6、想い溢れ
八代の存在に香緒里以外の各々がモヤモヤを残す中、GWに突入した。
GWは授業がなく、大体の生徒が部活に取り組む。
運動部はインターハイ予選が大体中旬から月末頃に始まるので一層熱を入れて活動しているところ多い。
並行して、香緒里たち生徒会はGW明けから始まる生徒会選挙期間に向けて準備を進める。
忙しく過ごしている中でも香緒里は時折八代に出くわした。
生徒会帰りだったり、食堂だったり、お風呂へ行く途中だったり、見掛けると話しかけに来ていた。
秀人がいてもいなくても。
「吉崎さん、この間貸してくれた本、読み終わったよ。」
「あ、ほんと?どうだった?」
「面白かったよー特に終盤。」
「あそこいいよねぇ。」
話す時間は然程長くはない。
挨拶程度の時もある。
クラスメイト、同じ学級委員という立場、それらをしっかり活かして香緒里に不自然に思われない程度の接触を重ねているように見えた。
だから、秀人は止めづらい。
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GWが明け、また普段通りの日々が戻ってくる。
秀人は次の時間が教室移動のため、翔太と共にA組の教室を出た。
C組の前を通る時に、少し歩みのペースを落とし、教室の開け放たれたドアから中の様子をチラリと見る。
香緒里は八代と何かを話していた。
たまたまドアの方を見た八代と目が合った気がした。
八代は少し口元に笑みをうかべ、また香緒里の方を見た。
C組を通り過ぎたあと、秀人は溜息をついた。
「大丈夫か?」
隣を歩く翔太はそう窺う。
「………正直、ちょっとまいってはいる。」
「だろうな……。」
「今も止めに入りたいとは思う。けど、それをすると香緒里の立場を壊すことになる。……今、香緒里がまともに話せるクラスメイトは、河村と藤村と……あいつだけだ。
それを俺の感情だけで崩してしまうわけにはいかねぇだろ……?」
秀人が下手に動けない理由も、恐らく八代は把握している。
把握した上で、それを逆手にとっているのだ。
もっと悪質でしつこかったり、香緒里が嫌がっていたりするなら容赦なく間に入ることは出来る。
だが、八代はナチュラルに、他のクラスメイトから見ても違和感なく、香緒里の元へ行くのだ。
だから香緒里も警戒していない。
「なんというか、強かだよな……。」
翔太は晴れぬ秀人の表情を見つつ、呟く。
どう動くべきなのか、非常に難しいのだ。
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生徒会選挙期間が始まり、香緒里達もいよいよ来る引き継ぎへ向けて、改めて漏れがないか、資料の準備は万全か、などの確認作業をしていた。
「あと少しでここに来るのも終わりかー寂しー。」
「そう思うならもう少し早めにきて作業してもらえません?」
時行の言葉に颯斗は相変わらず手厳しく突っ込む。
「はーくんのお小言ももうすぐ聞けなくなるのかー」
「俺は先輩のお世話から解放されて清々しますけど。」
「冷たい!!」
いつも通りの二人に香緒里は苦笑する。
「ほら、早く作業しないと部活行けないよ?」
「はーい頑張りまーす。」
「会長は今日は部活行かないんですぅ?」
「うん、今日は部活休んで作業進めちゃう。生徒会選挙終わったら、しっかりインハイ予選に向けて頑張るから。」
里華に聞かれ、香緒里はそう答える。
最後の大会ももうすぐなのだが、生徒会のことも最後まで手を抜きたくない。
「あんま無理すんなよ。」
「気をつける。」
一輝にそう言われるのは何度目か。
みんなでこうしていられるのもあと僅かと思うと、やっぱり少し寂しかった。
最後まで生徒会室に残っていた香緒里は、下校時刻になったため、電気を消し、鍵をかけて出た。
大抵の部活はもう既に活動を終え、寮のある多目的棟へと皆帰って行っている。
校舎に残っているのは教師たちくらいだろう。
人気の少ない廊下を歩き、昇降口へ行く。
下駄箱で靴を履き、外に出ると八代がいた。
「八代くんどうしたの?忘れ物……??」
「吉崎さん、ちょっと話があるんだけど……いいかな?」
わかった、と香緒里が言うと八代は歩き出す。
付いてきて、ということなのだろう。
その後を追った。
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秀人は部活を終えた雪音と、珍しく終わる時間が被った翔太と合流した。
「香緒里は生徒会だっけ?」
「あぁ。そろそろ終わる頃だと思って、メッセージ入れたんだけど気付いてないのかまだ返って来ねぇんだよな。」
翔太に聞かれた秀人はスマホを見つつ言う。
迎えに行こうかと思っていたので、とりあえず校舎の方に向かうべきか、と考えていると、体育館の方からマネージャーの彩葉が走って来た。
「新谷先輩!」
「何かあったか?」
「あの、今ファンクラブ……じゃなかった、友達から連絡があって!八代先輩が吉崎先輩を連れて、どこかへ向かって行ったって……」
それを聞いた秀人は顔色を変える。
「それ、どこで見たんだ?」
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八代が向かった先は、校舎本館の裏手……この時間は人があまり来ないような場所だった。
そこで、八代は立ち止まり、香緒里と向き合う。
自分に向けられる好意に疎い香緒里も、ここまで来ればさすがに勘づく。
もしかしてこれは……
「こんな時間にごめんね。どうしても、吉崎さんと二人きりになれる時に伝えたくて。」
香緒里に視線をしっかり合わせ、切り出してくる。
「吉崎さんが生徒会長になる前……学級委員会で会った時から、どんな人なんだろうって、気になってた。
同じクラスになって、話すようになって益々気になるようになった。」
八代は静かに話を続ける。
「真面目で、人のことをよく見てて、気に掛けていて。そういうところ、尊敬出来るなって思った。
でも、なんでも一生懸命だからちょっと心配にもなる。」
「心配……?」
「うん。クラスでも無理して頑張ってるんじゃないか、って。」
「それは………。」
何とか馴染もうと努力はしている。
だけれどなかなか難しい。
何かきっかけがあればいいのかもしれないけれど。
「そんな吉崎さんが放っておけなくて。傍にいたいって、思うんだ。新谷がいるのもわかってる。それでも、吉崎さんのことが好きなんだ。」
『好き』とストレートに言われたことで、告白に慣れていない香緒里は少し赤くなる。
その香緒里に、八代は一歩近付く。
「優しくて、かわいくて、吉崎さんのことを知る度に、どんどん好きになった。俺には新谷程のスペックがないのはわかってる。でも、好きな気持ちで負けたくないんだ。」
「え……と……。」
こういう時、なんて返したらいいのかがわからない。
でも、八代の真剣な、でも少し不安そうな目を見て、何か答えなきゃいけないとも思う。
八代がもう一歩近付き、香緒里の手を取ろうと手を伸ばしたその時。
香緒里は後ろから腕を引かれ、抱き締められる。
「え、秀人……?何でここに……?」
「……何してんだ。」
驚く香緒里の問いには答えず、秀人は低い声で八代に向かって言う。
「何って、普通に告白だけど?」
「……それはわかってる。」
「彼氏いる人に告白しちゃダメ、なんてルールは無いだろ?想いを伝えるのは自由だ。」
射るように見られていても八代は動じず淡々と答える。
正論ではある。
「それとも、それすらもするなと?」
「それは……。」
「重い彼氏は嫌われるぞ?」
静かに淡々と、秀人が一番気にしているところを刺す。
そこを突かれると何も言えなくなる。
思わず、八代から視線を外す。
何も言えず黙る秀人に変わって、口を開いたのは香緒里だった。
「……重いなんて、思わない。」
秀人は驚いたように腕の中にいる香緒里を見る。
緩まったその腕から香緒里は出て、八代を見た。
「確かに、世間一般的に見れば重いのかもしれない。でも、私はそうは思わない。私のことを大事にしてくれている証拠でしょう?だから、安心する。」
まさか香緒里から反論されるとは予想していなかった八代は、秀人同様固まった。
「私は、秀人以外好きにならない。私にとって、秀人以上の人はいないから。だから……ごめんなさい、気持ちには答えられません。」
そう言って、八代に向かって頭を下げる。
隙の突きようのない返事をされ、八代は視線を香緒里から逸らして下を向く。
そして数秒後、顔を上げる。
「わかった。……気持ち、聞いてくれてありがとう。」
八代はそう言ってその場から立ち去ろうとする。
そして秀人にすれ違い様、
「隙、見せてるうちは俺みたいなのがまた来るかもしれないからな?」
そう言って、忠告した。
二人から随分と離れてから、
「本気、だったんだけどな………届かない、か。」
と小さく呟いた。
八代が去った後、香緒里は秀人を見る。
香緒里の言葉を聞いてから、ずっと下を向いていた秀人は視線に気付いて顔を上げた。
視線が真っ直ぐ絡み合う。
腕一つ分、離れていた距離を秀人は踏み出して詰める。
そして、香緒里の背に手を回して抱き締めた。
その力はいつもより幾分か強い。
「ごめん………今ちょっと、余裕ないかも……」
抱き締めながら、耳元でそう囁く。
その声は少し熱が籠っている。
香緒里はそっと手を背に回した。
「大丈夫……いいよ?」
そう言って顔を上げて秀人を見つめる。
その言葉が何を意味するかはわかる。
秀人は右手をその少し赤く染った頬に手を当て、キスをした。
一度唇を離し、更にもう一度。
何度も重ねるうちに、段々深く長くなっていく。
受け入れてもらえるなんて、思ってもみなかった。
重くて、深くて、自分でも持て余してしまうくらいのこの想いを。
ずっとずっと、悩んで苦しんでいた気持ちは、香緒里の言葉でどこかへ行ってしまった。
愛しい気持ちが止まらない。
「香緒里……。」
キスの合間に囁くと、こちらを少し潤んだ瞳で見つめ返してくる。
「……好きだよ。」
「……私も……。」
抱き締める腕につい力が入るも香緒里は更に擦り寄る。
あぁもう、ほんとよくない。
抱き締めながら、またキスをする。
長く長く。
息が続かないくらい。
香緒里から時折漏れる吐息に更に理性を煽られる。
どれくらい、そうしていただろうか。
ようやく二人が離れた頃には少し空がオレンジ色に染まり始めていた。
少しだけ、距離が空く。
それでも手はお互いに触れたまま、まだ整わない息のまま、視線を絡ませる。
「秀人……その、ここ学校……だったんだけど……」
「わかってる。でも、もう無理だった。」
顔を赤くし、未だ潤む瞳で香緒里は言う。
少し冷静さを取り戻した秀人はそう、声を低くして言った。
そして、もう一度抱き締める。
先程より優しく、緩やかに。
「香緒里、ありがとう。………大好きだよ。」
「私も………秀人のこと、大好き。」
最後に少し触れるだけの優しいキスをした後、二人はしばらく寄り添っていた。




