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一期一会  作者: 雪奈
第14章 雪影に滲む
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3、いつもと違って


バレンタインが近付く頃。


香緒里は部活を終えていつものように秀人と雪音と寮へ向かっていた。


「そういえばもうすぐバレンタインだけど、秀人は今年どうするの?また全部受け取り?」

「いや、受け取りたくて受け取ってるわけじゃないんだけど。」


雪音に聞かれた秀人は苦笑いをする。

毎年、香緒里から『全部受け取って』と言われているから受け取っているわけで、本来は香緒里から貰えれば他はいらないのだ。


「今年も断らない方がいいか……??」


隣を歩く香緒里の顔を見ると、少し考えるように目線を上に向けた。


「ファンっていう子からは受け取ってあげて欲しいかな。でも、えっと……告白、してきた子からは受け取らないで欲しいなぁ……。」


へぇ、と雪音は内心驚いた。

去年までは『気にならないことはないけど』くらいだった。

それが、要は本命を受け取らないで欲しい、まで成長した。

ヤキモチを少しずつ自覚し始めたためなのだろう。


ある意味独占欲とも取れるその発言を聞き、秀人は少し固まっていたが、その後「わかった、受け取らない。」と微笑んだ。


「秀かおファンクラブ、なんていうものが出来たくらいだし、今年は告白自体も減りそうな気はするけどねぇ。」

「だといいんだけどな……。」


雪音がそう言うと秀人は溜息をついた。

香緒里という彼女がいるため平時は告白されることは稀だが、バレンタインというイベントに託けて秀人に告白する女子は割りといる。

ダメ元の人、気持ちだけ聞いて欲しい人、本気で付き合って欲しくて告白してくる人と様々ではある。

どれに対しても同じように『彼女しか興味ないから』と言って断っているのだが、後は絶たない。


今年はどうなるだろうか。



-----------


バレンタイン当日。

悠は昼休みに学食でご飯を食べた後、一人で自販機で飲み物を買っていた。


「あの、悠先輩……今ちょっといいですか??」


ボタンを押して、出てきたジュースを取っていると後ろから声が掛かった。

振り返ると1年生の女子が一人、立っていた。

名前はわからないが、確か女子バレー部の子のはずだ。


「大丈夫だけど………何?」

「これ、受け取ってください……!!」


紙袋を両手で差し出される。

中からチラリと見えるのはラッピングされたクッキーのように見える。


「悠先輩のこと、ずっとかっこいいと思って見てました。渡辺先輩と付き合っているのは知ってます。でも、気持ち伝えたくて……。」


紙袋を持った手は少し震えている。

とりあえず、それを受け取る。


「ありがとう。でも、彼女のこと好きだから、ごめん。」


そうストレートに断った。





「あれ?悠、遅かったな。」


ちょうどトイレから戻ってきた美愛と教室の入口でたまたま出くわした。

美愛は悠の手元にある紙袋に目を止めた。


「どうしたん?それ。」

「あー、なんか告られて、渡された。これってどうしたらいいと思う?」

「いやうちに聞かれても困るんやけど?」


呆れたように言う美愛に、それもそうか、と呟く。


「今年は渡辺から貰えれば充分だったんだけどな………。」

「後でちゃんとあげるわ。……それも、食べたらええんちゃう?うちは構わへんよ。」

「………わかった。」


いつもと違うバレンタインに戸惑う悠に、美愛はちょっぴり苦笑した。



-------------


「新谷先輩!」


部活が終わり、着替えも終わったので雪音と帰ろうとする秀人は、マネージャーの中村彩葉から呼び止められた。


「どうした?」

「あの……これ、吉崎先輩と一緒に食べてください!」


ラッピングされたお菓子の入った袋を渡される。

思わず受け取ってしまった。

それを見届けた彩葉は、ハッピーバレンタインです!と言って自身も帰って行った。


「変わったプレゼントのされかたね…??」


それを見ていた雪音にそう言われる。


「それが、今年多いんだよな、このパターン……。」

「あぁ、秀かおファンクラブのせいね…。」


既にこういった形で数件受け取っている。

去年も「ファンです!!」と言って渡された時には若干戸惑ったが、今年は更に戸惑った。


第一体育館を出ると香緒里は既に待っていた。

そしてその手にはたくさんの紙袋があった。


「香緒里、それは…?」

「なんか、待っている間に貰って………。こっちは私に、それでこっちは私と秀人に、だって。」


右手に持つのが香緒里宛、左手に持つのが二人宛らしい。

若干左側の方が数が多いも、どちらも手がいっぱいになるくらいには持っている。


とりあえず秀人は二人宛だという分を受け取り代わりに持つ。


「まさか香緒里まで貰うとは……。」

「秀人的にはこれはOKなの?」


歩きながら秀人は香緒里の手に持つ袋に目を向ける。

雪音が聞くと、まぁ、と答えが返ってくる。


「全部女子からだろうしな………。」

「なんか集団で来てたけど、多分全員女の子だったと思う。」


大体秀かおファンクラブの子達だろうな、と雪音は思う。

規模はどんどん拡大しているという噂もある。

根室璃子ファンクラブと共に、緑ヶ丘の一大派閥になるくらいだと後輩から諸々話を聞いている沙世が言っていた。




----------


夕食後、いつものように談話室に集まり、女子組はチョコ交換を始める。


もちろん、それぞれの彼氏にも渡す。


「今年も由美様監修です。」

「そんな監修ってほどでもないけど……。」


そう言って真に渡す沙世に、由美はちょっと照れたように笑う。


「でも確かに去年由美ちゃんから貰ったチョコ、売ってるやつみたいにめちゃくちゃ美味しかったよ?」

「ほんと……??それなら良かったけど…。じゃあはい、今年もどうぞ。」

「ありがとう、大事に食べるね。」


圭は香緒里たちに引き続き由美からもチョコを受け取り、微笑む。

今年はクッキーの詰め合わせらしい。


「そういえば、今年は秀人と張り合わないんだ?」


貰ったチョコを食べながら圭を見て、悠は言った。


「んーーー今年は秀人は香緒里ちゃんと合同で貰ってるのも多いしねー。いいかなーって。」

「ちなみに何個だったんだ?」

「今年は35個かな。」

「去年より増えてね?」


去年は33個だったはずだ。


「あれじゃない?去年に比べてちょっと落ち着いたから。」

「チャラさが薄まったからだろ。」


幼馴染と兄はそう評す。

最近の圭はあまり女の子たちといるところを見ない。

相変わらずモテてはいるようだが、前ほど積極的に女の子に絡みに行ってはいないように香緒里には思える。


「ちなみに、秀人は何個だったの?」


沙世は香緒里の隣で貰ったビターの生チョコを食べている秀人に聞く。

今年は缶コーヒー付きである。


「俺個人のだと、20個くらいか…?香緒里と食べてくれって渡されたのも同じくらいあるけど……。」


少し考えた後、秀人は答える。


「告白はされたの?」

「まぁ、何人かからは。もちろん断ったし、香緒里から受け取らなくていいって言われたからチョコは貰ってない。」


それでもファンからのだけで20個貰うのだから人気は伺える。


「へぇ、香緒里、今年は受け取らんでいいスタイルにしたんや。」

「うん。本命チョコはちょっと嫌だなぁって、思って……。私のだけ食べてもらいたいなぁ、なんて………。」


ちょっぴり赤くなりながらそう言う香緒里の頭を秀人は愛おしそうな視線を向けながら優しく撫でた。


「まぁ、これ見たら告白する人たちが減ってもおかしくはないよねぇ。」

「逆にファンクラブからは増えそうだけどね。」


この談話室に滞在している間にも、何人かのファンクラブと思われる子たちが二人にチョコを渡しに来ている。

現在会員数は60人を超えたという噂である。


「真は?もらったの?」

「まぁ、何個かだけど……全部沙世のお腹に消えそうな気はする。」


翔太に聞かれた真はそう答える。

今年も沙世の包囲網を潜ってきた猛者はいたらしい。


「未だにいるのよね…!!いい加減諦めてもらいたいのに…!!」

「俺は沙世しか興味ないんだけどなー。」

「うっ、好き……!!」


相変わらずイチャイチャする2人を横目に美愛は隣に座る悠を見る。


「なんだよ?」

「いや?悠は結局あの後もらったん??」

「あれ1個だけだよ。そもそも俺別にそんなモテるキャラじゃねーし。」


モテる圭や、奈津がいるのにも関わらず時折告白をされる亮と兄弟なのだから、モテてもおかしくはないはずである。

長年かわいいイメージが先行して恋愛対象に見られないことが多かったため、本人としては自覚は薄いのかもしれないが…


「なんか、もうちょいしたらすごいモテそうやなぁ………。」

「なんだよそれ。」

「もっと身長伸びたらかっこよくなりそうやなぁって話。」

「………褒められてんだかなんなんだかわからねーな……。」


悠は微妙な表情をする。


悠と反対の美愛の隣には直樹が座っており、今は由美から貰ったクッキーを食べている。


「なおちゃんはもらうことあるの?」

「オレー??告白とかはないけど普通にもらうよー義理チョコだろうけど。」


雪音に聞かれて直樹は横に置いていた紙袋を見せる。

中にはいくつかラッピングされたお菓子が入ってる。


「お返し、しないとだよねー。」


そう言った後、美愛にしか聞こえないくらいのボリュームで「出来るといいな…」と呟いた。

美愛はそんな直樹を何も言わずにチラリと見た。


「俺もチョコ欲しい………!!!!」


突然そう言って襲来してきたのは時行である。

隣には原田もいる。


「お前、香緒里から貰ってただろ。」

「秀人そんな目で見ないで!あれ、義理チョコだから!許して!」

「そんなことはわかってる。贅沢言うなって話だ。」


香緒里は時行と颯斗には日中、日頃の感謝も込めて渡した。

一輝は彼女がいるため、感謝の気持ちだけ伝えるに留めたが。


「一輝は?」

「彼女と一緒なんじゃない?バレンタインだし。はー羨まし。」


香緒里が聞くと原田は答えた。

彼女いない組同士で今日は一緒にいたらしい。


「余りでよかったら、いりますか……???」

「マジで!?須賀さん神!」

「あざーす!」


由美は紙袋に残っていたクッキーを二人に差し出す。

ぐいぐいくる二人にタジタジ気味ではあるが。


「二人とも、由美ちゃん若干引いてるから落ち着いて?」

「せやで、近すぎや。」


圭と美愛がやんわりと制止する。


「だってバレンタインはチョコ欲しいじゃん?告白イベントとか欲しいじゃん?なぁ翔太?」

「俺に振らないでくれる?俺は雪音がいるから他はいらないし。」

「くそう!ミス緑高の彼氏め!」


本気で羨ましがっている……わけでは多分ないのだろうと1年ほど一緒にいて香緒里は分かるようになった。

これはこれで多分イベントを楽しんでいるのだ。


「トッキーはその性格が問題でしょ。」

「頭はいいし、運動神経も悪くないものね。」


沙世と雪音は時行を見て言う。

顔も別に悪い訳では全然ない。

キャラで損してるタイプではある。


「え、じゃあ二人的にはあり?」

「真の方がかっこいいから無理。」

「翔太以外はないかなぁ。」

「なんかわからんが不本意に振られた……!!」


「佐倉は大人になってからの方が落ち着いてモテるのかもね?」

「………それはあるだろうな。」


そのやり取りを見ていた奈津が亮に話を振ると、少し間を空けた後、そう返ってきた。

本来は出来る男ではある、うるさいだけで。


今年のバレンタインは去年より増して、賑やかだった。


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