7、二人きりで
翔太が雪音と共に奈津や圭がいるという店に行くと、店の前で奈津と圭がキョロキョロ見回していた。
2人の姿を見つけると駆け寄って来る。
「雪ちゃん、大丈夫!?村上に連れてかれたって班の人に聞いて、心配したよう。」
「翔太も一緒だったのか……ごめん、俺がいながら……。」
そう言いながら、二人は手を繋ぐ雪音と翔太を見比べ、あれ?という顔をした。
「大丈夫よ、翔太が見つけて来てくれたの。……色々心配掛けてごめんね。」
「まぁ圭が雪音から目を離したのは、大目に見るよ。迷子になったわけではないしね。結果的に仲直りも出来たし。」
ね?と翔太は雪音を見る。
雪音はそれに対して微笑んで答えた。
いつも通りの様子の二人を見て、奈津と圭は安堵する。
何があったのかは聞かない。
ともかく、仲直りしてくれて良かったのだ。
「それじゃ、俺は班の方に戻るから。また後でね。」
翔太は最後に雪音の頭を優しく撫でた。
雪音は珍しく、その翔太にちょっとだけ抱き着いた後、離れる。
「あんまりかわいいことされると戻りづらいんだけど?」
「ふふふ、ごめんね。また後で。」
二人は顔を見合わせて笑った後、手を振った。
「すっかり元通りどころかいちゃつき度上がってないか???」
「まぁまぁ、とりあえずいいんじゃない?」
圭が言うと奈津はそう言って手を振る二人をニコニコと眺めた。
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「おかえり。」
「ただいま。ごめん突然抜けて。」
「いい。上手くいったか?」
「うん、ちゃんと話せたよ。」
翔太が元いたカフェに戻ると、亮が声を掛けてくる。
察しが良くて助かる。
「安西さんのとこ行ってたんでしょ?大丈夫だった?」
「大丈夫、話して解決してきたよ。」
丁度カップを店内に下げて戻ってきた七恵に聞かれ、翔太はそう答える。
「それはよかったな!仲直りのチューはしてきた?」
「時行お前………。」
「トッキー、そういうの野暮って言うんだよ?」
時行がそういう言うと、一輝と七恵は呆れた顔をする。
空気を読んでるんだか読んでないんだか分からないのが時行である。
「さぁな。」
照れるでもなく否定するでもなく、翔太は笑って肩を竦めた。
「石川くん大人………。」
「かっこよ………。」
七恵の後ろでやり取りを見ていた班員の女子二人がそう呟いた。
亮はその様子を見て、ちょっぴり口元に笑みを浮かべた。
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修学旅行4日目。
午前中は、バスで郊外にあるバルビゾン村とフォンテーヌブロー城へ行った。
パリ市内に比べて落ち着いた雰囲気で、あのミレーが住んでいた村だということで、美術好きでもある香緒里的には少しテンションが上がった。
フォンテーヌブロー城はベルサイユ宮殿とは違い豪華さはないものの、規模は大きかった。
「あんたんちと同じくらいの規模ない?」
「いやさすがにこんなにでかくねぇよ。」
見回して美愛が言い、悠が突っ込む。
日本の邸宅の中では鮎川家の敷地はかなり広い方だが、やはり世界のしかも過去の貴族たちの家となると規模が違う。
午後からはノートルダム寺院に行き、その後にセーヌ川クルージングとなる。
川のほとりに着いた頃には日が段々と落ちている頃で、水辺の近くでもあるためかなり寒かった。
「遊覧船?て感じだねーなんというか長い?」
寒さで香緒里に引っ付く沙世がこれから乗り込む船を見てコメントする。
1階は壁がガラス張りの広いフロアになっており、2階はデッキになっており、手すり以外遮るものはなさそうである。
「酔わないといいな………。」
「酔い止め飲んだ?」
「飲んだ。海じゃなくて川だから多少マシだと思ってるんだけど………。」
香緒里は船と川を見比べて言う。
飛行機、バス、船と乗り物ばかり乗っている気がする。
修学旅行自体は楽しいが、若干いつもの生活が恋しくもある。
恐らく真も同様のことを考えているだろう。
クルージングは貸切となっており、緑ヶ丘高校2年生全員乗ることが出来る。
唯一の学年全体の自由行動時間だ。
乗り込んだ後、学年主任から「絶対に身を乗り出さないよに、落ちるぞ」等注意を受けた後、解散となる。
皆、ほとんどが2階のデッキに上がる。
冬のパリは日本より寒い。
川の上なので尚のこと寒い。
だが、日が落ち始め、イルミネーションで彩られるその景色は寒さを我慢する理由に値するくらいに綺麗であった。
由美はしばらく景色を楽しんだ後、1階に戻るためにデッキから階段で降りる。
階段の途中で圭と出会した。
「あれ?由美ちゃん、どうしたの?」
「圭くんこそ。上に行ってなかったの?」
「うん、ちょっとトイレに行ってたからね。由美ちゃんはもういいの?」
「美愛ちゃんや香緒里ちゃんたちはそれぞれ彼氏といるから、調理部のみんなといたんだけど……直樹くんがいなくなっちゃって。」
由美はそう言って苦笑した。
相変わらずフラフラしている直樹は恐らく1階でお菓子や軽食が出ているという話を聞きつけてそちらに行っているのだろうと由美は思っている。
「相変わらずだなぁ。探すの手伝おうか?」
「ううん、大丈夫。圭くん待ってる女の子も多いんじゃない?」
それにこう人が多い中、圭と二人でいるとかなり視線を感じる。
隣に並ぶのに釣り合っていないのは承知であるが、居た堪れなさもある。
「まぁね、やっぱり綺麗なイルミネーションはイケメンと見たいだろうからね!」
こちらも相変わらずの圭に由美は少し笑う。
どこまで本気で言っているのかはわからない。
「それじゃまたね。階段気をつけて。」
圭はそう言うと由美の肩を少し叩いてから上っていく。
その背中を少し見送った後、由美は直樹を探しに1階へ向かった。
「さっむ!さすがに寒すぎへん?」
デッキの手摺りに寄りかかって景色を見ていた美愛は吹いてきた風に身を震わせる。
コートも着てるし、マフラーもしてるし厚手のタイツも履いている。
それでも寒い。
手袋は1階の荷物置きに置いた鞄の中。
うっかり取り出し忘れてしまった。
その隣に立つ悠は手を擦り合わせる美愛の右手を取り、繋いで自分のコートのポケットの中に入れる。
自然と距離も縮まる。
「……多少マシだろ。」
マフラーから覗く耳は寒さのせいかそれとも恥ずかしさからなのか、赤い。
自分でやっておいて照れる悠に美愛は少し笑って更に身を寄せた。
「悠は今回の修学旅行大活躍やったなー。」
「そうか??大したことしてなくね?」
「店員との対応は大体やってくれたやろ?香緒里が迷子になった時もそうやで?」
美愛は旅行中を思い返しながらそう言う。
「店員の対応はともかく………吉崎の時はほぼなんもしてねーだろ。探して見つけ出したの秀人だし。」
「連絡したのはあんたやろ。」
「連絡しただけだろ。」
「うちたちが離れんよう指示もしてくれた。」
「そんくらいだろ。」
頑なな悠に美愛はちょっと溜息を吐きつつその顔を見る。
「あんたってバスケ以外の自己評価低いよなぁ。普通あの状態で的確な指示出来へんで?実際、うちらはなんも出来へんくてわたわたしてただけやし。」
「それは………。でも、秀人や亮や圭ならもっと上手くやったろ。」
「比較対象がおかしいねん。あいつらは別。新谷はともかく、あの二人は兄弟だから近く感じてすごく感じるかもしれへんけど、普通の男子高校生からしたらあんたも十分すごいで?」
確かに悠は勉強は出来ないかもしれない。
でもいざとなった時に冷静な判断と指示が出来る。
それは普通の高校生にはほとんど出来ないだろう。
大抵はパニックになる。
「ちゃんと、鮎川の子なんやな、って思ったで、今回。」
「………そっか。」
「せやで?かっこええなぁって、せっかく惚れ直してんのに、それ否定されたら敵わんわ。」
「惚れ……って、お前、そういうこと普通に言うなよ……」
顔を赤くする悠を見て美愛はまた笑う。
まだまだ美愛の方が上手のことが多い。
「寒いけど綺麗だねー。」
デッキの中央付近にある椅子に座って辺りを見回しながら沙世は言う。
デッキの前方付近ではどこかのクラスの男子たちがタイタニックごっこをしている。
「そうだな………。」
隣に座る真はやや覇気なくそう相槌を打った。
「大丈夫?やっぱり中入った方がいいんじゃない……??」
「いや、外の方が風当たるからちょっとマシ……。」
酔い止めを飲んだものの、やっぱりちょっとは船酔いする。
行きの飛行機の方が酷かったが。
「そういえば、飛行機酔いの時の真と秀人の写真が回ってきたんだよね。」
「は?え、どういうことだよ?」
「これこれ。」
沙世は香緒里たちにも見せた写真を真にも見せる。
「女子が盛り上がってたらしいよ。」
「女子って好きだよな、そういうの………。」
「ちなみに香緒里はこれを見て真を羨ましがってたよ。」
「そうかよ………代わってやれるなら代わってやりたいよ……。」
真とて別に好きで秀人にくっついてわけではない。
「俺だって沙世の隣が一番落ち着くんだからさ……。」
呟いて沙世に少し寄り掛かる。
「………真のそういうとこずるいと思う。急にそういうこと言う。」
沙世はそう言って顔を赤くする。
無自覚に沙世の急所をついてくる。
小さい頃からずっとそばにいて、そうであったらいいなと思っていたことを言葉にされて。
嬉しくないはずがない。
ぐりぐりと頭を押し付けてくる沙世の頭を真は撫でる。
「そうか……?思ったこと言ってるだけだけど。」
「そういうとこ!!」
「外は寒そうだねぇ。」
1階のガラスの窓辺に立ち、外を眺める奈津は言う。
もちろん、そのすぐ傍には亮もいる。
「上行かなくていいのか?」
「うん、中からでも見れるからいいかなー。」
「そうか。」
奈津は外から目を離して亮の方を見る。
「雪ちゃんと翔ちゃん、仲直りして良かったね。」
「そうだな。」
亮が何だかんだ翔太のことを心配して気にしていたことに奈津は気付いている。
「やっぱりいつもの二人が一番安心するよねー。」
「まぁ、翔太ならなんとかするだろうとは思っていたけど。」
「亮は翔ちゃんのこと結構高く評価してるよね?」
「まぁな。」
少しだけ笑って、亮は返事をする。
奈津の傍にいても気にならない男が出来たのは亮にとっては初めてであった。
亮自身が成長しているのもあるのかもしれないが。
二人きりでない時では珍しく、亮は奈津に手を伸ばし、その髪を優しく撫でた。
奈津は嬉しそうに微笑んで、亮のすぐ隣にぴったりと寄り添った。
その奈津を見て、愛しそうに目を細める亮の顔を見れたのは、やっぱり奈津だけであった。
「船酔い、大丈夫か?」
デッキで外の景色を香緒里と並んで見ていた秀人は聞く。
「まぁ、なんとか。ちょっと気持ち悪い、くらいかな……。」
「無理するなよ。」
「うん、ありがとう……でもね、秀人が一緒だから気分的にはちょっと平気なんだよ?」
並ぶ秀人の顔を見上げて香緒里は言う。
それはずるい、と秀人は思いつつも腰に手を回して引き寄せる。
縮まった距離に、少し恥ずかしそうにしつつも香緒里も身を寄せる。
「秀人には助けてもらってばっかりだなぁ、中学の時から。」
いじめの時も、監禁事件の時も、家族のことでしんどかった時も、熱で倒れた時も、そして今回の迷子の時も。
香緒里の言葉を聞き、秀人はその顔を見つめる。
「最初に助けてくれたのは、香緒里なんだけどな。」
「私……?」
「今、俺がこうしてみんなと楽しく過ごせてるのは、香緒里のおかげだよ。」
優しくこちらを見つめる秀人に少しドキドキしつつも、以前秀人の弟の秋人が言っていた「香緒里ちゃんがきっかけで兄貴は変わったんだよ」という言葉を思い出した。
「そっか……。」
「それに、香緒里のことが一番大事なんだから助けるのは当たり前だろ?」
そう言って香緒里の頬に優しく触れ、少し撫でると赤く染まる。
そしてそのまま少しだけ指先で唇に触れる。
「帰ったらな?」
その意味が分かった香緒里は更に顔を赤くした。
雪音と翔太の二人は1階後方にあるデッキにいた。
概ねの人たちが2階や1階の屋内にいるため、ここは人が少ない。
「クリスマスシーズンだからか、綺麗だねぇ。」
「ね。クルージングは雪音と見たかったから、見れて良かった。」
雪音は翔太の腕を取り、近付く。
「私も翔太と見たかった。」
「……今回、ちょっと距離が空いてさ。俺、どれだけ雪音のこと大切で、大好きなのか痛感したよ。雪音が隣にいてくれないとダメみたい。」
反対側の手で雪音の柔らかい髪を梳く。
雪音は微笑んで翔太を見つめる。
「私も、自分にこんな独占欲あるんだって、ちょっとびっくりした。でも……翔太のこと大好きだから、仕方ないのかもね。」
二人はそう言って笑い合う。
離れてこそ分かるお互いの大切さ。
それをよく噛み締めながら、光り輝くエッフェル塔を見ながら二人は寄り添った。




