2、体育祭
本日は体育祭。
ジャージに着替えた香緒里は秀人、雪音、翔太、沙世、真と共に校庭へ向かっていた。
「今年は普通に参加出来るからゆっくり楽しも〜。」
「去年は大変そうだったもんねぇ。」
「忙しすぎてその印象が強くて、むしろ1年生の頃の普通に参加してた記憶がないんだよね……。」
去年は生徒会として運営に携わっていたので楽しむと言うよりは仕事をしているような感覚だった。
「ってか今年A組強すぎない???秀人と悠がいるのずるいでしょ。」
「いやずるくはないだろ。」
沙世がちょっと口を尖らせて言い、秀人が突っ込んだ。
香緒里もよく知る時行や町田も運動神経はいい。
その他にも運動部が多い傾向はあるし、そもそも理系なので男子の割合も高い。
「今年もバスケ部が部活対抗リレーは優勝かなー??」
「いやうちの野球部にも早い新入生いて組み込んだからわからないぞ?」
去年は部活対抗もクラス対抗も大いに盛り上がっていた。
今年はどうなるかなーと香緒里は楽しみにしている。
-----------
『さぁ今年もやってまいりました体育祭!!!生徒会は引退しましたが、どうしても今年も実況をして欲しいと新生徒会にお願いされましたので!この佐倉時行、2年連続で務めさせてもらいます!』
『それでなんで俺が巻き込まれるのか分からないんですけど???』
『だってー原田には「今年は高校最後だししっかり参加したい」って断られちゃったんだもーん。』
『だからって俺にお願いしなくても。』
『んなこといって、結局ここ来てくれるんだからはーくん俺のこと好きじゃーん?』
『うるせぇのでとっとと始めますよ。同じく、進行と実況を務めさせてもらいます、元生徒会の手塚颯斗です。』
賑やかな声が実況席から響く。
漫才のような二人のやり取りに笑いが起こった。
「あいつも飽きないねー。今年くらいちゃんと参加すればいいのに。」
「まぁ、トッキーらしいといえばトッキーらしいよね。」
今年はクラス席にいる河村柚希と香緒里は言う。
颯斗、まともに参加出来るのは来年だけなんだろうな、と思うとちょっぴり気の毒ではあるものの、何だかんだ時行に付き合ってあげるあたり、懐いていないわけではないのだろう。
沙世の予想通り、今年はA組が強い。
男子100m走は秀人、悠、町田が出場しており、いずれも1着。
女子の方も好成績で、なんなら1年生と2年生の成績も良かった。
1種目目が終わった時点で単独トップ。
「なんか、新谷くんだけじゃなくて悠くんの歓声も去年より増してない??しかも女子の。」
「なんか最近ちょっと1、2年女子の間で人気らしいよ。うちの部の子たちもなんか騒いでた。」
柚希と藤村七恵の言う通り、悠に対してキャーキャー言う女の子たちが増えているのは確かに最近感じている。
当の本人は全く興味はなさそうではあるが。
「吉崎さん、ちょっといい?」
話していると八代蒼介が声を掛けてきた。
「どうしたの?」
「応援合戦のことでちょっと確認したいことがあって。」
「あぁ、この間言ってたやつね。どうなったの?」
手元の紙を見つつ二人は話す。
告白後、八代は一時的に少し距離を取っていたがその数日後には何事もなかったのように普通に接して来た。
彼なりに気持ちをつけたのかどうなのかは香緒里には分からないが、変に気まずくなっても学級委員をする上で少し困るので助かることは助かる。
「若干……距離感変わったね。」
「若干ね。あれはまだ未練ありそうだけどね。」
告白の翌日、ちょっといつもと様子の違う香緒里と八代を見て、柚希と七恵は八代を問い詰めると、「告白したけど振られた。」とあっさり返ってきた。
詳しくは語らなかったが、何かしらその時に言われたかあったかしたのだろうということは何となく察せられた。
「あ、秀人。」
八代と話していた香緒里はC組の前を通った秀人に声を掛ける。
悠と小野一輝もいる。
一輝も100m走に今年は出ていたので、恐らく3人ともその帰りだろう。
「3人ともお疲れ様ー早かったねぇ。」
「バッチリ写真撮っといたから!」
「撮んなくていいっつったのに……。」
スマホを構えて言う七恵に一輝は呆れた表情をする。
「3人は出番まだ?」
「うん、私は七恵と二人三脚で、柚希は障害物競走。」
「運動得意なわけじゃないしねー。」
悠に聞かれて香緒里と七恵はそう答えた。
秀人は香緒里の隣にいる八代をチラリと見る。
「何もしてねーよ。」
「わかってる。」
軽くやり取りし合う二人を香緒里は首を傾げて見る。
仲が良くなった……わけではないの、かな?
「じゃ、昼休憩にな。」
香緒里の頭を軽く撫でた後、秀人は悠と一輝とA組の方に戻って行く。
「牽制されてるね〜八代。」
「露骨すぎるだろ。」
七恵は八代に言う。
香緒里は既に競技の方を見ていて聞こえていない。
「はーやっぱり同じクラスだと気兼ねなく応援出来ていいわ〜。」
ハードル走をする真を見終えた後、沙世は言う。
今年も去年同様に1着。
「私たちも二人三脚頑張らないとねー。」
「香緒里と七恵に負けないように頑張らないとだね!」
雪音と沙世も二人三脚に出場予定である。
真の後のハードル走では圭の番が始まろうとしていた。
『さぁ続きまして3年男子ハードル走第2レースです。』
『今年も目立っているぞ鮎川圭!!くそう俺にも半分くらい声援を分けてくれ!』
『その為にはまともに競技出るしかありませんが?』
『実況席に声援くれたっていいじゃない!!』
圭くーん!とあちこちから声援を受け、にこやかに手を振り返している。
「相変わらず人気やなぁ。」
「ほんとにねぇ。」
E組の席から美愛と由美はそれを眺めている。
「何の心境の変化かわからないけど、最近は色んな女の子といるのはやめたみたいだけど……それでもモテるんだよねぇ。」
「そうなの?」
「うん。前まではクラスでも結構女の子といること多かったんだけどね、私や雪ちゃん以外の。でも年明けくらいからかなぁ、減ったんだよねぇ。デートとかもしてないみたいだし。」
落ち着いてくれたんならそれはそれでいいんだけどねーと奈津は続けてそう言った。
確かにクラスでも自分たちといるか、男子といるかのどちらかだな、と由美は思い返す。
以前までは校内で見掛けると大体他の女の子たちといたが。
『続きまして障害物競走です。例年同様、レース内容は、まず平均台を渡り、その後ネット潜り、グルグルバットをクリアすると借人競走となります。』
『今年の借人競走のお題は俺が考えたわけじゃないので、批判は一切受け付けないぞ!』
由美ちゃんも一緒に出よーよ、と奈津に誘われて障害物競走に出ることになってしまった由美だが、正直運動はさっぱり得意ではないので不安も多い。
加えてトドメの借人競走。
知らない人に話し掛けるのは人見知りのため難しく、そんなに友人も多くない由美にとっては選択肢がほとんどない。
『さぁ障害物競走、3年女子2レース目、スタートしました。』
由美は早くはないものの、置いていかれないようになんとかついていく。
そして辿り着いた問題の借人競走。
開いた紙には『一番優しいと思う男子』と書かれていた。
お題を書いた人を恨みたくなった。
男子となると更に選択肢が狭まる。
「優しい人………」
A組にいる翔太を少し見るも、いや雪音ちゃんに悪いしな……と思って選択肢から外す。
あと他の関わりのあるクラスや元クラスメイト、料理部の部員などを思い浮かべるが……
「やっぱり、圭くんかなぁ……。」
呟き、E組の方へ走る。
ちょっと一緒に行ってもらうのは気が引けるけれど。
「由美、どうしたん?お題、なんだった?」
「えぇとね、とりあえず圭くん来てくれる?」
「え、俺!?」
E組席にいた美愛に聞かれるも、ゆっくり答えている暇はなかった。
「何?イケメンとかだった?」
「……ごめん違う。」
相変わらずの受け答えをされ、ちょっと苦笑する。
とりあえず圭と一緒にゴールへ向かって走ろうとするも、他の出走者も同様に目的の借人を見つけ、ゴールに向かっている。
それを見た圭は由美の手を取る。
「由美ちゃん、急ぐよ!」
「え?え?ちょっ、圭くん早い……!!!!」
そのまま手を引いて走り出す。
どっちが競技者だかこれじゃ分からなくない!?と由美は心の中で思う。
「うわぁ、ちょっと少女漫画っぽくてテンション上がるねぇあれ……!」
「そういうの好きねぇ。」
それを見て沙世はテンションが上がった。
もちろんスマホで写真を撮るのは忘れない。
圭のおかげで無事1着になれた。
が、慣れないスピードで走ったため、由美の息は絶え絶えだ。
「ごめん、つい走っちゃって……。」
「ううん、1着になれたから、よかった、けど………疲れた……」
「ところで、お題はなんだったの?」
由美は息が整わないため、持っていた紙を差し出す。
「『一番優しいと思う男子』……??」
「そう……。それなら、圭くんかなぁって。女の子に優しいでしょう……?」
「まぁ、そう……かもしれないけど。」
確かにフェミニストの自覚はある。
けど一番か、と言われたら自分自身では微妙なところだなとは思っていた。
でも、そうか、由美ちゃんはそう思うのか……。
確かに以前も「圭くんは優しいよ」と言っていた。
もちろん、深い意味はないのかもしれないが…………。
……なんでこんなに考えてるんだ?
トラックでは次のパン食い競走の準備が始まろうとしており、部活対抗選抜リレーの出場選手の招集のアナウンスもかかりだしている。
「由美ちゃん、ゆっくり休んでね!」
とりあえず、そう一声掛けて圭はその場から離れた。
------------
昼休憩中、いつものメンバーで集まって配布されたお弁当を食べる。
「あーくっそー、今年も勝てなかったかー。」
「アンカーが秀人なのずるくない?」
「ずるくねーって。」
部活対抗リレーは今年もバスケ部が勝った。
負けた真と圭はそう言った。
2人とあとは亮もアンカーだった。
悠は今回は第1走者を務め、レース始めから独走。
そして勢いそのまま美愛にバトンを渡し、更に引き離して次に繋いでいった。
男子バスケ部の他二人は一輝と原田、いずれもレギュラー陣だ。
「見てるこっちはとても楽しかったけどね〜。」
「応援しがいあるよね。」
「点数関係ないからあんまり気にせず応援出来るもんね。」
出ていない沙世、香緒里、雪音は言う。
「で、まだ一つも競技出てない直樹はなんでもう疲れてるん?」
「だってぇー暑いんだもん〜。」
美愛と由美の間に座っている直樹はぐでっとしている。
去年の体育祭から1年経ち、身長はまた最近伸びて170cm近くになったものの、体力は変わりないらしい。
6月とはいえ、天気がいいので暑いことは暑い。
「ぐでぐでされると見てるこっちが暑いわ。」
「ユミ〜ミメイが冷たいんだけど〜」
「直樹くん、それは暑い。」
えーんと由美にくっつくも速やかに拒否をされている。
めげていないが。
最近は直樹の扱いにも慣れ、若干雑にも扱うこともある由美だが、さすがにくっつかれるのには慣れないようで少し赤くなりながらも押し返している。
「直樹、由美ちゃん困ってるから。」
圭は間に入り直樹を引き剥がす。
「えーいじゃあケイでいいやー」
「ちょっ、俺男にくっつかれる趣味はないんだけど!?」
今度は圭の方にもたれかかる。
とりあえず誰でもいいらしい。
悠は早々に距離を取っている。
「香緒里??」
わちゃわちゃしてるのをジーッと見ていた香緒里に秀人は声を掛けた。
「どうした?」
「うーん、なんかちょっと気になって。」
「……圭か?」
「うん、なんとなく。」
香緒里が言わんとしている事を察した秀人は同じように見る。
まだ未確定ではあるのだろうが、なんとなく新たな芽が出ているように香緒里は感じたのだ。




