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一期一会  作者: 雪奈
第14章 雪影に滲む
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1、雪の日に


三学期が始まって数日が経った頃、関東に大雪が降った。

10cmも積もると首都圏では大騒ぎになる。

緑ヶ丘高校でもいつもはほとんど見られない一面の銀世界にテンションが上がっている生徒は多かった。


「こういう時、全寮制で良かったって思うわ。」

「通学がないって楽でいいもんねー。来れちゃう、て難点はあるけど。」


渡辺美愛がそう言い、谷中沙世が同意する。

昼休みになり、教室で朝購買で買っておいたおにぎりやパンを食べながら吉崎香緒里たちは外を眺めていた。

学食に移動するのにも一度外に出なければならないので、事前に買っておいたのだ。


「直樹ー行こうぜー。」


美愛の後ろの席に座っていた従姉弟の渡辺直樹に、鮎川悠が声掛けて寄ってくる。


「はーい。」

「学食でも行くん?昼買ってなかったっけ?」


直樹も席を立ち、連れ立って行こうとする二人に美愛が聞く。


「トッキーから2年生の男子たちに『昼休み雪合戦しようぜ!』ってメッセが来たんだよ。」

「そーそー、だからみんなで行くー。」


教室を見渡せば既に男子の半数はもういなく、残りも教室から出ようと支度をしているところだ。


「どうりでいつもよりみんな早弁してるなと思った……。」

「そういえばしてたねぇ。」


先程の休み時間を思い出して香緒里と須賀由美は言う。

悠と直樹はもう教室を出て行ってしまった。


「この寒い中外で遊ぼうとするのすごいわ。」

「佐倉は相変わらずアホなこと考えるなぁ。」


沙世と美愛は呆れたようにそう言う。

雪にテンションは上がるが、わざわざ濡れに行く気はないらしい。


「結構な人数いるねぇ。」


由美は立ち上がり、窓辺から校庭を見た。

香緒里たちも同様に窓辺へ行く。

校庭にはかなりの人数の男子たちがいて、雪がまだチラつく中、玉を投げ合っていた。


「真たちもいるね。」

「意外やな、やらなさそうなイメージあるわ。」


沙世は早速沢田真を見つけ、その傍にいる新谷秀人や石川翔太も見つけた。


「んーー意外と三人とも年相応に楽しいこと好きだからね。」

「そうそう、男子同士だと結構ふざけたりするもんね。」


彼女である香緒里や沙世はそう説明した。

鮎川圭も参戦しているのを発見した。


「亮はさすがにいなさそうね。」

「行く?って聞かれたら即答で『行かない』って言いそー。」


そのまま男子たちが雪合戦する様を香緒里たちは眺める。


「ねぇ………気付いたんだけど、秀人一回も玉に当たってない。」

「は?マジ?」

「なんならその場から動いてない。」


ずっと秀人を見ていた香緒里が言い、沙世たちも注目して見てみる。


「ほんとだ……的確に避けてるね……。」

「信じられへんくらいの動体視力やな………。」

「何なの?そういう危ない世界で生きてきた人なの?」


由美、美愛、沙世はそれぞれに感想を漏らす。

運動神経がめちゃくちゃいいのは知っていたし、動体視力がいいのも知っていた。

でもあんなに避けられるものだろうか?

普段空手で相手の突きや蹴りを避けている、全国レベルの実力者でもある香緒里ですら、雪玉全避けは無理だと感じる。




「おい秀人!全然当たってなくね!?全部避けるなよ!」


今も飛んできた雪玉を顔を少し逸らして避けている秀人に悠は叫んで言う。


「いやー来たら避けるだろ?」


そして避けつつ悠に向かって的確に雪玉を投げて当てる。

コントロールもいい。


「あんまりいいコントロールされると俺の立場ねーんだけど。」


野球部のエースでもある真はそう言いながら少し遠くにいる佐倉時行の後頭部に玉を当てる。


「さすがにそろそろ離脱するかな……寒くなってきた。」


何発か雪玉を既に食らっている翔太はコートに付いた雪を払う。

履いている靴も普通のスニーカーのため、雪の中に踏み入れると普通に濡れる。


「えー翔太離脱すんのー?もうちょい遊ぼーよっ!」


言いながら時行は雪玉を投げ、それは帰ろうと後ろを向いた翔太のちょうど首筋当たりに当たる。


「つっめた!………秀人、トッキーに多めに雪玉ぶつけておいて。」

「はいよ。」

「ちょ、翔太!秀人にそれ頼むのはずるいって!」


既に時行は全身雪まみれである。

この雪合戦の主催者の時行は当然あちこちから狙われている。

ある意味自業自得ではあるし、キャラ的にもぶつけやすくて丁度いいのもある。


秀人は手元にあった雪玉を数発、的確に時行の頭、足、腕に当てる。

ついでに真や悠からも食らっている。


「俺もそろそろ戻るかな。」

「秀人が戻んなら俺も行くか。」


翔太の後に続いて秀人と真も校舎の方へ向かう。

なんか飲み物買ってくか?など話しながら秀人は後ろから投げられた雪玉を避ける。

「なんで避けられんの!?こわっ!」と時行は嘆く。


悠はふと隣にいた直樹を見ると雪玉を握りしめたまま、少しぼんやりしていた。


「直樹?どうした?」

「……んーん、なんでもないよ。オレも寒くなったし戻ろうかなー。」


運動神経が残念ながら良くない直樹は速攻雪まみれになっていた。

楽しそうにしていたから特に気に留めていなかったのだが。


「そっか。雪で転ぶなよ。」

「うんー。」


じゃー後でねーと言いながら、直樹は時折雪に足を取られながら帰って行く。

どことなくいつもと違う様子が気になりつつ、悠は雪合戦を続けた。



--------------


放課後、部活後の自主練を終えた後、悠は美愛と二人で寮へと向かっていた。

雪は止んでいるも、雪が周りの音を吸い込んでいるかのように、いつもより静かに思えた。


「今日さ、昼休みに俺ら雪合戦してただろ?」

「ビッショビショで帰ってきたやつな。」


結局昼休みが終わる頃まで悠たちは雪合戦をしており、戻ってきた時には全身びしょ濡れだった。

事前に用意しておいたタオルで拭き、ジャージに着替えていたものの、見てる美愛たちが寒かった。


「いやあれはみんなで乱戦になったから………ってそうじゃなくてさ、あん時、ちょっと直樹が変だったんだよな。」

「変?」

「最初は普通にみんなで遊んでたんだけど、途中からちょっとぼんやりしてるっていうか………。」


悠はあの時の直樹を思い出しながら話す。

どこが変、とは明確にはわからないし、その後も教室で普通に話していたため、気にする程ではないのかもしれないが、何となく美愛には話しておこうと思ったのだ。


「……んー、大丈夫やろ。びしょ濡れで帰って来たくらいやし、寒かったとちゃうん?」


美愛は笑ってそう言う。

が、逆に悠は美愛のその反応を見て確信する。

何かある、と。


「大丈夫じゃないんだな。」

「………大丈夫やって言うたやろ?」

「ほんとに?」


悠にジッと見られた美愛は観念したように溜息をついた。


「あんたに隠し事出来へんなぁ。」

「渡辺がなんか隠してることある時は大体わかる。」


悠は兄弟や幼馴染の変化には敏感だ。

それと同じくらい、もしくはそれ以上に美愛の変化にもよく気がつく。

好きだからこそよく見ているのだ。


敵わへんな、と美愛は苦笑しながら話し出す。


「去年のスキー旅行の前、直樹が話してたこと、覚えとる?」

「スキー旅行………あぁ、雪が苦手って言ってたな。確か母親が教育ママで、そこから逃げ出したのが大雪の日で、って。」

「そう、それや。……表面上は明るく振舞ってて、まぁ実際毎日楽しくやれてるんやとは思う。ただ、多分根本の部分は解決してないんやろな。

去年、スキー行って多少はマシになったはなったけど、まだ思い出すんやろうなぁ、こういう日には……。」


そう言って視線を落とす。

美愛は従姉弟であるため、過去の直樹を知っている。

直樹が当時どんな様子だったのか、今とどう違うのか。

だからこそ心配なのだろう。


悠は美愛の頭を軽く撫でた後、手を繋ぐ。


「俺らがどうにかしてやれる問題ではねーけどさ、気分落ちてるんなら、一緒にいてやればいいだろ。みんなでいた方が気も紛れる。

で、あいつがこの問題を何とかしたいって思う時が来たら、協力してやればいーんじゃねぇか?」

「………せやなぁ。」


悠はそういうスタイルだ。

そばにいて、待つ。

ちゃんとその時が来れば助けてくれる。

美愛もそうやって救われたのだ。


「うちが気分下がっててもしゃーないか。」

「夕飯の後、またみんなでゲームしようぜ、昨日の続き。」

「ええな、そーしよ。」


ようやく美愛は笑顔になり、それを見て悠も少しホッとする。

雪が溶ければ、直樹の気持ちも和らぐだろうか。



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