7、見守る
今日は生徒会選挙当日。
大講堂で候補者演説がされる。
香緒里たちは現役の生徒会役員として、演説する候補者をステージの袖から見守っていた。
「1年経つの早いなー。」
「怒涛の1年だったな………忙しすぎる。誰かさんがあれこれ増やすせいで余計に。」
「え?何のこと?」
「どう考えてもお前のせいだろ。」
香緒里、柚希が呟き、時行がとぼけ、一輝が突っ込む。
1年間かけて築いてきたこの関係。
最初は上手くやれるか不安だったはずなのに、今は終わるのがとても寂しい。
「なんだかすごい寂しいですぅ。」
香緒里にぴったりくっつく里華が言う。
「生徒会終わっちゃうと、先輩方とは学年も違うからなかなか会えなくなっちゃう……。」
「そうだねぇ……。でも、勉強の合間とかにどこか一緒に行ったりは出来るんじゃない?今まで忙しすぎてそんな暇なかったけど……。」
「あ、確かにそれはそうですね!」
香緒里の提案に里華は笑顔になる。
「はーくんは今回立候補しなくてよかったの?絶対会長になれたのに。」
「やりませんよ、生徒会は1年で充分です。忙しすぎます。会長たちの元だから働けただけですよ。」
「颯斗………。」
「はーくん、そんなふうに思ってくれてたんだね……!」
「時行先輩は例外です。あなたがもう少し真面目にやってくれてたら俺は元より会長たちの負担も減ったと思うんですけどねぇ!?」
えーー頑張ってたよー?と時行はのらりくらりと躱す。
最後までそこは変わらずだ。
「忙しかったし、大変だったけど、みんなと働けて楽しかったなぁ。」
香緒里が言うと柚希は笑う。
「ほんっと、会長ってそういうとこあるよね。」
「ある意味前向きというかなんというか。まぁ、充実はしてたのは認めるけど。」
一輝は苦笑しつつもそう言う。
「そこは俺のおかげもあるな!」
「………そこはあんま認めたくはねーけど。」
「体育祭の後夜祭に文化祭、クリスマス会と諸々持ってきてくれたからねぇ………。」
結果、香緒里たち自身も楽しんでいたところがあるのは否定出来ない。
人を巻き込む才能がある、という意味では時行はすごい。
「まだ、新しい生徒会への引き継ぎも残ってるからね。あと少し頑張ろうね。」
香緒里がそう言うと、5人は揃って返事をした。
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秀人は部活後、顧問の先生との話し合いがあると言うので、雪音は第一体育館の前で翔太を待っていた。
香緒里は生徒会の引き継ぎのため、今日はいない。
美愛は今日も自主練だ。
きっと悠もそうだろう。
帰ろうとする男子バレー部や男子バスケ部の新入生の視線を感じるも、気付かない振りをする。
さすがに2学年上の先輩に話し掛ける勇気を持つ者はいないようで、近寄っては来なかった。
「あれ?安西さん、ここにいるなんて珍しいね?」
同じく帰りがけの男子バスケ部の原田浩に話し掛けられる。
「もしかして石川待ち?」
「うん、そうなの。」
「あーそっか、吉崎さんも秀人も今日はいないもんね。大丈夫?一緒にいた方がいいか?」
その申し出に下心がないことは2年以上の付き合いでわかる。
多分本当に心配してくれている。
「ううん、平気よ。もうすぐ来ると思うし。」
「そっか、じゃあ気を付けて。また明日ーおつかれー」
「お疲れ様、また明日ね。」
手を振って去って行く原田と入れ違いに翔太がやって来る。
すれ違い様に二人は一言二言何かを話し、笑って分かれる。
秀人や悠を通じて、原田は何かと雪音たちと絡むことも多く、意外と仲が良い。
「ごめんね、お待たせ。」
「大丈夫よ、お疲れ様。」
二人は手を繋いで並んで歩き出す。
八代の告白から数日が経った。
詳細は省かれたものの、その話は秀人から翔太に、翔太から雪音へと伝わった。
それ以上は言うつもりもない。
沙世たちは恐らく雰囲気で察するだろう。
八代に香緒里が告白され、香緒里がしっかり断った、という話。
重くないと言われた、というその話だけ、二人は知っている。
「香緒里って、秀人が思っている何倍も多分秀人のこと好きよねぇ。」
雪音は改めてそう言う。
「俺らから見ると明らかなんだけどな。当事者である秀人は自分の方が重たい、自分の方が好きだろうって思ってるのが不思議ではあるよな。」
「多分、お互いそう思ってるのよね、あの二人。」
「八代の誤算は、多分そこだろうな。」
香緒里は八代が言うようにスペックで秀人のことを好きになったわけじゃない。
でもそれ以上に、普通のカップル以上に様々な経験をし、乗り越え、信頼を深めている。
そこに第三者はもう入り込めないのだ。
そう、翔太も雪音も思う。
「今の香緒里に八代の存在は確かにありがたかったとは思うけど、それはただただクラスメイトとして、だけだったんだよな。」
「あとねぇ、私が思うのは、八代くんが好きになった香緒里って、秀人が引き出した香緒里なんだろうなって。」
「なるほど?」
「秀人と付き合う前……要は中学までの香緒里って、たしかにかわいかったけど、今みたい表情豊かではなかったんだよね。もっと落ち着いてるというか。」
雪音も翔太も、香緒里とは小学校も同じである。
家庭のこともあって、そんなに明るく笑顔が多いタイプではなかったはずだ。
かわいい、美人、という声はよく聞いたが、水面下でモテていただけで、表面化はしていなかった。
「それが、秀人と付き合って、それこそ家のことで色々あって、どんどん印象は変わっていった。特にここ一年の香緒里の表情の柔らかさ、あれは絶対秀人が引き出したもの、と私は思うんだ。」
「確かにねぇ。香緒里にファンクラブが出来て人気になったのもここ一年の出来事だし。」
「だから、そもそも前提が違ったのよね。秀人と付き合ってなかったら、今の香緒里はいない。」
そう、香緒里について雪音は語った。
秀人も香緒里に出会って大きく変わったが、香緒里も秀人に出会って関わって変わったのだ。
「香緒里に重さを受け入れられたから、秀人はちょっと変わるかな。」
「どうでしょうねぇ。でも、二人が幸せならそれで全然いいかな。」
「それはそう。」
翔太と雪音は笑い合う。
出会ってお互いを救い合うまで、辛いことが多かった二人だから。
その大事な親友たちが幸せであるように、笑えるように、翔太と雪音はいつも見守っていけたらと思うのだ。




