2、自覚
インターハイ前日、香緒里は後輩の空手部の部員たちと共に一足先に新幹線で会場に向かった。
秀人たちはインターハイ初日に出発。
香緒里の出番は2日目からなのでそれに合わせてのスケジュールだ。
ノンストップで行っても会場までは車で6時間以上かかる。
亮の秘書である井口が一人で運転するので途中休憩を挟みつつ行く。
「亮様、次のサービスエリアで休憩なさいますか?」
「あぁ、そうだな。頼む。」
「あと何分くらいかな?」
「15分程で到着かと思います。」
井口から聞いた奈津は後ろの席に「あと15分で降りるよー」と声を掛けた。
「真は大丈夫?」
翔太は通路を挟んで隣に座る沙世に聞く。
沙世の隣の窓側に座る真は、沙世に寄りかかりながら寝ている。
「とりあえず寝れてるから大丈夫じゃないかな?ギリギリまで寝かせておこうかと思ってる。」
乗り物酔いをしやすい真は酔い止めを飲んでいても若干酔う。
スキー旅行の時の倍以上の時間、バスに乗るため本人も心配していた。
「まぁ沙世の隣ならまだマシなのかもね。」
「えへへーそうだといいなー。」
雪音の言葉に沙世はにまにまする。
実際、修学旅行の時に秀人の隣でバスに乗っていた時より顔色がいい。
その秀人は沙世たちの前の席で直樹と携帯ゲーム機でモンスターを狩るゲームをしている。
今日は香緒里がいないため、「じゃーオレがシュウトの隣に座る〜」と直樹が座りだしたのだ。
ちょっと珍しい組み合わせではある。
二人であーだこーだ言いながらも楽しそうに遊んでいる。
サービスエリアに着き、トイレ休憩となる。
「勉強しなくていいって最高……!!」
悠は伸びをしながらそう言う。
バス内だと車酔いをする可能性もあるため勉強はしないことになったのだ。
おかげで伸び伸びと悠はゲームをしたり動画を見たりしている。
「まぁ、宿着いてちょっと休憩したらまた勉強になるだろうけどな。」
「早く受験勉強終えたいわ……。」
圭がそう言うと美愛は肩を落とす。
意外と面倒見のいい秀人はしっかり個人個人のレベルに合わせて教えている。
自分の勉強に余裕があるからというのもあるのだろうが。
模試でも相変わらず高い偏差値を叩き出している。
「しかし流石に長距離乗ってると疲れるなー。」
「今まだ半分くらいやろ?」
「足も疲れるもんねぇ。」
「しっかりストレッチしとくといいよ。あと何か食べたり。ここなら餃子とかみかんソフトもいいかな。」
「ええな、買いに行こか。」
圭の提案に美愛は乗り、悠と共にちょっと小走りで行こうとする。
「あ、待って美愛ちゃん……!」
そしてその後を追い掛けようとしたが、由美は慣れないヒールのあるサンダルを履いていたため、足を捻り、前に転びそうになる。
それを圭は咄嗟に腕を出して支えた。
「あっぶな……大丈夫?」
「う、うん……ありがとう……。」
至近距離で目が合い、お互い逸らした。
由美の顔は赤い。
圭の手を借り、体勢を立て直した由美は少し恥ずかしそうに笑う。
「うーん、やっぱり慣れない格好するとダメだねぇ。」
今日の由美は、沙世にあれこれプロデュースをされ、白いフレアワンピースに薄い水色のカーディガンを羽織り、ちょっと高めのヒールのサンダルを履いている。
正直、めちゃくちゃ可愛い、がそれを口に出すのに数秒時間を要した。
「でも、かわいいよ?」
「そうかな……?ありがとう。」
「足、大丈夫?痛くない?」
「うん、平気。」
もう一度、ありがとね、と由美は言って笑った。
「由美、大丈夫???」
美愛と悠が気付いて戻って来る。
「うん、圭くんに支えてもらったから転ばずに済んだよ。ヒール、履きなれないねー。」
「美愛、由美ちゃんがヒールに慣れるまで、手繋いでおいてあげた方がいいかも。」
「あーせやな。んじゃ、はい。」
美愛が由美に手を差し出すと由美は大人しくその手を掴む。
「俺、トイレ行ってから向かうから先行ってて。」
「了解〜。」
3人は、
「悠も繋ぐ?」
「いや……いい。」
「美愛ちゃん取ってごめんね……?」
「別に気にしてねーよ!?」
等々わちゃわちゃ話しながら屋台が並ぶ方へと歩いて行った。
3人が離れたのを見て、圭は溜息をついて額を右手で押さえる。
その顔と耳は赤い。
さっきから胸の音がうるさい。
3人の前で動揺を出さなかっただけ、頑張ったと思う。
これで気付かないほど鈍くない。
というかこれはもう気持ちに誤魔化しがつかない。
認めるしかない。
完全に好きになっている、女の子として。
美愛の時とはまた全然違った感覚である。
あの時はここまで動揺することはなかった。
悠もいたため、一歩引いて見ていたのもあるかもしれないが。
「ようやく自覚したの?」
いつの間にか、後ろに奈津と亮がいた。
「好きなんでしょ、由美ちゃんのこと。」
「奈津……気付いてたの??」
「そりゃあね。何年一緒にいると思ってるの。ねぇ亮?」
奈津に同意を求められ、亮は頷く。
「須賀にかわいいと言う時、他の女子に対して言う時より数秒躊躇いがある。」
「最近よく目で追ってたしね。」
二人にそう言われ、頭を抱えたくなる。
この兄と幼馴染みは本当によく圭の事を見ている。
勘のいい友人が周りには多いので、もしかしたら他にも気付いている人がいるんじゃないかと思い、更に溜息をつきたくなった。
「……知らないふりしてて。」
「もちろん。私たちは何もしないよ、見てるだけ。困ったら助けてあげるけどね。」
圭の頼みに奈津はあっさりとそう言い、亮と一緒に店の方へと向かって行った。
その距離がいつもより少しだけ、近いような気がしたが、気のせいだろうか。
「とりあえず、トイレ行くか……。」
呟いて、圭も歩き出す。
-------------
「はーお腹いっぱい。」
「昼飯も兼ねてたとはいえ……かなり食ってたけど大丈夫か?」
「気持ち悪くなることないからだいじょーぶ。」
バスに戻ってきた直樹はお腹を擦りつつそう言う。
一緒に行動していた秀人も食べていたとはいえ、バスに乗ることを考えて若干控えめにしていた。
なんなら直樹はお土産も買い込んでいる。
「食い意地は沙世といい勝負だな……。」
「ちょっと!聞こえてるよ!?」
背もたれの上から顔を出して沙世は言う。
「まぁ、確かに沙世も結構食ってたな……。」
「だって美味しそうなもの多くて……。」
真に言われて沙世は口をへの字にする。
真自身は酔いを避けるために最低限だけ食べた。
「沙世、また肩借りてもいいか?」
「もちろん!いくらでも〜。」
沙世は座席に座り直し、真を受け入れる。
「シュウト、眠いからオレに肩貸して♡」
「断る。」
「えーーやっぱりカオリ専用なの?」
「当たり前だろ。」
にべも無く断られた直樹は口を尖らせる。
「ちぇーっ、悠なら貸してくれるのにー。」
「いいって言ったことは一度もねぇけどな!?お前が毎度勝手に寄っかかってくるだけだろ!?」
悠が後ろから突っ込む。
修学旅行の際もどこかに出掛けた帰りも寝る時は大体悠の隣で寝ている。
悠だって寄っかかってくるのは美愛だけでいいと思っている。
相変わらず賑やかな車内の中、圭は欠伸をする。
お腹も膨れたため、少し眠い。
俺も寝るかな……と思っていると、由美に声を掛けられた。
「圭くん、隣いい?」
「え?……いいけど、悠は?」
サービスエリアに到着するまでは圭は悠と座っており、由美は通路を挟んで反対側で美愛と座っていたはずだ。
「悠くん、美愛ちゃんとゲームするみたいで。代わって欲しそうだったから……。」
「なるほど……。」
悠が美愛の隣に行くのは何ら問題はないだろう、付き合っているのだから。
こちらはちょっとばかり問題がある、主に圭が。
自覚したばっかりなのにこの展開なの!?
寝ようと思ったのに、絶対これは寝られない。
嬉しいけど、困る。
「圭くんはさっきまで何してたの?」
「悠と、あと前の秀人と直樹とゲームしてた。」
「そっか、席離れてても出来るもんね。」
他愛ない話をしているうちに、車は出発した。
結局、由美はそのうち寝てしまい、尚のこと圭は寝ることが出来なかった。
彼氏でもない男の隣でそんなに無防備に寝ないで欲しい。
それだけ気を許されている証拠なのかもしれないが。
寝顔を見たい気持ちと見てはいけない気持ちがせめぎ合っているうちに、流石に疲れていつの間にか寝てしまっていた。
ふと目を覚ました時に、由美と寄りかかって寝ていたことに気が付き、一人顔を赤くしたのは、また別の話。




