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一期一会  作者: 雪奈
第14章 雪影に滲む
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4、平穏に差す影


バレンタインデーのすぐ後には学年末試験がある。


学年末試験に限ったことではなく、試験前は必ず香緒里たちは勉強会となる。

主に勉強苦手組の面倒を香緒里と秀人が見る、といった形ではあるが。


香緒里は沙世と美愛の、秀人は真と悠の勉強を教える。

直樹は理系科目は得意で文系科目は苦手なため、そこだけ亮や圭に教わっている。

雪音、翔太、奈津、由美はわからないところがあれば聞く、といった形である。


その甲斐あって、なんとか赤点は皆、間逃れるようになったのだった。


「無事に終わってよかったー……!!」

「とりあえず今回も赤点はなさそうだな……。」


成績はまだ返ってきていないのだが、赤点かの有無……というかそれぞれどのくらいの点が取れているのかはわかる。

なぜなら万年全科目満点の秀人がいて、その秀人に書き写した解答を見てもらえば大体の点数が分かる、というわけである。


「直樹は大丈夫そう?」

「うんー、大丈夫だと思うよー、おかげさまでー。」


香緒里が聞くと直樹は少し間延びした調子で返した。


「香緒里はどう?」

「久しぶりにしっかり勉強出来たから、いつもより点数は良さそうかなー。」

「一学期も二学期も忙しかったもんね……。」


逆に雪音に聞かれると香緒里はそう答えた。

生徒会に就任にしてからイベントとテストと大会とでほとんど時間がなかった。

実際今回も新人戦やら3月の卒業イベントの準備等はあったものの、まだゆっくり試験勉強の時間が取れた方だった。

まぁ一学期も二学期もそれでも成績が下がることがなかったところはすごいところ、もとい香緒里の努力の賜物なのだが。


「毎度のことながらさすが秀人様吉崎様ってところだよな。」

「うちらほっとかれてたら多分前日まで勉強せーへんよな……。」

「わかるー……勉強嫌い……。」


悠、美愛、沙世が疲れた様子で言う。

普段勉強しないため、殆ど詰め込み状態で試験に挑んでいる。


「来年には受験なんだけどねー。大丈夫?」

「嫌や!受験なんて聞きたない……!!」

「気が重すぎる……またたくさん勉強しなきゃいけないなんて……。」

「大学か……。」

「どうするかな……。」


奈津の言葉に真も含めた4人は更に遠い目をした。

あと1ヶ月と少しで全員3年生になる。

それと同時に理系、文系にクラスが分かれる。


香緒里、雪音、沙世、真、美愛、奈津、圭、由美は文系。

秀人、翔太、悠、亮、直樹が理系クラスを選んでいる。


「翔ちゃんが理系なの意外〜文系かと思ってた。」


てっきり雪音と同じ文系選択にするのとばかり奈津は思っていた。


「あーまぁ、実際文系科目の方が得意だよ、歴史も好きだし。でも獣医志望なんだよね、だから理系じゃないといけない。」

「そういえば翔太の家、医療一家だったね。」

「うちの病院は兄貴が継ぐ予定だから、俺は動物系に行こうかと思ってね。」


石川家は父が医者、母が養護教諭、兄は医大生である。


「でも翔太が獣医って似合うよなー。」

「優しいもんね、向いてそう。」


悠と由美が納得したように頷き合う。

そろそろ皆少しずつ進路を意識するようになる時期ではある。


「クラス替えかー初めてだからちょっと心配ではあるなぁ。みんなと一緒ならいいんだけど……。」

「香緒里達と離れるかもなのは寂しいけど、でも来年は真と同じクラスになれる確率が3分の1……!4年ぶりに同じクラスになりたい。」


香緒里が少し不安そうに言うのに対し、沙世は意気込んでいる。

この中で文系選択は8人なので確率的には誰かと同じクラスになれるとは思うが。


「理系は2クラスだからな。下手したら全員一緒もありえるか?」

「さすがに俺と悠はクラス分けられるだろ。」

「まぁそうか。じゃあどっちかとは一緒にだな。」

「あと、バランス的に秀人と亮はクラス分かれそうな気がするけどな。」

「てことは俺と秀人が一緒、亮は別、直樹と翔太はどっちかわからねーって感じだな。」

「あくまで予測だけどな。」


理系選択組はそう話す。

その中で直樹は珍しく談話室に持ち込んでいたパソコンから顔を上げ、美愛を見た。


「ねぇミメイ、明日部活ある?」

「明日?午前中だけやから午後は空いとるけど。」

「そしたらちょっと買い物付き合ってくれないー?」

「それはもちろんええけど。」


現在の直樹の状況を知っているのは美愛しかいない。

出掛けるというのであれば、ついて行きたいところではある。


「あとユウも。」

「俺も!?まぁ、男バスも明日は午前中だけで午後からは空いてるからいいけど。」

「じゃあお願いー。」


三人で出掛けることが決まった。

いいな……と香緒里はそれを見て呟いた。


「明日からまた生徒会でイベントの準備しなきゃな……全国選抜の練習もしなきゃ……。」

「また無理するなよ?」


ちょっと遠い目をする香緒里に秀人は苦笑した。

次にデートが出来るのは一体いつになるのか……。




--------------


翌日。

部活を終えた美愛と悠は直樹と合流し、学食で昼食を食べた後、買い物へと出発した。


「結局、何買うん?」


駅へ向かうバスの中で美愛は聞く。

本来ならなるべく寮から出ない方がいいのだろう。

多分直樹もそれはわかってる。


「パソコンのマウスがね、調子悪くて……。ノートだからなくてもいいんだけど、でもやっぱりオレ的にはないと違和感あって。」


パソコンを触ることは恐らく直樹にとって精神安定剤的なところもあるのだろう。

気を紛らわせる道具としても恐らく欠かせない。

だからこそ、この状況下でも買いに行こうとするのだろう。


「駅から歩ける範囲に3軒くらいあるもんな、家電量販店。」

「そうそう、助かるよねー。」

「でも俺、パソコンは詳しくねーぞ?亮とかの方がよかったんじゃないか?」

「オレが二人と出掛けたかっただけだからいいんだー。」

「そっか?」


なぜ悠まで誘ったのかは未だに美愛もよく分かっていない。

でも美愛としても悠がいた方が色んな意味で心強くはあるので特に突っ込むことはしなかった。


バスで駅に着き、更に電車で数駅行った大きめな駅で三人は下車する。


結局3軒梯子をし、最後に行った駅から一番遠い家電量販店で直樹はマウスを購入した。


「ここ、ボーリングもあるんだな。今度みんなで行くか?」

「あーええなぁ。」

「オレ、ボーリングのボール持てるかな……。」

「キッズのやつ使えばええやん?」


複合施設にある店を出て、そのままエスカレーターで下に降りる。

お腹減ったなーなんて話しながら駅に向かって歩いていると、たまたま反対側の歩道を見た直樹が足を止め、固まった。

前を歩いていた悠はそれに気付き、立ち止まる。


「直樹?どうかしたか?」


その顔を見ると青ざめており、小さく震えていた。

直樹の視線を辿った美愛は「あかん。」と呟き、咄嗟に直樹の前に出る。

悠もそっちを見ると、直樹と同じような金に近い茶色の髪色の美人な女性が歩いていた。


「直樹の……おかんや。」

「は?え……?なんで……」

「わからん、わからんけど、まずい、見つかったら。」


そう、美愛が言った瞬間、女性がこっちを見た。

確実に目が合った。

心臓がバクバクして、直樹だけでなく美愛の呼吸も少し浅くなる。


悠は直樹の手を掴み、美愛に「行くぞ。」と軽く背中を押して声を掛け、走り出した。

美愛も反射的にその後を追い掛けた。


駅から近いため、人通りは多い。

その中を直樹を引っ張りながら悠は人を縫うように走り、時折路地の方へ曲がりつつ、駅を目指した。

日頃部活で走り込んでいる悠や美愛と違い、体力のない直樹だったが、それでも必死に足を動かした。


なんとかそのまま改札を通り、来た電車に飛び乗った。

直樹は座り込み、悠と美愛は手すりに掴みつつ、息を整える。

直樹の呼吸が落ち着くのと、最寄り駅に着くのはちょうど同じくらいだった。


3人は電車から降り、ホームのベンチに腰を掛けた。


「んで、どういうことだったんだよ。」


ようやく口を開いた悠は二人に問い掛ける。

直樹の顔色は未だによくなく、下を向いたままだ。


「……この間、入試の手伝いしてた日に、直樹のおとんから連絡があったんや。直樹のおかんが日本に来てるらしいって。多分……直樹を探しに。」


直樹は自身の手をギュッと掴み、唇を噛む。


「で、バレンタインの頃に、またおとんから連絡来た。大阪のうちの家に来たって。直樹はここにはおらへんって言って追い返したらしい。でもまさか……こんな所までほんとに来るとは、うちも思わへんかった……。」


美愛の顔色もあんまり良くはない。


「何度か会ったことある、から、うちの事も多分あの人は覚えとる。…………悠がいてくれへんかったら、あのまま絶対鉢合わせてた。」


助かった、と美愛は言う。

美愛は多分、直樹を守ろうと気を張っていたのだろう。


悠は立ち上がり、二人の前に立つ。

そして二人の頭をぽんぽんと優しく撫でた。


「とりあえず、帰るぞ。詳しい話は落ち着いてからでいいよ。」


直樹と美愛の手を持ち、立ち上がらせる。

その手は二人の冷えた手と違い、温かかった。

手を引かれ、その温もりを分けてもらっているうちに、美愛もそして直樹の顔色も少し、良くなったように思えた。

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