1、次へ向けて
6月中旬。
5月から続いていたインターハイの県予選も終わり、引退する3年生が殆どとなり、受験モードに突入する頃。
緑ヶ丘高校の3年生も運動部は7月に甲子園の県予選を控える野球部以外はほぼほぼ引退となる。
もちろん、例外もある。
吉崎香緒里は今年も県大会で優勝をし、インターハイ出場を決めた。
2年連続の快挙に学校は大いに盛り上がり、県の新聞や空手雑誌の取材なども来ていた。
緑ヶ丘高校自体はスポーツ強豪校ではない。
なのでその中で好成績を残したのは香緒里と、あとは県大会でベスト16まで勝ち進んだ男子バスケ部くらいだ。
新谷秀人、鮎川悠が属する男子バスケ部は県大会へと進み、2回戦まで勝ち進んだ。
だが、3回戦で県内屈指の強豪校と当たり、あえなく敗退。
それが、秀人と悠にとっての最後の試合となった。
その日の夜。
香緒里たちはいつものように談話室に集まっていた。
秀人はいつもと変わらない様子で翔太たちと話している一方で、悠は表面上は明るく振舞っているようで、やっぱりどこかまだ気持ちの整理がついていない様子に見える。
「なんか………受験がまた一歩近付いて来ている気がする……。」
谷中沙世は項垂れる。
受験勉強はしなくてはならない。
でも、したくはないのだ。
「気がする、じゃなくて一応もう私たち受験生だからね??」
「嫌やー勉強したない〜……!」
香緒里の言葉に渡辺美愛は頭を抱える。
「いっそ、受験せんで実家戻って家の手伝いするんもありか……??」
「ミメイ、おじさんに『大学はしっかり行け』って言われてなかった〜?」
「せやった……。」
従姉弟である渡辺直樹に指摘され、美愛は溜息をついた。
上原奈津はその美愛を見て、
「大体、実家帰っちゃったら悠になかなか会えないよ?」
と投げ掛けた。
相変わらず爆弾を投げてくる。
「それは………ちょっと困るなぁ。」
「いや困るってなんだよ。」
「会えへんの寂しいから、困る。」
「…………そうかよ。」
悠を気遣ってか、いつもより二人の距離は近い。
美愛のド直球な言葉に悠は少し顔を赤くする。
「秀人は進路どうすんの?警察官って学校行くのか?」
沢田真は秀人にそう投げかける。
以前から、秀人は父と同じく警察官になりたい、と言っていた。
「高卒や大卒で警察学校入るパターンもあるけど、俺は大学卒業して国家公務員試験受けて、ていうルートにしようと思ってる。から、普通に大学は行くつもり。」
「へぇ、なるほど。どこ大行くとか決めてんの?」
「まぁ、普通にあそこ。」
ぼかしてはいるものの、恐らく日本トップの大学だろうということはこの場にいる全員には察することが出来る。
そして多分普通に合格するだろうということも分かる。
「まず志望大学から決めなきゃねー……。」
「将来何になりたいか、とか難しいなぁ。」
安西雪音はそう言い、香緒里は少し考えるように視線を上に向けた。
「香緒里は空手続けるの?」
「うーん、特に競技としてはそこまで続ける気はないんだねぇ……。インタビューとかでも、オリンピックは?とか聞かれるんだけど、そこまではいいかなっていうか……。」
石川翔太に問われた香緒里はそう答える。
インターハイに2年連続出場というだけでなかなかすごい記録ではあるのだが、そもそも香緒里にはそこまでの上昇志向はない。
もちろん、インターハイはやるからには最後まで勝ちたい、という想いはあるが、人生を掛けられるレベルかというとそうではない。
もったいないと翔太たちも思うが、でも、香緒里らしいと言えば香緒里らしい。
「香緒里ちゃんの乗った雑誌とか出たら、買わなきゃだねぇ。」
須賀由美はそう言う。
友人が雑誌や新聞に載るという体験はなかなか出来ない。
「ファンクラブ会員がこぞって買いそう。」
「売り上げやばそうやな。」
沙世と美愛は想像しながら言う。
もちろん、二人とも買うつもりではいる。
「秀人的にはどうなの?彼女が雑誌に載るって。」
鮎川圭に聞かれた秀人は隣にいる香緒里を見る。
「目立つことにはなるから、心配ではあるな。でもまぁ、雑誌はもちろん買う。」
「あんまりじっくり見られるとちょっと恥ずかしいんだけどね……。写真映りいい訳でもないし……。」
「実物も写真もかわいいけど?」
「いや、その、そういうことでもなくて……!」
ナチュラルに言う秀人に香緒里は赤くなる。
例の告白の一件以降、秀人は少しずつ心配や独占を言葉にするようになってきた。
それでもきっと全部ではないんだろうな、ということは親友の翔太には感じられる。
「悠、志望大学は早めにある程度決めておけ。」
「……分かってるよ、最低ラインは守れるように勉強する。……したくねぇけど。」
3つ子の兄である鮎川亮に言われた悠はそう返事をした。
一応腐っても大企業の社長の次男。
下手な大学には行けないらしい。
悠も沙世や美愛と同じく勉強は好きではない。
「圭くんはもう決まってるの?行きたい大学とか……。」
「そこまでは決まってないね。家からこっち系統の学部に行っておけ、みたいなのは言われてるけど。」
「大変だねぇ……。」
由美に聞かれた圭はそう返した。
ゆくゆくを考えると色々あるのだろう。
「とりあえず、中間赤点ギリギリ組は期末に向けて勉強するからな。」
「「「「「はーい…………。」」」」」
秀人の言葉に該当組は返事をした。
なんだかんだ面倒見がいい。
これからは新谷塾が定期開催されるんだろうなぁ、と香緒里はそれを見て思った。




