7、分かれの日
3月初め、予餞会が行われた。
緑ヶ丘高校の場合、予餞会というより文化祭のステージに感覚は近い。
今年は時行と原田が司会をしているためよりその傾向が強かった。
『では次は1年D組有志によるバンドでーーす!!』
『卒業ソングメドレーだそうです!ではどうぞ!』
大講堂で行われている予餞会は大変に盛り上がっていた。
その裏で香緒里たち生徒会は分刻みのタイムスケジュールを管理しているのでバタバタしている。
「では次の出番のダンス部の皆さん、こちらに集合してくださーい。」
里華が手を上げ誘導し、颯斗は照明をしている演劇部とインカムで連絡を取り合っている。
「一輝、先生方は?」
「今河村に呼びに行ってもらってる。今日合格発表の先輩もいるから、その連絡で何人か職員室に滞在してるらしい。」
「あーそっか、その可能性は考慮してなかった……!最悪順番入れ替えるしかないか……。」
多少の時間の前後は時行たちのMCに巻いてもらったり時間を稼いでもらったり出来る。
そこに柚希から「今からそちらに向かう」とメッセージが入る。
なんとか間に合いそうだ。
「ねぇやっぱり美愛と悠で漫才してもよかったんじゃない?絶対面白いよ?」
ステージを見ながら沙世は言う。
「いや、やらへんわ。それ面白がるの身内だけやろ。」
「えーミメイとユウ面白いよ?いっそオレも入ってトリオ漫才する?」
「しねぇよ!」
あの日から数日、すっかりいつもの調子に戻った直樹を見て由美はホッとする。
その日しばらくは少し考え込んでいた様子ではあったが、もう大丈夫そうに見える。
「ユミはどう思うー?」
「んーー多分二人はネタをしようとするんじゃなくて普通に会話してるのが面白いからねぇ………。」
「それはそれで微妙なんやけど……?」
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予餞会の数日後には卒業式が行われ、その後は生徒会主催の卒業パーティーが開かれる。
形式としては新入生歓迎会と変わらず、立食パーティーで歓談がメインとなる。
始まってしまえば生徒会メンバーにも余裕が出来るので、各々友人や先輩の元へと行く。
「香緒里ちゃん!」
秀人たちの元へ行こうか、先輩に挨拶をしようか考えながら歩いていると声を掛けられた。
「桃花先輩!卒業おめでとうございます。」
空手部の元副部長であり、元生徒会副会長の一ノ瀬桃花だった。
「送辞よかったよーお疲れ様〜。」
「ありがとうございます。でもやっぱり大勢の前で話すのはまだまだ慣れませんね………。」
生徒会の仕事をするのはまだいいのだが、式典等で話すのは未だに得意ではない。
緊張していないように見られるらしいが、内心はガチガチである。
「生徒会の大きな仕事もあと残すところは新入生歓迎会くらいだねー。」
「そうですね。なんだかあっという間で。大変ですけど、でも桃花先輩に薦められて立候補してよかったかな、とも思ってます。」
「それならよかった。」
部活でも、生徒会の引き継ぎでも大変にお世話になった。
部活引退後も校内や寮内で会えていたので、卒業して急に会えなくなってしまうのはやっぱり寂しい。
「残りの生徒会も、空手も頑張ってね。インターハイ出たら教えて、応援行くから。」
「分かりました、ありがとうございます。」
そう言って笑い合う。
あ、そういえば、と最後に桃花は思い出したように言う。
「私ね、実はファンクラブ入ってたんだよ?」
「え?ファンクラブって……」
「秀かおファンクラブ、香緒里ちゃん推し寄りのね。」
「ええぇぇぇ!!?」
最後に爆弾を落とされた。
「小倉先輩、ご卒業おめでとうございます。」
「おめでとうございます。」
秀人と悠は元部長の小倉宏樹の元を訪れていた。
「二人ともありがとう。」
「H大学に行くんでしたっけ?バスケ続けるんですか?」
「うーんどうだろう。そこの雰囲気次第ではあるけど……出来たら続けたいね。」
悠に聞かれた小倉はそう答える。
「秀人とは何だかんだ長い付き合いになったな。」
「そうですね。」
小倉とは同じ中学出身だった。
たまたま同じ高校に進学し、再会が出来たのだ。
「俺、小倉先輩には感謝してるんですよ。」
「秀人が俺に?」
「中学の時、部活でまともに俺と話してくれたの、先輩くらいでしたからね。高校でもバスケやろうかなと思えた一因が小倉先輩なんです。」
そう、笑って秀人は話す。
そういえば、中学の時は部活でちょっと浮いてたと前に話を聞いたのを悠は思い出した。
今の部活での秀人を見ていると想像はつかないが。
「俺はそんな大したことした覚えないんだけどなー。でも、中学に比べて高校では楽しそうにしてたから、そこはちょっと安心したかな。」
小倉は最後に二人を見た。
「インハイ予選、見に行くから頑張れよ。」
「はい。」
「もちろんです。」
小倉と分かれた後、二人でいつものメンバーを探していると、美愛が真壁歩と話しているのを見掛けた。
「いいのか?」
「あー……まぁ、そういうんじゃねーだろうし、いいよ。」
秀人が目線をそちらに向けて言うと、悠は少しだけ考えた後、そう言った。
歩は美愛の元カレではある。
気になりはするが、今更どうこうというのはないだろうという信頼はある。
通り過ぎようかと思ったが、美愛に呼び止められ、手招きをされる。
「行ってきたら?俺は適当にみんな探すし。」
「……わかった。」
秀人はそう言ってふらりとその場を去った。
みんなと言いつつ大方香緒里を探すのだろうが。
「なんだよ?」
「いやな、うちに彼氏が出来たっていう話したら、どんな人か見てみたいって歩が言うからな。」
悠が近付いて聞くと、美愛はそう答えた。
元カレと対面はさすがに若干の気まずさというか微妙な心地がするが、向こうはそうでもないらしい。
「あー、文化祭で美愛のクラスで王子役やってて女装コンテスト出てた人か!」
「すげー不本意な覚えられかたなんだけど……」
「まぁ文化祭であんた目立ってたからなぁ。」
「お前も条件一緒だろ???」
「せやけども。ほら、ほっぺチュー事件もあったことやし。」
「忘れろ、それは絶対忘れろ……!!」
二人のやり取りを見て、歩は笑う。
「仲良いなぁ。」
「……まぁ、仲はええかな。」
「美愛が幸せなら良かったよ。」
「もう心配いらへんよ。」
美愛はそう言って微笑む。
歩に向かって、しっかりそう言うことが出来て良かったと思う。
別れてはしまったが、多分ずっと気には掛けてくれていただろうから。
「じゃ、元気でね。」
「そっちも。卒業おめでとう。」
手を振って歩は他の3年生のところに行ってしまった。
「……会うの、最後になるかもしれへんから挨拶しとこうかな思て。」
「そっか。」
そんな所だろうと思っていたので悠の反応はあっさりしていた。
「……歩と話してて、気がついたんやけど。」
「なんだよ。」
「悠、いい加減うちのこと名前で呼んでくれへんの?」
「え。」
「この間、直樹のおかんと英語で話した時は名前で言ってくれたのに。」
そういえば歩には普通に名前で呼ばれていたな、と思ったのだ。
ジーッとこちらを見つめてくる美愛から、悠は少し目を逸らす。
「あれは…………英語だと苗字呼びってあんましねーから、つい。」
「今は??ダメなん?」
「…………無理。」
かわいく強請られ、呼ぼうとするも今の悠には無理だった。
顔を赤くしてそっぽを向いてしまった悠に、美愛は笑う。
まだ、今はいいか。
あの時、美愛の代わりに怒ってくれたそれだけで、今は満足出来る。
「そのうち言ってくれるの、楽しみにしてるわ。」




