4、祝勝と、変化
昨年、香緒里がインターハイでベスト8を取った時も帰ってきた時にすごい歓迎を受けたが、今年もすごかった。
何せ、インターハイ優勝だ。
ほぼほぼ全校生徒全教員での出迎え。
学校からの表彰式は始業式にやると伝えられた。
一頻り人に囲まれた後、そこを抜け出して寮に戻ろうとすると、佐倉時行が香緒里の元へ寄ってきた。
「かおりーん!おかえりおめでとーう!!」
「トッキー、ありがとう。」
「よし、祝勝会するから行くよー。」
「え?え?」
戸惑う香緒里の背中を押しつつ時行は寮のほうへと向かって行く。
時行に連れられて、多目的棟の談話室に行くと多数の生徒がいた。
大体が元クラスメイトや現クラスメイトたちで、空手部や元生徒会の後輩たちもいる。
もちろん、秀人たちもいる。
「インハイ優勝をお祝いして、ちょっとしたパーティーを企画してみた!んで、とりあえずかおりんの友達とかを集めてみた。」
「そんな私のために……よかったの?」
にっこり笑う時行に、香緒里は遠慮がちに言う。
「何言ってんのーインハイ優勝してんのにお祝いしないわけにはいかないっしょ。というか受験勉強に疲れたから俺は騒ぎたい!!!」
キリッといい顔をして時行は言う。
後半の理由が実は大半なような気もしたが、とにかくお祝いしてもらえるのは嬉しい。
時行の乾杯の合図を皮切りに皆わいわいとお菓子を食べながら話し出す。
3年生が殆どなので、一種の気分転換にもなっているのだろう。
「香緒里がインハイで優勝したって話、校内放送で聞いたんだけど、流れた時歓声すごかったんだよー。」
「え、そんな発表のされ方したの……??」
「うん、去年もそうだよ。今年は去年の倍くらい歓声が上がってた。」
おめでとう、と言いに来た藤村七恵が言う。
去年も帰ってきた時には皆が知っていたが、そんな校内放送で大々的に連絡されてるとは思いもしなかった。
秀人たちもその点は何も言っていなかったし。
「マジで優勝するとは思わなかった。いや、吉崎ならやりかねないとは思ってたけど。」
その隣にいる小野一輝は少し笑って言う。
「さすがの一輝もペンを落とす程驚いてもんねー。」
「余計なことは言わないでいい。」
「なんだかんだカズもかおりんのこと大丈夫か気にしてたもんねー。」
「ねー。」
「お前ら………。」
顔を見合せて言い合う七恵と時行に一輝は溜息をつき、香緒里はそれを見て笑う。
「そういえば香緒里、国体出ないんだって?噂になってたよ。もったいない!って。」
お菓子を摘んでいた河村柚希は食べる手を止めて、香緒里に聞いた。
「うん、出ないよ。受験勉強もしたいし、国体は去年も出たし、いいかなーって。」
「香緒里らしいっちゃらしいけど……。」
「空手は元々高校で終わりにする予定だったしね。」
そう話す香緒里の表情にはもう寂しさや悔いはなさそうに見えた。
その香緒里を少し離れた位置から秀人は見ていた。
国体に出ない、という話は誘いが掛かった時点で秀人たちは聞いていた。
受験勉強もあるから、というのもあるが、『みんなと一緒にいる時間が減るのも嫌だから。』とも言っていた。
それも非常に香緒里らしい。
「で、なんでお前もここにいるんだよ。」
香緒里から目を離さないまま、隣にいる八代蒼介に言う。
「佐倉に呼ばれたから来たんだよ。それに一応俺、吉崎さんのクラスメイトだからな?学級委員も一緒にしてるし。来ない方が不自然だろ。」
「そうかよ。」
八代は同じく香緒里の方を見たまま、秀人に淡々と返す。
「あのさぁ二人とも、俺の隣でバチバチすんのやめてくれない???」
秀人と反対側に立つ町田は呆れつつそう言う。
実は仲良いんじゃないか?とも最近は思う。
そんなことを言ったら二人から怒られそうだから言わないが。
俺も吉崎と話して来るかな……と町田は尚も空気が若干悪いそこから離脱した。
---------------
それから数日。
部活を引退したため時間が出来た香緒里は、談話室で自分の勉強をしつつ、美愛や沙世の勉強を見ていた。
「そう、そこにレ点があるでしょ?だからここはこの順番で読む。」
「なるほど………。」
香緒里の一番得意な教科は国語全般である。
隣では秀人が悠に数学を教えつつ、真に英語を教えている。
後は各々勉強している。
「圭くん、英語聞いてもいい??」
その中で由美は圭の隣に来てそう言う。
由美は香緒里に教えてもらうことが多いが、英語に関しては圭の方が得意なため、時折こうして聞きに来る。
「いいよ、どこ?」
「えっとね、ここの文法なんだけど……。」
問題集を見せるために由美は少し圭の方に寄る。
………ちょっと近い、と思いつつも平常心を装って圭は問題集に目を落とす。
丁寧に説明をすると、解決したようで、
「なるほど……!ありがとう。」
と言って由美は笑顔になる。
揺れる内心を隠しながら、圭は「どういたしまして。」と言った。
そして由美は元の席には戻らず、そのままそこで勉強を再開し出す。
え……戻らない、の……?
いや隣にいてくれるのは嬉しいけど、集中出来ない………。
圭がペンを持ったままグルグル考えていると、翔太に声を掛けられる。
「圭、ちょっと数学聞いてもいいか?」
「俺でよければ……あと数3とかじゃないなら。」
「数2なんだけど。秀人はちょっと忙しそうだからさ。」
翔太の手にする問題集を見ると、応用問題のようだった。
ここの解説がいまいちわからなくて、と翔太は言う。
問題を見た後、圭は自分でもその問題を解いてみる。
「あぁ、なるほど。」
「わかった?」
「うん、ここなんだけど-----」
紙に書いた計算式と問題集を使って説明をする。
「おー、そっか、そういうことだったのか。ありがとう、助かった。」
「いえいえ。」
「最近数学やってないのに、よくわかるねぇ。」
二人のやり取りをさりげなく見ていた由美はそう言う。
「まぁ、やり方は何となく覚えてはいるからね。」
「やっぱり圭くんって頭いいよねぇ。」
「いやほんと。理系に行かないのもったいないくらい。」
感心したように由美と翔太に言われ、圭は少し笑う。
「行きたい学部的に文系なんだよね。」
「俺と逆だね。」
ありがと、ともう一度言って翔太は雪音の隣へと戻って行く。
「そういえば、圭くんはどこの学部志望なの?」
「経済学部だよ。一応経営について勉強しないといけないからね。」
そのまま二人で話す圭と由美を香緒里は少し離れた位置から見る。
先程からチラチラ見てはいたが、やっぱりそういう事なのかな、と圭を見て思う。
同じようにそちらに視線を向けていた秀人の方を見ると目が合う。
恐らく同じことを考えている。
圭は由美のことを好きなのだろう。
隠している様子なので何もこちらからは言わないが。
「うわー……昨日より拡散されてる……。」
休憩、と言ってスマホを見ていた沙世が声を漏らす。
「あぁ昨日言ってたやつ?」
「そうそう。香緒里がバズってるやつ。」
美愛に言われて沙世はそう返す。
インターハイが終わって数日経ってから、SNS内で『空手のインハイで優勝した子がめっちゃ美人!』と話題になっていたのだ。
決勝戦の動画も出回っており、その見た目と強さのギャップがバズりに繋がっているようだった。
「ちょーっと個人情報の特定も出始めてるから良くないかも……??何なら秀人に関しても話題になってる。イケメン彼氏がいる、みたいな。」
「あー、決勝戦の後のあれか。周りに結構人おったもんなぁ。」
香緒里が秀人に抱き着いたあの件。
見た目の良さも相まって、『ドラマのワンシーン???』等言われているらしい。
「そんなに話題になるほどじゃないんだけど……」
目立つことは然程得意ではない香緒里は複雑そうな顔をしている。
その香緒里をチラリと見た後、秀人はパソコンをいじっている亮に声を掛ける。
「亮、昨日の件何とかなりそうか?」
「あぁ、今ちょうど直樹と一緒にやってる。」
亮の隣に座る直樹もカタカタとキーボードを打っている。
「個人情報に繋がりそうなのはどんどん垢BANしてるよー。エゴサアプリ作っておいて正解だったねぇ。」
「このまま進めれば沈静化はとりあえずするだろ。」
「ならよかった、助かる。」
やり取りを見ていた雪音は、もしかして……と聞く。
「バズったの、火消ししてるの?」
「そう。昨日、亮に何とか出来ないか相談した。」
「そもそも奈津から、吉崎がインハイで上位になったら話題になりそう、と言われていたからな。新谷から頼まれることを想定して、事前に直樹と対策を練っていた。」
過保護な彼氏と、奈津の頼みを聞く同じく身内に過保護な亮。
「さすが……。」
「私の預かり知らぬところで事が進んでいた………でもありがとう……。」
「ていうか相変わらず直樹すげーな、そんなのも作れんの?」
悠に褒められた直樹はドヤ顔をする。
「パソコンやプログラミングなら任せて。」
「やっぱりそっち方面に将来進んだ方がええんちゃう?」
うーんそれもありだねぇ、と美愛の言葉を受けて直樹は考える。
特にまだ行く大学は決めていないが、それを基準に選んでもいいのかもしれない。
パタンと亮はパソコンを閉じ、立ち上がる。
「今日も仕事か?」
「あぁ、出てくる。」
真に聞かれた亮はそう答えて荷物をまとめて持つ。
最近は夏休みで部活も引退したため、しょっちゅう外に仕事に出ている。
留学前にやらなければならないことが多いらしい。
「夕食の時間には戻れると思う。」
「はーい、いってらっしゃーい。」
奈津とのやり取りを、もはや夫婦では??と沙世からの突っ込みを受けながら亮は談話室を出ていく。
「じゃあ休憩終了ー続きやるぞー。」
「えーお菓子食べよーよー。」
「もう少ししたら昼ご飯だろ?」
昼休憩までやるからな、と秀人に言われ、渋々返事をしている勉強嫌い組。
引退後から何だかんだ秀人や香緒里に急かされて勉強をしているので、きっと夏休み明けの模試で成果が出るだろう。
伸び代はたくさんある。
香緒里はふと奈津の方に目を向けると、亮が出て行った扉をまだ見ていた。
その表情はいつもより少し寂しげに見える。
が、直ぐにいつもの表情に戻り、勉強を再開しだした。
注視していなければ見逃しそうな変化。
亮が留学に行ってしまうことが寂しくないわけないのだ。
きっと、割り切ろうとしているだけで。




