8、旅の終わりに
修学旅行5日目、今日がフランス出発の日。
午前中はルーブル美術館へと行く。
美術品を全部見るのに1時間かかると言われるルーブル美術館。
流石にそこまで時間はないのでクラス毎にメジャーな展示物のみを見ながら館内を歩いていく。
昨日同様、元美術部で絵画等も好きな香緒里は満喫していた。
「美術館、ずっと行ってみたいなぁと思ってたんだけど、やっぱり楽しい……!!!」
珍しくキラキラした目であちこち見回す香緒里を見て沙世は少し笑う。
かわいい。写真撮っておこう。
「日本帰ったら、秀人とどっかの美術館行ってみたら?」
「秀人と…?行ってくれるかな……??」
「香緒里に誘われて秀人が断るわけなくない?」
「絶対喜んで行くだろ。」
首を傾げた香緒里に沙世と悠は即答する。
まず香緒里から誘われた時点で内心めちゃくちゃ喜ぶだろう。
「あー確かに喜びそうやな〜悠は絶対行かへんやろ?」
「俺は興味ねぇなぁ……や、流石にここまで来たらモナリザくらいは見たいけど。てかそれ言ったらお前だって興味ねーだろ。」
「まぁせやな。」
美愛と悠はそう話す。
「オレは意外と楽しいかも〜。本で見たのが実際にあるの面白い。」
「教科書で見たものが実際に目の前にあるって、確かに不思議な感じ。」
直樹はちょっとわくわくしたように言い、由美は同意する。
沙世は美術品の写真を撮りつつも香緒里たちの方にもカメラを向ける。
「修学旅行で写真撮りすぎてスマホの容量やばいかも………帰国したら整理しよ。」
「……なんか、頭も手もないって不思議な像だな。」
「一応右手はそっちにあるぞ。1950年に見つかったらしい。タイタニックのあの有名なポーズはこれがモデルだったり、あの翼がナ〇キのロゴマーク由来だったりする。」
「なんでそんなことまで知ってるんだよ……。」
サモトラケのニケを見上げて感想を述べた真に、秀人はそう説明する。
「どこかで一度読んだ。」
「それで細かく覚えられるのがすげーよ。」
「一度見たり聞いたりしたことは忘れないからな。」
「瞬間記憶能力やべぇ。」
サラリとすごいことを言う秀人を呆れと尊敬の入り混じった目で真は見る。
相変わらずスペックが高い。
「モナリザって、盗まれたことなかったっけ?」
「1911年にな。昔はそんなに有名じゃなかったんだが、盗まれたことで世界中の新聞社が大騒ぎして世界一有名な名画になった。」
「よく知ってるな……。」
「教養だ。」
モナリザの前で翔太が聞くと亮はそう答える。
秀人とまた違った種類の知識の付け方である。
人混みが凄すぎてあんまりよく見えないのが残念である。
一輝たちは諦めて後方にいる。
時行は後ろの絵画のポーズの真似をして、周りの生徒たちに写真を撮られていた。
日本でもフランスでも時行のテンションはあまり変わりがない。
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シャルル・ド・ゴール空港に着き、出国審査を済ませた後に自由時間となる。
一番早くに出国審査を終えたC組の香緒里たちは伸びをした。
「あの担当の審査官、めっちゃ怖うなかった???何言ってんのかわからんくてイエースイエースしか言えへんかったんやけど。」
「よく通れたね……?」
「ノリで行けるもんやな。」
フランス語はもちろん英語もさっぱりな美愛は言う。
「聞いてたけど、返事としてはyesで問題ない内容だったよー?」
英語はペラペラの直樹は美愛のすぐ後ろに並んでいた。
直樹が言うのだから本当に問題なかったのだろう。
「悠はこういう時フランス語と英語のどっちで会話するの?」
「英語の方が話せるから英語だな。わかんねー単語出されるとフランス語は無理。」
「……英語の成績良くなるといいね……。」
「ならねーから困ってるんだろ!成績に関しては谷中も人の事言えねーだろ!」
香緒里に聞かれた悠はそう答え、哀れみの目を向ける沙世にはキャンと吠えた。
「最終日でも悠は元気ねー。」
「あ、なっちゃんに雪音に圭!そっちも無事に終わったんだね。」
D組も終わったのか、3人が合流する。
「何の話してたの?」
「悠が何故英語の成績が悪いんかって話。」
「そこまでは言われてねぇよ!渡辺も人の事言えねーし!」
圭に問われた悠に代わり美愛が答える。
沙世の方が悠より成績はややマシで、美愛は悠とどっこいどっこいである。
「出国審査でフランス語と英語、どっちで話してるの?っていう質問してたの。」
「なるほど。私は英語かなー。」
「俺も英語だな。フランス語は発音難しくて。」
香緒里の言葉に奈津と圭は答える。
確かにフランス語の方が発音はややこしそうだ。
「やっぱり外国語話せると便利そうだねぇ。私もそのうち英会話勉強しようかな……。」
「香緒里ちゃんは英会話教室通わなくても新谷くんが教えてくれそうだよね。」
「わかる、絶対そう。」
そう言った由美に沙世は力強く頷いた。
あの男は香緒里が「通おうかな?」って言ったら絶対「俺が教える」って言う。
「あ、いたいた。沙世、もう少し買えばよかったって言ってたマカロン、あっちに売ってたぞ。」
「真!え、ほんと?行かなきゃ!!」
「え、限定フレーバーのやつ!?私も行く!機内でも食べたい!」
沙世と奈津は真の指す方向に走り出す。
慌てて真はその後を追い掛ける。
「え!?奈津!ちょっと待って!」
悠や美愛と話していた圭は出遅れて走り出す。
が、ちょうど奈津が走って行った方向に亮がいた。
二人でアイコンタクトしたのだろう、圭は止まった後にこちらに戻って来る。
「お疲れ様。」
雪音は苦笑いしながら圭にそう声を掛ける。
恐らく修学旅行中に何度かこういう状況になったのだろう。
「香緒里はお土産もういいのか?」
「うん、もういいかなー。買いたかったものは買えたし。」
真と一緒に来た秀人が香緒里に聞く。
奈津を追った亮と一緒にいた翔太もこちらにやって来た。
「沙世となっちゃんはどこに向かって行ったの?」
「マカロン買いに行ったみたいよ。」
「なるほど、それで。」
翔太に聞かれた雪音はそう答えた。
二人ともそこそこお土産を買っているはずだがまだ買いたいらしい。
「沙世ちゃんたち、お土産鞄に入りきるのかな?」
「入らんかったら、沢田や鮎川亮の鞄に入れるやろ。」
既にスーツケースは預けてしまっている。
機内で手荷物を置く所にも限りがあるだろう。
まぁスーツケースがあったところでそちらもパンパンなのだが。
「オレあっちでチョコ買ってくる〜。」
「あ!またウロウロする!うちも行くから待てや!」
一人で買い物に行こうとする直樹を美愛は追い掛け、悠はその後に普通について行く。
「みんな元気ねー。私たちはどうしよっか?」
「とりあえず、もう少ししたら酔い止め飲みたいかな………。」
残ったのは香緒里、雪音、由美、秀人、翔太、圭である。
「由美ちゃん、ユーロ使いきれた?」
「ううん、まだ残ってるんだよねぇ。どうしよ。」
「そしたらおすすめのお店あるんだけど。マロンペーストが有名なとこ。」
「あ!知ってる!え、ここにあるの?行きたい!」
由美のテンションが珍しく上がる。
圭はそれを見て笑って、「こっちだよ。」と由美と連れ立って行ってしまった。
残った4人は近くにあるベンチに座る。
「ユーロ使い切った?」
「んーまぁ残ってるけど、どうせ母さんがそのうちフランス行くだろうから渡せばいいかなと思ってる。」
「さすが世界的ファッションデザイナー。」
翔太と秀人が話す横で香緒里はこれから乗る飛行機を思って気が重くなっていた。
酔い止めを飲むので行きよりは絶対マシにはなるはずである。
ただ行きのあの気持ち悪さが若干トラウマになっている。
「香緒里、乗る前から顔色悪くない……?大丈夫?」
「気持ち的な問題かな……。」
「なかなか酷そうだったもんね……。」
雪音は心配そうに香緒里の顔を覗き込む。
翔太はベンチから立ち上がり、雪音の方に手を伸ばす。
「雪音、ちょっとあっち見に行ってみない?まだ時間あるし。」
その手を取り、雪音は立つ。
いってらっしゃい、と香緒里は手を振る。
「どこ行くの?」
「どこ行こうかなー。」
「やっぱり、決まってたわけじゃないのね。」
香緒里たちから少し離れてから雪音は聞く。
「まぁね。俺らいない方が香緒里も甘えやすいでしょ。」
チラリと後ろを振り向くと、二人の距離は先程よりも近付いていた。
確かにメンタル的に落ちているならば秀人になんとかしてもらうのが一番ではある。
「それに、俺も雪音と二人きりの方がよかったしね。」
翔太がそう言うと雪音は微笑んで「私も。」と言った。
帰国すればまたたくさん一緒にいられるのは分かっている。
でも、修学旅行で、異国の地で一緒に過ごす、というのも特別で大事なのだ。
二人は手を繋いで寄り添いながら、集合時間まであちこち巡りながら楽しんだのだった。




