1、クラス替え
新学期が始まり、吉崎香緒里は3年生になった。
緑ヶ丘高校では3年生に進級した時のみ、クラス替えが行われる。
つまり、今回が初めてのクラス替えである。
理系・文系でクラスが分かれるのである程度の予測はついたが、それでもクラス替えの発表は誰しもそわそわする。
「やったーー!遂に同じクラス!」
昇降口の前で配られたクラス表を見て谷中沙世は手を上げる。
喜び過ぎて周りの生徒に見られているが本人は気にしていない。
「4年ぶりだなー。雪音も同じクラスか。」
「二人が一緒なら心強いわ。」
「俺的にも安心。」
沙世、沢田真、安西雪音はD組になった。
石川翔太は雪音に続いてそう言った。
沙世と真がいるなら、変な虫に狙われることもないだろう。
「俺と翔太も同じクラスになるのは久しぶりだな。」
「確かに。4年ぶりだね。」
「しかし、悠とトッキーも一緒のクラスとか、絶対騒がしいな……。」
「だから俺とトッキーを一緒にするなって!」
新谷秀人、翔太、鮎川悠がA組。
「由美とは3年間一緒やな。」
「ね〜よかったー。なっちゃんと圭くんも一緒だし。」
「……亮、なっちゃんと圭が一緒のクラスなのは偶然?」
「たまたまだ。」
「本当に?」
「……クラス替えの操作出来るなら、もう少し上手くやってる。」
渡辺美愛、須賀由美、上原奈津、鮎川圭がE組。
翔太に突っ込まれた鮎川亮はそう答えながら、香緒里の方を見る。
ちなみに、亮は渡辺直樹と一緒にB組だ。
「………確率酷すぎない???」
香緒里だけC組となった。
いつものメンバーの中で文系選択は8人いる。
「香緒里だけ別クラスになる確率は、約6%だな。」
「一瞬で計算しないで……。」
瞬時に頭の中で計算出来る秀人はさすがである。
かなり低い確率を引いてしまったのだということは分かる。
秀人的にも心配ではある。
「柚希が一緒なだけ、まだマシかなぁ。」
唯一話せるのが同じ生徒会の河村柚希だけ。
先行きが不安過ぎる。
生徒会長として、校内全員の顔と名前は覚えている。
新入生はこれからだが。
ともかく、クラスメイトの顔と名前は一致しているし、生徒会として話したことがある人もいる。
でもそれはそれだ。
「まぁ、なんかあったら言えよ。」
「うん、ありがとう。」
教室の前で秀人に頭を撫でられそう言われる。
クラス以外は今までとは変わりないのだ、何とかなるだろう。
そう思って自分のクラスに入る。
教室に足を踏み入れると、皆の視線がこちらに向くのがわかった。
校内で知らない人はいない、文武両道の生徒会長。
注目度は高い。
2年生の時はそもそも1年間同じクラスで過ごした上で生徒会長になったため、あまり会長扱いはされずクラスメイトとしてみんなと過ごしていた。
なので、まず『会長』としてクラスで見られる環境が慣れない。
自席に座り、これ今年大丈夫かな……生徒会引退した後ならなんとかなる……??と考えていると、柚希がやって来た。
「おはよう。同じクラスだね、よろしく。」
「柚希〜〜ほんとに同じクラスでよかった……柚希だけが頼り……。」
「ちょっ、会長!?」
ギュッと柚希の手を握りながらそう言うと柚希はやや動揺し、顔を少し赤くする。
かわいいのでやめてもらいたい。
「あぁそっか、沙世たちとクラス分かれちゃったんだもんね。」
「うん。空手部はそもそも同期少ないからいないし、元C組の人もここにいるはいるんだけど、みんな男子だから……。」
「なかなかハードモードなクラス替えだね。」
ほぼぼっち状態である。
しかもみんな遠巻きにこちらを見ている。
柚希がいなかったら初日に誰にも話し掛けてもらえない可能性もあったかもしれない。
「あ、吉崎さんだー。」
呼ばれてそちらを見ると、同じ生徒会で副会長をしている小野一輝の彼女である、藤村七恵がいた。
七恵もこちらに寄ってくる。
「あ、藤村さん。そっか、同じクラスだったんだ。」
「そうなの。吉崎さんとはゆっくり話して見たかったから同じクラスで嬉しい。」
屈託なく話し掛けてくれる七恵にちょっとホッとする。
誰?という顔を香緒里に向ける柚希に、
「一輝の彼女さん。E組で学級委員してたからちょっとだけ顔見知り。」
「あぁ、噂の。」
「藤村七恵です。書記の河村さんだよね?いつも一輝がお世話になってます。」
「いやこちらこそ、お世話になってます。」
「それはほんとにそう。お世話になってます……。」
ちなみに一輝は亮と同じB組になったはずだ。
とりあえず、顔見知りが少しでもいて安心した。
「おはよー。」
「あぁなんだ八代か。あんたもこのクラスだったんだ。」
「なんだ、って失礼だなー。」
香緒里の前の席に男子がやってくる。
柚希と顔見知りのところを見ると元B組だろうか、と顔を見て思い出す。
「元B組の学級委員の……八代くん、だよね?」
「あ、覚えててくれたんだね。八代蒼介です。」
「さすが会長。」
「一応全校生徒の名前、覚えるようにしてるから。」
「え、全校生徒覚えてるの!?」
香緒里の発言に七恵は驚いたように言う。
「やばいよね。」
「え、そう???」
「自覚ないのもすごいな……さすがあの新谷くんの彼女……。」
柚希にやばいと言われるも、香緒里は首を傾げる。
七恵は感心したように呟く。
「吉崎さんと話してみたいなーって思ってたから、同じクラスでよかったよ。」
「そうなの??とりあえず、よろしくお願いします。」
「こちらこそ。」
八代にそう言われた香緒里はともかく頭を下げる。
他のクラスメイトたちとも上手く話せるといいのだが。
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「そういえば、藤村さんと話したよ。」
新入生歓迎会で仕事が一段落ついたため、生徒会は一度夕食を食べるためにステージ裏から出て、体育館へと戻った。
柚希は既に友人を見つけそちらに行き、香緒里は一輝と歩いていた。
「あぁそっか、ななとクラス一緒になったんだっけ。」
「そうそう。明るくてかわいい子だねぇ。」
「まぁな。しかし会長もなかなか確率悪いクラスになったな。秀人たち全員と別のクラスだろ?」
「そうなんだよねー……まぁなんとか頑張るけど。一輝は新しいクラスどう?」
「ぼちぼちってとこかな。とりあえず時行のお守りから外れてちょっとホッとしてる。」
ここに生徒会会計の佐倉時行がいたら「酷くない!?」と突っ込んだことだろう。
二人で歩いていると、新入生たちがこちらをチラチラ見ている視線を感じた。
「なんか、私たち見られてる……?」
「そりゃそうだろ。というか見られてるのは主に会長の方だろ。」
入学式で在校生代表として挨拶をした香緒里は既に新入生の間で話題になっている。
「あの……!」
見ている新入生の中から一人、女子生徒が香緒里の傍に寄ってくる。
「あれ……あなた、体験宿泊してた子だよね?」
「そうです!!覚えてて下さったんですね!」
「合格したんだねぇ。入学、おめでとう。」
「ありがとうございます!!」
入学試験の際に行われた寮への体験宿泊で見掛けて話した子だった。
覚えられていたことに感動したらしいその女子生徒は少し頬を染める。
またファンクラブ会員増えそうだな、と一輝はその様子を見て思う。
ほんとうちの会長は無自覚人たらしだな、とも。
秀人たちはいつものように固まっており、その集団はなかなか目立つ。
「あそこの集団ビジュ良すぎない……???」
「わかる。私芸能科受けたんだっけ……??」
遠巻きに見る新入生たちの声が香緒里と一輝の耳にも届く。
最近は悠や亮、直樹の身長も伸び、大人っぽくなってきたこともあり、益々目を引くようになってきている。
「相変わらず目立つグループだな。」
「みんな顔がいいからねぇ。」
「会長もそうだろ。」
「え??私?いや、そんなことないでしょ。」
「……おまえ、もうちょい自覚した方がいいぞ?」
香緒里の場合、謙遜してるのではなく本気でそう思っているからなかなか厄介である。
今年も秀人は心配が絶えないだろう。
「あ、香緒里だ〜お疲れ〜。」
沙世が香緒里に気付き声を掛ける。
新入生たちは、「え、あの会長もあそこのグループなの!?」とザワつく。
「じゃあ、無事送り届けたからな。」
「いつも悪いな。」
「まぁ気持ちはわからないでもないから、別にいいよ。」
秀人にそう言った後、香緒里に「んじゃまた後で。」と声を掛けた後、一輝は離れていく。
「一段落?」
「うん、とりあえずね。またちょっとしたら部活動のオリエンテーション始まるから行かないとだけど。」
秀人は香緒里に話し掛けつつ、周りに視線を巡らせた。
「やっぱりこの学校の生徒会長かわいいよな。」等々新入生男子が言っているのが聞こえる。
内心少し溜息をつきつつ、香緒里の腰に手をやり引き寄せる。
「秀人?」
「んーん、何でもないよ。」
翔太と雪音はその様子を見つつ、今年もまた牽制してますねぇ、と言い合う。
二人が付き合っていると知れるまで、そう時間はかからないだろう。
「悠、あんたまた身長伸びたん?」
「あー伸びたかも。いい加減170cmいってるといいんだけど。」
美愛は隣に立つ悠を見る。
つい最近までは同じ目線だったのに、少し高くなっているように感じた。
「亮も伸びたよねー今悠とどっちが高いかなー?」
入学時は奈津と同じくらいの身長だった亮だが、今は視線を合わすために奈津が少し上を見ないといけないくらいになった。
「亮はともかく、悠には身長抜かされたくねーなー。」
「あーわかる、なんかな。」
「なんでだよ!」
秀人と真がそう言うと悠は突っ込んだ。
まだ2人の方が少し高いが、悠の3つ子の弟である圭が2人より高いので、抜かす可能性もなくはない。
「直樹くんも大きくなったよね。」
「あー確かにそうかもなぁ。えー……うち、あんたにも抜かされるん……???」
由美の言葉に美愛は直樹を見る。
美愛は女子の中では身長が高めの方で165cmある。
元は160cmないくらいの身長は、その美愛とそう変わらないくらいになっていた。
「パパに似たら大きくなるだろうね〜そもそもミメイも大きいし。」
「なおちゃんが高身長になったらやばそう。高身長クォーターイケメン、つよい。」
沙世は想像してちょっとテンションが上がった。
そんな沙世を見て真はちょっと苦笑いをする。
取り巻く環境は変われど、ここの空気感は変わらない。
それだけは香緒里にとって安心材料だった。




