7、まだ不確かだけど
期末試験も終わり、その結果も返された。
3年生になり、理系文系にクラスが分かれてからの初めての成績発表である。
去年までは成績上位者30人が掲示されていたが、クラスが分かれて人数が減ったため、上位10位までが掲示される。
「まぁ、理系トップはそうだよな……。」
翔太が廊下に貼りだされた紙を見て言う。
当然、トップは全教科満点の秀人。
2位は亮である。
ここは変わらない。
「トッキー9位!!??」
「甲子園予選前だけど、頑張っちゃった☆」
悠が時行の方を見るとそう言ってウィンクをしていた。
本当にやれば出来る男である。
野球部は期末試験後に予選に挑むも昨日行われた3回戦で強豪校と当たり、あえなく敗れ、真たち3年生は引退となった。
一方文系の順位を見ると……
「え、香緒里今回3位……!?」
「まだあなた部活引退してないよね……???」
沙世と雪音は驚愕の表情で香緒里を見る。
来月にインターハイを控えている香緒里はテスト前の1週間以外は普通に部活を行っていたはずである。
「うーん、でも生徒会やってた時より時間あったからねぇ、たくさん勉強出来たよ?」
「つまり去年のおかげで時間の使い方が上手くなったと。」
「うん、そんな感じ。」
秀人に言われ、香緒里は頷いた。
とはいえ、他の生徒は野球部と文化部以外ほぼ引退しており、受験勉強を始めているはずである。
「ほんと、努力の天才だよねぇ、香緒里は。」
「半分同じ血が入ってるはずなんだけどな………おかしい……。」
「沢田と吉崎じゃ勉強している時間が全然違うだろ。」
奈津が感心したように言う。
香緒里と異母姉弟の真がそう言うと亮が冷静にコメントをする。
「圭、あんたも10位に入っとるんか………。」
「あーまぁね、部活も引退したし本格的に勉強始めたからねー。」
一番下の欄には圭の名前もある。
去年までは20位台が多かったはずだが、文系理系に分かれて相対数が減ったことと、今までより勉強したことで順位が上がったらしい。
「やっぱりすごいねぇ。」
「由美ちゃんは今回どうだった?」
「いつも真ん中より下くらいの順位だったんだけど、今回はちょっと上がったよ。圭くんに教えてもらった英語が結構いい点数だったんだ。」
「ほんと?それなら良かった。」
圭はそう言って少し表情を崩す。
香緒里はそれを見てちょっとほっとする。
元カノのくるみに会った後、しばらく様子がいつもと違ったため心配していたのだが、いつの間にか調子を取り戻していた。
もしかしたら由美のおかげなのかな、なんて二人の様子を見て思う。
「翔太、今回どうだった?」
「秀人にしっかり見てもらえたおかげで、かなり良かったよ。順位で言うと半分より上になったね。」
「そっか〜頑張ってたもんね、よかった。」
雪音に聞かれた翔太はそう答える。
どちらかと言えば文系科目が翔太は得意なのだが、獣医学部を志望しているため、理系コースに進まざるを得なかった。
そのため、得意でない理系科目を中心に、3年生になった時点から秀人に勉強を見てもらっていたのだ。
「うーん………流石にもっとしっかり勉強しないとやばいか……。」
「せやな……。」
「科目が絞られたはずなのに上がらねぇ……。」
成績下位3人組はそう言って自分の成績を見返す。
夏休みには3年生は強制参加の夏期講習もある。
天王山、と言われることもある夏休み。
3人は尚のこと頑張らないといけないのかもしれない。
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翌日に終業式を控えた日。
毎年恒例の球技大会が行われた。
香緒里は今回は柚希や七恵と共にサッカーに出ていたのだが早々に負けてしまった。
なので二人と共にクラスの応援をしていたのだが、そちらも早い段階で負けてしまった。
体育館に行くと、丁度3年A組とE組のバレーの試合が始まったところだった。
そのギャラリーの中に奈津たちが見えたので、香緒里は柚希たちと分かれてそちらに行った。
「あれ、香緒里だ。見に来たの??」
「うん、負けちゃって暇になっちゃったから……そろそろ秀人が試合かなぁと思って。」
奈津に声を掛けられ、その隣に座った。
A組には秀人と悠が、E組には圭が出ている。
3人とも今年も自分の部活以外の2種目に出場する。
専門外の分野のはずなのに3人とも動きがいい。
秀人はセッターをしていた。
秀人がトスを上げて、悠が打つ。
種目は変われど二人のコンビネーションは変わらずにいい。
圭も圭でネットから零れたボールを丁寧に拾いセッターに渡し、高い打点からスパイクを打つ。
目立つ3人がプレイしてるとあり、ギャラリーは多い。
秀人は香緒里が来ていることに気が付くとそちらを見て少し笑みを浮かべる。
「……無理、かっこいい……。」
「香緒里、限界オタクみたいになってるよ??」
ちょっと顔を赤くして頬を押さえる香緒里に奈津が突っ込む。
スポーツをする新谷に弱い傾向があるな、と奈津は思う。
その様子を見て近くの秀かおファンクラブは合掌した。
「悠ーナイススパイクー」
「ちょっと美愛!?きみ、うちのクラスだよね!?敵チーム応援しないでくれる???」
「圭は応援してくれる子いっぱいおるからええやろ。」
「そういう問題じゃなくない!?」
敵チームの悠に声を掛ける美愛に圭が突っ込む。
まぁでも彼氏いたら応援するよねーと奈津も言った。
由美はそのやり取りを聞いてちょっと楽しそうにクスクスと笑う。
「油断してっと負けるぞー。」
悠はそう言ってまたスパイクを軽やかに打つ。
後ろのクラスメイトが取って上げたボールを圭はそのまま相手コートに打ち抜いた。
一進一退の攻防に決勝戦ではないのにギャラリーは大いに盛り上がった。
結果、運動神経のいいA組に軍杯が上がった。
「秀人、もうすぐサッカーの試合だってよ。」
「休む暇ねぇなぁ。」
悠と秀人の二人は香緒里たちと少し話した後にすぐに校庭の方に行ってしまった。
入れ替わりに亮と直樹が体育館に入ってくる。
「あ、亮来た〜おつかれー。」
「二人ももう出番おしまい?」
「うん、もうないよ〜。亮はバスケ出るんだっけ?」
「……出ることになった。」
亮と直樹はサッカーに出ていた。
亮は今年も一種目の予定だったが、急遽バスケに出場のクラスメイトが休みになってしまったため、出ることになったらしい。
「直樹、サッカー出来たの?」
「んーー、端っこにいた。走り回ると疲れるからねー。」
香緒里の問いに直樹はそう答えた。
ただでさえ炎天下、外にいるだけでも直樹的には大変である。
かと言って室内のバレーやバスケは動かざるを得ないため役に立てないので、消去法でサッカーに出ているだけなのだ。
「みんなはー?もう終わったの?」
「私はもう終わり。」
「私と由美ちゃんもバレー負けておしまい。でも美愛ちゃんはサッカーも出るもんね。」
「せやな。そろそろ移動せんとかもな。」
美愛はスマホを見つつ言う。
サッカーに出るクラスメイトからの連絡待ちなのである。
「香緒里も新谷のサッカー見に校庭行くやろ?」
「そうだねぇ。行こうかな。」
「私は亮のバスケ見てく〜。」
「えーみんな移動しちゃうのー?ユミはどーするー?」
直樹に振られた由美は少し考える。
「うーん、やっぱり美愛ちゃんの応援行こうかなー?男子バスケもまだ勝ち残ってるからそっちもありだけど……。」
「オレも暇だから室内にいよーよー外暑いよー?」
その様子を圭は少し離れたところからクラスメイトと話をしつつ見ていた。
ねーねーと直樹は由美の腕を掴んで振っている。
ちょっと………近くないか……?
いや、直樹が人と距離が近いのはいつものことと言えばそうなんだけど。
前はかわいい感じが強かったため、子供がじゃれているように見えていたが、今は成長してイケメンになっているので絵面的にはカップルがイチャイチャしているように見える。
しまいには直樹は由美の後ろにへばりつく。
見慣れているはずなのに、何故か気になって胸の奥がモヤモヤする。
「直樹くん、さすがに重い。」
半ば呆れたように由美は後ろにいる直樹に言う。
イケメンとの距離が近いことに慣れていないのもあり、少し顔は赤い。
圭はクラスメイトとの話を適当に切り上げ、そちらに行く。
そして由美にくっつく直樹を引き剥がす。
「直樹、さすがに目立つからやめとけよ。」
「なんだケイかー。」
引き剥がされた直樹は大人しくそのまま座る。
「奈津、亮の試合見るんでしょ?俺も行くよ。」
「あ、ほんと??じゃあそうしてもらおうかな。」
奈津に声を掛ける。
どちらにせよ圭自身もバスケにこの後出る。
「圭くんありがとう。」
「ううん、全然。由美ちゃんはこの後どうするの?」
「どうしようかな。」
「今日外暑いし、中にいた方がええんやない?」
「あー……そうだねぇ、そしたらなっちゃんと見学してようかな。」
美愛に言われた由美はそう決める。
「俺はそろそろ行くぞ?」
「じゃあ私たちも向こう行こっか。」
「うん、そうだね。」
「ほら、直樹も行くぞ。」
「はーい。」
動き出した亮に続き、4人は香緒里たちに手を振り、連れ立ってバスケの試合が行われている方に移動する。
由美と話す圭の表情は、いつにも増して穏やかに見えた。
香緒里は一連の流れを見て、もしかしてやっぱり圭は……と思う。
本人もまだ明確には分かってなさそうにも見えるので、今は何も口出しをしない方がいいのかもしれない。
美愛に「私たちも行こっか。」と声を掛けて、香緒里は体育館から外に向かった。




