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一期一会  作者: 雪奈
第14章 雪影に滲む
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6、帰りたい場所


香緒里は生徒会で卒業式と予餞会、卒業パーティーの準備を進めていた。

卒業式は教員主導のため然程やることはないが、予餞会と卒業パーティーでは生徒会がメインで進行をしなければならない。


「ステージ企画のタイムスケジュール出来た??」

「出来ました!こんな感じですぅ。」


香緒里は里華から書類を受け取り、目を通す。


「……うん、大丈夫そうだね。じゃあタイムテーブル作らないとね。柚希、フォーマットは出来てる?」

「もちろん。明日配れるようにしとく。」

「ありがとう、助かる。」


記念品や花束の手配は済んでいる。

壁面の飾り付けは各クラスに少しずつお願いしている。

問題はスライドショーと教員側の出し物か。

出し物に関してはなんとか頼めてある。


「トッキー、スライドショーで使う写真のピックアップは出来た?」

「亮と直樹に作ってもらったAIが選別して、みんなどこか3枚以上は写ってるラインナップになってるから大丈夫そうだよー。あとは構成に当てはめればOK。」


二人に事前にお願いしてプログラムを組んでもらった甲斐がある。


「会長、そろそろ職員室行くか?」

「あ、そうね。職員会議終わった頃だろうし……。」


今日は教師陣から卒業生へ向けてのビデオメッセージを撮る日だ。

香緒里は一輝を伴い、職員室へと向かう。


ふと窓の外を見るとどんよりと雲が重たく広がっていた。

雨、降らなければいいんだけど……。



-----------


由美は直樹と共に放課後、部活に出るため家庭科室に向かっていた。

今日は卒業式後に行われる卒業パーティーで作るものの役割分担決めだ。

新入生歓迎パーティーと同様、料理部は食堂の職員と共に料理を作るのだ。


「直樹くん、何希望するの??」

「うーん、やっぱり前菜かなー。ユミはやっぱりデザート?」

「かなー?それが一番お役に立てそうだし……。」

「ユミならどこでも大丈夫でしょー料理も上手だし。」

「ふふ、ありがとう。そう言ってもらえると嬉しい。でも直樹くんも1年半でかなり上達してるよ?」

「そうだといいなぁ。」


家庭科室に入り、部活開始時間まで他の部員と共に雑談していると、担任の柏木がやってきた。


「直樹、保護者の方が来てる。応接室に通そうかと思ったんだが、いいと言われたので、そのまま校門の辺りで待たれているはずだ。」


『保護者』と聞いて直樹はちょっと固まる。

恐らく、直樹の母のことだろうということは由美にも分かった。


「事前に連絡している、と言っていたが……大丈夫だったか?」

「…大丈夫です。」


その様子に柏木は少し心配そうに尋ねる。

連絡なんてもちろん来ていない。

でもここでそんな事を言えばいらぬ心配を掛けるだろうということは予想出来るので言わない。

大人に頼ってもいいのかもしれないが、これは直樹自身の問題だ。


柏木が去った後、直樹は部長に声を掛けて家庭科室を出る。

由美もその後を追った。

直樹の顔色はまた少し青白いが、瞳はあの時よりは覇気がある。


「ついて行っても大丈夫……?」

「うん、ありがとう。ミメイにも……連絡してくれる?」


直樹に言われ、由美はスマホを取り出した。

まだ、練習は始まってないはずだ。




部室で着替え、そろそろ体育館の方へ向かおうとしていた時、スマホが鳴った。

画面の表示には由美の名前。

この時間に珍しい。


「由美?どうしたん?」

『あ、美愛ちゃん、今大丈夫??』

「まぁ、今から部活出るとこやけど……。」

『良かった、間に合って。……直樹くんのお母さんが、来たみたい。』

「!わかった、どこ行けばええ?」

『校門のところ。』

「すぐ行く。」


電話を切り、ジャージを羽織る。


「なおちゃん?」


隣にいた雪音が尋ねる。


「せや、来たらしい。二人で行っても怪しまれる、雪音は部活出てくれへん?」

「わかった、よろしくね。」


短く会話をし、美愛は部室を出る。

体育館を覗くと既に悠はボールを持ち、練習を始めていた。

それでも……


「悠!」


美愛が呼び掛けるとすぐにこちらを見る。

そして美愛の表情を見て、すぐに察した。

ちょうど近くにいた秀人の方を見る。

秀人もすぐに状況を把握、悠に向かって「行ってこい」と言った。


「部活も始まり出してるから全員は無理だ、俺も行けない。亮と圭には声掛けとけ。」

「わかった。」


悠は返事をすると、そのまま美愛と共に体育館を出る。

心配は心配なのでついて行きたいところではある。

だが部長である秀人が抜けるわけにはいかない。


「まぁ、あいつらに任せておけば大丈夫だろ。」


小さく呟いて、秀人は練習に戻った。




----------


美愛たちが昇降口の方へ行くと、ちょうど直樹と由美もそこに辿り着いたところだった。

合流すると無言で校門の方へ向かう。


校門のすぐ脇の木の下に、直樹によく似た髪色に整った顔立ち。

こちらを……というより直樹を見ると笑顔になる。


「ナオキ!」

『Why are you here?』


手を振る母親に直樹は静かに問う。

聞かれた母親はさも不思議そうに首を傾げる。


『Of course. I came to take you home.』


一歩直樹に近付く。


『You don’t belong here. Not in Japan.

You should be studying in a much higher-level environment.』

『No. I'm not going back. I’m never going back to America』


英語が分からない美愛や由美にも、連れて帰ろうとしているのはなんとなくわかった。

それを直樹がらしっかり拒否したことも。

直樹の言葉に母は顔色を変えた。


『Why are you saying that?! You... You were never a child who would say such a thing...!!』


更に一歩、直樹に近付く。

それに対して直樹は後ろに一歩下がった。


『It’s all because you were in this low-level world...!! I knew I should never have let you come to Japan...!』


顔を歪ませ、頭を抱える直樹の母を見て、由美は「なんて言ってるの……?」と圭に聞いた。


「レベルの低いところにいたせいで直樹は変わってしまった、みたいな感じかな。」

「……レベル、低いかな……???」


由美は少し考えた後に呟く。

大企業の跡継ぎたち、全国トップクラスの頭脳を持つ人、直樹より頭のいい人たちは周りに普通にいる。


由美の言葉に圭は苦笑して、


「そんなことはないだろうねぇ。」


と言った。


直樹の後ろで話す由美たちに直樹の母は目を向ける。


『Hmph. So *those* are your friends?』


鼻で笑った後、日本語に変える。


「価値のなさそうな友達ね。」

「は?なんやて?」

「ミメイ、あなたもいたの。」


そこで初めて直樹の母は美愛に目を向ける。


『I’ve disliked them for being so low-level since the last time we met... But as expected from that person’s bloodline.

You’re the one who influenced him, aren’t you?

I knew it. You’re nothing but a bad influence on Naoki.』


何を言われているのかは美愛にはさっぱり分からない。

でも自分のことを馬鹿にされているのはわかった。

それを言っている表情でわかる。

多分、直樹の足を引っ張ってるみたいなことを言ってるんだろう。

イラッとする思いが溢れそうになるが、横にいた悠が一歩前に出た。


『That's enough.You don’t know anything about what Naoki and Mimei have been through!』


いつもより声のトーンが低く、視線が鋭い。

わーわー怒鳴ることはあれど、本気で怒っている悠を、美愛は初めて見た。


英語で言われたことに直樹の母は驚き、そして悠の圧に少したじろぐ。


『Unfortunately for you, we understand every single word you're saying... Madam?』

『Sorry for being so 'low-level'』


流暢な英語で圭と亮も返す。

更に驚き、三兄弟を見比べた。


直樹は母を見つめる。


『Mom, I want to stay here.』

『But I’m doing this for you...! It’s much better for your future to come home and study...!』

『If you really care about me, then please... let me go.』

『I've cared about you, thought about you, and loved you so much! Why can't you understand?!』


直樹の脳裏に、小さい頃の記憶が蘇る。

初めて出来たことに喜んで褒めて、たくさん抱きしめてくれた母。

大好きだった。

大好きだったから、褒められたくて頑張ってしまった。

出来ることが当たり前になってしまって、褒めてもらうことは最後には殆ど無くなってしまったけれど。


変わってしまったのは自分なのか、母なのか。

それすらもわからなくなってしまっていた。


でも、今は違う。


「オレはママの道具じゃない、好きに生きたいんだ。」


自分の意思がある。

一緒にいたいと思える友達がいる。

居場所があるのだ。


「だから、一緒には行けない。ごめんね、ママ。さようなら。」


くるりと母に背を向けて直樹は歩く。


「ナオキ!待って!お願いよ……!」


尚も母からは声が掛かる。

でももう止まらない。


「諦めない………!あなたたちの顔も覚えた……!」


長年の執着はそう簡単には薄れないのだろう。

こちらを睨む直樹の母を亮は静かに見返す。


『Messing with us is no different from messing with Japan itself. Are you sure you're ready for that?』

『What? What do you mean...?』

『Riku Ayukawa is our father. And I am Ryo Ayukawa. Surely an 'intellectual' like you has heard the name?』

「鮎川グループ……!」


「えっと、亮くんは何の話をしているの……??」

「んーざっくり言うと、ばっちり鮎川の権力を使おうとしてる、って感じかな。うちのグループ、まぁひいては将来的には俺らの会社、一応世界的にも有名だからねー。」

「レベルに拘る直樹くんのお母さんには効果的、て感じ……???」

「そんな感じ。」


じゃ、俺らも行こうかと圭は由美に声を掛けた後、直樹の後を追い掛ける。

悠も美愛の手を引き、その後に続く。


最後に亮は直樹の母を一瞥した後、背を向けて皆の方へと歩き出す。


「部活、戻ろうか?」


追い付いた由美が声を掛けると、直樹は笑顔で頷いた。


自分の好きな道を、好きなように歩く。

ずっとしたかったことを出来ていることが嬉しかった。


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