2、学級委員
「えー、とりあえず今日は学級委員を決めたいと思います。他の委員会は追々で。」
今年もC組の担任となった柏木亜弥が教壇に立ち、そう言う。
「ちなみに今日の放課後に早速学級委員会があるんだが、誰か希望者はいるか……???」
クラスのほとんどが柏木から目を逸らした。
緑ヶ丘の学級委員は例外無ければ、1年間通してやることになる。
体育祭や文化祭など各種決め事の指揮を取ったり、クラス内の雑務をこなしたりする。
あまりやりたがる者はいない。
「あー……吉崎、やってくれない?」
「……分かりました。」
来ると思っていた。
1、2年生で柏木のクラスで学級委員をしており、かつ生徒会に所属する香緒里なら諸々話が早い。
担任的にもめちゃくちゃ楽だろう。
「男子、誰かいないか?」
会長とやるのはちょっと荷が重い、という気持ちと、香緒里とお近付きになりたい気持ちが多くのC組男子の中でせめぎ合う。
そんな中、手が上がる。
「俺、やりますよ。2年で学級委員してましたし。」
「八代か。そうだね、なら問題ないか。じゃあ学級委員は吉崎と八代で。」
前に座っている八代は振り返ってこちらを見る。
「吉崎さん、生徒会引退まで大変だろうから、代わりに色々やるからね。よろしく。」
「ありがとう、それは助かる。」
微笑んで言う八代に香緒里はお礼を言う。
柚希は少し離れた席からその八代の様子を見て、少し違和感を覚えた。
二人で学級委員、大丈夫だろうか。
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放課後、八代と共に学級委員会が行われる教室へと向かう。
「八代くん、陸上部なんだ。」
「そうそう、長距離専門なんだよね。短距離は普通かなーだから残念ながら体育祭ではそんなに目立たない。」
「いやー……私よりは活躍できると思うよ?」
「そうなの?運動得意なのかと思ってた。」
「全然!空手が出来るだけで走ったり球技したりは普通……というか球技に関しては苦手なくらい。」
そんな話を和やかにする。
クラスメイトにはまだまだ割りと壁があるように感じているが、八代は香緒里が生徒会長であるということを然程意識していないようでフランクに話してくれるため、香緒里的にも話しやすい。
教室へ入ると、既に何人かもう到着していた。
1年生から3年生合同でやるので全部で30人になる。
「あ、一輝と町田くん。」
「やっぱり会長もか……。」
「まぁそうなるよなー。」
二人は香緒里たちに気が付くとこちらにやってくる。
「柏木先生から指名された。」
「俺も同じ感じだ……。」
「俺は、お前2年間学級委員やってたからいいだろ?って。よくはねーんだけどな……。」
香緒里に続き、一輝と町田が言う。
一輝は2年間E組の学級委員をし、町田は香緒里と共に2年間C組で学級委員をしていた。
ちなみに町田は今回、秀人たちと同じA組になった。
八代は去年1年間だけしていたらしい。
「C組は女子は吉崎だろうと思ってたけど、男子は八代か。お前、三学期の時に『面倒だからもう学級委員はやらない』って言ってなかったか?」
「んー、気が変わった?」
「そうかよ……。」
親しげに話す二人を見て、そっか同じ陸上部だったと香緒里は思い出す。
「あぁそうだ、会長、この間の部費の話なんだけどさ。」
「うちの部の予算引き上げた方がいいんじゃないかって話?」
「そうそう。」
生徒会の話をし出す香緒里と一輝を八代はしばらく眺めた後、
「吉崎さんと小野って仲良いの?」
と聞いた。
聞かれた二人は顔を見合わせる。
「仲良い、というか……」
「同じ生徒会だからな。話す機会は多い。」
「一緒にいる時間も長いよね。」
「……会長、その言い方だと若干語弊を生まねぇか?」
「あぁそっか、ごめん。でもまぁ仲はいい方なんじゃないかな?」
「ふーん?生徒会って仲良いんだな。」
結局質問の意図がよくわからないなこいつ、一輝は思うが突っ込む間もなく、学級委員会の説明のために担当教師がやってきた。
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数日後、香緒里はいつものように部活を終えて寮に向かっていた。
「仮入部の人、結構来てる?」
「例年より多いな。新人戦や冬の大会の予選でかなりいいところまで行ったから、評判いいらしい。」
「うちはいつも通りくらいかなー。」
香緒里が聞くと秀人、雪音がそれぞれ答える。
男子バスケ部は主力である秀人たちが最高学年になったため、より一層チームの総合力が上がっているらしい。
「女子マネ希望も多そうだよねー。」
「正直そんな大規模な部活じゃないからこれ以上マネージャーいらねーんだけどな……。」
女バスは男バスの隣のコートで練習をしているため、様子がよく見える。
現在は山瀬舞、後藤咲乃、中村彩葉の3人がマネージャーとして所属している。
「入れても一人、と思ってるけど希望者が多すぎたら今年はなしにしようとは思ってる。」
「あぁそっか、部長権限。」
「そういうこと。」
香緒里は納得したように頷いた。
「空手部はそれこそ希望者多いんじゃない??」
「と、思うでしょ?でも見学だけで実際にやりたがる子って少ないんだよね……。やっぱりそんなに身近なスポーツではないからねぇ。部員増やしたいんだけど……。」
雪音に言われるが、そこは悩ましいところ。
現在空手部は香緒里たち3年生が4人、2年生は7人だ。
男女共に団体戦に出るのはギリギリの人数なので、1年生に入って欲しいところではある。
「あれ、吉崎さん。」
そんな話をしながら帰っていると、後ろから声を掛けられる。
振り向くと八代と町田がいた。
こちらも部活帰りなのだろう。
「お疲れ様ー。」
「あれ?悠は一緒じゃねーの?」
「あぁ、悠は渡辺と自主練。」
「仲良いなぁ相変わらず。」
町田が聞くと、秀人がそう答えた。
そういえばこの二人も同じクラスになったんだったな、と香緒里は思い出す。
元々香緒里や悠を介して顔見知りではあったが。
「帰りに会うの、珍しいな。」
「俺らの方が大体早く終わるからなー。最近は日が伸びてきたから冬より長く練習してるけど。」
外で活動する陸上部より、体育館でやるバスケ部の方が終わりが遅いことが多いのだ。
「空手部も割りとこの時間なの?」
「大体このくらいかな?バスケ部と同じくらいのことが多いかな。」
「だから一緒に帰ってるんだ。」
八代に聞かれた香緒里は答える。
どちらかが早く終われば大体待ってから一緒に帰っている。
「というか、安西さんも一緒なんだね?」
「うん、雪音も大体一緒だねぇ。一人だとあちこちで男子に話し掛けられちゃうから。翔太……彼氏と一緒の時以外は一緒に帰ってる。」
「ふーん、そうなんだ。」
意味深な受け答えをする八代を町田は見つつ、
「それ言ったら吉崎もそうなんじゃねーの?」
と言った。
「私……??まぁ確かに女の子たちからはよく話し掛けられるけど……。」
投げ掛けた意図とはちょっと違う回答が帰ってきたため、町田は秀人と雪音を見た。
苦笑いをした二人を見て、事情を察する。
要するに気付いていないのだ。
「秀人も大変だな?」
「…………否定は出来ない。」
「そういえば、聞き損ねてたけど、こちらは?」
雪音は八代を見て聞く。
あまりにも自然に町田とやってきたので聞き損ねていた。
「あ、同じクラスの八代くん。一緒に学級委員してる人。」
「八代です、町田と同じ陸上部。」
軽く会釈する八代に、秀人と雪音も会釈を返す。
秀人は八代のことを少し、見つめた後香緒里の手を取った。
「あー、邪魔したな。んじゃ、秀人、また明日な。」
「おーまたな。」
秀人の様子を見た町田はそう言って八代を連れて先に寮の方へと向かおうとする。
「また明日ねー。」
「うん、また明日ー。」
八代も秀人を一瞬見た後、香緒里に声を掛けて町田についていった。
「なんか…………掴みどころのない人ね、八代くん。」
雪音は去って行く二人を見て呟く。
「いい人ではあるかな。」
「……そっか。」
それに対する香緒里の言葉に、秀人は短く返した。
明確な何かがまだあるかは分からない。
でも、理屈ではないが、何となくいい予感は秀人にはしなかった。




