を逸らした。
一瞬、秀人は固まった後に柔らかく微笑んで、
「香緒里はかわいいよ。」
と言った。
更に顔を赤くしたのは言うまでもない。
「あ、やべ、財布部屋に置いてきちゃった。」
「一番大事なもんやろ、祭で。」
なんも買えへんわ、と悠に対して美愛は突っ込む。
「ちょっと取りに行ってくる。」
「うちも行くー。悠の部屋見たことあれへんし。」
「……いいけど、別に普通だぞ?」
そんなことを言いながら二人はリビングを出て行った。
「ナツもユミも浴衣似合うねーかわいい。ねーケイ?」
直樹に振られた圭は奈津を見た後、由美を見て、ほんの数秒固まる。
ちょっ……と、これはまずい。
かわいいと頭の中では連呼されてるが、言葉に出すのに少々時間がかかる。
「……そうだね、二人ともとってもかわいい。」
微笑んでそう言った。
慣れている奈津はありがとう、と笑い、由美は恥ずかしそうに少し顔を赤くする。
……ダメだ、やっぱりかわいい。
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悠の部屋は予想通り、というか当たり前に広かった。
寮の部屋の倍はある。
「ひっろいな。よくあんた寮の部屋で過ごせるなぁ、狭ない?」
「物沢山あるわけじゃねーし、別に困らないな。」
突然美愛が入ったわりには整頓されている。
最近あまり家にいないせいもあるのかもしれないが。
壁際の本棚には漫画やらゲームソフトが並んでいる。
あちこち見回す美愛に、悠は一つ、溜息をついた。
「渡辺さぁ、相手が俺だからって、油断しすぎじゃね?」
「え?」
悠は美愛の腕を引き、抱き寄せる。
そしてそのままキスをした。
赤くなる美愛の目をじっと捉えて続ける。
「一応男だし、お前の彼氏だし、浴衣姿のかわいい彼女を見たらこういうことしたくなるんだぞ?」
そう言ってもう一度キスをすると、美愛は恥ずかしそうにしながらも悠のことを睨む。
「……なんで毎回2回キスするん……??」
そう聞かれた悠はちょっと笑う。
その笑みや美愛に向ける視線は優しい。
「だって、キスした後の顔がかわいいから。」
言われた美愛は更に顔を赤くし、視線を逸らした。
その顔はずるい。
最近どんどん大人っぽくなっている。
正直かっこいいのだ。
「そないにかっこよくなるなんて、聞いてへん……。」
視線を逸らし、顔を赤くしたまま、口を尖らせている。
え、かわいすぎでは???
何このかわいい子??
悠は胸の奥がキュンとしたのを感じた。
「渡辺、こっち向いて。」
「……嫌や。」
かわいく拒否されるも、悠は逃がさない。
少し、声のトーンを落とし、柔らかく。
「渡辺。」
もう一度、呼ぶ。
そうすると視線が戻り、目が合った。
その瞬間、もう一度キスをした。
先程よりゆっくり時間をかけて唇を離す。
「かわいすぎ。」
「……アホ。」
「でも今日、それとは別でめちゃくちゃ綺麗だな。」
「……あんたってほんとすぐそないなこと言う……。」
心臓持たんわ、と美愛は言う。
悠は思ったことを素直に言っているだけなので首を捻る。
とりあえず、頬を赤くしながら恨みがましげにこちらを見る美愛はかわいいのだ。
最後に額にキスをした後、離れる。
「戻るか。」
「………ほんま、ずるいわ。」
反撃したい気持ちはあるけど更に返ってきそうなので、やめる。
大人しく手を繋ぎ、手を引かれながらリビングへと戻った。




